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4話 「龍王さんとお子さま」

 どこまでも広がる草原。

 ぱたぱたと小さな足音がした。


「ままー!」


 小さな小さな人間の女の子の姿をした、ちびドラゴンが胸に飛び込んでくる。

 クッコローネは大人の姿でそれを抱きしめる。

 胸もバインバインだった。

 くびれもある!

 背も! 胸も! バインバイン! だったのである。

 まさに理想の姿だったのだ!

 そう、空気抵抗の少なさそうな薄い体ではない。

 リールーのような女性らしい体だった。

 クッコローネはやさしく、慈愛の笑みでこたえる。


「XXちゃん♪」


 甘い声を出す。

 ずいぶんと子煩悩のようだ。

 それもそのはず。ドラゴンはたいてい子煩悩である。

 なぜなら子どもが圧倒的に少ない。

 繁殖力が恐ろしく低いのだ。

 そもそも伴侶を探すのが難しい。たいていのドラゴンは巣の周りから出ないから。

 だからたいていのドラゴンはベタ甘で育てる。

 子どもの名前を思い出せないドラゴンなど存在しない。

 それなのに、なぜか我が子のはずなのに名前の部分がぼやける。

 顔も微妙にぼやけている。

 それでも幸せいっぱいだった。

 子どもはなにかに気づいてぴょこんぴょこんと跳ねる。


「ぱぱー!」


 子どもがいるのであるから当然父親がいるのである。

 だがその父親に思い当たりはない。

 龍王クッコローネは年齢=お一人様歴。

 完全なお一人様。喪女。プロのソロプレイヤーなのだ!

 だから父親、自分のパートナーの顔をまじまじ見る。

 種族にこだわりはない。

 ドラゴンはたいていの種族と子をなせる、かなりいいかげんな生物である。

 だからクッコローネは祈る。

 イケメンだといいな。イケメンだといいな。イケメンだと……。

 その願いは叶った。男は一見すれば美形だった。

 だが……目の下には辛気くさいクマが……。


 カインだった。


 背景に薔薇を背負ったカインは真っ直ぐ走ってきて、そのまま抱きつき二人は熱い口づけを……。



「どわあああああああああああああああぁッ!」



 クッコローネは悲鳴をあげた。

 ふと冷静になって辺りを見ると龍王の間だった。

 身体は巨大なドラゴンのもの。

 お気に入りのクッション、お気に入りの毛布、お気に入りのぬいぐるみ。

 すべていつもの「ねんこセット」だった。

 ドラゴンはなぜかこういう寝具に異様にこだわる。

 お気に入りのセットでないと寝られないのだ。

 この日もいつものねんこセットで、いつもと同じように寝ていたはずだった。

 確かにここ数年は睡眠は短く、すぐに起きてしまう。

 よく悪夢も見る。

 だけど、それはいつも決まって戦争の夢だ。

 こんなわけのわからない夢ではなかったはずだ。

 腹のところに異物を感じた。

 辛気くさい男がクッコローネの腹を枕にして寝息を立てていた。


「おまえが原因かーッ!」


 クッコローネはカインの襟をくわえると外にぶん投げる。

 ピューッと飛んでいくカインを見て安心する。どうせ殺しても死なない。

 そのまま寝床のクッションの上でクルッと回って横になる。

 目をつぶるとすぐに寝息を立てはじめた。


「きゅうううううううううううん! きゅうううう」


 すぐに寝苦しそうな声をあげる。

 足を必死にカキカキ動かしていた。

 その顔は苦悶に歪む。

 クッコローネは悪夢を見ていた。

 それは戦場の夢。

 ブレスで人間の城を焼いた瞬間の記憶。


「うううん……すまぬ……すまぬ……」


 口から出たのは後悔の念だった。

 本来、クッコローネは温厚な性格である。

 殺戮はおろか、暴力もふるうこともない。ドラゴンにありがちな喧嘩もしない。

 巣で本を読んで大人しくしているタイプである。

 それが領民を守るためとはいえ魔王軍の四天王になってしまった。

 その結果が戦争に次ぐ戦争。血で血を洗う生活。

 本来ならば争いごとを好まない性格。ストレスは極限まで積み上がっていく。

 そのストレスが悪夢となって降りかかった。

 眠りは浅くなり、睡眠不足に。

 日中も常に眠気に襲われ、居眠りがさらに睡眠不足を誘発する。

 悪循環に陥っていたのだ。


 そんな龍王の間に魔方陣が現れる。


「ふう、乱暴だなあ」


 辛気くさい美形が魔方陣から「よっこらせ」と出てくる。

 ぶん投げられた瞬間、テレポートをし戻ってきたのだ。

 こんな曲芸をできるのはカインくらいのものである。

 カインはただの変態ではない。

 ルツの加護神聖魔法を失ったとはいえ、それでもなお人類最強の一角なのだ。

 神の使徒となったいまカインは暴力を封印した。

 それは最強ゆえの傲慢かもしれない。

 それでもクッコローネたちを傷つけるつもりはなかった。

 カインはクッコローネのそばに寄ると首をなでる。

 するとクッコローネはうつ伏せから横寝になりお腹を出す。

 そのまま腹をなでる。

 ピコピコと尻尾が揺れる。

 すると苦悶の表情は嘘のように穏やかになり、リラックスしたのか喉を鳴らす。


「まうううううううううううううんッ♪」


 しばらくなで回す。深く眠りに落ちるまで。

 深く眠ったのを確認するとカインは添い寝した。

 クッコローネは夢を見ていた。

 母親に抱かれる夢。そよそよと風が鼻をくすぐり、お日様のにおいがした。

 いつのまにかクッコローネは熟睡していた。

 それを見てカインはほほ笑む。

 仄暗い笑顔ではない。心からの笑顔だった。

 カインはクッコローネに毛布をかけ、部屋をあとにする。

 ドラゴンの安らかな寝息が響いた。


 なお……、悪夢の回数は減ったが少女漫画風の背景なのに出てくる王子様は辛気くさい顔をしている夢は増えたという。

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