episode02~浅倉 玄斗と世界の実情~
――また、懐かしいモノを視たな。
転生して、人生 早16年――
【ケルベロス】いや【浅倉 玄斗】は現在、高等部の進級した2ーE教室の自分の机で伏せ寝をしていた。
『おい、浅倉ッ!! 浅倉 玄斗
初日から、ふて寝とは 教師に対する嫌がらせか?』
「………いえ、違います。
高等部2年の担任は女性教師だと思っていたので、がっかりで寝てました」
‘のそり’といった具合で玄斗は体を起こした。
その顔は『黙っていれば、クールで知的なメガネ男子』なのだが、【ケルベロス】であった頃の名残なのか、やや傲慢な態度が出てしまう。
『『『アハハ、アハハ』』』
結果、クラスに笑いの爆弾をポイした。
担任であるゴリマッチョな男性教師は、何とも言えないダメージを負いながらも生徒に自己紹介の続きをさせ、LHRを終わらせた。
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放課後と言っても、今日は新学期の始業式なので半ドンである。
すでに他の生徒は部活動に行ったり下校したりで…
教室には、わずかばかりの生徒しか残っていなかった。
「いやぁ~玄斗くん、マジ最高ォー!」
そう言って、玄斗に近づいてきたのは保育園の頃からの腐れ縁である【武蔵・ブルーフィールド】
名前の通り、武蔵は日本人の父にイギリス人の母のハーフで母譲りの美形、つまり金髪青眼のイケメンである。
「うるせぇ、そっちこそ昨日の【G-C-O】大活躍だったらしいな。」
「なに、誉めてくれるの?」
「嫌みだよ、嫌み!」
2ヶ月前に日本で稼働したばかりのVRMMO【God.Connect.Online】で先日、【PvP】トーナメントの公式イベントが行なわれ、そこにいる武蔵の活躍がネットの動画に上がっていた。
昨夜の時点で視聴回数30万再生を超えていた。
玄斗も5回は見た。
なんでも、日本の攻略プレイヤーでも十指に入る強さとかなんとか………
諸事情で【G-C-O】が出来ない玄斗にはストレスがマッハでムカムカが貯まる。
武蔵に“ワンワン”嫌みを言う玄斗の所に また別の生徒が近寄ってきた。
「玄斗、武蔵…… 何、話してるの?」
そこに1人の女子生徒が2人に近づいてきた。
「おっ? 保村さん、帰るところか。
――んで何、話してるっかて…【G.C.O】だよ」
帰るのか、カバンを携えた彼女… 保村 火乃さん。
彼女とは 中学からの知り合いである。
「……あぁ、昨日の【PvPトーメント】凄かった、ね。
特に準決勝……」
“こてん”と首をかしげながら、話す彼女に合わせ その赤い髪が揺れる。
彼女は『次世代型隔世遺伝』と呼ばれる特別な遺伝子を持った、黒目黒髪が明るい赤色の瞳に赤髪のヤマトナデシコである。
「おや、保村さんも【G.C.O】やってるんだ?
――いやぁ、美女に褒められると嬉しいね」
「……まぁ、ぼちぼち」
(クッ…… 羨ましい)
保村さん も【G.C.O】プレイヤーか……
いや、クラスの9割が【G.C.O】プレイヤーらしい…自己紹介の時に わかった事だが。
「くっそぅー、クラスで【G.C.O】やってないの。
オレだけじゃないのか!」
玄斗は項垂れるのだった。
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【G.C.O】……【God.Connect.On-line】の略で文字通り『神と繋がる物語』をテーマにした自由度を重視したフルダイブ型VRMMOでヨーロッパ方面では発売3時間で100万本を売り上げて、国内は発売1週間で200万本の売り上げ、現在は全世界で約2000万本近くになる。
ちなみに現在、日本サーバーのプレイヤー数は約300万人
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(まぁ、『開発』『販売』『運営』に【神】が関わっているからな。
売れない訳がないよな、まさに神ゲー)
玄斗は内心、ため息をつくと…保村が玄斗の方をジーッとにらんでいた。
「な、なんだよ」
「いや…なんとなく、玄斗の所に【アレ】が届きそうな気がしただけ?」
目の前の保村 火乃は家業が『神様』に遣える神社の巫女さんで、時に予知めいた事を言う事もあった。
あと、小声で何か呟いていたが―― まぁ、いいや。
それはそうと話は変わるが、この世界には『神』は顕現し実在している。
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時は玄斗が生まれる十数年前…… 世界は未曾有の危機にあった。
突如として、地球に巨大隕石が接近していたのだ。
人工衛星のレーダーに いきなり出現した隕石は落下地点を東南諸島と予測され、それによる被害は絶望視された……
だが、隕石と時同じくして巨大宇宙戦艦【方舟】も現れ、その戦艦の攻撃で地球から進路を反らした上で隕石を消滅させた。
【方舟】の主たる女神は人類に言った『初めまして、人類よ』と
そして、人類は初めて地球外生命体との会合を。
【方舟】は新たな港と日本のオタク文化を得た……
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「…『199X年 世紀末方舟の顕現』に『方舟の女神サブカルクラッシュ』……」
「そ、そうそう それそれ!」
「しかし、保村さん。
玄斗に答えさせなくて良かったのかい?
玄斗が アホの子だと再確認できて、まぁ僕的には有難いけど。
それより、早く玄斗の所に【アレ】が届くといいね。
僕は君と冒険したいし」
「おい、どういう意味だ、ゴラァ?
オレだって、早くやりてぇよ」
「…ん、届くいいわ……ね?」
((あっ……これ、もしかしたら届かないんじゃね?))
玄斗と武蔵は、あからさまに視線を反らした保村に不安を覚える。
「まぁ、何はともあれ……
もしかしたらオレも今日から【G.C.O】プレイヤーになるかもしれないんだ。
待ち遠しいぜ!」
玄斗は右手の拳を左手の掌で打ち付けた。