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放課後×パーティー ~ サークル活動から始める異世界生活 ~  作者: 油布 浩明
第2話 お酒はハタチになってから
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告白の時間

 それからは、ただひたすらに楽しい時間だった。会長はさっきの公園での出来事を武勇伝として面白おかしく話し、みんなはそれを聞いて感心したり僕に質問したりした。


「御子神くんって、思っていた通りの人だった。御子神くんと冒険ができて本当に良かった」


 お酒で頭がぼんやりとしていたけれど、山神先輩のその言葉だけは僕の心にそのまま響いた。


 さんざん飲み食いして、騒いで。みんなが疲れて少しだけ静かになった頃。僕は隣に座っていた山神先輩から、指で腕をつつかれた。


 酔いでわずかに赤らんだ頬。うるんだ瞳。無防備にゆるんだ口もと。そんな先輩に上目づかいに見られたら、僕はもう抵抗できない。


「ちょっと聞いてくれる」


「はい」


「ほんとに、つまらないことよ。ただの言葉の響きの話だけど。たとえば私が、御子神真凛(みこがみまりん)って名前だったらどう思う」


「ええっ」

 僕は心臓を素手でつかまれたような気がした。


「女の子は名前が変わっちゃうから。変な名前になったら嫌だなって、ずっと思ってたの。田中とか佐藤とか。別に悪い名前じゃないけど、それじゃ自分じゃなくなっちゃう。そんなの嫌だなって……。でも、御子神ならいいかな。名前の中に同じ神様がいるし。言葉のバランスも悪くないし」


「……」

 僕はごくりと唾を飲みこんだ。

 それって、ああいう意味ですよね。僕とその……、つまり、そういうことですよね。


 僕の心と頭の中で、感情とぐちゃぐちゃになった思考がぐるぐると回っていた。もちろん告白の準備なんかしてない。でも、答えは出さなきゃいけない。

 落ち着け、御子神謙次。落ち着け。

 山神先輩にいうんだ。そうでないと僕は一生、意気地無しで終わってしまう。


「山神先輩」


「うん、ああ御子神くん。なあに……」

 山神先輩は眠そうだった。声をかけたとき、一瞬眠っていたのかもしれない。


「僕の気持ちを聞いてください」

 僕はありったけの勇気をふりしぼっていった。

 みんなの視線が僕に集まる。でも、構うものか。僕は山神先輩が好きなんだ。


「僕が、山神謙次になってもいいです。名前なんて気にしません。兄貴が御子神の名前を残せばいいし、親も絶対説得します。だから大丈夫です」


「えっ、なに。それ。プロポーズ?」


 ヤバい。何か期待してた反応と違う。

 僕はあせった。山神先輩は明らかに驚いていた。もしかして、さっきのことを覚えていないとか。えっ。まさか、そんなこと……。


 僕は人生最大の危機におちいってしまった。救いの方法を考える。あらゆる可能性を考えてみる。


 結論はすぐに出た。もう手遅れだ。


「あかんなあ、御子神くん。うちらはまだ会って二日めやで。いきなり告白(プロポーズ)はあかん。それに重い。重すぎや。名前とか親とか、なんの話やねんの」


「後輩くん、カッコ悪いよ」

 会長も新海先輩も容赦がなかった。二人は最初の山神先輩の言葉は聞いていない。だから、いきなり僕が告白したことになっている。


「私もそういうのは、カンベンだな。プロポーズの言葉っていうのは、もっと大切なものだと思うし……。それにそういう時は、もうちょっと違う言葉を期待しちゃうな」

 山神先輩が困ったようにいった。


 ああ、苦しい。泣きたい。死にたい。いや、塩辛い。あれっ。ほんとに涙が出ている……。


 会長が僕に日本酒をついでくれた。

「泣かんでもええよ。これも酒の席や。今の話は忘れたる。由美、それと真凛(まりん)。ええな。むしかえすのはなしやで」


「後輩くん、忘れてあげる」


「御子神くんの気持ちは嫌じゃないのよ。でも一回、リセットしよう」


 横にすわっている山神先輩は、自分のハンカチを出して僕の涙をふいてくれた。そのしぐさが優しくて、僕は先輩にすがりつきたくなる気持ちに必死に耐えた。 


「そろそろ時間もちょうどええな。御子神くんの玉砕でオチもついたことやし。先生も首を長くして待ってるやろ」

 会長は携帯電話を学生鞄にしまった。携帯電話……。ちょっと待て。携帯電話なんて、いつ出してたんだ。


 僕ははっと気づいて青ざめた。


「もしかして、今の写真に撮りました?」


「時間を確認しただけや。うちは時計は持っとらんから、いちいち携帯を出さんと時間がわからへん。腕時計とかしてると、袖口が気になるやろ。御子神くんもそう思わへん」


 会長はしらばっくれた。だが間違いない。会長なら絶対に写真を撮ってる。


「さあ、そろそろタイムリミットや。今あるもんを適当に片づけたら戻るで。次の宴会までお酒はお預けや。心ゆくまで飲むんやで」


 新海先輩は親指を立てて了解のサインをすると、最後にまたペースを上げた。この人はこんなに小さい体で、どうしてこんなに飲めるんだろう。絶対に僕の三倍は飲んでる。


 それから三十分後。僕らは異世界の酒場を後にした。魔法で酔いを消してしまうのは、なんだか寂しかったけれど。それはあくまでも別の世界の話。僕たちは高校生としての、本来の日常に戻らなければいけなかった。

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