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放課後×パーティー ~ サークル活動から始める異世界生活 ~  作者: 油布 浩明
第2話 お酒はハタチになってから
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賢者の素質

 僕は会長を見た。


「僕は、どうなっちゃったんですか」


「定規くらいで良かったやろ。木刀なんかつこうたら、とっくに殺しとるで」


 男たちは倒れたまま、まだうめいていた。三人とも、定規に打たれたところを押さえている。


「昨日、先生に魔力の流れる道をつくってもらったんやろう。魔力はそのまま魔法として使うだけやない。体にまとえば普通の何倍もの力が出るし、感覚も鋭くなるんや。うちらは伝説の勇者が自分で選んだ弟子やで。いくら学生やっちゅうても、あんなチンピラに負けるわけがあらへん」


「僕は……」


「ありがとうございます」

 さっきまで男たちにからまれていた女の子が、急に抱きついてきた。

 えっ。かわいい。それに、なんだこの感覚。うわっ。ぷにゅっとした物が、僕の胸に当たっている。


「仕事に行くのに急いでいて、うっかりぶつかったら、急に因縁をつけられて……。助けていただかなければ、きっと乱暴されてました」


「たまたま通りがかって、良かったです」


「私は貧乏だから、何も持っていません。ろくなお礼もできないで、ごめんなさい。でも、このご恩は一生忘れません」


 その美少女は深々と礼をしてから立ち去った。いや、そうしようとした。だが急に、足がピタリと止まる。

 彼女は止まったまま動けなくなった。よく見ると、手首を会長につかまれている。


「ごめんなさい。急いでいるんです。雇い主が厳しい人で……。いま仕事をなくしたら、妹と私は食べていけません。お礼をする余裕がないのは申し訳ないですけれど。お願いです。このまま、行かせてください」


「行ってもええけど、御子神君に返すもんを返してからにしいよ。うちの大切な後輩をだましとるのを見逃すのは、面白うない」


「そんな。だますなんて」


「なら、これはなんや」

 会長は彼女の胸元に乱暴に手を突っこんだ。うわっ、僕ならとてもできない。しかし、会長は容赦なかった。


 会長の手には、さっきまで僕のポケットにあったはずの小銭入れがにぎられていた。まだ中身は使ってないから、三十ゴルダのお金がまるまる入っている。


「これは、たまたま……」


「たまたまってことは、あり得へん。これはうちらの世界にしかないもんや。これ、ピッタリ閉じたり開いたりするやろ。これは魔法やないで。ファスナーっちゅうんや」


「ファスナー?」


「よく見るんや。ほうれ、ほうれ」

 ちー。ちー。ちー……。


 会長、やめてください。うまく説明できないけど。なんだかとっても恥ずかしいです。僕の小銭入れで遊ばないでください。


「どうせあのチンピラからも財布を盗ろうとしてたんやろ。奴らがいう通り自業自得や。ほんまなら、どこぞかに突き出すところやけど。うちらはこれから忙しいんや。見逃したるから、早う行ってしまい。もう、うちの後輩に近づくんやないで」


 会長が手をはなすと、女の子はビックリするような勢いで逃げていった。

 僕のことなんか見向きもしない。ヒーローになったつもりだったのに、突然、道化師にされたような情けない気分だ。


 会長は僕に小銭入れを返すと、野次馬を避けるように歩きだした。僕もあわててついていく。


「会長は、どうしてわかったんです?」


「魔力の使い方には、それぞれ人に合った特性みたいなもんがあるんよ。まあ、先生みたいなんは規格外やけどな。真凛(まりん)や由美は魔法をそのまま使うのが向いとる。だから魔法使いなんや。パーティーの都合で真凛が攻撃系を、由美が回復系を訓練しとるから。ゲームでいえば魔法使いと神官ちゅう役回りやな」


「ええ、何となくわかります」

 僕は昨日、スライム狩りの時に着ていた二人の服装を思い出した。そう聞くと、ぴったりとイメージが合う。


「最初におうた時から、うちは商人やと言ったやろ。うちはあんまり魔法使いには向いとらんから、魔力を自分自身の強化につこうてるんや。パーティーの交渉役をせんとあかんから、特に洞察力とか、ちょっとした予測みたいな感覚を磨くよう訓練しとる。だから人が嘘をついているかどうかはたいていわかるんや。商人がだまされたら、商売にならんもんな」


 つまり、会長には隠し事はできないということだ。ある意味、うちのサークルで最強なのかもしれない。


「僕はどうなんですか」


「先生は賢者の素質があるって言うてるで。つまり戦士と魔法使いの両方の才能があるっちゅうことやな。生涯をかけて剣術や魔法を極めて、それを三回くらい繰り返したら、先生の後継者になれるかもしれんって言うてたな。

 どうや、どうせなら目指してみん。先生のかわりに、みんなからトマトをぶつけられるような英雄になれるかもしれんで」


 それは無理です。ごめんなさい。というか、思いっきり嫌です。


 僕たちは約束の時間まで、広場のまわりをぶらぶらしていた。教会や有名な建物。ちょっとしたお店なんかの前で、少し立ち止まっては会長が解説してくれる。

 制服姿の美少女と二人きりでちょっとした観光。


 ああ、このサークルに入って良かった。幸せです。神様ありがとうございます。山神先輩、ごめんなさい。

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