いふ
その夜は、年内最後の夜でした。
女の子の住んでいる国は、12月には雪が積もり、とても寒くなります。
そんな寒い中、女の子は薄い服を来て、大きなカゴを持って、裸足で歩いていました。
家が貧乏で暖かい洋服はコートは買ってもらえず、お母さんから貰った大き過ぎる靴も、コケた拍子に脱げてしまいました。辺りを探したのですが雪に埋もれてしまったのか、誰かに持っていかれてしまったのか、周りが暗いこともあって、見つかりません。
怪我が無かったことが救いでした。マッチも減ってるようには見えません。
女の子は靴を諦めて、また街を歩くことにしました。
とても大きな街です。大きな家がたくさん並んでいます。レンガ造りで立派な家です。女の子の家とは大違いな家を見ながら、その家の間や大きな通りを、女の子は大きなカゴを持って歩いています。
カゴの中にはたくさんのマッチが入っているのです。
女の子はこれを今日中に売り切らないといけません。
もう日も沈んでお外は真っ暗。
家の明かりが零れています。暖かそうな暖炉の火の光が漏れています。
女の子の家は、とても寒いのです。風が入ってくるからです。暖炉のようなものもありません。とても小さな家です。毛布にくるまって、なんとか夜を過ごさなければならないのです。いつもガタガタ震えていました。
それも、お金が無いからでした。
だから女の子はお金を稼がなくてはいけません。
とても寒い中、女の子は街を歩きます。
「マッチはいりませんか…!」
同じく街中を歩いている人達に女の子は声をかけ続けます。
女の子は特段、可愛いわけでも可愛くないわけでもありませんでした。しかし格好が貧相で、こんな高価な住宅街では、彼女に目を向ける者はおりませんでした。
「マッチはいりませんか……!」
マッチを売らなければ、家には帰れません。
売り切って来いと、お父さんに言われたからです。
このマッチが1箱も売れず、大量に売れ残ったことを示すカゴを持って帰ったら、今日の夕飯がないどころか、命があるかもわからないのです。
女の子は考えていました。
マッチがどうしたら、売れるのか。
否、どうしたら……。
「どうしたら、バットエンドを避けられるのかしら……これじゃまんま、"マッチ売りの少女"だわ……」
なんと、女の子はこの状況に追い込まれた少女のことを知っていたのです。どこかで聞いた、本で読んだ物語。
この悲劇の物語の最後を、知っていました。
女の子と同じく、マッチを売りに行かされた彼女は、道中寒さに耐えられ無くなり、マッチを数本刷り、1本1本に幸せな夢を見て、最後はおばあちゃんと共に、幸せな旅に出るのです。
だけどそんなこと、女の子は望んでいませんでした。
「彼女みたいな運命はごめんよ……だけど……」
女の子には、どうしたらいいかわかりません。
どうしてここにいて、"マッチ売りの少女"をしているのかわかりません。
もともと彼女のいたところでは、冬はこんなに雪は降らず、積もることもあまり無く、こんなに寒くなることはありません。こんな雪にたくさんの雪を見たのも初めてです。こんな寒さを体験したのも初めてです。
気づいたら、真っ白な地面を、真っ暗な街をマッチを売るために歩いていました。
先ほどまでいたはずの家のことを、お父さんとお母さんのことを、思いだします。
暖かい服、暖かい家。優しい両親。
「戻りたい……」
彼女は歩きながら考えます。
どうしたら、元に戻れるのか……
マッチを擦ってみようかとも思いましたが、それでは物語の彼女と同じようになってしまう気がして、出来ませんでした。
女の子は歩き続けます。
泣いてしまいそうになるのを我慢しながら、歩き続けます。
1度止まってしまったら、もう動けなくなってしまうと思ったからです。
冷たくなった体を一生懸命動かして、前に進みます。街を歩きます。
「マッチはいりませんか……!」
女の子の声が、誰に届くこともなく、雪に埋もれていきます……。
暫く歩いていると、家と家の間に出来た細い道に迷い込んでしまったようでした。その先は行き止まりです。
戻ろう、と思いましたが、体がもう、動きません。
……ダメだった、な。
そう思い、物語を辿ろうとしてマッチを1本擦りました。
これでどうにか…ならないかしら。
マッチの火を見つめながら考えます。
あたしはどんな夢を見れるんだろう……と。
諦め気味に思います。
そこに、黒い、なにかもやもやしたものが浮かび上がりました。
初めて見たものです。
黒い、もやもやしたもの、というしかないものがそこにはありました。
その中からでしょうか。音が聞こえます。誰かの声のようです。
マッチの火は、消えてしまいました。
女の子はそのもやもやしたものに近づいてみることにしました。体を奮い立たせて、ゆっくりと。慎重に。
声は、はっきり聞こえるようになりました。
「……大丈夫?君?見えてる?おーい!」
元気な男の子のような声がします。
「聞こえてるっぽい……?」
確認されてるのかな?と思ったので、女の子はとりあえず、頷いてみました。
「良かった!少し離れて!今行くから!」
そう聞こえたので、一歩下がりました。
するとそのもやもやしたものから、人が出てきたのです!
