第2話 やっぱり死はこわい
縦読みなんとかで読みやすいです。
ホントの小説みたいに読めるので、気になったらお試しください。
「霧雨冥夜さん、あなたはお亡くなりになりました」
……目が覚めると、つい先程見たばかりの美少女が冥夜の目に入る。
どうやら異世界に転生して直ぐに死んでしまったらしい。我ながら滑稽な事だ、と自嘲する。
真っ直ぐ自分を見つめてくる天使に、冥夜はため息を吐いて言った。
「ダメっすね、俺。あんな強いスキルを手に入れたのに、転生して直ぐ死んじまうなんて」
数々の能力達の中から俺が選んだのは、『超人』というスキルだった。
その名の通り、超人的な力を手に入れられるスキル。全ステータスの底上げ、魔力の常時回復、状態異常耐性等……。
他の特定の分野に優れたスキル――魔力無限、不死などには一つ一つの能力値で劣るものの、一番弱点が少ない万能系スキル……らしい。
「……」
天使は何も言えなかった。
それはそうだ、この空気で君が死んだのは私達のせいですよてへぺろ……だなんて言い出せる訳が無い。
どんな聖人であろうと、拳で抵抗しようとする事うけあいである。
「……確か、俺って無限復活でまたあの世界に戻れるんですよね?」
「……そうですけど……」
「じゃあ、何で死んだのか教えてもらうことは出来ませんか? 突然の事で何もわからなかったので、後学の為にも」
天使の心がズキズキ痛んだ。
やはり……言った方がいい。
そう判断し、天使は覚悟を決めて口を開いた。
「実は……」
――――
「はあああああああああぁぁぁ!? 何だよそれ、おかしいだろ! 何でそんなふざけた実験に参加しなきゃなんねーんだよ!!」
「お怒りはご最もです……」
申し訳無さそうに言う天使。
だが、その程度で冥夜の怒りが収まるはずも無く。
「もう俺、あの世界行かない! 爆散するから痛覚がないとか関係あるか、死は死なんだよ!」
「ですが、あなたは不死の力で強制的にあの世界に戻されてしまいますよ」
「神とやらに会わせろ、ぶん殴ってやる」
拳をポキポキ鳴らす冥夜に、天使は怯えたような目を向ける。
まあ、冥夜が怒るのも当然である。自分の意思で転生したとはいえ、最低限言われるべき事を言われて無いのだから。
そこら辺はちゃんと理解しているのか、天使は魔力門を開き書類を引っ張り出した。高位天使以上の権力を持つもののみが発行できる許可証だ。
「仕方ありません。魔王を見事倒した暁には、願いを何でも一つ叶えて差し上げましょう」
「……………………そんな条件に乗る様な柔い男じゃないぞ、俺は」
その割には結構考えてましたね、と天使は言う。
うるせえ、点々の数で判断すんな……と、冥夜が悔しげに言った。
……どうしたらお願いを聞いてくれるか天使は考え、ある思いつきを口にした。
「じゃ、じゃあ……私に出来ることなら何でもひとつ言う事を聞いてあげます……なんちて」
「転移門を出してくれ。急に使命感が湧いてきた」
一瞬と掛からず手のひら返しをしてきた冥夜に、天使は何をお願いする気なんだろうと真剣に悩む。そして、無意識に自身の身体を抱いた。
が、折角やる気を出してくれたのだからここは乗っておこうと思考。
「じゃ、門出しますんで。……申し訳ないですけど、テンプレしない様に気をつけて下さいね?」
「ああ、分かってる」
ピースのフラワーが咲き誇りそうな死亡フラグ。思わずミカァ!! と叫びたくなるようなその言葉に、天使は若干の不安を感じた。
冥夜が転移門をくぐると、門が光り輝き――!
――――
「……はあ……しかし、実際に来ると気持ちが落ちるなあ……」
今度の転移場所は、森の中だった。冥夜は恐らく何かあっても良いようにと天使が配慮したのだろうか、と冷静に分析した。
生い茂る草木を蹴り倒しながら、木々の間を抜けていく。そもそもどこに飛ばされたのかも分からず進むしか出来なくて、精神的に疲弊していく。
「予想してたのと随分ちげえなあ……」
異世界。
そこは、夢と希望に溢れた幻想の地。
空想妄想のほぼ全てが、現実となって現る世界。
……だったはずなのに。
『テンプレ展開には制裁』とかいう意味のわからん条件を付けられるわ。
そのせいで異世界に来て喜んだだけで街中で爆散するわ。
もう、散々な目に遭っている。
正直なところ、冥夜はもうくたくただった。
「神のヤロー、見てろよ……お前許さんぞ。諦めません、仕返しするまでは」
諦めません、勝つまではのパクリだよ。
……ひとりごとを言っていなければやってられない程、冥夜は孤独だった。
が、その孤独は思わぬ展開に破られた。
「きゃあああああああああああぁぁぁ!!」
甲高い叫び声が、木々の間を抜けて冥夜の耳に飛び込んでくる。
冥夜が叫び声の方に駆けだすと、
「お嬢様、お下がりください!」
……馬車を守る騎士と、馬車に乗った高級そうなドレスを着た女の子が豚人間に襲われているのが見えた。
「……」
冥夜は無言で彼らに背を向け……。
「あっ、そこのお方! お助け……あっ!!」
「おい君、待て! 頼むっ!」
……恐らく神の言うテンプレ展開に該当するであろうこの事態から、迷わず逃げ出した。
お腹が減ったら