真打登場
山神先輩がいい終わるより前に、目の前の空間が揺らぎ始めた。低いうなりのような音がする。
空間が不安定になっている。
揺らぎの範囲内にいた人たちは、あわててそこから離れた。さっきまで騎士たちが埋めていた空間に、ぽっかりと誰もいない場所ができる。
まるで何もない空間から押し出されるように。突然、会長たちが現れた。新海先輩とレオナさんを合わせて三人。みんな大きな荷物を持っている。
三人はよろけながら、必死にバランスをとった。なんとか踏みとどまり、会長はほっとしたような顔をする。
「呪文の途中でぶつかるんやない。到着地点がずれたやないか」
「ごめんなさい」
レオナさんが会長に謝っている。
会長はすぐに異変に気づいたようだった。すぐに真顔になる。
「なんや。お取り込み中のようやな。御子神くん、説明してくれんか」
「はい。こちらは王国の第三王女のセニア姫。騎士を引き連れて、ゴブリン退治に来てくれたみたいです。僕らがもう退治したっていったら信じなくて。ケンカを吹っ掛けてきたから、ちょっと相手をしてやったところです」
「なかなかの状況説明やな。御子神くん、おおきに。大体わかった」
「その魔法陣。まさか転送魔法まで使えるの。王宮の上級魔法使いしか知らないはずの秘術なのに。いったい誰から盗んだの」
セニア姫は地べたに座りこんだまま、まだ動けなかった。
「人聞きの悪いこと言うんやない。先生から、ちゃんと教わったんや。別に特許はとっとらんはずやで」
「先生って誰よ」
「広場で銅像になっとるおっちゃんや。まあこれ以上は、こんな場所で話すことでもないわな。どうや。これから、うちらはパーティーなんや。特別に姫さんも誘ったるから、そこで話をせん」
「無礼な、お前らのような平民が何を……」
セニア姫はそこまでいってから、急に何かに気づいたようだった。会長の顔を見つめたまま視線を動かせなくなる。
「えっ、まさか。あるわけない。でもそのお顔はシエナ様。シエナ姫様なのですか」
「うちはそんな姫さん知らんけど。招待を受けるかどうかだけでも早く聞かせてくれん。こっちにも準備があるんや。その気がなければ帰ってもらうで」
「はい。ええ、もちろん。あなた様のお誘いであれば、喜んで」
「まあ、どうでもええわ。お付きの連中には軒下貸したるさかい、そこらの家に分かれて泊まってや。飯と飼い葉付きで一泊一人、十ゴルダってとこやな。値引きは認めん。村長、それでええやろ」
会長は勝手に決めてまわりを納得させてしまうと、僕らの部室に向かった。
「御子神くん、料理は任したで。今日はユメルだけじゃのうて、レオナさんやレオナさんのお母さんもおる。手伝うてもらって。早く美味いもん食わしてや」
僕はうなずいた。
下手に余計なことをいって、山神先輩や会長に手を出させたら大変だ。先輩たちはびっくりするほどの美少女なのに、なぜか女子力もびっくりするほど低い。
レオナさんの顔を立てるとか何とかいって、僕は手伝おうとする山神先輩を何とか台所から締め出した。準備は順調に進み、一時間後にはすっかり準備が済んでテーブルにご馳走が並んでいた。




