75話 兵士達
「お願いです! 一緒に行かせてください!」
「そう言われてもね~‥‥‥」
俺は土下座も辞さない覚悟でカリーナさんに頼み込んだ。
ラルキア王国軍の一団に攻撃されたり、浮き上がる跳ね橋を飛び越えたりと危ない目には遭ってきたが、此処まで来て留守番なんてのはありえない。
今から皆が戦いに行くのに、俺達だけ大人しく待っているのは嫌だ。
だが、カリーナさんの言う事はもっともだ。 彼女達から見れば俺達はギルドに登録しているとは言えただの一般人。
その一般人を守るのが仕事のカリーナさんからすれば、守るべき存在を危険な場所に連れて行く道理はない。
「俺達はゼルベル陛下に、今回の事件の事を伝える様に依頼を受けています!
もし今の爆発がラルキア城を攻撃した音だったら! せめて、同行する許可だけでも頂けませんか!」
さっきの大きな爆発音が、本当にゼルベル陛下の居城ラルキア城を攻撃した音だったら‥‥‥
俺の頭にはユリアナやローズ、国王のゼルベル陛下や執事のギルバードさん達の顔が浮かんだ。
彼女達の身に何かあれば、俺は悔やんでも悔やみきれない。
「あ、あの! 私からもお願いします!」
「お願いしますカリーナさん!」
「頼む!」
「お願い‥‥‥」
「あらあら、困ったわね‥‥‥」
俺が必死に懇願しているとセシルを始め、ドラル達もカリーナさんに頭を下げ始めた。 カリーナさんは頭を下げる俺達5人を見て、心底困った顔をしている。
せめてミラから受けた依頼を理由にして、同行する許可だけでも貰いたい。
「ん~‥‥‥ 貴方達もギルドのお仕事で此処に来たのよね‥‥‥ わかりました。同行を許可します」
「本当か!! ありがとう!」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「だけど! いくつか条件があるわ。
まず条件その1、同行は許可するけど、もし危険な状況だと私が判断し、逃げるように指示した時はその指示を必ず守る事。
条件その2、極力私の近くから離れない事‥‥‥これが守れるなら同行を許可します」
「あぁ! わかった!」
よし! カリーナさんの指示に従う、カリーナさんの側から離れないと言う条件付だが、これで同行する許可を貰えた!
後は一刻も早く此処を出発しないと!
「姐さん! 第1から第3中隊、出撃準備完了しやした!」
「後方支援1個小隊も準備を終え、今は駐屯地の広場の前に待機してやす!」
「第7駐屯地総員300名、何時でも出撃できますぜ!」
「あら、ありがとうシュタークちゃん。クリーガちゃん。アルちゃん」
「でも良いんですかい姐さん。総員で出撃したらこの駐屯地は蛻の殻ですぜ?」
同行する許可を貰った直後、タイミング良く第7駐屯地の皆に出撃準備を通達しに行っていたシュターク達が戻って来た。
今日は非番だとかで、さっきまで普段着姿だったクリーガとアルも、今はシュタークと同じ様に眩しく輝く銀色の鎧を身に付け、質実剛健な印象を受ける無骨な剣を携えている。
それぞれの鎧の左肩には、所属部隊を示していると思われる【7】の数字が堂々と記されていた。
その姿はとても凛々しくカッコ良かった。
「えぇ、良いのよ~。ペンドラゴの中心地‥‥‥ 第3城下街が攻撃を受けたこのタイミングで、第1城下街の片隅に在る駐屯地が攻撃を受ける理由は無いし、何より今はラルキア王国の王都が、 ゼルベル陛下の住まうペンドラゴが攻撃を受けているのよ?
駐屯地を守ってもゼルベル陛下達をお守りする事が出来なければ、駐屯地以前に、この国が無くなってしまう事に繋がるわ。
だから私達は、皆でゼルベル陛下達を守りに行きます。良いかしら?」
「「「お、応!!!」」」
「それじゃ、私も用意があるからシュタークちゃん達は先に広場に行っててね~。 それとミカドちゃん達を客室に案内してあげで? この子達も準備があるでしょうから」
「了解‥‥‥ って、え?ミカドの兄ちゃん達も行くんですかい!?」
「同行するだけよ~。危なくなってきたら真っ先に逃げる様に伝えてあるから、安心して? さぁさぁ、早く出て行ってね〜? 私の着替えを見たいなら別だけど~」
「「「「あっ!し、失礼しました!」」」」
カリーナさんのからかう様な言葉を受け、俺を始め男組は慌しく総隊長室を飛び出した。
その時にマリアが「あれが大人の女性の余裕‥‥‥ 」と、羨ましそうに呟いているのが聞こえた気がした。
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「皆、準備は良いか!」
「うん! バッチリだよ!」
「何時でも行けます!」
「おう!」
「ん、大丈夫」
総隊長室を後にした俺達は、シュターク達に案内してもらった客室で諸々の準備をした。
シュターク達は俺達を案内した後、部隊の皆と合流する為に一足先に皆が待機している広場に向かっている。
