78話 侵入
「ここは兵士があまり居ないな 」
「そうだね‥‥‥反対側でカリーナさん達が戦ってるから、そっちに行ったのかも」
「潜入するなら好都合ですね」
「ん、今がチャンス‥‥‥ 」
「よし、行こうぜ!」
一旦カリーナさんとの約束でラルキア城から離れた俺達は、その状況を有効活用して先程出た広場の反対側に迂回した。
今はカリーナさん達が戦っているだろう場所とは反対側に位置している所に来て、建物の陰に隠れている。
先程第7駐屯地の皆が出た場所は、ラルキア城の西に位置していた。 だから今はラルキア城の東側に居る事になる。
大きく目立つラルキア城が目印になったお陰で、土地勘のない裏路地を使っても迷わず此処へ来る事が出来た。
東側に居たラルキア王国軍の数はそこまで多くない。数はざっと300人程‥‥‥ 第7駐屯地の総兵力と同規模だ。セシルが言う様に、戦っている西側の救援に向かったのだろう‥‥‥
思惑通り、東側に居た兵の数は想定より少なかったが、目の前に居る300人が反乱軍なのか正規軍なのか分からない。
反乱軍から見たら俺達は言わずもがな敵対勢力だし、正規軍から見ても俺達は国民に発令された命令を無視している一般人だ。今のペンドラゴに住む人達には自由な外出は認められておらず、不用意に外出した者は不審者と断定され、殺されても文句は言えない。
そんな状態なだけに、この300人が目を光らせている中でラルキア城に侵入するのは難しいだろう‥‥‥
せめて、反乱軍か正規軍かだけでも判断出来れば‥‥‥
「落ち着けレーヴェ。まずはあの300人が敵か味方か見分けないと」
「あ‥‥‥ ミカド、あの人達腕に赤い布を巻いてる‥‥‥ 」
「何? あ、本当だ」
好戦的なレーヴェを宥めつつ、どうやってラルキア城へ侵入しようか考えていると、マリアか俺の袖をクイクイッと引っ張った。 そしてマリアが指差した前方の300人を見ると、皆例外無く腕に赤い布を巻いていた。
なんだあの赤い布は‥‥‥
俺の記憶が確かなら、カリーナさん達第7駐屯地の皆はあんな物付けていなかった。
となれば‥‥‥ あの赤い布は味方を見分ける為の識別章か!!
「良く気が付いたなマリア! あれは多分識別章だ!」
「識別章‥‥‥ですか?」
「あぁ。あの赤い布は同士討ちを避ける為に反乱軍が付けている目印だ。第7駐屯地の皆はあんな物付けていなかったから、消去法であの赤い布を付けているのは反乱軍って事になる」
「なるほど!」
「でも、目の前の奴らが反乱軍だって分かったから何だってんだよ」
「相手が目印を付けているなら策はある!
俺に任せろ!」
目の前の兵士達が反乱軍と分かれば後はどうとでもやり様はある。マリア達が見ている前だが、悠長な事は言っていられないので、俺は咲耶姫から授かった加護を使い、ある物を召喚する為に頭の中で召喚の項目を開いた。
ポゥ‥‥‥ と目の前が静かに輝くと、地面にはラルキア王国軍の兵士達が着ている鎧が人数分現れた。
幸い目の前にはモデルを着ている兵士達が沢山居たから想像するのは容易だった。
「えっ‥‥‥ 」
「これは!?」
「な、何で何も無い空間から鎧が!?」
「説明は後でする! 急いでコレを着るんだ!」
「お、おう!」
明らかに狼狽しているドラル達に指示しつつ、俺は召喚したラルキア王国軍の鎧を身に付けている防具の上から纏った。
「ミカド、良かったの?」
「状況が状況だしな‥‥‥それに遅かれ早かれ説明するつもりだったし、気にすんな。ほら、セシルも早くコレを着るんだ」
「う、うん!」
俺の加護の事を知っているセシルは不安そうな声を出すが、もう後の祭りだ。
今は目の前の危機を乗り越える事に集中しなければならない。
「よし、皆準備は良いな?」
「おう! まさかこんな形でラルキア王国軍の鎧を着るなんて思ってなかったけどな‥‥‥ 」
「ん‥‥‥ 準備おっけー‥‥‥」
「それよりミカドさん、さっきのは 」
ラルキア王国軍の鎧を纏ったレーヴェ達が俺の方を見る。
「ドラルの聞きたい事はわかってるけど、その話は後にしてくれ。今は皆でラルキア城に侵入する事だけ考えるんだ」
「お、おう!」
「わ、わかりました」
「了解‥‥‥ 」
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「ん? よぉ、お疲れさん。物資を運んで来てくれたのか?」
ラルキア王国軍の鎧を纏った俺達は何食わぬ顔でラルキア城の東門へ来た。
俺は皆が鎧を着た事を確認した後、反乱軍が付けている目印と思しき赤い布と酷似した物と、一部がくり抜かれた状態の木箱を追加で召喚した。
召喚した赤い布は目の前に立つ兵士と同じ様に腕に付け、木箱は鎧の上から背負っている。
この木箱は遠目からでも目立つレーヴェの尻尾や、ドラルの翼と尻尾を覆い隠せる様にと召喚した物だが、この反乱軍の兵士は俺達が背負っている木箱を物資が入っている物と勘違いしてくれたみたいだ。
「あぁ、そうだ。それより今はどんな状況だ?」
特に不審に思われなかったのでついでに情報収集もしようと思い、俺は出来るだけ朗らかに話しかける。
ちなみに、俺を含めた5人は他の兵士と同じ様に銀色の兜を被っているので、俺の特徴的な黒髪やマリアの尖った耳、レーヴェの獣耳を自然に隠せている。
