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第97話 監獄の冒険者

 アナスタシアから、手紙を受け取ったリックとソフィアは酒場を後にし、カジノ突入前に集合した広場へと戻った。一緒に突入した第六防衛隊も、勇者がカジノを吹き飛ばしてしまったので、もう撤収準備を始めていた。リックとソフィアはカルロスを探す。


「えっと…… 隊長は…… あっ! いたいた」


 カルロスは広場の端の方で、リック達に背を向けて立っている。彼の左右にイーノフとメリッサが向かい合わせに立ってた。


「隊長」

「おぉ。お前さん達。お帰り」

「そんな端で何してるんですか?」

「あぁ…… ちょっと素直に言うこと聞いてくれなくてな……」


 困った顔のカルロスは、前を向いて視線を下にする。リックは彼の肩越しに、覗き込む視線を下に向ける。


「あっ! なるほど……」


 カルロスとメリッサとイーノフた立つ間に、縛られたミャンミャンとタンタンが、座らされていた。顔をあげたミャンミャンは、リックを見ると顔が一気に笑顔へと変わった。


「あっ! リックさーん! みんなが私達をいじめるんです……」

「えっ!? なになに? やめて、ミャンミャン!」

「リックが犯罪者に! 離れなさい」

「ちょっ!? ソフィア!?」


 笑顔でミャンミャンが急に立ち上がり、リックの胸に飛び込んできて、上目遣いで訴える。ソフィアは弓を取り出して矢をつがえ、リックの背中に矢を突きつけ、彼ごとミャンミャンを撃ちぬこうとした。


「何よ! リックさーん。ソフィアさんがこわいのぅ!」

「ダメだよ。弓をおろしてソフィア! その距離なら俺もケガするでしょ」


 ソフィアが怖いと言いながら、ミャンミャンはリックの胸に顔をうずめすりつけるように左右に動く。ソフィアの目がどんどん鋭くなっていく。


「じー」

「ちょっとやめて! ソフィア! 違うって! もう!!」


 リックはミャンミャンの両肩を掴み、腕を伸ばし無理矢理に彼女を突き放した。ミャンミャンは頬を膨らませて不満げにする。


「ぶぅ!」

「ほらほら、ミャンミャン! こっちにきな!」

「あー! リックさーん!」


 縛っているミャンミャンの縄を引っ張って、メリッサがさっき座っていた場所に強引に戻す。ホッと胸を撫でおろすリック、横でソフィアは冷たい目を彼に向けているのだった。


「ほらっ! いいから、おとなしくしな!」

「ちょっと、なにするんですか?! せっかく甘えるチャンスだったのに!」

「うるさい! ほら静かにして早く座んな!」


 口を尖らせて不満げなミャンミャンを、メリッサが肩を掴んで無理矢理に座らせた。リックはカルロスにミャンミャンについて尋ねる。


「二人がどうしたんですか?」

「あぁ。ミャンミャンちゃん達がね。さっきから質問にまったく答えないんだよ」

「私達には黙秘権があるんですよね?! 行使します」

「はぁ!? こらミャンミャン!」

「ツーン」


 顔を近づけ詰め寄ったメリッサさんに、ミャンミャンは口を尖らせ、顔を背けて何も答えない。縛られて座っているタンタンは、ミャンミャンの顔を見て不安そうにしてる。ミャンミャンとタンタンの二人を心配そうに交互にカルロスが見つめていた。


「はぁ」


 ため息をついたカルロスは、ミャンミャンの肩を押さえている、メリッサの背中を軽く叩く。


「もういいよ! メリッサ! イーノフとメリッサはミャンミャンちゃん達を防衛隊の牢獄に連れて行ってくれるかな? 続きは明日にしよう」

「はいよ」

「わかりました」

「じゃあ! これで今日は解散」


 ミャンミャンとタンタンを立たせ、イーノフとメリッサが連れて行く。解散の号令を聞いたリックの緊張がとけ表情が緩んだ。しかし…… すぐにリックの袖をソフィアが引っ張った。


