最強呪文を相伝する王子様
この国の嫡男は最強魔法を相伝する習わしである。
@短編その59
王家には『最強呪文』が相伝されているらしい。
どんな困難も、この呪文には敵わないそうだ。
どんな呪文なんだろう?
「レオニード、教えてよ」
「いや、馬鹿か?王家の秘術だぞ?たとえ親友の頼みとはいえ、言えるか」
レオニード王子はこの国の王子だ。そして呪術師であるシンフォニエの友人でもある。
彼女は呪術師の本能で、珍しい術は知りたくなってしまうのだ。
「これは一生に一度しか使えないものなんだ。へらへら気楽には言えない」
「強力な術だそうだからね」
彼のひい爺様がその術を使って、開戦待った無し状態だった隣国と戦争を回避し、『敵国側』の女王と結婚したのは伝説にもなっている。女王と結婚したので、二つの国は統合し、ひとつの国になったのだ。
そんな話を聞いたら、ますます聞きたくなる。
「その術を使うときは、是非妾を呼んで頂戴」
「呼べたらな。呼ばれたかったら近くに住めよ、シンフォニエ」
「呪術の研究には、王城みたいな賑やかな所はちょっと」
「変な霊障とかが沸くからか?」
「そんな感じ。普通の人間の感情とかも研究の邪魔になるもん」
「そうか。じゃ、呼べなくても怒るなよ」
「怒る!」
そしてあははとレオニードの快活な笑いで次の話に移る・・・
レオニードと会うときに、三回に一度は話すお馴染みの流れだ。
念には念を押さないとね。絶対に聞きたいし。
だから1ヶ月に一度はこの騒がしい王城に来るのだ。
さて、王子もそろそろお年頃。縁談とかの話も舞い込むのだが、『若輩者ですので』とか吐かしてお断りしていたのだが、さすがに20歳にもなると周りが口煩くなるわけだ。
「わかりましたよ。誰でもいいので連れてきてください」
王族の定めですからね、利害有りの政略結婚は。
王子は大きな溜息を吐いた。
数週間後・・
身分も相応、ご本人の美貌、才能も相応の令嬢が5〜6名、王城に呼ばれてお茶会という体の、面接となったのです。令嬢の中にはシンフォニエは入っていませんでした。王子は令嬢達を目だけでさらっと見た後は、慇懃な態度を保持して時間が過ぎるのを待ちました。王子は少しだけガッカリしました。
ああ、そういうことか。シンフォニエは元『敵国側』だから省かれたか・・
国が統合してもそれを良しとしない人々もいる。
シンフォニエの家は、元の敵国側で、しかもひい爺様は女王と婚約する予定の人だった。
女王が敵国の王子と結婚した後、何もかもがうまくいかなくなった、と思い込んでしまったのだ。
もしも戦争をしていたら、確実に女王側の国が勝ったのだ。
そして、ひい爺様は女王と婚姻を交わし、王となれたのだ。
ひい爺様は、『たられば』の幻想が余りにも至高で輝いていて、他の道など見る事が出来なくなってしまった。
老いれば老いるほど、『たられば』の世界が眩くて、今の己を省みる度、呪いの言葉が溢れた。
最期はありとあらゆる、彼が思いつくありったけの呪いを組んで死んだ。
祖父も、そしてシンフォニエの父もまるでひい爺様の呪いを受け継いだように王子の国を呪った。
そして今回のお茶会に、娘が呼ばれなかった事で、その鬱憤がついに爆発した。
娘がお茶会に呼ばれたなら・・
王子の婚約者にはならなくても、女王側の国の者も『認められた』と納得するつもりだった。
女王側の国の者は、今回の王子の婚約者の選定に、誰も呼ばれなかったのだ。
こうして『敵国側』の、これまで溜まりに溜まった不満の点火剤となったわけだ。
