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大魔法使いの執着愛

作者: ちゃころっく

 アルクゥ・グランストン


精霊に愛された男。

 魔法アカデミーを首席で卒業した男。

 大魔法使いメルキデスの弟子。

 そして、辺境の森の一軒家に引きこもる男──



「才能の持ち腐れとはこのことよね…」


 華麗なる肩書きを持つ男の手によって作られたふわふわのスフレパンケーキを飲み込み、シニヨンヘアの金髪の少女・ネーディアが不満げにつぶやく。


 同じテーブルに向かい合って座る男・アルクゥが長めの前髪の隙間からのぞく漆黒の瞳に不安の色を浮かべた。


「…美味しくなかった?」


「逆よ。最高に美味。才能の塊みたいな男なのに家事全般も得意だなんて信じらんない」


「うれしい…」


 ネーディアの澄んだ空色の瞳にじいっと見つめられてアルクゥは下を向き、ゆるくウエーブした黒髪の毛先をもじもじと弄る。

 黒いローブを身にまとい、長身で細身のいかにも魔法使いといった容姿の成人男性の照れ顔。美形だから許される。美形じゃなかったらしゃきっとしろと渇を入れていたかもしれない。


 ネーディアは黙って食後のデザートに集中することにした。

 窓の外に視線をやると、柔らかな日差しに輝く森の木々が見えた。

 狂暴な魔物が多く生息し、森に足を踏み入れたが最後二度と生きて出られぬことからついたこの森の名前は〝帰らずの森〟。

 その奥に赤い屋根の愛らしい煉瓦のおうちがあるなんて誰も想像できないだろう。

 そして二人が食べるデザートを鮮やかに彩るベリーもアルクゥの城の庭先を色とりどりの薬草とともに可愛く飾っている。此処はアルクゥの結界により魔物が足を踏み入れることもなく平和そのものだ。


 諸事情によりアルクゥの世話になって数ヶ月のネーディアは彼を知れば知るほどわからなくなる。

 彼の噂は聞いていた。アルクゥは精霊眼という特殊な瞳を持つ唯一の存在で、精霊を視て対話することが出来る。

 そのためすべての精霊から愛され、精霊から魔力を無尽蔵に借りることが出来る。

 この世界で魔法を使うためには、自分と最も相性の良い精霊から魔力を借りなくてはならない。

 多くの魔法使いは一体の精霊としか契約できず、大魔法使いメルキデス様ですら三体の精霊が限界だ。

 そして精霊から魔力を借りるといっても魔方陣を通じて契約を結ぶためうっすらと存在を感じるだけで視認することはできない。

 アルクゥの存在は奇跡だ。世界中の権力者がアルクゥの力を求めている。なのに魔法アカデミー卒業と同時に姿を消して世を騒がせた。

 森に引きこもり、魔法薬を量産して生計を立てているなど誰も思わないだろう。

 月に1、2回変装して街に出てはいるが。



「ネーディア、紅茶のおかわりはいる?」


 思考の海に沈んでいたネーディアはアルクゥの一言で我に返った。


「ありがとう。頂くわ。この紅茶もとても美味しい」

「よかった。…君が好きそうだと思って買ったから」


 才能の塊で奇跡の存在は、幼い頃のネーディアに救われた恩があるから一文無し借金まみれの元貴族令嬢のネーディアを自宅に住まわせ仕事──といっても簡単な家事──ほとんどアルクゥが行うのに給料まで支払ってくれる。

 そして甲斐甲斐しく世話を焼きたがる。彼を救った記憶がないだけに申し訳なくなるが、幸せそうに微笑するアルクゥを見ると彼の好意を受け入れてしまうのだ。


 それから、二人でゆったりと紅茶を楽しんでいたがついにネーディアは我慢できずに疑問を口にした。


「アルクゥは夢とかないの?あなたってまだ20歳よね?まだまだこれからじゃない?あなたの力だったら英雄になれるわ」


 興奮気味に語るネーディアに圧倒されたのか、アルクゥは目を瞬かせた。が、それは一瞬ですぐに穏やかな表情を浮かべ、同時に──


「ネーディア、君は花がすき?」


 質問には答えず、指をパチンと鳴らした。その瞬間、この世のものとは思えないほど美しい虹色の花が一輪、アルクゥの手のひらに現れた。しっとりと濡れたように艶やかな花びらは淡い光に包まれている。


「………綺麗…!」

「精霊界に咲く花を送ってもらった。決して枯れることのない花。君のものだ」


 ネーディアの瞳が輝く。アルクゥへの疑問はどこへやら、夢中で花を眺めている。

 アルクゥはくるくると表情が変わるネーディアを見つめながら思う。


(誰かのために魔法を使うなら君がいい)

(世界を救う英雄になるよりも、君をしあわせにするただの男でありたいよ)



  アルクゥの夢は叶ったといっていい。

  幼い頃、出会った少女。

  魔法使いになったのもすべて彼女のためだった。彼女をそばで守る力が欲しかった。

 彼女の隣にいたいという願いを抱えて生きてきた。


 今の中途半端の関係じゃ、彼女を困らせるだけだから言えないけれど彼女が望むなら世界だって滅ぼせると思う。


「君の夢はなに?」


 そんな危険な想いを胸に秘めながら、アルクゥは優しい声でネーディアに問い掛けた──



おわり

 

昔考えてた設定を眠らせるのが勿体なくて。

気力があれば連載するかも…?誤字脱字おかしな表現があるかもしれませんが笑ってやって下さい。

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