「西側の陽動が上手くいってるみたいだな。 おかげでラルキア城爆破が成功したのに、まだこっちには敵の姿さえ見えねぇよ。 ゼルベルの居城に俺達の仲間が侵入したって分かってる筈なんだけどな。 ははっ」
「へぇ、そいつは好都合だ。ちなみにゼルベルやユリアナはどうなった?」
「ゼルベル達は今謁見の間で立て篭ってるらしいぜ。何でもユリアナが奮戦してるんだと」
「さすがユリアナだな‥‥‥んじゃ、俺達はこの物資を中の連中に渡しに行ってくるぜ」
「おう、頼むぞ」
「行くぞ」
ゼルベル陛下を敬わず、下卑た笑みを浮かべる反乱軍の兵士へ殺気を出さない様に拳を握り締め、作り笑いを浮かべながら一歩踏み出す。
こうして俺達は敵が既にラルキア城内へ侵入している事や、ユリアナやゼルベル陛下達がどこに居るか情報を得つつ、無事ラルキア城の東門を潜り抜け城内へ潜入した。
「よし、木箱を捨てて鎧を脱げ! 侵入したらこれは用済みだ!」
「この後はどうするのミカド!?」
「謁見の間に行くぞ! さっきの奴が言っていた事が本当なら、ユリアナが謁見の間で戦っている筈だ!」
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9:30謁見の間
ベルガス丞相が手を挙げると同時に響いた轟音と揺れは徐々に治まってきた。
だが、この爆破の直後何かが崩れる音がした。
音と方角から判断するに、恐らくラルキア城の城壁の一部が崩れたのだろう。
「ベルガス‥‥‥ どういう事だ‥‥‥」
父上‥‥‥ ゼルベル陛下は玉座の肘置きを握り締めながら、絞り出す様な声を発しつつベルガス丞相を睨み付ける。
まさかベルガス丞相が反乱を起こしたなんて、今でも信じられない。
私も父上も、これまで幾度もベルガス丞相と顔を合わせ話した事が有るが、彼は人となりも良く、好々爺とした性格で平民でありながら丞相という立場を努力で勝ち取った逸材だ。
ベルガスは丞相となる前、ギルド本部で働くギルド職員だったが、彼の仕事振りを見た父上がその能力を買い政の世界へと誘った。
父上がベルガスを政の世界に誘わなければ、彼は今頃1市民として平凡に暮らしていただろう。 しかし今ではラルキア王国の政の長として敏腕を振るい、公爵の地位も得ている。
平民出の者が貴族‥‥‥それも公爵になるのは簡単な事ではない。 余程運に恵まれているか、並々ならぬ努力や才能が無ければならない。
父上はベルガスの恩人と言ってもいい。 その彼が反乱を起こす理由が見当たらない‥‥‥
ベルガス丞相を見つめる父上の目からは、信頼していた人に裏切られた悲しみと怒りが滲み出ていた。
「言葉通りですございますゼルベル陛下。
私がこの度の反乱を企て、実行した‥‥‥ それだけでございます」
「何故その様な事を! ベルガス殿は陛下から全幅の信頼を寄せられていたと言うのに!」
「ギルバード殿の言葉も最も......私自身も、私の才能を見出してくださった陛下には感謝しておりますし、義理も感じております」
「なのに何故この様な真似を! 陛下は言わばベルガス殿の恩人の筈!」
「簡単な事‥‥‥ 私には恩人を誅してでもそれ以上に得たい物があるのです」
「金‥‥‥ですか」
「ご名答です。ユリアナ様‥‥‥ この国には魔龍石と言う素晴らしい資源が有る。
私ならこれを有効に使い、更に富を得る事が出来る! しかしその魔龍石は国王が管理されておられる。 以下に丞相という肩書きが有っても、公爵という爵位が有っても、国王が居られる以上、今以上の金と地位は望めない‥‥‥ なら私が王になれば、何もかも思いのままとなる!
さて‥‥‥ これ以上無駄話をしている時間が惜しい‥‥‥ さぁ、どうぞ前へ‥‥‥」
まくし立てる様に己が欲望を暴露したベルガス丞相が恭しく頭を下げると、謁見の間の扉が開かれ50人程の近衛兵が入って来た。
だが、この近衛兵達は私達に剣の切っ先を向けている‥‥‥
ベルガスは近衛兵達まで抱え込んだと言うの!?
「っ! ベルガス! お主!!」
「な、なんという事を!」
そして、その近衛兵達の陰からある人物が姿を見せた。
「ローズ!?」
その人物を見て父上とギルバードは裂けんばかりに目を見開く。
私達の前に立った人物。
そらは私の実の妹‥‥‥ 父上の実娘、ラルキア王国第2王女ローズ・ド・ラルキアだった。
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「よし! このまま真っ直ぐ行けば謁見の間だ!」
無事ラルキア城の中へ入り込んだ俺達は、ラルキア王国軍の鎧を脱ぎ捨て広々とした廊下を我武者羅に走っていた。
朧気な記憶を頼りに走っていると見覚えのある廊下に出た。
ここは以前も通った事のある‥‥‥ 謁見の間へ通じる廊下だった。
このまま進めば、ユリアナ達が居る謁見の間がある筈だ!
「あっ!! ミカド!前!」
「っ! 誰だ!」
先が見えない位奥まで続く廊下にセシルが人影を見つけた。
数は少なく、パッと見ても10人前後。その10人程の人影が行く手を阻む様に立っている。
「先日ぶりだな。ミカド・サイオンジ」
「お前は!!」
人影が徐々に近づいて来る。
彼等は黒いフードを被り、顔の半分を隠していた。
俺達は少し間を取り、人影の前に立つと1人が口元を歪める‥‥‥ その頬には、以前見た覚えのある刺青が彫られていた。




