戦闘訓練
空はあくまでも青く、白い雲がゆっくりと動いていた。
赤茶けた土の上に、まばらに生えている緑色の草。この草には花が咲かないのだろうか。
何日も雨が降っていないのだろう。空気が乾燥していて少しほこりっぽかった。足で土を蹴ると、ぱっと土埃が舞う。
ここは最初にスライム狩りをした、あの場所に似ていた。でも少し違う。大きい町が近いせいか遠くには何人かの固まった人影が見えた。
僕は指差して聞いた。
「あの人たちは、何をしてるんですか」
「モンスター狩りや。笛とか呪文で、モンスターを集めて狩ってるんや。魔力の裂け目みたいな空間が近くにあるから、呼べばいくらでもわいてでる。まあ、あんまり大物は出てこんけどな」
「でもここって、王国の首都みたいなとこなんでしょう。こんな近くに魔力の裂け目とか、なんか変なんじゃないですか」
「逆や。人間の世界はモンスター狩りで手にいれた魔力で成り立ってるんやで。狩場の近くに町ができるのがむしろ自然やないか」
会長は説明した。
「まあ、大抵の冒険者はスライム専門やから、ここにはあんまり来んけどな。普通の人間が勝てるのはスライムか、夜の明かりに使うカエルの化け物までや。命が惜しいもんは、自分の実力以上のモンスターには手を出さん。つまりここは中級者向けの狩場っちゅうわけや」
そういえば、空気が違う。
魔力が濃い。自分の魔力も、反応して活性化するようだ。
「御子神くん。ユメルの相手をしてやっとくれん。うちらは魔力に体が慣れとらんから先生の助けが必要やったけど。この世界の人間なら、魔力の濃い場所で稽古しとったら自然と体に魔力がまわるようになる。御子神くんは防御に徹するんやで。その装備なら、万が一、ユメルの攻撃が当たっても大丈夫や」
会長はユメルに、僕が最初に使っていた短めの剣を渡した。
「これを貸したる。御子神くんにあげたんやけど、もういらんやろ。安もんやけど、モンスターの血をぎょうさん吸っとるから、思ったより威力があるで」
ユメルはうなずくと、剣を抜いた。
「御子神さん、お願いします」
「こちらこそ、よろしく」
僕はこういう時のセリフがダメだ。会長ならここできっと、死ぬ気でかかってきい。手え抜いたらあかんで、とかいうんだろう。
面白味のない人間だけど、その分、本気でつき合おう。まあ、真剣を向けられてるんだから、ふざけてたら死にそうだけど。
「行きますよ……」
ユメルの動きは、ビックリするほど速かった。
でたらめに突っこんできただけだけど、最初からひやりとした。左にかわし、僕の剣でユメルの剣をたたいて落とす。ユメルは衝撃で転んだ。ドサッという音がする。
「ごめん、痛かったかな」
「平気です。このくらい、どうってことありません」
ユメルはすぐに立ち上がった。土で汚れたひざに、すり傷ができている。大丈夫だろうか。
会長がユメルに近づいて傷を見てくれた。
「しもうたな。スカートをはいてくるなっちゅうのを忘れとったわ。乙女心の計算ミスや。でもまあ、これくらいなら平気やろ。うちらには由美がいるから後でまとめて治したる。ここは根性や」
「はい」
ユメルは大きな声で返事をした。
二、三回呼吸を整えてから、もう一度突っこんでくる。さっきよりも少しだけ速かったけど、僕の対応速度も上がっていた。余裕をもってかわす。バランスを崩しかけたのを自分で立て直して二撃め。後退してかわす。三撃め。右にかわす……。
まだ剣を使っているというよりは、振り回されているという感じだった。何度も何度も僕に挑み、その度に剣は空を切った。
いくら魔力を使う才能があるといっても、ユメルは今まで剣なんか持ったことのない女の子だ。重い剣をこれだけ振り続けていられるのは奇跡に近い。でも、やはり限界はきた。
ユメルは崩れるようにして、しゃがみこんだ。荒い呼吸に、ブラウスににじむほどかいた汗。それでもまだ、闘志だけは僕に向けている。




