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5話 「青銅紳士」

 朝、クッコローネは目を覚ます。

 ぼけぼけの頭で起きると、少女の姿になる。

 戦うとき以外は人間サイズでいた方がなにかと都合がいい。

 なぜならほとんどの道具は人間サイズで作られているからだ。

 メイド服を着たリールーが全裸のクッコローネに服を着せる。

 いつもの露出度高めの戦闘服ではなく、リボンとレースでゴテゴテ装飾されたドロワーズを履いて、かわいいワンピースを着て……。

 尻尾にまでリボンを巻かれて。


「……かわいい柄……じゃねえよ! ……ちょっと待て!」


 クッコローネは叫んだ。

 血圧と体温が安定して頭がはっきりしたころには、すでに髪型は編み込みプリンセスヘアにされたあとだった。

 鏡を見てクッコローネはびっくりした。


(誰だこいつ。あ、靴かわいい。ってそうじゃねえ!)


「いつもの服とリボンはどうした!?」


 リールーはさっと目をそらす。


「リー! ルー!」


 がるるるるる。と、うなるとさすがのリールーも白状する。


「か、カイン様の提案があまりにも素晴らしかったものでつい……」


 たしかに我ながらかわいい。それは認める。と、クッコローネは一人にやついた。

 自分もそう悪くはないではないかと思えたのだ。

 だが……、


「かわいいけど、なんかムカつくのだーっ!」


 小さい身体で地団駄を踏む。


「まあまあ、いいではありませんか。クッコローネ閣下。男性からの初めてのプレゼントですよ」


「ぬう……」


 クッコローネは龍王。最強のドラゴンである。

 望めば魔王になることも難しくない。

 単純な暴力なら最強クラスである。

 ただ責任が増えるのが嫌なだけである。

 責任が重くなければ不眠になることもなかったのだ。

 だからこそ、ひたすらに最強であろうとする。

 それが龍王の責任なのである。

 それゆえかクッコローネを落とそうというオスは皆無。

 今まで、一度も、誰からも、求愛されたことはない。

 異性からプレゼントなど一度ももらったことはない。

 少し自信がついた。


「ふはははははははははー!」


 薄い胸でふんぞり返る。

 ちゃんと寝たせいで精神的余裕があったのだ。

 そのとき二人の後ろで声がした。


「たいへん愛らしい、かと」


 辛気くさい男、カインがソファーで優雅にお茶を飲んでいた。

 それを見た瞬間、クッコローネは貼り付いた笑顔になる。

 こめかみには血管が浮かんでいた。

 そのままクッコローネはカインをつまみ、外へ放り投げる。


「乙女の着替えを堂々と覗くなーッ!」


 カインはきゅぴーんとわざとらしい音を残し空へと消えた。


「はあ、はあ、はあ……やつはいったいなんなのだッ! 言動はただの不審者なのに、あれだけやっても傷一つつかんではないか!」


「もはや敵でなくてよかった……としか……」


「もしかして……人間ってバカなのではないか? あれほどのものを放逐するとはなにを考えている? 存在自体が抑止力。普通だったら贅沢させて飼い殺しにする人材だろ!」


「さあ?」


 しかたなくクッコローネはカインの用意した服で廊下に出る。

 すると学ラン姿のオークたちが出迎える。

 感動に打ち震えながら手を叩き、ときには涙するものまでいた。


「これが伝説のロリドラゴンか!」


「さすが猊下、素晴らしいチョイスでいらっしゃる!」


「尻尾が! 尻尾が! 揺れる! カワイイ! うおおおおおおおおおおお!」


 最後のオークなどは号泣していた。どうやら紳士(ロリコン)のようである。

 そしてオークの中にもう一人。

 死んだ目で拍手するカインである。

 普通にいる。


「おいちょっと待て、なぜ貴様がいる! つい先ほど、たしかに空に放り投げたはず!」


ロリ魂(コスモ)を燃やし第七の妄想(セブンセンシズ)に目覚めればなんでも可能かと」


「なにしれっとカミングアウトしてんのだ!」


「ふふふ、私などまだまだ。青銅紳士(ブロンズジェントル)。お褒めいただくほどのものでは」