祖父や父と一番近くにいるシンフォニエは、ようやく気が付いた。
ふたりが他の『敵国側』の人々と反乱を起こす気だと。こそこそ何かをしているとは思っていたが、まさかこんな事を企んでいたとは思いもしなかった。
ひい爺様が組み上げたとかいう術式には驚きよりも呆れて、執念に恐れた。人は恨むと、ここまでしでかすのだと。
術に詳しい彼女がみても、あれは『気違いレベル』の威力を持つものであると理解出来る。
あんなモノ発動させたら、王城も、王都も、近隣の都市や街も、自然も・・・甚大な被害を出すだろう。女王側の土地も、かなりの被害を受けるだろう。解術には数年掛かる緻密さだ。
彼女はこっそりと屋敷を抜け出し、王城へ向かった。時渡の術で、空間を飛んで飛んで、王城まで急いだ。
魔力も体力も、そして命も削って3日掛かる道を4時間で辿り着いた。
なんとか親友の元にと思ったが、お后候補から省かれた彼女は王子に会わせられないと突き返されてしまった。
突き飛ばされて地べたに転ぶ彼女を、門番や兵が笑う。
ああ。ひいお爺様の悔しさが、今ならわかる。
やはり『敵国側』の人間は、どこまでいっても敵側なのだと。
王子も妾を友と言ってくれていたけれど、本心ではなかったのかもしれない。
心の底では、意地悪く笑っていたかもしれない・・・そう思ったら、居た堪れなくて涙が溢れた。
よろよろと立ち上がり、勢いよく腕で涙を拭い、シンフォニエは術式を組んだ。
ここから彼の部屋の窓が小さく見える。その小さな窓に向かってふぅ、と息を飛ばした。
息は半透明のスライム状になった。これは言霊だ。
そして彼女は家路に向かって歩き出した。もう2度と王都には行かないと心に決めて。
言霊は王子の窓辺に辿り着き、窓ガラスをすり抜けて弾けた。
『もう2度と来ない。命が惜しければ周りに気をつけなさい』
一応忠告もしておいた。これはシンフォニエ最後の優しさだった。
もう、この国が燃えようが無くなろうが知った事か。そう思っても、やはり彼が心配だった。
シンフォニエの声に、王子は何が起こったのか暫く呆然とした。
もう2度と来ない。
シンフォニエが、もうここに来ないと言っている。
命が惜しければ・・・
何かが起こると教えてくれたのか?
シンフォニエは王子の友人だ。何故ここに来ないで、言霊でメッセージを伝えているんだ?
王子は侍従に問いただすと、彼は口ごもりながら返答した。
今は婚約者選びの最中、選ばれていない女性は、たとえ旧知の方でも入れるわけには行かないと。
そして、彼女が突き飛ばされて地面に倒れた事も知って・・・
怒りで頭の中が熱くなると同時に、胸がキリキリと痛んで、やっと理解したのだ。
彼は彼女を、シンフォニエを愛しているのだと。
王家の義務と諦めて、彼女を友人と思うようにして、目を逸らしていた事に。
「決めた。私の婚約者は、シンフォニエだけだ」
彼の声に、側近も、大臣も、父である王も驚いた。
この後はひと騒動が起きたのは想像に難しくない。
『敵国側』との婚姻を、意図的に阻んでいたのが誰かも分かった。王子側の宰相一族だった。
彼の一族の誰かが『敵国側』に殺されたとかで、絶対に許す事が出来ない、その『怨念』が今も続いている。
ちなみに王子は知らないが、シンフォニエの一族も同じだった。
王子はとにかくシンフォニエに会う為に、彼女の屋敷へと向かう。
問題発言の後、ひと騒動が沈静化したのが先程、シンフォニエが帰って2日も経ってしまっていた。
王都から3日掛かるのは、山道を行くから。空路なら?
