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5 お前に勝負を申し込む!

 さて、俺は今某ハンバーガーチェーン店の、4人掛けのテーブルにいる。

 と言っても、俺は何も頼んじゃいない。

 目の前のテーブルに載るハンバーガーやポテトは、全て里見が頼んだものだ。

 その里見は、向かいで心ゆくままに食を楽しんでいる。


 ちなみに金は俺が払った。所持金は底をついた。

 文字通り素寒貧である。帰りの電車には恐らく乗れない。

 一駅分歩いて帰ることになるだろう。


 ……ただ、今はそれはいい。


 それより俺は、こいつに一つ聞きたいことがあった。


「なあ、里見」


 マックスシェイクをズズズと啜っていた里見が、顔をこちらに向ける。


「そもそも里見と山本って……どういう関係なんだ」

「……何急に。あんたには関係なくない?」

「関係はあるだろ。里見が水谷に嫌がらせしたのは、お前たちの痴情のもつれが原因なんだから」

「痴情のもつれって……ていうか、嫌がらせなんてしてないって言ったでしょ。仮にしてたとして、あの泥棒猫には関係あっても、あんたには関係ない」

「何言ってんだよ。俺はこれでも水谷の彼氏だぞ? なら、水谷への嫌がらせは、間接的に俺にも嫌がらせしたってことにもなる」

「きもっ。大体あの時は、あんたらまだ付き合ってないでしょ」

「……分からないぞ。付き合ってたかもしれないじゃないか」

「いいえ、分かるわ。あんたら全然そういう感じじゃなかったもん」

「……」


 流石に分かるか。

 水谷とまともに話すようになってから、ひと月とちょっとだもんな。

 進級したばかりの頃なんて、文字通り話したこともなかったし。


 黙りこくる俺を前に、里見はため息をつく。


「まあいいわ。せっかくだし、暇つぶしに話してあげる。どうせあんたにはもう、あたしの気持ちもバレてるし」


 それから里見の語ってくれた内容は、おおよそ以下のようなものだった。


 里見と山本は、家が隣同士の幼馴染。

 山本は小さい頃からあんな感じで、里見はあいつの後ろをついて回るような大人しい子だったという。


 里見は次第に、山本を異性として意識するようになった。

 一方、山本が好きになるのは、クラスの中心にいるような明るい女子ばかり。

 だから里見は、少しずつ自分を変えていった。

 山本の好みに少しでも近づき、やつを意識させるために。


「……なのにあいつは高校に入った途端、急にあの泥棒猫を追いかけ始めて……ほんっと意味分かんない。それじゃ、あたしの今までの努力はどうなるのよ!」


 話している間に興奮してきたのか、マックスシェイクの入った紙コップを里見が強く握りしめた。紙コップのバコッと凹む音がする。それ、多分まだ中身入ってますよね。


「……気持ちは分からないでもないけど、それで水谷を恨むのはお門違いだろ。山本を恨むならともかく」

「そんなこと言われても……剛のことは、好き、だし……」


 頬を赤らめ、俯きがちに里見が呟く。

 面倒くせえな、こいつ。


「ちょっと、今のは酷くない!? こっちは本気で気にしてるのに、そんなこと言わなくてもいいでしょ!?」


 あ、口に出てたか。ソーリーソーリー。


* * *


 ハンバーガーチェーン店を出ると、既に日は沈みかけていた。

 今日はなんだかんだで、こいつと5時間以上一緒に過ごしたことになる。


 よく頑張ったな、俺。

 今日は帰りがけにラムネでも買うか。飲み物じゃなくてお菓子の方な。

 と思ったけど、そう言えば俺は今一文無しなんだった……。


「……今日はありがとね、相澤」


 駅に向かって歩いていると、里見がぽつりと呟いた。

 俺は一瞬聞き間違いかと思い、念のため聞き直す。


「ごめん、今なんて?」

「ありがとねって言ったの。2度も言わせないでよ、こんなこと」

「……なんで?」

「……話、聞いてくれたじゃん。ちょっとすっきりしたからさ」

「……ああ、そういうこと」


 聞いてあげたというつもりはなかったな。

 まあ、すっきりしてくれたなら何よりだ。

 俺も財布の中身がすっきりしたし、ウィンウィンじゃないか。


 このまま改札口で別れていれば、今日の成果は上々で終われたのだろう。

 ただ、無情にもそうは問屋が卸さなかった。

 里見と別れる直前、横から野太い声がする。


「なっ……なんで彩華と、お前が……!?」


 嫌な予感がして声のした方を向くと、そこには案の定坊主頭の男の姿。

 山本剛。里見の思い人にして、水谷のストーカーだ。


「……剛こそ、なんでここに」


 戸惑いがちに里見が言う。

 どうやら彼女にとっても、山本の登場は想定外のようだ。


「なんでって……俺は今日、この近くの高校で練習試合があって……」


 ぼんやりとした様子で答えた後、山本が何かに気付いたように目を見開いた。

 俺と里見の顔を、交互に見比べる。


「まさかそういうこと、なのか……?」

「待て待て待て、そんなわけないだろ。むしろ俺たちは――」

「そうだって言ったら、剛はどうすんの」

「っ!?!?!?」


 突然里見が、俺の右腕に抱きついてきた。

 驚きのあまり、言葉が出てこない。


「そんな……嘘だろ……」


 山本は急速に顔を青ざめさせると、一歩二歩と後ずさった。

 わなわなと唇を震わせる。

 まずい。早く誤解を解かないと、取り返しのつかないことになる気がする。


 里見を振り解こうとしたが、万力のような力で締め付けられた。

 代わりに「誤解だ! 山本、落ち着いて聞いてくれ!」と声を張ったが、それもどうやら無駄なようだった。


「相澤、お前……水谷に飽き足らず、彩華まで……」


 ぎゅっと拳を握り締めたかと思うと、すぐさま緩めて俺を指差した。


「お前に勝負を申し込む! 俺が勝ったら、水谷と里見を解放しろ!」

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 急ななろうで草
[一言] まあ、幼馴染をキープして他の女に御執心になっているのであればちとお仕置きが必要ですわな。
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