「リック! 隊長にお手紙を渡さないと!」

「あぁ! そうだった!」


 急いでリックは左手で右肩を揉んで疲れた、表情で帰ろうとしているカルロスに声をかけた。


「隊長」

「なんだい? リックお前さん急ぎじゃないなら明日にしてもらっても?」


 首を横に振ってリックは、カルロスに手紙を差し出す。カルロスはおどろいた表情でリックを見ている。


「なに? 僕とは毎日会ってるだろ? 手紙じゃなくて直接…… まさか!? 退職!?」

「違います。これはアナスタシア様から隊長にって?」

「僕に王女様からの手紙? あちゃぁ。ラブレターはまずいよ。僕にはカミさんがいるんだから!」

「あの…… 絶対、違うと思います! ふざけないでとにかく読んでください」

「はぁ。わかったよ。じゃあまた明日!」


 カルロスはやる気なさそうに、リックから手紙を受け取ると、雑にポケットに突っ込んで歩いていく。カルロスを見ながらリックはちゃんと手紙を読んでくれるか不安に思う。


「隊長! ちゃんと読んでくださいねー」


 振り返らず片手をあげて、ソフィアの言葉に答えてカルロスは行ってしまった。その背中にはどことなく、哀愁が漂っていた。カルロスが広場から出るとリックはソフィアに顔を向けた。


「じゃあ、俺達も帰ろうか」

「はい……」


 いつもの帰る時は、元気なソフィアが静にしいてる。リックは首をかしげて彼女を見つめている。


「夜の道はさみしいんです!」

「はいはい。みんな帰っちゃったもんね」


 グッと腕を伸ばしてソフィアが、リックに向かって手を出してきた。リックはソフィアと手をつなぎ、並んで夜の道を自宅へと帰るのだった。

 翌朝、詰め所に行くとメリッサがリック達より先に詰め所に来ていた。普段はナオミの面倒を見ているため、だいたいメリッサは最後に出勤してくるので、リックは不思議に思い声をかける。


「どうしたんですか? めずらしいですね、一番乗りなんて」

「あぁ、今日は隊長は午前中でかけるから休むってさ! 夜明け前にあたしの家に来てね。よろしくってさ!」

「えっ!? 珍しいですね?」


 カルロスが休むのは珍しい。彼は会議とかで出かけていることは、あっても休むことは滅多にない。


「だから午前中はあたしが隊長代理だよ」

「わかりました」

「それでね。悪いけどさ。ソフィアと一緒にミャンミャンとタンタンの牢に行って昨日の話を聞いてきてくれるかい?」

「はい。わかりました! いつものところですよね!」

「あぁ。防衛隊牢獄の四階の四号だよ!」


 防衛隊の牢獄は詰め所のある、第九区画と第一区画との通行門の近くにある。四階だての大きな石造りの監獄で、法廷で裁かれる前の容疑者を収監する牢獄だ。グラント王国では法廷で裁かれた後、囚人は牢獄の町ローズガーデンに移送されて刑期を過ごす。

 リックとソフィアは防衛隊の牢獄へと向かう。しかし、昨日のミャンミャンとタンタンは何もしゃべらなかった、おそらく今日も黙秘を続けるだろう。骨が折れそうだとリックは憂鬱になるのだった。詰め所の裏通りを渡り東に向かうと、徐々に大きな壁が見えきた。この壁が第一区画とを仕切る壁である。壁の手前に見える大きな四階建ての石造りの建物が防衛隊牢獄だ。牢獄は街の景観と合うようにわざわざ白塗りにしてパッと見が大きな貴族の居城に見えるように作ってある。入ると廊下の脇にカウンターがあって、手続きをすますと鍵を持った担当の兵士と一緒にミャンミャン達が収監されている四階へ向かう。

 鉄格子の扉が並び薄暗い廊下を行くと、四階の四号牢獄が見えてくる。ここが第四防衛隊が割り当てられている牢獄となる。特に事情がなければ、第四防衛隊で逮捕した人間は、この牢獄に収監されて法廷での裁きを待つことになる。

 扉の前に立つリックとソフィア、牢の奥にミャンミャン達が、膝を抱えて座っているのが見える。牢は小さい鉄格子の着いた窓が一つと、ベッドが壁際に二つ置かれた空間である。気配に気づいた二人は、リック達の方に視線を向ける。二人の表情は暗い。