「褒めてねーッ! あーもー! カイン、おまえも一緒に朝飯を食え!」


 もういい加減なれてきた。

 この連中は止めろと言っても聞かない。

 ならば一緒に食事でもしながらウヤムヤにしてしまえばいい。

 会食用の食堂に入ると、カインはクッコローネを抱っこし、籍に座ると膝の上に乗せた。

 顔を真っ赤にしたクッコローネがわなわなと震える。


「な、なにをする! ああんッ!?」


 ぶち切れである。


「はい、あーん」


 カインはかまわずビスケットをクッコローネの顔の前に出す。


「うわーいビスケットだー♪ じゃ、ねえッ! つか離せ!」


 怒っているがビスケットはしっかりひったくり口に入れる。食いしんぼロリである。

 クッコローネはバリバリとビスケットを咀嚼しながらカインの膝から降りて自分の席に戻る。


「おまえはなにがしたいのだ! なんの意図があるのだ!」


「求愛しているつもりですが?」


 しれっとカインは言い放った。

 次の瞬間、クッコローネの顔が焼けた鉄のように真っ赤になる。


「あ、あ、あ、ああああああああッ! あがッ!」


 ロリドラゴンが語彙力を失う。


「なななななななな、なにをッ!」


「求愛ですが?」


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 モテ期が来た。

 それはプロ・ソロプレイヤーのロリドラゴンを動揺させた。

 相手は変態だ。変態だ。変態すぎる。

 だがそれでもモテたのだ。モテなのだ。


「あが、あががが! あががががッ!」


 経験値の少なさゆえか。完全に恋愛をあきらめていたせいか。

 ロリドラゴンは言葉が出てこない。

 するとタイミング悪くリールーが配膳にやって来る。


「クッコローネ閣下、どうされましたか?」


「にゃ、にゃんでも、ないッ! なあカイン!」


「ええ、なんでもありません。婚姻の申し込みをしようとおも……」


「なんでも! ない! それよりリールー、オークたちの要求はどうなった?」


 リールーは「変な閣下」という顔をすると、アイテムボックスから資料を出す。


「その……学校でしたっけ? とりあえず、用地はたくさんございます。北の森を開拓してもいいでしょうし。ですが監視のために城の近くにしようという案で決まりそうです」


「で、あるか」


 クッコローネは自分の専門分野以外はちゃんと専門家の意見を聞くことにしている。

 なんでも一人でできるわけではない。

 自分の限界をちゃんと知っているのだ。


「カイン、おまえもなにか意見はあるか?」


「では、用地候補の現状からのシナリオを……」


 カインのアイテムボックスから現れたのはぶ厚い資料の束だった。


「いや待ておかしい! なぜさきほど決まったはずなのに、すでに資料ができているのだ!?」


「予想と推測、それに根回し……ですがなにか?」


 完璧超人はすでにクッコローネの家臣にまで魔の手を伸ばしていた。

 目の前の敵は変態。だが万能だ。超ハイスペックなのだ。


「リールー……こいつどうにかしてくれ」


「龍王クッコローネ閣下にも不可能なことをやれと?」


「ぐうッ! あーあーあーあーあー! もう、いい! 勝手にしろ! カイン、民からもらった大事な金は出さんからな! おまえらとオークどもで勝手にどうにかしろ!」


「承知致しました」


 カインは相変わらずの辛気くさい顔で応えた。

 だがクッコローネは知らなかった。

 まだわかっていなかった。

「勝手に」という言葉を使ってしまった。

 つまりありとあらゆる許可である。

 まだ金を出して縛っていた方がよかった。

 と後悔するのはそう先の話ではなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ネーミングが、ネーミングがねなのね。 カインが出てその容貌が出てくる度に私の中ではカインが究極超人あ~るで出てくる・・・もうそうとしか見えない。
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