新海先輩の家
「来れば」
電話口で新海先輩はそういったらしい。
「嬉しそうやったで。長く付きおうとらんとわからんけど、来ればのばあ、のあたりが違うんや。駅まで迎えに来るっちゅうてたで」
新海先輩は不思議な人だ。余計なことは言わないし、表情もほとんど変えない。アニメオタクの間では、会長や山神先輩よりも人気がある。
僕らは洗濯物だけ干してしまうと、先生のアパートを出た。
「尾行されてるね。たぶんここに来る前からだ。御子神くん、気づいてたかい」
先生も髭を剃り、ジャージからジーンズとシャツに着替えていた。さすがにあのまま出かけるほど無神経じゃないらしい。
「尾行って、誰が?」
「悪意も、利用しようって欲も感じられない。無害だから放っておこう。プロに近い感じがするから、まともに相手をしてたら面倒だ。パーティーを後回しにするほどの価値はないよ」
僕は気になったけれど、先生が言うなら間違いないと思い直した。先生はいい加減な人だけど、僕らの安全には常に気を使ってくれている。
新海先輩は駅前で待っていた。小さい人だけど、すごく目立つ。まるで完璧な西洋人形みたいだ。
「パーティー……」
そういって、新海先輩は微笑した。
「まずは買い出しや。由美がおるから、向こうの世界で肉とか野菜は買うてこれるな。お菓子とか調味料とか、それ以外のものを買うていこう。由美、近くのお店を案内してくれん」
新海先輩はうなずいた。
先輩の案内してくれた店に行って、僕はビックリした
駅に近い店だったけど、とにかく高い。僕の知っているスーパーの三倍はする。品物もそれだけいいんだろうけど、僕にはとても手を出す気になれないものばかりだった。
でも、新海先輩は気にせずポイポイと品物をカゴに入れていく。メインの食材は何も買ってないのに、支払いはビックリするくらいの値段になった。割り勘にした金額を考えて青くなったけど、新海先輩は涼しい顔をして、プラチナ色に輝くカードで支払った。
「おごり」
新海先輩がボソッという。
何だかわからないけど、すごいお金持ちなんじゃないか。絶対、庶民じゃない。
その予想は新海先輩の家に着いた時、確信に変わった。見上げても最上階が見えないような巨大なビル。これ、知ってる。タワーマンションっていうんだ。
僕たちは高級ホテルのロビーのような空間を抜けて、エレベーターでどんどん上へ上がっていった。
えっ、まだ上がるの。もしかして最上階?
初めてなのは、僕だけだったみたいだ。みんな自分の家に行くように落ち着いている。
山神先輩が、そんな僕に教えてくれた。
「由美の家は両親が二人とも外国に行ってるから、いつもは一人なの。平日はハウスキーパーの人が来てるけど、週末は由美だけ。パーティーには最適よ」
最上階の部屋は信じられないくらいに広く、豪華だった。先生のアパートがまるごと入るんじゃないだろうか。天井も高くて、リビングは学校の教室よりもずっと大きかった。
一目見ただけでも高そうな家具が置かれ、毛足の長いジュータンが敷かれている。あとで聞いたら、そのジュータンだけでも一件の家が建つらしい。