「じゃあ中へどうぞ。何かあればすぐに連絡をください」

「わかりました」


 担当の兵士に鍵を開けてもらってリックとソフィアは中に入った。兵士はすぐに戻っていった。リックは二人に近づき声をかける。


「おはよう! ミャンミャン、タンタン!」

「ジッ…… フン!」

「おはようリッ…… もがが!」

「ダメよ! タンタン! しゃべったら!」


 挨拶をしようとしたタンタンの口をミャンミャンが押さえつける。どうやら今日もしゃべる気はないようだ。現行犯であり、罪はほぼ確定だが事情を聞けば力になれることもある。リックはミャンミャンに落ち着いた口調で声をかける。


「黙ってるとよくないよ。どうして二人が闇カジノで用心棒をしてたか俺達にちゃんと聞かせてよ?」

「いやです!」

「何もわからないと、ミャンミャンさんとタンタンさんを助けられないですよ?」

「助けるですって? だったら昨日見逃してくれればいいのに!」

「ふぇぇぇ……」


 きつい表情をして、ソフィアに向かって、ミャンミャンが叫ぶ。ソフィアはミャンミャンの言葉にシュンとしてしまった。


「こら! ミャンミャン!」

「フン!」


 口をとがらせてそっぽを向くミャンミャン、リックは彼女の態度にこの先が思いやられ、小さく首を横に振るのだった。


「タンタン! ミャンミャン! あんた達何をしたんだよぅ!?」

「えっ!?」


 振り返るとそこには熊耳をした獣人の、ココが兵士に連れられてやってきていた。


「あっ! ココ!? なんでここに?」

「さっきイーノフゥが冒険者ギルドにやってきて、昨日あんた達を捕まえたって言うから急いできたんだよぅ」

「そう…… でも、今回はココに関係ないから!」

「なんだって! このぅ!!!」

「ダメです! ココ!」


 扉を開けて牢に入ってきたココは、怒ってミャンミャンにつかみかかろうとした。ソフィアが必死にココを押さえる。リックは心配してくれたココに対するミャンミャンの態度に彼女を注意する。


「こら! ミャンミャン! ココだって二人の心配をしてきてくれたんだよ?」

「そうですよ。私達に話さなくてもいいからせめてココさんに……」

「いいの! ココには関係ないの! ほっといてよ! もういいの…… いいの……」

「お姉ちゃん!」

「ミャンミャン……」


 肩を震わせてミャンミャンが泣きはじめた。タンタンも怖くなったのか寄り添って一緒に泣いてる。ソフィアの手を振り払い、ココが二人の近くにいって二人の頭を優しくなでた。ココは二人の頭をなで終わると、リック達の方を向いて少し暗い表情をした。


「リック、ソフィア…… 悪いけどあたいとミャンミャン達だけの三人で話しをさせてほしいよぅ」

「うーん。わかった。でも、俺達は鉄格子の外で監視しないといけないからそれはいいかな?」

「ありがとう! それで大丈夫だよぅ」

「じゃあ、ソフィア!」

「はい」


 リックとソフィアは三人を残して牢の外へ出た。鉄格子の扉の前で中をみながら、二人で立って三人の話が終わるのを待つのだった。

 三人は一番奥で話しをしている。声は微かに聞こえるがほとんど聞き取れない。しばらくすると話し合いが終わりココが一人で出てきた。


「リック! ミャンミャン達はどれくらいの刑期になる?」

「えっと…… 確か違法カジノの用心棒だと…… 半年から長くて三年くらいかな!?」

「そっか……」

「どうしたの?」


 ココは暗い表情でうなずいた。その様子にリックが問いかけると、ミャンミャン達のこと話始めた。


「ミャンミャンの田舎の友人が家が貧しくて、親の借金のかたに身売りをされそうになっててね。それで恋人と夜逃げをしようとしたんだけど捕まっちゃって…… 彼女を助けるためにミャンミャンはお金を用意すると決めたんだよぅ。でも、ミャンミャン達のレベルのクエストじゃ必要なお金に全然たりない」

「それで闇カジノの護衛を?」

「うん。ミャンミャンはあたいが破棄しようとした依頼書を盗んで勝手に依頼を引き受けたみたいなんだよぅ」

「そっか。悪いけどそれでも罪は罪だよ。ちゃんと償わないと」

「あぁ。わかってるよ」

 

