いざ、戦闘へ
※ ※ ※
僕らは新海先輩のマンションにちょっとだけ立ち寄った。そこではサークル顧問の桝谷先生が、勝手に上がり込んでマンガを読んでいた。
鍵は持っていないはずだけど、先生には関係なかった。
先生は勇者ラフロイの生まれ変わりだ。世界最高の魔法使いで、戦士、勇者、賢者。レベルマックス。つまり、ほとんど無敵だった。先生の魔法なら、どこにでも侵入できる。
新海先輩も、そんなことはぜんぜん気にしない人だった。ある意味、先生よりも大物だ。先生はマンガを置いて、ソファーから体を起こした。
「やあ、お帰り。楽しんできたかい」
「そんなことより、急にドラゴン退治をすることになったんや。お酒と料理を置いとくから、一人で大人しくしとるんやで」
ドラゴンと聞いて、先生はぴくりと反応した。
「何か、手伝おうか」
「隠密行動に先生を連れて行くくらいなら、戦車で空き巣に入った方がマシや。まあ一応、見守っててや。間違ってもパンツ姿で乱入するんやないで」
「失礼だな。僕がそんなこと、するはずないじゃないか」
僕は思わず、うげっという声を漏らしてしまった。
忘れたんですか。ほんの一週間前にブリーフ姿で王宮に乱入したじゃないですか。その面の皮は鋼鉄ですか。それとも新開発の超合金か何かですか。
「まあまあ。女の子の姿で、そんなに汚い言葉を吐くもんじゃないよ。綺麗な顔が台無しだ」
先生はすくっと立ち上がり近づくと、いきなり僕のお尻をさわった。
「うわっ、わわ。何するんです」
「御子神くんがあんまり綺麗だから、確かめてみたんだ。良かった。お尻まで女の子になってたら、どうしようかと思ったよ」
そんなこと、さわる理由になってません。それ以前に、意味がわかりません。
「胸の方はどうかな」
「アホたれ、何しとんのや」
会長がスリッパで、先生の頭を殴った。びっくりするくらい、いい音がする。
「時間がもったいないから、さっさと行くで。真凛、御子神くんのメイクを落として男の子に戻してやるんや。うちが貸したドレスは、そのままたたんでおけばええ。手入れは、王宮に出入りしとる職人がやってくれる」
僕の女装体験は、それでおしまいだった。
なんだか名残惜しい気がしたのは内緒だ。絶対に気づかれないようにしよう。僕は強く心に誓った。




