2話 「龍王さんはロリ体型」
魔王軍四天王最強と言えば龍王である。
その龍王レイン・クッコローネはわなわなと震えていた。
最強の古代龍にして四天王筆頭。
単純な戦力なら魔王を上回る。
ドラゴンの姿ならばどんな刃物も通さぬ白く輝く鱗を持ち、すべてを焼き尽くす炎を吐く、それはまさに災厄。
人間形態では空を飛ぶのに最適な流線型で軽量化された体。
身につけたぴっちりとした服から体型が浮き上がるが、凹凸はなかった。
チビでロリ、ツルペタというかド貧乳。
ミニ系ド貧乳メスドラゴン、それがレイン・クッコローネだった。
名前でなんとなく察したと思うが、後にカインの犠牲者になる女性である。
レインは怒り狂っていた。
人間形態で手をバタバタ振り、地団駄をふむ。
「またオークが造反しただと! どういうことだ! 説明しろ!」
クッコローネと比べるとやたらと発育の良好な女性が冷や汗を流しながら報告する。
人間とは違い頭からはヤギのような角が生え、なぜか胸元を強調したメイド服を着た女性。
配下の魔族リールーである。
慌てたリールーは手をブンブン振りながら説明する。
「【俺たちは眼鏡の委員長と青春する】との置き手紙を残し、一個師団が消えました!」
「ぜんぜん意味がわからん!」
「私もわかりません!」
誰もわかるはずがない。
なぜならコ・ミューケはまだ顕現したばかりの新しい神。新しい価値観なのだ。
だからこの混乱は当然だった。
「恐れながら申し上げます。クッコローネ閣下。これがオークたちが残した書類にございます」
「なんだそんなものがあるのか。まったく最初から出せばいいのに……どれどれ」
【ボクッ娘尊い】【百合を眺めたい】【男の娘……ヤッ●・デカ●チャー】【BL……】
そのメモを見た瞬間、クッコローネの理解のキャパシティはいとも簡単にあふれた。
全く何を言ってるかわからなかった。
知性あふれるドラゴン、しかも古代龍の知能をもってしてもなにを言ってるかわからなかった。
なぜならつい最近発生した言葉の数々なのだから。
いやそれだけではない。
クッコローネは見た目と恋愛経験が同じだった。
年齢=お一人様だった。
恋愛経験ゼロ。しかも世話をしているリールーも似たようなもの。
日常にエッチな会話が出現することはない。
高度な文化が知識のないものに通じるわけがないのだ。
二人ともなんのことだかわからなかった。
クッコローネは「きゅーん……」と困り眉になってリールーを見つめた。
「そんな顔しないでください。私も意味がわかりません」
「なんなのだこれは! これは大規模な洗脳魔法なのか!」
「いえ魔法の徴候はありませんでした」
「じゃあ、なんなのこれぇッ!」
クッコローネはドスドスと地団駄を踏む。
「わかりません!」
「なぜ誇り高き我が軍勢が消える! これはなんの陰謀だー!」
「うわあああああんッ! わかりませーん!」
魔族の女性はたまらず泣いた。
新しい価値観、しかも二人には難しすぎたのだ。無理ゲーなのだ!
その当事者であるカインはクッコローネの住処近く、【深き森】にいた。
カインを前にした屈強な体をしたオークたちが膝をついた。
総勢3000名。
失踪したオークたちである。
その中でもひときわ身体の大きいオークがカインの前に出る。
彼こそオークの指導者階級、オークジェネラルのゲラルドだった。
「猊下、我らオーク3000名。くっころエルフの道を極めんと教主様の旗下に下りました」
「くっころエルフだけで満足なのか?」
カインの問いに、オークはにやりと笑う。
「いえ、私は男の娘との……」
カインはゲラルドを見極めんとした。
ゲラルドはただ微笑みながら言った。
「純愛青春ラブストーリーを欲しております」
変態だった。まごうことなき変態だった。
カインは「ふっ」と笑うと虚空から服を取り出した。
時空魔法「ストレージボックス」である。
超レア能力なのに発言の異常性のせいか誰も気にもとめない。
いや変態発言に誰もが疑問を持っていない。
誰もかも変態だった。
「合格だ。ゲラルド、おまえは幹部に……いや私の右腕に相応しい」
カインの取り出した服こそとある世界で「学ラン」と呼ばれるもの。
この世界にはない服である。
「たった今から道士を名乗るがいい。これを着て皆を導くがいい」
陵辱、らぶえっち、ハーレム、ビッチもの、人妻。
カインは数千冊に及ぶ薄い本を読破し、結論を得た。
エロはただの隠れ蓑。これらの芸術は愛の形を表現しているのだと。
そうコ・ミューケは芸術の女神にして愛の女神だったのだ……と。
幼きときから勉強漬けだったその脳は斜め上の結論を出し、しかもその間違った説に説得力を持たせてしまったのだ。
しかもあふれるカリスマ性と薄い本の悪魔的魅力により、オークにまで信じさせてしまったのだ。
「女神コ・ミューケに感謝を!」
「感謝を! 伝説のオーク王、カイン様にも感謝を!」
こうしてカインは伝説のオーク王となった。
同時に最初の犠牲者は決まっていたのである。
要するに……勇者たちは超高スペックのやべえやつを野に放ってしまったのだ。
……自由にしちゃったのである。
クッコローネがエルフじゃないのは名前を他の作品から流用したからだったりします。
エルフのクッコローネの方も数万字書いてありますのであとで上げます。