再会
買い取りのコーナーは店の右奥にあった。三人の担当者がそれぞれイスにすわり、持ち込まれた商品を品定めしている。その後ろには、売り主たちが行列を作って並んでいた。
「ちょっと、これが二百ゴルダってどういうことなの?」
どこか聞き覚えのある声に、僕は引き寄せられた。
金色の髪を乱して大声を出していたのは、先週、この町で会ったばかりの美少女だった。
広場でゴロツキにからまれている所を助けてあげたのに、すぐその後に僕の財布を盗もうとした。会長が取り戻してくれなかったら、僕は全く気がつかなかったと思う。
「どう考えても二千ゴルダはするでしょう。あっちに並べてあるなまくらにだって、千ゴルダの札がついているのよ。どうしたらこれが二百ゴルダになるのよ」
「嫌なら結構です。他にもっと高く買ってくれる店を探してください」
「別に売らないとはいってないわ。私は、なんでこれがそんなに安いのかって聞いているの。都で一番の店が剣の価値もわからないなんて、恥ずかしいんじゃない。みんなに言いふらしてやるわよ」
「どうぞご自由に。でも、査定の説明ならして差し上げます。この剣に値札をつけるとしたら、まあ八百ゴルダというところでしょう。うちの店は売値の五割で引き取りますから、本来なら買値は四百ゴルダというところです。しかしお客さま。考えてもみてください。あなたのような剣とは全く縁のなさそうなお嬢さんが、中古の剣を売りに来る。取引の保証人もいない。怪しい品ではないかと勘ぐるのはむしろ当然のことだとは思いませんか」
「そんなこと、どうでもいいじゃない。仮に盗品だったからって、相手に返す訳じゃないんでしょう」
「もちろん。私どもが正規の代金を支払って買った商品は、前の持ち主が誰であれ、私どもの物です。ですが、トラブルは避けたい。元の所有者が取り返しに来た場合は、捨て値で売ることもあるのですよ。そのリスクを考えたら、二百でも高く値をつけた方です。他の店ではあなたのような方からは、まず剣は買いません」
「ふん、ケチな理屈だけど。それなら二百ゴルダでいいわ。さっさとお金を用意しなさい」
「ありがとうございます」
店員は剣を受け取ると、フェルトを張った浅い箱の上に金貨を並べた。少女はそれを引ったくるようにしてつかんで席を立った。そのまま出ていこうとする。
振り返った瞬間、僕とまともに目が合った。
「あなたは……」
「やあ、また会ったね」
僕が間抜けなあいさつをしている間に、彼女は顔を背けて逃げようとした。しかし、いつの間にか山神先輩が手首をつかんでいる。
「あなたが先週、広場で御子神くんが助けたっていう女の子ね。命の恩人に会えたんだから、何か他にも言葉があるんじゃない」
「ありがとうといえばいいの?」
「さあね、自分で考えなさい」
山神先輩は少し怖い顔をしていた。
「それよりあなた、このままだと絶対に破滅するわよ。今だって、自分で盗品だって白状していたようなものだし。この前だって、御子神くんがお人好しでなかったら無事じゃすまなかったわ。そんなにガツガツとお金を手にいれようとして……何か特別な理由でもあるんじゃないの」
「余計なお世話よ」
彼女は唇をかみしめた。
「ほう、何かおもろいことになっとるな」
酒井会長が近づいてきた。学生鞄だけを持って。剣は持っていない。
「御子神くん。大丈夫や。剣は買えたで。引き換えの札は鞄に入っとる。それより今は、その盗人の姉ちゃんやな。まあ、ええか。真凛が興味を持ったんなら、話くらいは聞いたろう。これからちょっと、お茶でもしようと思ってたところや。なあ、御子神くん。値引き交渉のお礼に、おごってくれるやろう」
僕はもちろんうなずいた。
「なら、決まりや。ケーキのおいしい店があるんや。五人分、頼むで……」