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放課後×パーティー ~ サークル活動から始める異世界生活 ~  作者: 油布 浩明
第5話 週末のパーティー
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先生の初恋

「じゃあ、うちと由美は向こうにちょっと買い出しにいってくるわ。御子神くん、真凛まりんとイチャイチャしてたらあかんで」


 会長は新海先輩と一緒にビニールシートに描いた魔法陣の上に乗ると、呪文と共に煙のように消えた。後には僕と山神先輩、先生の三人だけが残される。


「君たち、今日はデートだったんだよね。勢いで連れてきちゃたけど、本当は二人の方が良かったんじゃないかな」

 先生は、ものすごく高そうなソファーに体を沈めた。山神先輩も向かい合わせに座る。


 先輩は横に座った僕をちらりと見た。

「いいえ、みんなとのパーティーなら楽しいし、それに私にとっては、御子神くんと一緒にいることがデートだから。ねえ、そうでしょう」


「はい。もちろんです」

 僕は、体をぴったりと寄せてくる先輩の感触に心をおどらせていた。こうしていられるなら、そこが地獄だって構わない。


「初々しいねえ。僕も向こうで最初に恋をしたときは、そうだったかな。ちょっと難しい恋だったから、一緒にいるチャンスを作るだけで大変だったけど……」

 先生は遠い目をした。


 僕は興味が湧いてきた。伝説の勇者の恋って、どんなものなんだろう。世界最強で何でもできる人なら、何でも思い通りになるような気がする。


「相手は、どんな人だったんですか」


「話してもいいけど、翔子くんには内緒だよ。どういうわけか、女性の話をすると嫌な顔をするんだ」


 そりゃあそうだろうと思ったけど。僕は突っこむより、その先を聞きたかった。


「約束します」


「なら、話すよ。僕が最初に好きになったのは、向こうの世界で一番大きな国のお姫様だった。君たちはボルロイに行ったんだろう。そこの王宮に住んでいた人だ」 


「どんな人だったんですか」


「綺麗な人だったよ。同好会のみんなとはタイプが違うけど。同じくらいの美少女だった」


「タイプって?」


「お姫様タイプ」


「それは、そうでしょうよ」

 たまらず僕は突っこんでしまった。きっと女王様に恋してたら、女王様タイプっていうんだ。いや、絶対にそういってる。


「上品で、誇り高くて。まるで世界を背負っているみたいな悲壮な感じがあった。初めて魔王と戦った時の話だから、僕はまだヒヨッコだった。魔族と戦いに行く壮行会で、彼女は初めて会った僕と踊ってくれたんだ。それから出撃するまでに何回か、忍んで会いに行ったよ。僕はこの人のためなら命を賭けて戦えると思った」


「わかるわ。きっとそのお姫様も、先生の事を命がけで愛してたのね」


「そうかもね」

 先生の返事は何故かそっけなかった。


「それで、どうなったんです」


「魔王を倒して帰還できたのは、僕だけだった。仲間はみんな戦死して、僕だけが英雄になった。王様はお姫様と婚約させてくれたし、爵位もくれた。死んだ仲間のことを思うと心が晴れなかったけど、彼女を幸せにできると思うと嬉しかった。あんなことさえなければ……」


「あんなこと?」


「僕は王様の奴隷にはなれなかったんだよ。世界を救ったみんなの英雄だから、僕にはいろんな人が近づいてきた。例えば戦争を仕掛けようとする国があるとする。国民が虐殺されると言って、弱い方の国が僕に泣きついてくる。世界最強の勇者がやめてほしいと言ったら、戦争は始められない。結果的に僕は、世界を支配しているみたいに思われるようになった……」

 先生は悲しそうだった。


「結婚式の二週間前。宮殿に呼ばれた僕に毒を盛ったのは、そのお姫様だったんだ。王国のために死んで欲しいって泣きながら言ってたよ。自分は勇者を虜にするための道具だったって。好きになったのは本当だけど、僕を支配できないなら殺すしかない。それが自分の義務だって」

 先生の声は悲しみに満ちていた。


「僕は魔法で毒を消して逃げた。もう二度と戻る気はなかったけど、彼女のことだけは忘れられなかった。それから三年の間、僕は修行に明け暮れて、気がついたら前よりもずっと強くなっていた」


「お姫様はどうなったんです」

 僕は、思いきって聞いた。つらそうな話だけど、最後まで聞かなきゃいけないと思った。


「彼女は最後までお姫様だったよ。新しい魔王が現れて、またどうしても僕の力が必要になった時。彼女は僕を動かすために自殺したんだ。王国の使者が彼女の髪と遺書を持って僕のもとに来たとき、いっそ僕も死んでしまおうかと思ったよ。でも、彼女の遺書がそうさせなかった。今までのお詫びと、最後の願いとして世界を救ってくれという言葉……。僕はまた、戦うしかなかった」


 山神先輩が、僕の手をぎゅっとにぎった。瞳に涙がたまっている。


 そのお姫様が、翔子くんなんだよ。


 先生は愛おしそうにつぶやいた。ほとんど耳には聞こえなかったけど、僕にはわかった。

 あんな風に生きたかったんだと思う。優しさと強さと頑固さはそのままで。自由に伸び伸びと……。僕はすぐに気がついたけど、彼女は覚えていない。だから言わないで欲しい。


 僕と山神先輩は強くうなずいた。


 聞こえないはずの言葉が聞こえたのは先生の魔法だ。そして約束したことで、たぶん絶対に他人には言えなくなっている。

 そんな必要ないのに。絶対に言わないのに。もっと信用してください。


 臆病で悪いね。

 先生は魔法でそういった。


 誰かに言いたかった。聞いてくれて嬉しかった。ありがとう。君たちと会えて本当に良かった……。

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