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放課後×パーティー ~ サークル活動から始める異世界生活 ~  作者: 油布 浩明
第3話 生涯の戦友になれる剣
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乙女の正義

 大きな両開きの扉を開けると、そこは広間になっていた。テーブルやソファーがいくつもあって、屈強の男たちが二十人はたむろしていた。奥に大きなデスクがあって、そこに顔に大きな傷のある男がどっかと座っていた。


「ほう、正真正銘の上玉じゃないか。こんな日があるとはな。十年分の幸運が一度に来たみたいだ」

 オーナーはにたりと笑った。見ているだけで虫酸(むしず)が走る。


「さてと。早速やけど、ここで働く言うんは嘘や。実は、今夜は乙女の正義を執行に来たんや。ちょいと痛い目をみてもらうで……」


 ボスは爆笑した。他のゴロツキたちも笑った。そりゃそうだろう。こんなことをいって、信用するやつがいたらどうかしてる。


 でも会長は神経が太いから、そんなことは全然気にしなかった。


「まずは、法律の話や。十五才未満の子どもは自分の意思で借金ができへん。商取引に関する王国命令三十二条や。だから何かを買い与えても、それが借金として残ることはあらへん」


「そうか、ユメルの話か……。よく勉強したな。お嬢ちゃん。確かに理屈ではそのとおりだが、最初の借金はどうなる?」


「人身売買なんてクソやと思うけど。直接に禁止する法律は確かにあらへん。でも、借金のカタで働かされている人間は、正当な対価を返済すれば、いつでも自由になれることになっとる。五十ゴルダだと、王国が認めた一番高い利息をかけて計算しても十年で五百ゴルダにしかならん。そこで、この金や……」

 会長は金貨の入った袋をボスの方に投げた。


「ここに五百ゴルダある。そこにいる御子神くんのお金や。それで、ユメルとユメルの妹は自由になるっちゅうわけや」


 ええっ、僕のお金を使うの。それも承諾なしで……。

 まあ、別にいいけど。


 ボスは手をたたいた。

「さすがだよ。お嬢ちゃん。俺は本当に幸運だ。体の綺麗な娼婦はいくらでもいるが、頭のいい娼婦は滅多にいない。お嬢ちゃんは全部を兼ね備えている。完璧だよ」


「最初に言っとるやろ。うちは働かんよ」


「それは交渉だよ。一晩かけて説得したら、気が変わるかもしれない。ユメルの話にしても、そのお金を払うのが嫌になるかもしれない。うちの若いもんは、女の子を説得するのが得意でね。だいたいは妥当な結論におさまるんだ」


「つくづく、ゲスな男やな……」


 会長が憎しみをこめてつぶやくのを初めて聞いた。相手が動くより早く、会長は動いた。素早く鞄を床に置き、こぶしをにぎって手近にいた男の腹を打つ。


 ひと呼吸遅れて、同時に襲ってくる二人の男の頬を続けて平手で張った。それだけで意識が飛んだんだろう。二人の男は棒のようになってゆっくりと倒れる。


 その間に、密かに呪文を唱えていた山神先輩が正面に冷気を放った。オーナーを含めて七、八人がこわばって動きを止める。凍死寸前の人間のように。恐怖の表情だけがはりついている。


「貴様ら……」

 残った男たちは、少なくとも武器が必要だと気がついたようだった。だが遅い。武器を取りに動いた男に狙いをつけ、会長が続けて三人を殴り倒した。


 会長が倒した男たちはみんな、苦しそうに呻くだけで立ち上がれなかった。これでもかなり手加減をしているんだろう。本気を出せば、素手で熊でも殺せるんじゃないかと思う。


 僕はその間に剣を抜き、武器を持った男たちを狙って突進した。この前から気づいていたけれど、集中すると自分の体に力があふれてくる。感覚のすべてが研ぎ澄まされ、体がびっくりするほど軽くなる。

 それにこの剣を持ってから、僕の中に何か別の感覚が生まれていた。どこをどう攻めればいいか教えてくれるようだ。


 殺さない。わかるね。


 僕は自分の剣に語りかけた。相手の剣をはね飛ばし、肩に打撃を与えた瞬間、剣がふわっと浮き上がったような気がした。僕のために手加減をしてくれている。剣が自分に応えてくれているのがわかる。

 僕も五人を倒し、会長がさらに何人かを戦闘不能にすると、戦闘可能な敵はたった一人になっていた。


 ただ、最後の男だけは何か違っていた。

 最初からボスの近くにいたはずだから、冷気の魔法をまともに浴びていたはずだった。でも、まだ動いている。

 魔力を力に変える能力をこの男も持っている。僕は悟った。この男は、僕たちと同じ土俵にいる。

 もちろん負ける気はしなかった。ただ、手加減は難しい。僕の剣から伝わる感覚がそう教えてくれている。


「わかったよ、降参だ」

 男は自分から剣を床に落とした。


「さっきの冷気だって、その気になれば一撃で殺せたんだろう。お前の剣だって、俺を殺すには十分だ。俺にも力の差くらいはわかる」


「良かったです」


「何が?」


「あなたは、手加減しながら勝てる相手じゃなかった。魔力のことがなかったら、僕よりずっと強いと思いました」


「ほめてくれているのかな。まあ、どちらにしても次の一撃で、魔法使いのお嬢ちゃんにやられていたな。魔法は剣よりも力の調節が簡単だからな。死なない程度に、ほどよく凍らせてくれただろうよ」

 男は降参の合図として手をあげたまま、自分から倒れるようにしてソファーに体をうずめた。


「さあて、話し合いの続きや」

 会長は新海先輩と一緒に、店のオーナーに近づいた。

 目で合図を送ると、新海先輩が小さく何かの呪文を唱える。

 傷のある顔にわずかに血色が戻り、オーナーは咳きこんだ。信じられないといった表情が浮かんでいる。


「ユメルとユメルの妹の件は、ええな。この場で証文をうちらに渡してもらうで。それから未払いの賃金を渡して、もう二度とちょっかいを出さんこと」


「ああ、わかった。約束する」


「逆恨みしたらあかんで。うちらはいつでも可憐な乙女の味方や。女の子を泣かせたら、いつでもまた、相手になるで」


「本当に、いいんですか」

 ユメルはオーナーのもとに、自分から近づいていった。こんな人間に対してでも、十年近く支配されていると、それなりの感情が生まれるものなんだろう。


「全部、このお嬢ちゃんの言う通りだ。お前をだましていたんだ。悪かったな。妹と一緒にどこへでも行くといい。もうお前とは他人だが、最後のケジメだ。お前たちには、誰にも手は出させない」


 オーナーは最後になって、わずかに人並みの感情をユメルに向けた。そしてゆっくりともう一度、会長の方に向き直る。


「さっきいったことを、二つだけ訂正させてくれ。今日は人生最良の日じゃない。最悪の日だ。それとお嬢ちゃんは娼婦に向いているといったが、それも違う。あんたは娼婦として最悪の資質を持っている」


「なんや?」


「正義の味方だよ。うちに一人でもあんたみたいのがたら、店は廃業だ。嘘も暴力も通用しないんじゃ、俺たちはお手上げだよ。もう二度と、顔も見たくもない」


「あんまり、ほめんといてな」


 会長、それたぶんほめていないと思います。思いっきり、嫌われています。

 まあ、別にいいけど……。

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