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放課後×パーティー ~ サークル活動から始める異世界生活 ~  作者: 油布 浩明
第3話 生涯の戦友になれる剣
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世界最高のパーティー

 僕らはこの町の広場に面したカフェに行った。薄暗くなった公園に、この世界では伝説の英雄である桝谷先生の銅像が見える。


 僕たちは紅茶とケーキを頼んだ。


「それ、二つ……」

 新海先輩は勝手に自分だけケーキを二つ頼んだ。運ばれてくると、急に表情が変わる。満面の笑みってやつだ。


「早く食べんと、由美に恨まれそうやな。今日はお疲れさん。まあ、ちょっと買い物しただけやけど。そこの盗人ぬすっと姉ちゃんも食べてええで。御子神くんのおごりや」


「どういうこと……なんですか」


「どうも何もあらへん。うちらのサークルのお茶会にご招待しただけや。どうや。そろそろ何か話す気になったんやないか」


「何か困ったことがあるんでしょう。聞いてあげるよ」

 山神先輩がズバリと斬りこむようにいった。


「ケーキ、食べてもいいの?」

 少女は恐る恐る聞いてきた。


「御子神くんのおごりや。おかわりしてもいいで。好きなだけ食べてな」


 会長、そういうことは普通、お金を払う人がいうんじゃないでしょうか。僕のおごりって言ってましたよね。

 まあ、別にいいけど。


「私、子どもの頃に売られたの……」


「いつや?」


「六歳になった頃。お父さんがモンスターに殺されて、お母さんは変な男の人についていって、私と妹を捨てた。たった五十ゴルダだったそうよ。

 それから娼館でお姉さんたちの世話をしながら暮らしてた。お姉さんたちは、みんな優しかったから幸せだったわ。でも、十五になったから、私も客を取れと言われたの。嫌なら自分を買い戻せって。信じてくれる?」


「うちは商人や。嘘とわかる話は、最初から買わんことにしとる」

 会長は、キッパリといった。


「きれいな服を着せてもらったり、おいしいものを食べさせてもらったりしたけど、それがみんな借金になっているなんて知らなかった。五千ゴルダだって。そんなお金、払えるはずがない。お姉さんたちがみんなでお金を集めて、二千ゴルダはどうにかするっていってたけど。私が綺麗でいるために、他の人が体を売ったお金を使うわけにはいかないじゃない。それにそれだけじゃ、とても足りないわ」


「なぜ?」

 唐突に新海先輩が口をはさんだ。


「体を売りたくない理由」

 新海先輩は完璧な人形のような美貌で少女を見た。かなりきわどい話だけれど。先輩にいわれると、なんだか逃れられない気持ちになる。


「……から」

 少女は消えそうな声でいった。


「聞こえない」

 新海先輩は容赦なかった。


「初めて……決めてる……から」


「まだ」


「初めては、好きな人って決めてるから!」

 少女は最後は叫ぶようにいった。吐き出してしまって、そのまま泣き出した。


「まだ相手もいないのにバカだと思ってるんでしょう。でも、どうして私が夢を見ちゃいけないの。あなたたちみたいな異国のお嬢様にはわからないわよ。見たこともないような服を着て、この国の言葉をペラペラと話して。庶民がどうやって暮らしているかなんて知りもしないんだわ」


 僕も庶民だけど。

 そういいたかったけれど、それが慰めになるとはとても思えなかった。この世界には魅力があるかわりに暗い部分もいっぱいある。


 気がつくと、新海先輩がぶわっと涙を流して泣いていた。こういうのがストライクなんだ。不謹慎だけど。正直な話、ちょっと意外だ。


「乙女のピンチやな。うちも乙女やから、そういうのには弱いんや。でも、サークル全体の問題やから、多数決で決めるで。どうや。助けたいと思うなら手をあげて。嫌ならあげんでもええ。恨みっこなしや」

 言い終わる前に、全員の手が上がっていた。


「当然やな。うちらのパーティーは世界最高や。さあ、盗人の姉ちゃん、詳しい情況を話すんや。それと、名前も教えてもらわんとあかん。いちいち盗人の姉ちゃんいうのも、しんどうなってきた」


「ユメル……」

 金髪の美少女はそういって恥ずかしそうに目を伏せた。自分の名前を口にすることで、本当の自分に戻れたのかも知れない。


「ユメル、うちらに任しときい。うちらは世界最強の魔法使いの弟子や。見かけどおりの高校生やと思ったらあかんで」


 先生がかけてくれた魔法は、高校生って単語をどう訳すんだろう。少し気になったが、ここは口をはさむタイミングじゃなかった。

 僕らはユメルから詳しい話を聞くと、立ち上がった。夕日を浴びたユメルの髪は、まるで本物の黄金のように美しくキラキラと輝いていた。

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