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4 元気……ではなさそうだな

度々申し訳ないですが、前話の手紙の内容を少し変えています。

今話時点では大した影響はありませんが、今後の展開には繋がるので、気になる方はそちらからどうぞ。

 翌日……じゃなくて厳密には今日、昼過ぎに俺は目覚めた。

 家の中は誰の気配もない。

 スマホで日にちを確認すると、今日は土曜日のようだ。

 舞は部活で、母さんはおおかた休日出勤といったところだろう。


 そう言えば酷い夢を見たような。

 そう思いつつ辺りを見回したところで、机の上に置かれたくしゃくしゃの紙に気付く。起き上がって机の前に行き、紙を開いた。どうやら酷い夢は夢じゃなかったらしい。


 あーあ、とベッドに倒れ込む。

 なんだか身体に力が入らない。

 ちょっと前に風邪を引いたことがあったが、何ならあの日より怠いまである。


 これからどうするかな、とぼんやり天井を見つめていると、不意にスマホがブーッと振動音を鳴らした。まさかと思いつつスマホを取り出すと、修二からのLIMEが一件きている。


――なんだ、修二か。


 一瞬でもそう思ってしまった自分を嫌悪しつつ、半ば義務のように俺は修二のアイコンをタップする。やつからのメッセージは『雨で部活が午前練だけになったから、これから遊ぼうぜ』というものだった。


 いやいや、自分で雨って言ってるじゃん。

 雨の日にわざわざ遊びに行くのか?


 普段ならそう突っ込むところだが、今はそんな気力すらない。

 かと言って取り繕う余裕すらなかったらしく、気付いたら『ごめん。今日はそういう気分じゃない』というメッセージを送っていた。


 ヤバいな。こんなのかまって欲しいって言ってるみたいじゃないか。

 咄嗟にそう気付いて送信を取り消そうとした頃には、ばっちり既読を付けられている。


 まあ、もう何でもいいか。

 今日は夜中に水谷にボコボコに振られたばかりなんだし、これ以上何が起こっても俺にはノーダメージ。ある意味無敵状態だよ、ハッハッハ……。


 とだいぶ虚しいことを考えていると、修二からのレスが返ってくる。


『んじゃ、これからお前ン家行くわ』


「……は?」


 驚きのあまり、LIMEじゃなくてリアルの方で声が出た。


 ……何を言ってるんだ、修二のやつは。

 ついさっきこちらが送った文面を、本当にちゃんと見てたのか?

 遊ぶ気分じゃないと訴えている相手に対して「家行くわ」って。

 あいつの中では、友達の家に行くのは遊びとは別枠なのだろうか。


『つーわけで、30分後にまた』

『やめとけ』


 どうせ来ないだろ、と思いつつ返事を送る。

 最近毎夜家を出ていたせいか、睡眠が足りていないのだろう。

 ベッドに寝転がっていると、まもなく睡魔が襲ってくる。


 俺は特に抵抗することなく二度寝に入った。


* * *


 ピンポーンというインターフォンの音で目が覚めた。

 初めは夢と現実の狭間で記憶が曖昧だったが、しばらくして修二とのLIMEでのやり取りを思い出す。


――修二のやつ、本当に来たのか?


 正直疑わしいが、万が一ということもある。

 前にアポなしで水谷が襲来した件もあるし……と思いつつ玄関へ向かった。


 ドアスコープから外を覗くと、茶髪で彫りの深い顔立ちの男が映った。

 ジャージに部活バッグを肩から掛けたその姿は、どう見ても修二そのものだ。


 ……マジで来たのか、あいつ。


「よう、秋斗。元気……ではなさそうだな」


 仕方なくドアを開けると、修二がにやっと笑っていた。

 制汗剤の匂いがかすかにした。部活後に念入りにかけてきたのだろう。


「……まあな」

「今、秋斗一人だけ?」

「他に誰かいるように見えるか?」


 照明の付いていない暗い屋内を、修二が俺の肩越しに覗く。


「いや、見えない。……んじゃ、お邪魔しまーす」


 一声掛けると、修二がさっと家の中に入ってきた。

 止めるタイミングを失ってぼけっとしていると、靴を脱いでいた修二が不意に顔をしかめる。


「……秋斗。お前、なんか臭くね?」

「……あー。そういやシャワー浴びてないな」


 一瞬ぎょっとしたものの、記憶を辿ってみて気付いた。

 昨日の夜中に帰ってきてから、着替えてすらいない。

 精神的なダメージが大き過ぎて、そのまま気を失うように寝てしまったようだ。


 しかし、部活後のやつに臭いと言われるならよほどなんだろうな。

 ショックだけど、不衛生な俺が悪い。というわけで、


「悪い、やっぱり帰ってくれ。今からシャワー浴びないと」

「じゃあ俺、中で待ってるわ。冷蔵庫の麦茶でも飲みながら」

「……何他人(ひと)ン家で勝手に寛ごうとしてんだよ」

「え、むしろ駄目なのか? わざわざここまで来たのに?」

「…………」


 雨の日に来てもらっておいて追い返すのは、確かに申し訳ないか――って、違うだろ。そもそも修二が勝手に来ただけで、俺が頼んだわけじゃない。つまり、俺がこいつを家にあげる義理はないはず。そう頭では分かってたんだが……。


「……分かったよ。上げればいいんだろ、上げれば」


 結局俺は修二に根負けした。


「流石秋斗、よく分かってるな」


 修二がこちらの肩を叩いてから、俺の横を通って家に上がった。

 抵抗する気力を無くした俺は、修二を抜かしてリビングに入る。


 要望通り冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注いで食卓の上に置いた。

 それから、コップに一番近い椅子を指差して言う。


「そこ、座って待っててくれ」

「りょーかい」

「勝手に動くなよ。そこでじっとしてろよ」

「分かってるって」

「後は……まあ、こんなもんか。とにかく、修二はそこから動くなよ。俺は今からシャワー浴びるから」

「はいはい、動かない動かない。ガキじゃないんだし、そのくらい守れるって」

「…………」


 不安だ。具体的に何がとは言えないけど、色んな意味で。


 ……まあ、もう家に入れてしまったんだし受け入れるしかないか。

 今の俺には失うものなんてないわけだし。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。


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