6話 「小さい……」
城の真裏で工事が始まる。
草がぼうぼうと生える用地で作業がはじまる。
戦うことばかり優秀で肉体労働などしないオークたちが土を運び、個の戦闘力に極振りのため役立たずの代表格だったダークエルフも率先してシャベルで溝を掘る。
あまりにも熱量あふれる労働にクッコローネは言葉を漏らす。
「おまえら……魔王軍にいる頃にやる気出せよ……」
やる気など出すわけがない。
なぜなら軍務は仕事。
妄想はライフワークなのである。
言い出しっぺの辛気くさい美形、カインも率先して働く。
その姿はまるで絵画のように様になっていた。
「なあなあ、リールー。見た目の美しさと腹に抱えた変態性が噛み合ってないのだが」
「閣下、気にしたら負けです♪」
「気張って行くぞ! 我らの悲願のため!」
「「人生やり直すぞーッ!」」
「おう! 眼鏡っ娘!」
彼らは妄想を燃やす。
「ぼくっ娘」
「委員長!」
「幼馴染み」
無理である。
「巨乳!」
欲望に正直である。
「ロリ!」
もはや欲望を隠そうともしない。
「人妻!」
「男の娘!」
「NTR!」
「いまなんつった? 殺すぞてめえ!」
多少の信仰の違いはあるようだ。
争いが起こるのを見てカインは拳を振り上げる。
「おっぱい!」
それを聞いた漢たちが同じく拳を振り上げる。
「「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」」
漢たちの心が一つになった。それは誰もが幸せになる魔法の言葉だった。
妄想の燃焼によって漢たちは力を増し、作業スピードは極限まで高まる。
「……胸の特徴を連呼されるとなぜかむかつくのだ」
クッコローネは自分の断崖絶壁を見るとつぶやいた。
すると彼らはクッコローネに手を振る。
「ロリドラゴンかわいいー!」
「かわいいー!」
「フリフリかわいいー!」
褒められてクッコローネは少しいい気分になった。
ふふんっとドヤ顔する。
つい最近まで親にしかかわいいと言われたことがなかったのだからしかたない。
「とうとう、妾の時代がやってきたようだな!」
調子にのるのも致し方ない。
すると作業員たちは声を一つにして応える。
「「貧乳ロリかわいいーッ!」」
「てめえら、ぶっ殺す! 一列に並んで正座しろ! 端から殴るから!」
クッコローネブチ切れである。
涙目で地団駄を踏む。
「閣下、落ち着いてください!」
「うおおおお! 離せ! 後生だリールー! やつらを殴らせてくれ!」
リールーに羽交い締めにされたロリ貧乳がジタバタ暴れる。
「捕獲されたミニっ娘かわいいー! 貧乳尊い!」
「涙目ロリかわいいー! 貧乳はステータス!」
「残念美少女かわいいー! 貧乳だけはガチ!」
「うおおおおお! 離せー! てめえらーッ! 顔憶えたからな! あとで憶えてやがれ!」
貧乳ロリドラゴンはリールーに連行されて退場。
カインは仄暗くほほ笑むと作業に戻る。
物資は運んだ。
次に作業用物置を作る。雨風を凌げる屋根のあるものだ。
鎚で地面を叩いて平らにする。
地面が平らになったら材木で枠組みを組む。
枠組みができると立てて、地面に深く突き刺す。これでその日の作業は終了。
まだ骨組みしかない。屋根もない状態だ。
雨が降ったときのために、物資には麻のシートをかけておく。
それが終わると男たちは溝を掘った用地に油を撒く。
油を巻き終わるとカインは用地の前に立つ。
「炎よ……」
火球が飛び、用地に着弾する。
火が油に着火し、ごうごうと炎の柱が立った。
雑草の処理である。
するとあちこちで獣の悲鳴が上がる。
「キシャアアアアアアアッ!」
大型犬ほどの大きさの何十匹ものジャイアントラットが炎から逃げてくる。
男たちを見て、ジャイアントラットは決死の覚悟で襲いかかってくる。
それを斧や棍棒を持ったオークが叩き落とす。
ダークエルフは矢を射る。百発百中。動く的にあり得ないほどの精度で矢が突き刺さった。
