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絆喰らいの英雄幻視  作者: きし
最終章 愛の果てに喰らうのなら
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47話 希望のルキフィアロード

 大勢の人達の声や感情が濁流のように自分の中に流れ込んでくる。

 時折、自分が誰だったのか忘れそうになる。自我が消えていきそうになる度に、誰かに背中を叩かれる。

 いいや、その誰かは知っている。

 俺が喰らった大切な人達だ。その人達が、混濁し薄れていく自我を首の皮一枚のところで抑えてくれている。


 感じるよ、君の温もりを――。


 ――タスクさん、さあ立ち上がって、もう少しだよ。たぶんこれが最後になるから言っておくね……大好きだよ、タスクさん!


 感じる、貴方の温もりを――。


 ――お前も相変わらずだな。だが、そんなタスクだからこそ俺はここまで付いてきたんだ。さあ、俺の命を喰らった責任を果たせ。


 感じるさ、お前の温かさ――。


 ――タスクの旦那っ! アンタが生きていくことが、俺の希望になったんだ! 生きて、生きて、生きて、俺が叶えることのできなかった幸せごと聖女様を幸せにしてあげてくだせえ!


 感じているぞ、アンタの温もり――。


 ――タスク、俺達は望んで共に在る。みんなお前の苦しみを知っているからこそ、ここに居るんだ。呪われし力だと憎む必要はない、この力を誇りに変えて戦え。……お前のやりたいことこそが、俺達のやりたいことなんだ。


 ああ、分かったよ――。


 俺はもうルキフィアロードの力に振り回されない。この力を受け入れることこそが当然のように、全身に温かな魔力を受け入れた――。


                     ※


 そっと目を開けた。

 相変わらず世界は昏く、地獄の門が開いたかのように雷鳴を轟かせた漆黒の雲がどこまでも空を覆っていた。

 できるなら青空を見たかった。それなら、自分の足で澄み切ったどこまでも広がる青い蒼い空を見に行こうと決めた。

 遥かな景色を夢想する前に、今はやるべことがあった。すぐ側で蠢く闇に相対するヒメカに視線を向ける。


 「ヒメカ」


 呼びかけると肩で大きく息をしながら振り返るヒメカは息も絶え絶えといった様子だった。


 「……遅いよ、お兄ちゃん」


 センセイと決戦が始まる前から傷付いていたヒメカの腕や足には、数えきれないほどの痛々しい傷が視界に入り自分の身を挺して守ってくれていたのかを物語っていた。


 「大丈夫かっ」


 肩で大きく息を吐きながら片膝を付いたヒメカは決して大丈夫なようには見えなかったが、右手をぱたぱたと振って気丈に振る舞う。


 「……へへへっ……この世界を破壊しようとした私には大したことないわよ。でも……最後のとどめだけはやらせてあげる」


 背中越しに語るヒメカは瀕死の自分の顔を見られたくないのか、それとも、集中を緩めない為に前方に意識を集中しないのか不明だが、どちらにしても予断を許さない状況なのは間違いなさそうだ。

 彼女の誇りも守る為に、俺はヒメカの顔を見ることも触れることもなく脇を通り過ぎる。


 「――ありがとよ、メインディッシュを取っていてくれて」


 ヒメカの小さな笑い声を最後に、背後で地面にどさりと倒れこむ音が聞こえたが振り返ることなく魔力を悪戯に解放し続けるセンセイの元へ駆け出した。

 

 「はあああっ――!」


 地面を蹴り、体内や大気の魔力を肉体に掻き集めて、宙に漂う魔力を足蹴にして自分を一つの弾丸のように見立てて一直線に飛んだ。

 当然のようにセンセイを守ろうとする魔法陣が砲台の役目を始め、猛スピードで風を切る俺に狙いを定めると同時に魔力を照射する。


 「悪いが、こんなモノで止められると思うなっ! お前が止めようとしているのは、この世界の意思なんだ!」


 突撃し通り過ぎた後、遅れてやってくる魔力の波によって攻撃をしていた魔法陣も含めて周囲の魔法陣は弾けて吹き飛んだ。

 ただ突き進むだけで、細かな術式を練って作られていたセンセイの魔法陣は意味をなさなくなる。


 「これが答えだ! お前がどれだけ考えて悩もうとも、ただ生きたい、ただ愛したい、という純粋で真っすぐな感情には勝てないんだ! お前という破壊者の存在が、皮肉にもこの世界の者達にそれを教えてくれたんだよ!」


 センセイに近づけば近づくほどに牢屋の格子のように魔法陣は折り重なり、他者の侵入を拒もうとする。それでも、止まることはない。魔力とは本来、人の感情を読み取り、共に生きるものなのだ。それが、こんな誰かを殺す為だけの魔法に負ける訳がないのだ。

 魔法陣は次第に原型を失い、ただの魔力の集合体と化す。

 今の俺じゃなければ、こんな濃霧のような魔力の中に飛び込めば、一瞬にして蒸発していたことだろう。それはヒメカも同義で、彼女なりに突っ込み続けた先の敗北を察していたのかもしれない。そして、魔力の闇を抜けた――。

 小さな空間の中で魔力の暴走を続けるセンセイの前に転がるようにして着地した。

 下手な着地で服に付いた泥を払いつつ近付くと、センセイも一心不乱に魔力の解放をしていたセンセイはこちらを見据えた。


 「この私に説教をするつもりか」


 考えていたよりもずっと落ち着いた声で言った。


 「馬鹿を言うな、お前はどれだけ説教しても意味がないだろ。けれど、お前だけはここで倒さないといけない。……それだけは、間違いないだ――ろっ!」


 漲る魔力でセンセイの顔面に右ストレート叩き込めば、センセイは大きく後退し頬に痣を作っていた。あえて、俺の攻撃を生身で受けたのだ。それでも、人間の頭ぐらいなら潰れるぐらいのパンチ力で殴ったつもりだったが、さすがは自分を世界の破壊者と名乗るだけはあるのだろう。


 「……魔力は乗っていたが、ただの拳だ。まさか、私にお前と同じ舞台で戦えというのか」


 既にぼろ布同然だったシャツを脱ぎ捨て、素人なりにボクサーのようなファイティングポーズをしてみた。


 「やろうぜ、ここにお前と同等の力で喧嘩をできる人間が居ることをその体に教えてやるよ」


 さすがのセンセイもこの状況で素手での喧嘩を申し込まれるとは思っていなかったのか、言葉が出てこない様子だった。しかし、しばらくするとくぐもった笑い声を発して、俺と同じように上に羽織っていた服を脱ぎ捨てて上半身裸となる。


 「いいだろう、魔法で全てを決め、魔法で力関係が決まるこの世界で……ただの喧嘩で勝敗を決めるのか? くくく……はははは……!」


 「ああ、笑ってないでさっさとかかってこ――いぃ!?」


 喋ている最中だというのに、鋼のようなセンセイの拳が顔面を強打した。不意打ちだったせいか、その場に手を付いてしまう。

 センセイも魔力が乗っていたが、俺と同じく、他の人間なら首から上はどこかに飛んで戻ってこなかっただろう。それだけ、コイツも本気ということだ。


 「……不意打ちかよ」


 「私を同じ舞台に立たせるなら、不意打ち程度でほざくなよ」


 もう開戦のゴングは鳴っている。

 センセイと互いに含みのある笑顔を浮かべた後――俺達の拳は交錯した。

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