「やぁ。助けに来たよ。大丈夫?」
男の子でした。自分よりとても小さな、男の子。
女の子は驚きました。まさか男の子が出てくるなんて!
「えぇっとあなたは…」
「ボクは転生者。君もだよね?迷い込んでしまったんだろう?本当の"マッチ売りの少女"は君がいた世界に迷い込んだ。君たちは入れ替わっちゃったんだ。それを、直しに来た。さぁ、おいで?」
手を差し出す男の子。
「あたし、戻れるの……?」
「そうだよ。ボクはニック。物語を正しくする旅をしているんだ」
正しくする……?
自分より小さな男の子が、何を言っているのか、いまいち良くわかりません。
こんな小さな男の子が、難しい話をするなんて!弟くらいの身長なのです。女の子はまた驚きました。
「まぁ、詳しいことはわからなくて大丈夫。戻ろう。両親が待っているよ」
そう言われて、女の子は小さな男の子の手を取りました。
それは、とても暖かい手でした……。
気がついたら女の子は自分の部屋のベットで寝ていました。
「……夢?」
時間を確認しようと、ベット傍においてあるはずの置時計を見ます。
その隣に、見慣れないものが置いてありました。
「……本?"マッチ売りの少女"だ……」
手に取って見るとそれは先ほど見ていた夢の物語のようでした。
ぱらぱらと本をめくってみると、紙が落ちてきました。
『忘れないであげて、彼女たちの物語を!』
と書かれています
「……夢ではなかった?」
これは多分、先ほどのニック、とかいう男の子の字なのでしょう。とても可愛らしい字です。
「そう、ね」
そういえば、弟には童話を読んであげたこと無かったなぁ……と思う女の子。
弟のことを考えているようです。3つ下の、可愛い弟。女の子は弟のことが好きでした。
物語の読み聞かせ、減ってるのかな。とも思います。両親が絵本を読み聞かせているところも見たことがありません。
忘れられていく物語を思い出させるため、物語の主人公が忘れられたくないために、こういう現象が起こる可能性も……
「なくはない、かな?」
一人呟きました。
夕飯にはまだ少し早い時間です。
ちょっと不思議な、夜の体験。
昔の童話、弟に読み聞かせしながら、思いだそう。
そして、忘れないようにしよう。
そう決めた女の子は机の引き出しに、ニックからの紙を仕舞って、本を持って、弟のところへ向かうことにしました。
まずは、この本から。
その夜は、年内最後の夜でした。
女の子の住む国では、12月でも雪が積もったり、それほど寒くなったりはしません。
ですがだんだんと寒さが厳しくなってくる時期です。
女の子はこの時期が好きではありませんでした。
しかしその日はいつもより少しだけ、暖かい、好きになれそうな夜でした。
童話っぽくないけどもこれが精一杯です。3000文字ギリギリでした……。
書いてる本人は楽しかったです。満足してます。そのうち改稿とかするかもしれないですけど。
ルビは…童話だから振った方がいいんですかね…?(´・ω・`)