魔王領ではただ大きいだけの獣は雑魚なのである。
オークとダークエルフの半分は火が溝の外に延焼しないように見守っていた。
傍らには砂。火が延焼したら砂をかけて消すのだ。ある意味、ジャイアントラットとの戦いより地味で苦しい作業である。
半日ほどして、すべて焼き尽くしたらその日の工事は終わり。
草木灰は財産である。回収して袋に詰める。
仕留めたジャイアントラットは保存食として放出。
下処理専用の、毒のある内臓を取り出して血抜きをしたのちに塩に漬け込む。
山のようにジャイアントラットの塩漬けが作られていく。
「ほう……嘘のような大成果だな……マナがこれだけ薄くなったというのに。恐ろしい手腕だ」
半日経って冷静になって戻ってきたクッコローネも驚きの収穫である。
マナ、魔法を使うときに消費されるエネルギーである。
ところが、数百年前からそれが年々薄まっていっている。
それと同時に農業の不作や不漁が続いているのが魔族との戦争の原因である。
それなのにカインは薄いマナからも魔法を自由に使えるのだ。
「人間の領地では春の風物詩です。さすがに魔法ではやりませんがね。向こうのネズミはジャイアントラットほど大きくないので猟犬に狩らせるんです」
クッコローネは笑顔だった。
だがこめかみがピクピクしている。
「普通に優秀じゃないか! 少しはやる気出せーッ!」
協調性に欠ける集団をまとめ上げ、作業を終わらす。しかもちゃんと成果を出す。
魔王軍でもオークとダークエルフを使えるのなら即幹部待遇で迎えられるだろう。
「美しいドラゴンのお嬢さん、我々は共通の目的のためなら手を取り合うこともできるのです」
「いいこと風に言ってるけど、それ人間との戦争でやれよな! 学校が欲しくて団結とか意味わからねえだろ!」
「それほどまでに、胸に吹き込むすきま風が肌寒かったんですよ」
「詩的に言ってもダメ!」
これには後ろで控えていたリールーも苦笑いする。
「まあまあ閣下、やることやったのでよしとしましょう。今回は異常な事をしてませんし。どう考えても優秀ですし」
「ぐう、確かに……」
認めたはずなのに目が光る。
「確かに作業はよくやった! だが……妾のことを貧乳呼ばわりしたことは忘れぬぞ!」
思い出しギレである。
怒るクッコローネを見て、カインの辛気くさい顔が真剣なものになる。
「大きいことはいいこと。それは間違いです。龍王クッコローネ。いやレイン。私は……」
「私は……?」
「ちっぱいが好きだーッ!」
「貧乳の部分を否定しろーッ!」
クッコローネはカインの服をつかむと空に向かって放り投げる。
きゅぴーんっとわざとらしい音を残しカインは大空に消えていく。
「ふう、ふう、ふう、あんのバカー! 褒める機会を失ったではないかーッ! ばかー!」
「あら、褒めるおつもりだったんですか?」
「う、うむ。オークとダークエルフに後方の仕事をさせたのは快挙なのだ。あやつらの教団を懐柔できれば魔王軍の戦力は数倍になるだろう」
要するにオークとダークエルフは能力こそ高いが協調性がないので使い物にならないのだ。
その問題を解決する手段こそ、カインの教団なのである。
問題は山積み、新しすぎる価値観でなにを言ってるか理解不能。さらに妄想という魔術とは別の力まで持っているようである。
だがそれでも手放すのは惜しい、それが偽らざるカインの評価である。
「それに好意を隠そうとしてませんしね」
「う……だが、変態なのだ」
「人当たりはよく、能力は折り紙付き、顔はそれなり。頭は……多少ねじが飛んでますが賢いかと。断る理由……ございますか?」
「うう……! 検討しておく!」
クッコローネが顔を赤らめた瞬間、「やれやれ、まったく乱暴だなあ」と地面の魔方陣からカインが出てくる。
間が悪い。
「だからッ! おまえはッ! なんで無敵なのだーッ!」
ロリドラゴンの叫びが空にこだました。