物語。
ポケットを叩くとビスケットが増えるというあの魔法を、信じていたのはいつ頃までだったか。いつから、あれはただ単にビスケットが割れただけだと知ったんだろう。
いろんな魔法が効かなくなった。
いろんな魔法が使えなくなった。
大人になって何を得ただろう。なにを失っただろう。得たものとは、失ったものよりも価値のあるものだったのだろうか。今となってはそれすらも分からない。失ったものの価値なんて、あの頃じゃないと分からないのだから。
あんなに大事にしていたものを、僕はきっと忘れてる。新しく光るものに目を奪われ、見えなくなってしまった。そしてそのまま失った。取り戻したいと思っても、まずどうやって手に入れたのか分からなかった。そしてそのうち、何を失って、何を探しているのかすら分からなくなった。
魔法が使えていたあの頃、毎日がキラキラ輝いてみえた。雲を見て歩いてた。星座だって知っていた。今日はお月さま笑ってるね、なんて言ってたりもした。いつから空を見なくなっただろう。狭くなっていくこの空を嘆かなくなったのは、いつ頃からだろうか。
もっと、もっとと欲しがって。
いらないものは捨てていった。
欲しがっては捨て、欲しがっては捨てた。残ったものはなんだろう。なにか残っているだろうか。もうなにも残っていないかもしれない。空っぽだからとまた欲しがって、これじゃないといっては捨てる。何が欲いのかすら分からないんじゃないか?
悲しい悲しい話をしよう。
とても悲しい、僕の物語。