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第98話 クズの出どころ

 詰め所でカルロスが帰ってくるまで待っている。ロバートとエルザは、来客用の小さな椅子を出され、カルロスの机の前に座っている。


「ロバートさん、エルザさん。お茶をどうぞ」

「ありがとう。ソフィアさん」

「ソフィア様、ありがとうございます」


 ソフィアが二人に茶をだしている。詰め所は余分なスペースはないので、カルロスの机の書類を勝手に移動して開け、そこに茶を置くもちろん戻って来たカルロスは移動された種類を見て絶望することになる。

 会釈をしてソフィアの方を見て優しくエルザが微笑む。笑顔が輝き姿勢がよく上品な仕草にリックは目を奪われる。ただし、彼が見たいるのは

 

「(あれぇ。こんな人だったけなぁ!? 出された紅茶もソーサーをちゃんと持って飲んでるし……)」


 以前に詰め所で茶を出した時は、取っ手も使わず直にティーカップ掴んで、ロバートに怒られていた記憶がリックにはあった。


「あっあの? リック様…… 私になにか?」

「えっ!? いっいえ。なんでもありません!」


 声をかけられて慌てて首を振って見つめていたことをごまかすリックだった。だが、この時もリックの頭の中に疑問が浮かぶ、エルザは彼のことをリック様とは呼ばない、気を遣わずにリックと親しく呼んでいるのだ。ふとソフィアが茶をだした時も彼女がソフィア様と呼んでいたことにも気づく。リックは首をかしげているエルザを見つめていた。


「リックもお茶ですよ。あっ!?」

「えっ!? あっ…… あっち!


 ソフィアから茶を受け取ろうとしたリックは、上品なエルザの観察に夢中になっていて、うまく受け取れず膝にこぼしてしまった。


「早くハンカチで…… あれ? ない!? ないぞ?!」


 ポケットをまさぐるリック、ハンカチを出して茶を拭こうと思ったが、なかなか見つからないようだ。


「大変です」

「リック大丈夫かい? 気をつけなよ! ほら!」


 気づいたメリッサがリックの膝に布をかけてくれた。


「あっありがとうございます……」


 メリッサがこういう時に素早く動けるのは、ナオミの面倒を普段から見ているからだと感心するリックだった……


「えっ!? あのこれ……」


 膝にかけられたのは、床用の雑巾だった。リックは雑な性格で、服に無頓着ではあるが、さすがに床用の雑巾は抵抗があった。雑巾をつまんで嫌そうにするリックをメリッサは怪訝な表情で見つめる。


「なんだい!? いやそうな顔して。先にリックの膝を拭いて、その後に床を拭けば雑巾一枚で済むだろ?」

「そっそうなんですけど…… 制服を床用で拭くのはちょっと……」

「まったく男のくせにこまかいねぇ」

「リック。ほら僕のハンカチを使いな」

「ありがとうございます。イーノフさん」


 リックとメリッサさんのやり取りを見ていた、イーノフが自分のハンカチを出して渡してくれた。


「あれ!? リック! こっちを向いて顔に……」

「えっ!? どうしました?」


 座っているリックが膝を拭いていると、イーノフが人差し指をまげて彼の顎に手をおいた。クイって顔を持ち上げられ、イーノフの方に向けられるリック。金髪でかっこいい青い瞳の、イーノフの顔がリックの目に映る。


「ごめん。顔に紅茶がかかってるように見えたけど大丈夫だったね」


 リックの顎から手を離してニコッと微笑む。


「そうですか。よかった。ありがとうございます。あっ! ハンカチは洗って返しますね」

「気を使わなくていいよ。どうせ安物だし」

「いえ。そういう訳には」

「わかったよ。じゃあお願いね」


 イーノフは笑顔でリックに答えて自分の席に戻っていく。席についてイーノフのハンカチで制服を拭いていた。


「あれ!? なんか…… おかしい」


 顔をあげたリックはエルザに視線を向けた。エルザは前を向いて茶をすすっている。猛烈な違和感がリックを襲う。そうだ普段ならエルザはイーノフとリックが絡めば、いいぞとかもっととか言って来るが来ないのだ。

