お酒はハタチになってから
陽が完全に落ちかけた頃。僕たちサークルメンバーはもう一度、集合した。
「さあ、行くで。お待ちかねの宴会や」
会長を先頭にして、僕たちはお店に向かった。山神先輩が隣にいる。先輩は、手さげ袋を持っていた。買い物があるといっていたから、たぶんそれが入っているんだろう。中身がちょっと気になる。
「そういえば先輩って、どんな魔法が使えるんですか」
僕は山神先輩に話しかけた。
「ああ、翔子から聞いたのね。今、練習してるのは炎の魔法と氷の魔法。基本はもうマスターしてるんだけど、同じ魔法でも威力を何段階にも調節できるように訓練しているの。魔力も無限じゃないから、何も考えないで使っているとガス欠になっちゃうでしょう。それじゃ、いざというとき困るもの」
「確かに。そうですよね」
「そうならないように、できるだけ注意するけど。もしそうなっちゃった場合は、御子神くんが守ってね。私と由美は、物理的な戦闘力はほとんどないから。その点では普通の女の子と一緒よ」
僕はしっかりとうなずいた。さっき会長のいっていた言葉の意味がわかる。互いに自分の得意なもので補い合う。それが仲間。パーティーなんだ。
「さあ、着いたで。この店や」
会長は繁華街にある大きな店を指差した。
昼間のように明るい照明。まだ開店したばかりだというのに、客たちが次々に飲みこまれていく。
客はほとんどが男性だった。たまに集団の中に魔法使いのような帽子をかぶった女性が混じっているくらい。入り口でボディーチェックがあって、剣や魔法の杖は持ち込めないようになっている
中に入ると店内には、肉の焼けるようないい匂いで満ちていた。全部で百席はあるようなテーブル席が、次々と埋まっていく。
店員に案内されるまま、店の奥にあるテーブル席に座る。分厚い木の幹でできたテーブルは綺麗に磨きあげられていて、木目が見事な模様になっていた。
「ここってもしかして、酒場なんじゃないですか」
僕はおそるおそる聞いてみた。
「当たり前や。ゲームとかにも出てくるやろ。冒険者の宴会といえば酒場に決まっとる。ここは出てくる料理も酒も一流や。うまいで」
「まさか、お酒を飲むんですか」
「酒場っちゅうのはそういうところや。それとも御子神くんは飲みとうないの?」
「とりあえずビール四つ。大きいやつ」
あっ。新海先輩が勝手に注文してる。それにいつもと雰囲気がちょっと違う。やる気になってる。
「僕たちは高校生ですよ。制服でお酒なんか飲んでいいんですか。普通は、まずいですよね」
「この世界では、十五才以上は飲んでもいいんや。法律で決まっとる」
「でも、僕たちの世界じゃダメですよ。お酒はハタチになってからじゃないですか……」
「御子神くんは国際法を知らんのかな。旅行者でも、そこの国にいる間はその国の法律に縛られるんや。お酒が禁止の国に行ったら、大人でも飲めへんやろ。その逆や。日本の法律でもそれは認められとる」
僕以外の二人は……ええっ、山神先輩までうなずいてる。
未成年でも別の国にいけばお酒が飲めるっていう話は、僕も聞いたことがあった。国際法かどうかは別にして、確かに法律はそうなのかも知れない。
「でも、高校生がお酒を飲むと体に影響があるって聞きました。特に女の人は、その、ええと。つまり……」
妊娠したときなんかに影響が出るんだ。エッチな話とかじゃなくて、僕は先輩たちにそんな風になって欲しくない。
山神先輩が微笑した。
「心配してくれてるのはわかるわ。ありがとう。でも、私たちには魔法があるから大丈夫よ。この世界を出るときに体の中のお酒は全部消して戻る。向こうの世界では、法律が許すまで絶対に飲まない。これがRPG同好会の、ううん。私たちのパーティーのルールよ。守ってくれるでしょう」
僕は仕方なくうなずいた。山神先輩にそこまでいわれたら、もう従うしかない。