表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後×パーティー ~ サークル活動から始める異世界生活 ~  作者: 油布 浩明
第5話 週末のパーティー
39/115

本当の実力

 パーティーの片付けが終わり、ユメルを向こうの世界まで送って。僕が自分の家の近くまでたどり着いた時には、もう夜の八時近かった。

 僕の家は住宅街の平凡な一軒家だった。新海先輩のマンションみたいに豪華じゃないけど、家の近くまで来ると何故か落ち着く。


 さっきまでの余韻で。気分がまだ、ふわふわとしていた。初めてのデート。拳銃を持った犯人との対決。先生と会長のこと。楽しいパーティー。そして山神先輩……。


 先輩の顔を思い出してにやけていると、僕は突然、正面から声をかけられた。


「御子神だな」

 目の前には三人の人影があった。街灯に照らされていたのは背の高い男たち。高校生だろうか。三人とも木刀を持っている。


 真ん中の男が一歩、進んだ。

山神真凛(やまがみまりん)と一緒にいたんだってな。おまえは付き合ってるつもりかも知れないが、冗談じゃない。あいつは俺のものになる予定なんだ。お前は目障りなんだよ」


「勝手な人だな」

 僕はいらっとした。


「剣道をやってるみたいだから、特別に俺たちが実力を見てやるよ。おまえは有段者だから、ハンデをもらっても構わないよな。三対一で木刀と素手。これなら平等だ。正々堂々といこうじゃないか……」


 僕の反応が薄いからか、右にいた男がチッと舌を鳴らした。

「藤田さんは怖いぜ。組ともつながりがあるんだ。嘘じゃないぞ。この辺の警察だって、手を出してこないんだ。骨の一本くらいじゃ済まないかもな」


「ふうん、そうなんだ」


 僕はどうしても、緊張感を持つことができなかった。朝に会ったヤクザと比べても、ぜんぜん迫力が違う。暴力自慢の高校生なんて、スライムに毛が生えたようなものだ。


 めんどくさいな。殴るのとか、嫌だな。しつこいんだろうな。


 そんな僕のことを、勝手に解釈したらしい。もう一人の取り巻きが、薄笑いを浮かべた。

「こいつ、頭がいっちゃってるぜ。山神さんと付き合ってるつもりなんだから、とんだ妄想狂だ。気づかせてやりましょうよ」


「そうだな。現実を教えてやるには、それしかないかもな」


 しょうがない。決めた。つきまとわれるのは嫌だから、逆にちょっとだけ付き合ってやろう。

 攻撃をひたすらかわしながら、寸止めで威嚇してやる。五分も相手をしたら、いくらなんでも怖くなるだろう。それでダメなら、一発くらい殴っちゃえばいい。


「バカ野郎、手を出すんじゃねえ!」


 木刀を構えた三人の動きが止まった。

 硬い靴音を響かせながら、黒いスーツを着た男が進んでくる。


「神谷さん……」

 その声には、何か恐怖のようなものが混じっていた。


「その人に手を出した奴は、親分(オヤジ)から埋めてもいいって言われてるんだ。俺に、そんな面倒なことをさせる気か」


「でも、なんでこんなやつ」


「言葉からしつけてやろうか。頼むから、指の二本くらいまでで覚えてくれよな」


「神谷さん」

 三人は泣きそうな顔になった。木刀を落とし、腕をだらんと伸ばしてうずくまる。


 神谷と呼ばれた男は僕に向き直った。

「すみませんでした、御子神さん。こいつらの始末はどうにでもします。気のすむように、何でも言ってください」


「僕こそ、助かりました。もう忘れますから。できるだけ穏便にお願いします」

 僕は頭を下げた。


「お前ら、御子神さんに感謝するんだな。この人は、お前らなんか三秒もあれば皆殺しにできるんだ。傭兵をやってた俺だって、たぶん秒殺される。親分(オヤジ)が言ってたよ。あの人には手を出しちゃいけない。恩義は返さなきゃいけないが、正直、怖いってね」


 朝会ったヤクザの人だ。ようやく気づいた。先生が言ってた尾行している誰かって、この人だったんだ。


「早く帰らないと母さんに怒られるんで、そろそろ帰してください。お礼なんていいです。本当です」


 僕はもう、早く帰りたかった。帰ったら山神先輩に電話をするんだ。家に帰ったよって。ただそれだけでもいいじゃないか。


「御子神さんにお詫びをするんだ。そら、背筋を伸ばして。お前ら、もう御子神さんの近くをうろうろするんじゃないぞ。目障りだって思われたら、本当に消すからな」


「申し訳ありませんでした」

 三人は深々と頭を下げた。なんだか必死だ。ちょっと気の毒になる。


 神谷というヤクザが、僕に近づいてきた。

「一つだけ、聞いてもいいですか」


「ええ、どうぞ」


「まだ、お若いのに。どうしてそんなに強いんですか。はっきり言って無茶苦茶だ。実際に見ても、まだ信じられない」


「僕なんて、先生と比べたらまだまだです。三回死んで、三回生まれ変わるくらいに修行して。それでようやく、先生の足もとに近づけるかどうかってくらいですから……」


 これは先生の言葉として、会長から聞いた話だった。会長は、それでもすごいことだとほめてくれた。


「御子神さんの先生は、そんなに強いんですか」


「ええ、どうせ嘘だと思うでしょうけど。アメリカ軍と戦っても、たぶん余裕で勝てます。最終兵器も真っ青です」

 僕も魔力に目覚めるまでは、そこまですごいとは思わなかった。

 並の魔法使いがモータボートだとすると、先生は巨大空母だ。向こうの世界に行くだけで、世界中の人間や魔物が脅威を感じるというのも今ならよくわかる。


 僕が立ち去るのを、神谷というヤクザは四十五度のお辞儀で見送ってくれた。後でちらりと振り返ったときも、その人は微動だにしないで同じ角度でお辞儀を続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