3 あんたの私服、ダサそうだし
週末の昼過ぎ。
学校の最寄駅である小沢駅前に、俺は来ていた。
里見に言われるがままに約束を交わした結果だ。
「制服で!」と指定があったので、制服姿だ。
なんでかは知らん。
まあ、向こうにも色々あるんだろう。
俺は知らなかったが、里見はどうやら家が学校に近いらしい。
集合場所をここに指定したのも、彼女の都合だ。
今日は俺に協力してくれるらしいし、そのくらいは良いだろう。
ただ、一つ嫌な予感があるとすれば。
お金をありったけ持ってこいって、言われてるんだよなあ。
協力と見せかけて、カツアゲでもされるんだろうか。
まともなことに使うのなら良いんだが。
「うわっ、相澤だ。相変わらず冴えない顔してるねえ」
ふと前方から声がした。
顔を上げると、制服姿の里見が近づいてくる。
挨拶代わりに悪口とは、ぶれないやつだな。
「余計なお世話だ」
「あれえ? それが協力してもらう立場の人の態度ですかぁ?」
「……帰る」
「ま、まあまあまあ、そう怒んないでよ相澤。冗談じゃん、冗談!」
Uターンして改札口の方へ歩き出すと、里見が後ろから肩を叩いてきた。
宥めるのは良いけど、叩き方が強いよ君。
仕方なく足を止め、振り返って里見を見る。
「で、これからどこ行くんだ?」
「その前に……あんたはまず、自分のどこから変えるべきだと思う?」
「……さあ、そんなこと言われても」
そういうのを頑張っていた中学時代ならともかく、最近はほとんど外見には頓着していない。したがって、自分のどこを直せば良いのかも俺には分からない。なんとなく全体的に芋っぽいというのは、お洒落な人と比べれば分かるが。
首を傾げる俺に、里見が種明かしをしてくれる。
「こういう時、まず気にするべきはね……髪よ、髪」
「髪?」
「そう、髪。ぶっちゃけ顔が多少アレでも、髪型さえしっかりしてればマシに見えるわ。相澤はまず寝癖が跳ねてるし、なんかもさっとしてるし……とにかく、あたしからすれば論外。顔はそれなりなんだから、その辺もっとちゃんとすれば、だいぶ良くなるはず。てなわけで、これから美容院に行くわ」
「……俺の顔、それなりなんだ」
多分本筋とは関係ないんだけど、どうしてもその評価に驚いてしまう。
イケメンどころか、むしろブサイク寄りだと思ってたのに。
それなり、ね……なんかちょっと、嬉しいかも。
「う、うるさい! 調子乗んな、相澤のくせに! ……ていうか、早く行くよ! 制服で駅前うろちょろしてたら、誰に見られるか分かんないし!」
「……何急にキレてんの?」
「え? ……別に、キレてないし」
里見が目を逸らして言う。
なんなの、こいつ。女の子の日ってやつか?
聞きはしないけど。聞いたら殴られそうだし。
「大体、制服で来いって言ったのは里見だろ」
「だ、だって……」
俺の真っ当な反論に、里見は何やらモジモジした。
――お前、そんなキャラじゃないだろ。
そうツッコミかけたその時、意を決したように里見が言う。
「あんたの私服、ダサそうだし」
「……」
あ、それはその通りです。
* * *
里見について歩く途中、俺は現状を改めて客観視してみた。
今日は休日。時刻は昼過ぎ。
今俺と歩いているのは、仲悪いとはいえ同じ学校の女子。
……あれ? よく考えるとこの状況まずくないか?
彼女なんて今までできたことなかったから、あまり深く考えてなかったけど……これって要するに、デートだよな? 彼女のいる俺が、その彼女に許可もなくデートとかしていいんだろうか。
いや、いいか。俺、水谷の本当の彼氏ではないし。
むしろ許可なんて取ろうとしたら、向こうに困惑されるかもしれない。
「別に良いけど……相澤はなんで、そんなことわざわざ私に確認しに来たの?」
みたいな。もう、眉をひそめる水谷の絵が浮かぶまである。
やっぱり良かった、聞かなくて。
それに、今日の外出の目的は、巡り巡って水谷のためでもある。
わざわざ彼女に一々報告したら、なんか恩着せがましい感じがするしな。
というわけで、俺の判断に間違いはないはず。
よし、頭を切り替えよう。
「着いたよ」
里見の言葉に辺りを見回すと、右手にお洒落そうなお店を見つける。
窓ガラス越しに見える店内の様子から、そこが目的の美容院だと分かった。
「……ハードル高いな」
「? なんで?」
本気で分かってなさそうな顔で、里見が首を傾げる。
そう言えばこいつ、ギャルだった。
この間といい今日といい、気安く話してくれるから勘違いしそうになってたけど、やはり俺とは違う人種だ。
どうやら里見が予約までしてくれていたらしい。
彼女と一緒に店内へ足を踏み入れると、里見が知り合いっぽい美容師さんに身振り手振りを交えて説明。するとその美容師さんが俺の元まで来て、
「1時でご予約の、相澤様で間違いないですね」
なんて言う。
わざわざ予約して髪を切ったことなどなかったから、その時点で俺は戦々恐々。
とにかく美容師さんの案内に従い、恐る恐る散髪用の椅子に座った。
その場を離れた美容師さんを目で追うと、カウンターで里見と談笑していた。
美容師さんが笑顔で里見に何やら聞き、里見が冗談じゃないという顔で手をぶんぶん振って否定する。
さて、今の会話に想像でアテレコしてみよう。
「彼氏さんですか~?」
「そんなわけないでしょ! あんなの絶対ありえないから!」
多分こんなところだろう。何やってんだ俺。
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