 リックがエルザを見つめていると、彼女は視線に気づいて、にっこりと微笑む。慌ててリックは目をそらすのだった。エルザの綺麗な目が少し潤んで泣きそうなあの表情で見られると、リックは死にそうでも心配いりませんって言いたくなる。だが、おかしいリックの違和感はどんどん強くなっていく。いつものエルザと違って上品すぎるのだ。


「ただいま。リックは何を騒いでるんだい?」

「隊長です。お帰りなさい」

「お帰りなさい、何でもないですよ」


 カルロスが詰め所に帰ってきた。入るなり椅子から立って零した紅茶を、拭いているリックの様子を見たカルロスが、不思議に思うのは無理もないことだ。カルロスはリックに笑ってメリッサの元へと向かう。


「メリッサ、悪かったね。それで変わったことはあったかい?」

「特に何もないよ。隊長にお客様が居るくらい」

「うん?! 僕に客? あっ! ロバートさん。そうか……」

「カルロス隊長! 第四防衛隊にお願いがあってきました」


 慌てた様子でロバートがカルロスに駆け寄る。


「あぁは。わかりました。みんな…… 悪いけど僕の机に集まってくれるかな」


 カルロスから集合がかかった。さっきの茶をこぼし制服の膝が湿っぽいままリックはカルロスの元へと向かう。四人がカルロスの机に集合する。カルロスは自分の席に着き、リック達四人は座っている彼の横に立つ、ロバート達はリック達と反対側に第四防衛隊と対峙するように座っている。


「依頼というのは君たちが昨日会った……」

「わかってますよ。ロバートさんの依頼は昨日の夜に僕達が対峙した勇者の件ですよね?」

「どうして?! わかるんですか?」

「実は現場にアナスタシア様がいらしてましてね。リックに手紙を託されました。その手紙に書いてありました」

「ひっ姫様が!? 手紙を? あなたにですか?」

「はい。その手紙にロバートが勇者討伐の依頼に来ます。でも…… 必ず断ってくださいと書いてありましたよ」

「そっそんな…… 姫様?!」


 愕然としたロバートは悔しそうにうつむいた。カルロスはまるでこうなることが、わかっていかのように淡々と話を続ける。


「手紙をもらった僕はね。気になってちょっと昔のツテを使って調べましたよ。勇者のことや王女様のこと…… それでちょっと午前中留守にしちゃいましたけどね」

「えっ!? 調べたって!? あなたいったい?」

「僕は第四防衛隊の隊長でそれ以上ではありません。彼らに話しても構いませんね?」

「えぇ……」

「ちょっとごめんな。お前さん達。僕の話しを少しだけ聞いてくれ」


 カルロスはリック達に昨日の勇者について話しを始める。その姿は普段の温和なカルロスと違い、手を前に組んで表情は暗い。ゆっくりとリック達に勇者の正体を話し始めたまず、勇者の名前はカズユキ・キハラという名で、リック達の住む世界とは違う世界である地球から人間だという。勇者が異世界からやってきた人間だという、カルロスの突拍子もない言葉にメリッサがすぐに食ってかかる。


「はぁ? あたしらと違う世界の人間って意味がわからないよ!?」

「メリッサ…… 隊長…… まさか師匠…… いやジックザイルが!」

「そうだよ。イーノフ。さすがにお前さんは知ってるな。そうジックザイルがこの世界に勇者を召喚したんだ」


 小さくうなずいたカルロスは話を続ける。ジックザイルは勇者召喚の儀と言われる禁断の儀式を行い、違う世界から人を呼び出すことができる。これは王国の長い歴史の中で、一回も使われてない伝承のみが存在する謎の儀式だった。使用されない儀式の存在は王国の歴史に埋もれていた。だが…… 七年前にジックザイルの孫が病気になった際に、彼は王国の歴史を調査し、あらゆる秘術や禁術も調べ上げていた。おそらくその時にこの儀式のことも調べてジックザイルは知っていたのだ。