 以前の冒険者ギルドは平気で違法な依頼も引き受けていた。ココがギルドマスターになってからは、合法の依頼しか受けない方針に変わった。ミャンミャンは方針が変わったことを知らなかった闇カジノから来た依頼を見て勝手に引き受けたようだ。

 ちなみに、違法な依頼を個人で受ける場合は、自己責任となりギルドは関与しないってスタンスだ。もちろん、違法な仕事の成否によって、冒険者の評価は変わらない。むしろ現在では、違法の依頼をこなす冒険者は、嫌われる傾向にある。


「事情は分かったよ。ミャンミャン…… それでも罪は償わないといけないよ。二人共ね」

「はい……」


 ミャンミャンとタンタンは不安そうにココを見る。


「しょうがないよぅ! あたいもできる限りのことはするからさ」

「ココ…… ごめんさない」

「うん。俺達もなんとか事情を考慮してもらえるように掛け合ってみるからさ!」

「ありがとうございます」


 ミャンミャンとタンタンがリック達に頭を下げた。カルロスが帰ってきたら報告し、何とかミャンミャン達のことを相談しようとリックは考えた。後はもう壊滅してしまったが闇カジノ組織で知っていることがないか二人に質問をするココはリック達の質問が終わるまで、ミャンミャン達の傍にいて見守っていた。彼女はもう帰っても良かったのに、二人のことがよほど心配なようだ。

 二人はその後は黙秘することなく素直に答えていた。


「うん。もうこれで大丈夫だよ! ミャンミャン、タンタンありがとう」

「ありがとうです!」


 尋問を終えた、リックとソフィアは、ココと一緒に帰路へとついた。


「でも、ミャンミャンが簡単に違法な仕事に手を出すなんてね。意外だな」

「リック。ミャンミャンは字が読めないんだよぅ。だからあたいが廃棄しようとした依頼書の数字だけみて、高額な依頼だと思って手をだしちゃったんだよぅ」

「あっそっか」


 リックはハッとした顔でうなずく。ミャンミャンは字の読み書きが不得意だ。ココが教師となって教えているがまだ読める字が少ない。報酬の数字だけを見て内容が分からず依頼を引きうけてしまった。


「しかも前金を先に受け取って友人に送った後に、ミャンミャンは依頼主から依頼内容を聞いたんだよぅ!」

「それじゃ引き受けるしかないですね」

「うん。違法でも合法でも依頼を受けて前金を受け取って断ったらもう冒険者としては評判が落ちるからね。リック、ソフィア、今回の件はあたいがもっとしっかりとしてれば防げたのに…… ごめんね」

「ココさんのせいじゃないですよ」

「そうだよ、まさかミャンミャン達がこんなことするなんて……」

「あたいに相談してくれれば…… お金くらい……」


 悔しそうにココは下を向いて歩いた。


「ミャンミャンは、ココには心配かけたくなかったんだよ。きっと」

「わかってるよ。だからね……」


 顔をあげたココは真顔で前を見つめるのだった。リック達は詰め所の近くでココと別れた。別れた時に元気に手を振っていたココだが、ミャンミャン達を心配しているのだろう表情が暗かった。


「ミャンミャンさん達大丈夫ですか?」

「わかんない。でも俺達もできる限りのことをしよう」

「はい!」


 笑顔でうなずくソフィアだった。二人は詰め所に戻って扉をあけて中に入った。


「お帰り!」

「おぉ! リック! ソフィアさんも待っていたぞ」

「あれ? ロバートさん……」


 詰め所に戻った二人にロバートが声をかけてきた。ロバートの隣ではエルザが黙って頭を下げた。いつものエルザと違いこちらは気品に満ち溢れている。


「あぁ…… 実は大変なことになった。それで君たちに協力を依頼したい」

「待って! ロバート! 僕たちは勝手に君の依頼を直接受ける訳にはいかないよ。さっきも言ったが隊長が帰るを待ってほしい」

「イーノフ……」


 ロバートの言葉をイーノフが遮った。メリッサも彼の言葉を聞いて頷いた。リック達は兵士で上官はカルロスである、非常時以外に彼の許可なしにリック達は依頼勝手にうけるわけにはいかない。厳格で冷静なロバートがそのことを知らないはずがない、彼が動揺しているのはあきらかだった。昨日の勇者といいロバートとエルザの行動、リックは王都に何か良くないことが、訪れているのかと不安を感じるのだった。

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