さすが王家、空路を確保していました。飛竜です。
おおよそ5時間程度で到着しました。着地は彼女の館の屋根です。メリメリいっているので、彼を下ろしたら空で滞空です。
「シンフォニエ!!」
メリメリいう屋根から何故か王子の声がしたので、慌ててバルコニーに出て空を見ると、飛竜と目が合いました。
彼女、驚いて固まってしまいました。
「あ、いたいた。すまなかった、シンフォニエ。酷い思いをさせたな」
王子はひらりとバルコニーに降り立ち、彼女を抱き寄せました。
「・・・あなたのせいじゃない・・ううん、やっぱりあなたのせいよ。婚約者がいるのに何を」
「王達に、認めさせた。私の婚約者殿を抱き締めて何が悪い」
「認め、え?えええ?」
「そういうことだ、よろしくな。で、言霊の伝言について。教えてくれるかい」
婚約だけでも驚きなのに、本題の内容を思い出して、シンフォニエは我に返った。
ひい爺様の身の上、そして恨み、『敵国側』が今だ同国民と思われていない事。
もう祖父と父、そして協力者達がひい爺様の呪いの術式を発動させる準備をしているのだと。
「よし。術には術で対抗するかな」
「術って、もしかして・・」
「ああ。よし、シンフォニエは私の婚約者だからね。特等席・・私の隣で刮目するといい」
親指と中指で輪を作り、口に加えて『ぴーーーーーー・・・』口笛を吹くと、飛竜がこちらに飛んできた。
王子は婚約者を小脇に抱えて屋根から飛び降りると、飛竜がいつの間にか下にいて、竜の背に着地すると同時に上昇する。あまりにも急な事で、彼女は声も出せないままだ。彼女は言いたい。ちょっとその腕でお腹締めないで。上の口や下の穴と穴から何か出そう。もう目から鼻から何か出てる。その前に失神する・・・
そして飛竜は空高く飛んで飛んで・・・・富士山の山頂と同じ高さの山がこの世界にある。名前はボンボ山という。それはいい。その高さまで竜は飛んだ。
「さあ、いくよ。ちゃんと見ててね
国民皆は、一瞬ブラックアウト。
近隣諸国の、反応が敏感な人間も、ほんのわずかな間、気を失った。
「あれ??なんだったんだ?今の」
「なんか頭、ボヤッとしたね」
「うーーん、なんだろう?」
何かがあったような気はしたが、なんだか意味不明な感じ・・・でも用事をしたり、人と話したり、時間が経過するとその出来事すら忘れたのだった。
シンフォニエの祖父と父、そして協力者達も、一瞬ぐらっとした感覚を覚えたが・・・
「なんだったんだ?なんか頭がぼやっとしたようだ」
「さあ・・?さて、父上。もうこんな時間です。夕食にしましょう」
「そうだな。そろそろ時間だな。皆さんも一緒にどうですか」
「おお、ありがたい」
「よろしいですな、では遠慮なく」
「お酒も出るのでしたら」
「ははは、勿論です」
何をしていたのかを考える事もなく、和気藹々と話しながら、祖父達は屋敷に戻っていくのだった。
今の今まで準備をしていた術式をほったらかして・・まるで記憶がなくなってしまったよう・・・
そして術式だが、発動条件である呪文はあと少しで組み終える事が出来たのに、途中で止めて館へ行ってしまった。
再起動するには、またやり直し・・だがかなり重要な箇所まで進んでいた。この状態での頓挫は、事実上術式の破壊となったのだった。破壊された術式は、ゆっくりと時間を掛けて消えてしまうだろう。
「シンフォニエ、大丈夫?」
「・・・あ。レオニード・・」
「見てくれた?私の生涯ただ一つの術!これでシンフォニエの言っていた術式も潰せたし、国民の意識改革も完了したよ。国民が仲良くする事ができると思うよ」
「え」
そういえば・・彼は術には術、って言ってた・・・
「もう術使っちゃったの?」
「え?特等席で見せてたのに、見てくれてなかったの?」
「お。お腹締めたから・・・苦しくて・・・気絶しちゃったよぉ・・・ばかーーー!!」
いえ、違います。
彼の術は、意識を一瞬失わせる効果があるので、傍にいた彼女は直撃。
だから刮目することなど誰も出来ないのです。皆の記憶に無いのだから、秘密は守られているというか・・・
こうして、王子と彼女は1年後結婚をする事となったのです。
将来二人の子供が出来て、この術を相伝する時にそっと聞き出そうと花嫁は虎視眈眈です。
でも術を使える者、相伝される者以外は寝てしまう術なので、彼女もまた寝てしまうでしょう。
『敵国側』からの花嫁を娶った王子は、彼らから多くの支持、そして嫁実家の支持を得て国はさらに栄えたそうです。
めでたしめでたし。
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。
連載もあります〜。




