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放課後×パーティー ~ サークル活動から始める異世界生活 ~  作者: 油布 浩明
第3話 生涯の戦友になれる剣
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生涯の戦友になれる剣

     ※  ※  ※


「やあ、お帰り。いい装備は買えたかい」


 桝谷先生はまたマンガを読んでいた。先生は、週刊誌は全部買っているらしい。

 僕たちの顧問の先生は、向こうの世界では銅像になるくらいの伝説の勇者だった。世界最高の魔法使いで、戦士、賢者でレベルマックス。つまり最強なんだけれど、いつもは部室でだらだらとしている。


「これを期待して、待ってたんでしょう」

 山神先輩がお酒のビンをドンと置いた。向こうの世界の赤ワインだ。たぶん僕が放心状態だった時に買ったんだろう。


「うん。いいな、これ。今日は赤ワインの気分だったんだ。よくわかったね」


「先生の考えてることくらいお見通しや。今日はええことがあったから、ここで飲んでも構わんで。それに、ちょっと見てもらいたいものがあるんや」

 会長は僕に目で合図をした。僕はうなずくと、ジャケットを脱ぎ、鞘ごと剣を外して先生の前に置いた。


 それを見ると、先生は急に目の色が変わった。剣を鞘ごと取ってすらりと抜く。

「これは、いいね。特別な才能のある刀匠が一生に一本、打てるかどうかの代物だ。いくらの値札がついていたんだい」


「三千ゴルダや」

「安いな。剣の価値だけなら一万でもいい。有名な刀匠の作なら、十万はするだろう。もしそうだったら国宝級だ」

 会長は僕の方を向いた。


「先生は世界一の剣士やから、剣には詳しいんや。うちも目利きのコツは先生に教わったんよ」


「こめられた魔力と刀匠の思いが、一つの意思みたいになって剣に宿っている。御子神くんは、この剣に呼ばれたような気がしたんだろう」


「はい……」


「この剣は、自分を強くしてくれる人を選んだんだ。御子神くんがこの剣を使うたび、君の魔力に磨かれて、この剣はどんどん強くなっていく。君の生涯の戦友になれる剣だよ」


 言ってるそばから、剣が妖しく光ったような気がした。

 僕にはわかった。僕よりずっとすごい剣の使い手を見つけて、色目を使っているんだ。何が生涯の戦友だ。浮気者め。僕は心の中でののしった。


 先生は笑った。

「僕には別の恋人がいるっていっておくよ。まだ、手に入れたばかりだからしっくりこないと思うけど、君次第でそのうち本当の友人になれる。ところでこれを、いくらで買ったんだい。たしか御子神くんは三千ゴルダも持ってなかったと思うけど」


「いくらやと思います」

 会長はにやにやとしていた。


「三千ゴルダの値札がついていたってことは、鑑定家は、無銘の傑作だと思っていたんだろうな。でも、投げ売りするようなものじゃない。二千ゴルダで買えれば上等じゃないかな」


「五百ゴルダポッキリで買うてきました」


「えっ?」

 思わず声が出てしまった。たったそれだけ。値札の六分の一?


 会長は自慢げに、剣の柄に近い部分を指差した。消えかけてはいたが、何かマークのようなものが彫ってある。


「手に入れた誰かが欲を出したんやな。これは、伝説の名匠ボルダンのサインの偽物や。本物なら十万はするやろうけど、ボルダンの作でないんは鑑定家なら誰でもわかる。うまくこすって目立たんようにしたんやろうが、うちはだません。いくらいいもんでも、偽物は偽物や。ばれたらもう、高くは売れへん」


 会長は僕に剣を返した。


「うちの言う通りにしてよかったやろう。ユメルに貸したお金に御子神くんのを使うたのは、その場にそれしかなかったからや。それでもまだ、千ゴルダ残っとるで。今度また、防具を買いに行こうな」


「はい」

 会長はすごい。最初はどうして商人なんて選んだんだろうと思ったけど、パーティーにとっては絶対に必要な人だ。


「あっ、そうだ」

 僕は今朝、会長あての手紙を預かっていたことに気づいた。ジャケットの内ポケットに入れておいたはずだ。ええと……。


 僕はその場で凍りついた。

 山神先輩が、あの手紙を持って僕をにらんでいた。たぶん脱いだジャケットから、手紙が落ちたんだ。白い封筒にハートマーク。表には、愛する酒井先輩へ。裏には斎藤の名前は書いてない。読まずに捨てられてもいいように、中に書いてあるっていっていた。


「これはなに?」


「違います、これはそうじゃなくて、友達があれで……。とにかく僕は無実です。お願いです。信じてください」


「へえ、うちへのラブレターかいな」

 会長は目ざとい。すぐに身を乗り出すように会話に入ってくる。


「御子神くんはいけない子やな。真凛に告白したと思うたら、次はうちかいな。でも、御子神くんはかわいいし。人から奪うのも恋やしな。困ったな。どないしよう……」

 会長は少し芝居がかった感じで身をよじった。でも、興奮している山神先輩は気づかない。会長は悪い人だ。絶対に面白がってる。


「御子神くん、どういうことなの。ちゃんと説明して」


 山神先輩に追いつめられて、僕は自分の剣を見た。いっそのこと、腹を切って死にたい気分だ。ちょうど剣なら目の前にある。


 死んではいけない。


 僕には剣の声が聴こえた。無神経に、偉そうに。なんだか急に腹がたってきた。


 わかってるよ、そんなこと! 

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