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放課後×パーティー ~ サークル活動から始める異世界生活 ~  作者: 油布 浩明
第6話 御子神くんの勇気
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一緒に登校した朝

「おはよう」

 山神先輩は僕を見て、にっこりと笑った。


 ドアが開く。この時間帯は学生よりサラリーマンがずっと多い。スーツを着こんだ乗客がいっせいに乗りこんでくる。


『明日から朝は、一緒の電車に乗ろう。七時四十二分に私が乗るから、御子神くんは三番目の車輌の進行方向の一番前。ドアの近くにいて。

 痴漢みたいな人が近づかないように、御子神くんが守ってね。電車の中では、手を握っちゃダメだよ』


 このメールを僕は、百回以上見た。もう一字一句、ぜんぶ覚えている。

 今朝は一時間も早く目が覚めてしまった。いつもより三十分早く駅に着くと五本も電車を見送って、僕はようやく目的の車輌に乗りこんだ。


「ごめん」

 山神先輩の茶色の髪が、電車が揺れたはずみに僕の頬にかかった。赤い縁の眼鏡で僕を見上げる。先輩の身長は百六十三センチだって聞いた。僕より十二センチ低い。


「今日は混んでるね」

 先輩はちょっと恥ずかしそうにいった。体がくっついちゃってる。窮屈だったけど、僕にとっては全然オーケイだ。


「駅についたら、学校まで一緒に歩こうか」

 手すりまで遠かったから、山神先輩はかわりに僕の左腕をつかんだ。

 僕は先輩を支えられるように背筋を伸ばし、腕にぐっと力を入れた。右手はつり革をしっかりとつかんでいる。


「いいんですか。すぐに学校中の話題になっちゃいますよ」

 嬉しかったけど、心配の方が先に来た。


「御子神くんは、嫌なの」


「嫌なわけないです」


「私、昨日考えたんだ。私ってずっと卑怯で臆病な女の子だったから、みんなにいい顔してたけど。本当はマンガとか小説みたいに、好きな人と登校するのに憧れてたんだ。

 一昨日みたいに外で会ったって、こんな風に電車に乗り合わせてるだけだって、どうせいつかはバレちゃうよ。それなら、思いきって主張しちゃった方がいいかなって……」


 電車が大きく揺れて、先輩がわっと声を漏らした。僕に抱きつくような形になる。


 ナイス、運転手。


 いつもなら下手くそとなじるところだけれど、今日は違った。鉄道会社に感謝の投書をしたいくらいだ。


「僕が守ります。僕が受けとめます」


「頼りにしてるよ。御子神くんは、私の彼氏なんだからね」


 最寄りの駅から学校までは歩いて十分くらいだった。

 僕は息を吸いこんで気合を入れた。山神先輩のオーラは、芸能人なんかよりずっとすごい。気を張っていないと、自分が小さくしょんぼりと見えてしまう。


 駅を出た瞬間から、僕らは注目の的になった。


 少しだけ距離をとって、こちらを見ながら同じペースで歩く。そんな生徒がだんだん増えてくる。こっそり携帯電話を出して連絡している生徒もいた。山神真凛(やまがみまりん)が男子生徒と二人で登校する。当然だけど、みんなにとっては大ニュースだ。


 やがて思いきったように、一人の女子高生が近づいて来た。

真凛(まりん)、おはよう」


「おはよう、志保里。こっちは一年生の御子神くん、サークルの後輩なんだ」


「おはようございます」

 山神先輩の顔見知りということは、たぶん同じ二年生の先輩だ。クラスメートかもしれない。


 彼女は僕におざなりの会釈をした。


「それでさ、真凛。いいかな。代表で聞いてくるように言われたんだけど。その、もしかして。その人と付き合ってるの?」


「うん、そうよ」


「そうよって、この人が真凛の彼氏?」


「オープンにする覚悟をしたから、話してもいいよ。私が好きな人。ずっとずっと一緒にいたい人。だから志保里も応援してね」


「へえ……」

 志保里先輩は僕を品定めするように見た。


「ちょっと意外。平凡すぎ」


 どうせ平凡ですよ。山神先輩とは釣り合ってませんよ。認めます。ただ、あなたは正直すぎるんじゃないでしょうか。


「御子神くんは、私にとっては王子様よ。悪く言わないで」


「ごめんごめん。でもまあ、女子はこれで安心したかもね。デートの最中だって、真凛まりんが近くを通ったら男の子はそっちを向くんだから。そういう意味では、全ての女子の潜在的脅威だったもの」


 志保里先輩は振り返ってギャラリーたちを見た。だんだん数がすごいことになっている。


「でも、女の子はいいけど、男子はおさまらないわよ。特に三年生は圧倒的に山神真凛派が多いから。陰で親衛隊みたいなのを気取ってるヤバイ先輩たちもいるし……。知ってる? 藤田先輩のグループ、暴力団にスカウトされてるらしいよ」


「ちょっと待ってください。うちの学校って一応、進学校ですよね。生徒の中にそんな人いるんですか」

 僕は思わず口をはさんだ。


「最近は暴力団も頭が良くないとダメだから、進学校の不良に声をかけまくってるらしいよ。幹部候補生ってやつかな」


 山神先輩はにっこりと笑った。

「御子神くんは強いから大丈夫よ。サークルで鍛えてるもんね。不良の十人や二十人、どうってことないわ」

 志保里先輩はまた、僕をじろじろと見た。


「気にさわったら、ごめんね。私には、普通の人に見えるけど……」

 まあ、そうだよな。ユメルを助けに行った時だって、思いきり鼻で笑われたもんな。一昨日の夜だって……。


 僕は急に思い出した。さっき志保里先輩がいった藤田という名前には聞き覚えがある。


 僕らを取り囲むように一緒に動いていた人垣が、急に崩れていった。慌てて先を急ぐように、散り散りになっていく。


「それ、たぶん大丈夫です。もう話がついてます」


 ギャラリーを威嚇して追い散らしていたのは、さっきの話に出てきた藤田先輩のグループだった。藤田先輩は僕が見ているのに気づくと、腰を折り曲げて、深々と礼をしたまま動かなくなった。

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