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放課後×パーティー ~ サークル活動から始める異世界生活 ~  作者: 油布 浩明
第3話 生涯の戦友になれる剣
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想い石

 ユメルは妹と一緒に、とりあえずレオナさんの部屋に住むことになった。狭い部屋だから窮屈だけど、とにかく寝かせて食べさせてあげる。そういって、レオナさんは笑った。


「ところで、まだ、そこの勇敢な男の子の名前を聞いていなかったわ。心配してたのよ」

 レオナさんは僕に、ぞくっとするほど色っぽい視線を向けた。大人の女の人だ。先輩たちの方がずっと美人だけれど、何かが違う。


「御子神っていいます」


「御子神くん。ユメルのこと、ありがとう。女の子を命がけで助けてくれる男の子なんて、どこにもいないと思ってた。悪い男ばかり見てきたからかしら……」

 レオナさんは僕の手をにぎった。その手をそっと自分の胸につける。


 薄い服の上から触れた胸は大きくて、びっくりするほど柔らかかった。体温や心臓の音まで伝わってくるような気がする。


「御子神くんは、まだなんでしょう。お姉さんのおごりよ。もし御子神くんさえ良ければ、私が大人にしてあげる」


「ダメ、絶対にダメ!」

 山神先輩とユメルが同時に叫んだ。


 すごい勢いだったから、レオナさんは驚いて僕の手をはなした。山神先輩なんて、レオナさんをにらみつけている。


「ごめんね。もう、彼女がいたのね」


「そんなんじゃありません。彼女だなんて、絶対に違います。でも、うちのサークルの決まりなんです。こういうお店は禁止だって。御子神くんも約束してくれました」


「なら、そういうことでもいいわ。私はふられちゃったみたいだから、他にお客さんを探すわ。青春を楽しんでね」

 レオナさんはいたずらっぽく笑うと、仕事に戻っていった。まるで別人みたいに表情を変え、夜の街を歩く男たちに声をかけてまわる。


 僕はまだ、ドキドキしていた。

 レオナさんの申し出を受けてたらどうなっていたんだろう。山神先輩は、どうしてあんなに怒ったんだろう。ユメルもどうして……。


「そうだ、私。御子神さんにお金を返さなきゃ。五百ゴルダには足りないけど、あるお金を全部足したら四百ゴルダくらい……」


「それより盗んだお金を返した方がええで。そうせんと、レオナさんにも迷惑をかけるやろ。御子神くんに借りたお金なら、無利子でええから。無理せんと、ゆっくり返すんや」


 なにかいいこといってるけど、僕のお金じゃないか。みんな勝手に決めちゃうんだ。

 別にいいけどと心の中でつぶやきかけて、それって今日、何回目だろうと思った。会長は勝手な人だ。強引で何でも好きなようにする。でも、困ったことにいつも正しい。


「いいの?」

 ユメルは会長ではなく、僕の方を見てくれた。僕は満足して、大きくうなずく。もちろん文句があったわけじゃない。


「それはそうと、これから自立するんやろ。仕事も必要や。どうや。たまにでええから、うちらのパーティーに参加せえへん? ろくに訓練もせんのに盗みができるんは、無意識に魔力を使うてるからや。ちょっと訓練したら、すぐにパーティーの戦力になれるで。うちが保証したる」


「私が、一緒に……」

 ユメルは嬉しそうな顔をした。


「戦国時代でいうなら、陣借りっちゅうやつや。自分で倒したモンスターの魔力を集めたら、それをうちが高く売ったる。人手の欲しいときに来てもらうんやから、手数料はサービスや。うちらは優秀な冒険者やから、いい稼ぎになるで」

 会長はいつも全部考えている。これでユメルはもう、本当に娼婦の世界から離れられる。


「お願いします」

 ユメルはぺこりと頭を下げた。


「ええやろ、みんな。ユメルは今日からうちらの仲間や。仲良くせんといかんで」

 会長は、仲良くっていう部分をなぜか強調した。新海先輩はすぐにうなずいた。山神先輩もうなずいたが、なぜだか少しそっぽを向いていた。


「何だかんだで、遅うなってしまったから。もうそろそろ、うちらは自分の国に帰るとするわ」


「今から?」


「うちらには、とっておきの転送魔法があるんや。そのうちユメルにも使わしたる。それと、連絡用にこれを貸したるから、持っているんやで」

 会長はユメルに小さな丸い石を渡した。


 あれっ。何かこれ、見たことある。

 僕は柔らかい布で作った袋に紐をつけて首にかけていた。それこそずっと、肌身はなさず着けている。その中に入っている綺麗な石。初めて山神先輩が僕にくれたプレゼント……。


「それ、レオナ姉さんが持ってたわ。その石でお母さんと連絡してるんだって……」


「知らんことはないやろ。想い石ちゅうてな。想いをこめてこれにささやきかけると、魔法で声が相手に伝わるんや。普通は恋人同士で使うアイテムなんやけど、こういう連絡にも使える優れもんや。困ったことがあったら、これにいうたらええ。必要なときはうちらからも連絡する」


 後半の話は、ほとんど耳に入らなかった。


 僕は全身に冷や汗をかいていた。ヤバい。あの石を見つめて、いってしまった。朝とか昼とか夜とか。つまり数えきれないくらい。

 山神先輩、好きです。愛してます。いつか結婚してください。僕の心はあなたのものです。あなたの事を考えると、夜も眠れません……。


 気持ちの悪い男だと思われただろうか。しつこいとか、思ってないだろうか。セリフがカッコ悪いとか。あの石を返してくれっていわれたら、どうしよう。


 僕は放心状態のまま、みんなについていった。何十回も、ぐるぐると同じことを考えて。時間がどれくらい経ったのかもわからなかった。



「ボケボケしとると、置いていくで」

 会長の言葉で、僕はようやく我に返った。

 僕らは人気のない路地にいた。もう、ビニールシートに描いた魔法陣が広げて置いてある。


 山神先輩が僕の手をぎゅっとにぎった。

「御子神くんがくれた言葉。嫌じゃなかったよ」


 僕だけにささやくように。山神先輩は小さくそういった。ほんのりと、頬が赤くなっているような気がする。うれしくて、恥ずかしくて。僕は異世界の門を通っている時さえ、山神先輩のことで頭がいっぱいだった。

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