「調査するだけで、埋もれた儀式なんか簡単に再現できるんですかね?」

「リック…… お前さんねぇ。ジックザイルは元宮廷魔術師だよ。今は金の亡者とはいえ儀式を復活させるくらいできるだろう。さらにその報酬も多額となればな」


 イーノフはカルロスの言葉に少し悲しそうにうつむいている。ジックザイルは金のために儀式を復活させたのだ。


「なんでカズユキさんは呼ばれたんですか?」

「ふぅ。それはアイリスがな……」


 カルロスの口から出た幼馴染の名前にリックが即座に反応する。


「隊長。アイリスがまた何かまずいことをしたんですか?」

「まぁアイリスが悪いんじゃないんだけどな……」


 首を横に振ったカルロスが話を続ける。S1級勇者アイリスは、王国の支援を受け順調に旅をしているが、旅の進行度が遅く、仲間も魔物ばかりと、王国の思惑と少し違っていた。本当は旅の仲間を女性にし、グラント王国としてはアイリスに、子供をたくさん作らせたかったようだ。でも、アイリスは男ではあるが心が女の子ため、女性のパーティメンバーは拒否し、王都に帰った時も夜中に女性を部屋に入れないようにキラ君に門番をさせたりしているのだ。まぁ子供がすべてアイリスのような才能を持って生まれる訳ではないのだが、やはり勇者の血であれば才能をもつ者が生まれる可能性は高い。

 思い通りにならないアイリスに、王様はジックザイルに相談をしたという。ジックザイルはアイリスに言うことを聞かせるよりも、新しい勇者を連れてくる方が早いと進言した。王様はジックザイルの提案にのり、勇者は俺達の世界に呼ばれたという。


「ただねぇ。呼ばれた勇者カズユキもな大概みたいでな。お前さん達は見たから知ってるかな? どんなやつだった?」

「あぁそうだね。なんか人を見下して殺しを楽しんでるようないやな奴だったよ」

「そうか。やっぱりな。どうも勇者として呼び出されて一週間くらいらしいんだが早くも王国が持て余してるんだよ」


 勇者はメリッサの言う通りに横柄なやつだった、だが、勝手に呼びつけた上に、少しでも理想と違ったら、厄介者として扱うグラント王国も大概ではあるが…… ちなみにカズユキは召喚される際にトラックにひかれ地球では死んだことになっている。

 下を向いていた、ロバートが顔をあげた、その表情は厳しくつらいものだった。


「聞いてくれ! みんな! 姫様のために勇者カズユキを倒してくれ!」


 アナスタシアのためと叫び、頭を下げるロバートに、みんなの視線が向けられた。カルロスは落ち着いた様子で小さくうなずいた。


「やっぱり…… あなたの依頼は勇者カズユキ討伐ですか」

「ロバート。悪いけど勇者カズユキはそんな簡単に倒せる相手じゃない」

「あぁイーノフの言う通りだ! あいつはあたしらよりも強い」


 リック達は勇者カズユキを倒せた、しかし、それは四人がかりで何とか倒せたにすぎなかった。彼の能力はリック達よりも高く強い。


「勇者カズユキの強さもそうですが、彼がどんな人間であれ騎士団の保護下にある人物です。さらに王女アナスタシア様があなたの依頼を断るように言われてます。王国の臣下の私たちには何もできませんよ」

「そっそんな…… お願いです! そうしないとアナスタシア様が……」

「はぁ。アナスタシア様がどうなるんです?」

「王妃レティーナがある約束を勇者としてしまったんです。勇者カズユキが魔王を倒し世界を救うことを承諾したら……」


 間を少し開けてロバートが、悔しそうにゆっくりと話し出す。


「アナスタシア様を勇者カズユキの妃とし彼を将来のグラント王国の王とすると!」


 ロバートの言葉にリック達は、目を見開いて大きく驚くのだった。

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