準備と言っても、ペンドラゴに来る前にほぼ準備を終らせてきたから装備に不備が無いか確認し、持って来た木箱から使えそうなアイテムを幾つか装備しただけで5分もかからず終ったが。
俺は装備の最終確認する為に、咲耶姫から授けてもらった加護の項目の1つ、装備の項目を久しぶりに開いた。
~メイン装備~
頭…未装備。
胸部…上質な上着+ロングコート+皮と鉄の鎧。
腕…篭手。
腰…皮のベルト+ベレッタ92FS用ホルスター
足…上質なズボン+脛当
靴…黒牛のブーツ。
~サブ装備~
●馗護袋
●ベレッタ92FS用2連マガジンポーチ×1個
~武器~
●太刀
●ベレッタM92FS
●ベレッタM92FS用マガジン3本(45発、内マガジン1本はベレッタ本体に装填)
●閃光手榴弾
以上が俺が今身に付けている物だ。
俺とレーヴェが運んでいた木箱には、先程使った閃光手榴弾やベレッタ等を入れて持って来た。
今回HK416Dは持って来ていない。
HK416Dは大きく、市街地で使用するには向いていないと思った事と、今回はこの国有数の人が暮らすペンドラゴでの任務なので、出来るだけこの世界の人が見ても違和感が無い太刀をメインに使うと決めていたからだ。だがベレッタは例外で持って来た。
ベレッタは小さく取り回しも効くし、隠しやすい。
以前ユリアナを助けた時と同じ様な状況になった時みたいな、緊急事態のみ使おうと思い持ってきたのだ。
だが、状況が状況だ。
さっきカリーナさんも似たような事を言っていたが、ここで人目に付くからと言ってベレッタの使用を躊躇ったら、それこそこのラルキア王国そのものが無くなる事態に発展するかもしれない‥‥‥
今は細かい事は考えず、積極的にベレッタを使っていくつもりでいた方が良いのかも知れない。
この事はセシルにも伝えており、セシルの右太ももにも俺と同じ様にホルスターが付けられている。そのセシルは薄いマントを纏い、ベレッタを覆い隠していた。
「よし、行くぞ!!」
「「「「了解!」」」」
装備を確認した俺達は気合の入った声を上げ、事前にシュターク達から教えてもらった道を駆け抜け、第7駐屯地の広場へ向かった。
「おぉ」
「凄い迫力だね」
「かっけぇ!」
「でも皆、顔怖い‥‥… 」
広場の光景は圧巻だった。
1列30名の列が10個、広々とした広場に並んでいる。その計300名がそれぞれ良く手入れされた武具を纏い、第7駐屯地の旗を掲げている。
平時に第7駐屯地の隊員を見たらその強面な外見で怖く感じるだろうが、今はとても頼もしく、そして力強く感じる。
彼らが醸し出す空気からは、少し前に見た親しみやすい雰囲気ではなく、一騎当千を思わせる武士‥‥‥戦う男達の信念と誇りを確かに感じた。
俺達5人はこの300名の頼もしさをヒシヒシと感じながら、10個の列の最後尾に立った。
「総員気を付けぇえ!!!」
300もの人が居るのに誰も言葉を発しないピリピリした空気の中、シュタークの野太い声が広場に響き渡る。
それと同時に、他の隊員が一斉に気を付けをする。動作も靴音も綺麗に揃っており、彼らの練度の高さを物語っていた。
300名近くの隊員が直立不動の姿勢になると、300名の先頭にあるお立ち台に優美な女性が登っていく様子が見えた。
「カリーナ・アレティス総隊長に敬礼!」
お立ち台に登った女性はカリーナさんだった。カリーナさんは他の隊員達とは違い、女性用と思しき銀の鎧を纏い【7】の字が刺繍された藍色のマントを翻す。
その姿は妙に神々しく、ユリアナと被って見えた。
「皆。既に知っているとは思うけど、15分程前、ペンドラゴの中心部‥‥‥ 恐らく第3城下街で爆発が発生しました」
お立ち台の上に立ち、静かに並ぶ隊員の姿を眺めたカリーナさんはおっとりと静かに、だが最後尾に居る俺にも聞こえる覇気のある声を放った。
彼女は言葉を紡ぐ。
「私達の部隊は貧民街の治安維持をする様に命令を受けていました。 本来なら軍人の私達は命令に従い、貧民街の治安維持を続けるべきなのでしょう。命令に従い、命令に誇りを持つのが我々軍人です。
でも‥‥‥ 今は違うわ!
私達に貧民街の平和を託してくれた人達が! 私達の無事を願っている人達が!
この国の象徴‥‥‥ 希望‥‥‥ 王の居られるペンドラゴの中心部が襲われています!
ここで第3城下街へ向かう事は、本来与えられた任務の放棄に他なりません。 ですが私は命令します。
この国に平和を、恵みを、誇りを与えてくださったあの方を‥‥‥ この国の民達の為にゼルベル国王陛下を守りに行きます!
志在る者は声を上げなさい! 国を守る強き意志在る者は拳を突き上げなさい!! 私達はこの国を守るラルキア王国軍です!!!」
「「「「「おぉぉぉお!!!!」」」」」
300名の軍人全員が何の迷いも無く、拳を空高く突き上げ咆哮を上げる。
「私の自慢の皆‥‥‥ 何時もの様に私に付いて来なさい! 第7駐屯地総員! 出撃よ!!!」
「「「「「っしゃぁぁああ!!!!」」」」
地面を震わせる程の鬼気迫る雄叫びを上げ、第7駐屯地総勢300名は再び拳を空高く突き上げた。




