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我こそなりましょう主人公  作者: 渋井丸
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第1話② 嘘やん

爆死の間は痛みを感じません、なので大丈夫です。

スランプ。

それは、作家の道を進む者なら誰もが1度は通る茨の道。

売れっ子作家程その傷が社会に与える影響は大きく、どんなに偉大な作家でもその存在が全てを台無しにする事もある。

……それが、今。

「がああああああああぁぁぁ!!」

「落ち、落ち着いて下さい神様!」

売れっ子作家を、着実に蝕んでいる。

「書けない、書けない! あああ、ワシはどうすれば……」

伸びた黒髪を後頭部の所で雑に縛り、天界一整っていると言われるほどの顔に特大のクマを浮かべている若者――(実際には神なので年齢不詳だが)名もなき神。ワシという一人称に騙されてはいけない、というのは天界の常識である。

その背中をさすっているのは、神の補佐をする役割である天使の1人だ。

「そもそも、無理して小説を書くことないじゃないですか! 人間界の体は神パワーで食べなくても死にませんし、稼ぐ必要なんて全く無いんですよ!?」

「……ワシにだってぷろふぇっしょなるとしてのプライド位ある。書こうと思い立ったものを書けぬ程の屈辱は無いんだよ」

天使は思考した。

……何だかんだ言い、この人はかなり重要な仕事をこなしている。今や彼の小説の影響は神にまで及び、日に日に女神からのファンレターの数も増えているのだ。

……この小説を書けぬ勢いのまま、本業の恋愛小説も書けなくなったらどうする? 他の神の大事な職務にまで支障をきたすかもしれないではないか。

「じゃあ、私が一緒にアイデアを考えますから。ね?」

「……本来ならワシだけで創りたいものだけど、らいとのべるというものを読まない者の意見も参考にはなる。よろしく頼むよ」

神はそう言って微笑した。

……この人ずっとこうやってればいいのに、と天使は静かに思った。

「えっと、転生したら草だった」

「初っ端から斬新すぎじゃない? そもそも草って動けないじゃん、どうやって物語を展開するの?」

「……草食男子の異世界フリーライフ」

「君草好きなの? 流行りを入れれば面白い訳じゃないよ」

「草の孫」

「草に拘り有りすぎじゃない!? ていうか、君らのべ読んでるだろ!」

天使が何か言うたびに、神が突っ込んだ。

……このような有り様なものだから、まともなアイデアなど出る訳が無く。

「……」

「全然駄目だ。どうすればいいんだ……」

「……神様、これを、どうぞ」

遂に。

「な!? 君……真逆……」

「私のおすすめシリーズです。家からかき集めて来ました、もうこれをパクりましょう」

愛読者だったのか、と神が苦笑いしながら本を手に取る。

……パクりまでとは行かずとも、参考程度に読むことになった。

天使と神が、執務机以外何も無い部屋でラノベを読むという光景。

かなりシュールな光景の中で、神がプルプルと震え出す。

「だあああああああああああぁぁぁ、もう、限界だっ!!」

読んでいたラノベを放り出し、神が叫んだ。

「何だよこれ、駄目だ、ワシには分からない! 何が面白いんだ、人はこれをテンプレと言うらしいな! 不自然な迄に主人公を上げる美少女達、そして奴隷! はあれむ! そして挙句に、それら全てを無視する鈍感主人公! 最高にムカつく、羨ましい!」

駄々を捏ね出す神を、ゴミを見るような目で見る天使。

「クソ、決めたぞ! ワシは絶対にテンプレは書かない、自己流を貫くんだ!」

「でもこのご時世、テンプレじゃないと売れませんよ」

天使は週一の休みを使い、ラノベの新刊を買い漁っているようなわりとそっち方面には詳しいお方だった。

神は、天使の真面目な意見を聞き、目に炎を灯らせた。

「よおし、人間だ。人間を使おう! テンプレをやったら爆死するようにしよう! 実際にあった出来事をそのまま物語に書けば、絶対に面白くなる! 異世界ノンフィクション、売れる予感がするぜ!」

苦労が自分に降り掛かってくる未来しか見えない。天使は既に胃を傷めた。

……でも、天使は思った。

……ちょっと読んでみたいかも。

「……仕方ないですね。じゃあその辺に彷徨ってる善性の魂引っ張ってきます」

「じゃあ頼むよ、ワシは準備しとくから」


――――


霧雨冥夜(きりさめめいや)さん、あなたには異世界に転生してもらいます」

「分かりました、行きましょう。で、転生特典とかあるんですよね?」

飲み込みが早いのか、やたらグイグイくる冥夜の態度に天使は若干引いた。

「は、はい。ございます。あなたにはこのカタログの中から一つ、人智を超えた力を選んで貰います。それを異世界に持って行ける権利を差し上げましょう」

「マジすか!」

天使は業務用の笑顔を崩さず、カタログを手渡した。キラキラした目でそれを眺める冥夜を見て、若干罪悪感。

「転生してすぐ殺されてはたまりませんからね。それに魂の移動は概念に負担が掛かるので、出来るだけ死なないようにはさせて貰いますよ。例えば、異世界の言語理解スキルに、実力を数値化できる性能(レベル)制度。後は、無限に復活する権利」

「強いっすね! ひゃっほう!」

無邪気に喜ぶ冥夜。

名前のせいもあるかもしれないが、かなりのレベルの厨二病を患っていた冥夜は、異世界への憧れが人一倍強かった。

天使の罪悪感が、どんどん強くなっていく。

結果――早い内に送ってしまおう、という結論に至る。

「じゃあ、はい。ここに入ってください」

「何すかここ、……何かハイテクっすね」

知恵の神が開発した転送用ポットに乗り、ぺたぺたと色んなところを触る冥夜。

……天使は、吹っ切れた。

「あなたの目的は、異世界の魔王を倒すこと。……では救世の勇者よ、旅立て!」

哀れなり、勇者は旅立ってしまったのである。

――――


「ひゃああああああ! ここが異世か」

街に爆音が響き渡った。

……異世界に来て直ぐに爆死した勇者は前にも後にもあの人だけでした、と、天使は語った。

第1話2節目投稿完了。


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