66話 撃退
「セシル! レーヴェ! 2人は右側の敵を倒してくれ! マリアは俺と左側の敵を! ドラルは俺達の援護射撃を! お互いに背中をカバーしあうんだ!」
「わかったよ!」
「おう!」
「了解...... 」
「はい!」
黒づくめの男達がゆっくりと迫ってくる中、俺は太刀を構えつつ怒鳴る様に指示を飛ばした。
この指示は、其々の特性を考えた上で判断した物だ。
弓を得意とするドラルは必然的に俺達の後方から援護射撃に徹してもらう事になる。
マリアとセシルは軽い身のこなしで攻撃を躱し、攻撃も一撃に全てを賭けるより素早い攻撃を多数繰り出し、手数で勝負する質なので、同じ様な特性の2人をそれぞれ別けた。
俺とレーヴェも同じで、お互い高い身体能力を活かして攻撃を防ぎ、一撃に全てを賭けるタイプなので、これもセシル、マリアと同様に振り別けた。
これで戦闘経験がある俺とセシルをそれぞれ別ける事が出来るし、ドラルが後方から俺達を援護してマリアとセシルが敵を翻弄、俺とレーヴェが敵を打ち砕くと言う理想的なフォーメーションが出来上がった。
「ふふ...... やはり弓で殺すより、剣で戦う方が気分が高揚するな...... さぁお前達、行け」
「「「「「はっ!」」」」」
うっとりと剣の放つ冷たい輝きを見ながら、リーダー格の男が俺達の前に躍り出た。
部下の男達は命令を受けて其々剣を構え、にじり寄りながらあらん限りの殺気を俺達に向けてくる。
心を燃やす様な...... 心臓を締め付ける様な...... ある意味で純粋な殺気。
これまで戦ってきたルディ達の様に、魔獣の放つ野生本来の善悪を感じない殺気とは違い、人間特有の悪意に満ちた殺気......
必ず俺達を殺すと、そう覚悟を決めた者達の殺気......
そんな混じりっけの無い殺意が迫る。
「はぁぁあああ!!」
「くっ!?」
「ミカド!」
俺は、初めて人間に至近距離から向けられる純粋な殺気に少し怯んでしまった。
その隙を突かれ、部下の1人が雄叫びを上げながら瞬く間に距離を縮め、剣を振り下ろしてきた。
身体能力強化で強化された動体視力と反射神経で、何とか太刀の腹で斬撃を受け止める。
クソ...... ビビっている暇は無い。
俺はこんな所で殺される訳にはいかないんだ...... 俺は生きる為に......
此奴等を倒す!
「でぇぇりぁぁぁ!!」
「がはっ!?」
「野郎ぉ!」
敵の斬撃を受け止めた俺は思いっきり、敵の腹を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた男はバランスを崩し、数メートル程吹き飛ばされる。
このやり取りを皮切りに、敵味方が入り乱れる乱戦が始まった。
ガギィン!ガギィン!
「おりゃおりゃおりゃぁぁあ!!」
「ぐっ......! この獣人一撃が重いぞ!」
「貰ったぁあ!!」
「レーヴェちゃん危ない!」
「お! サンキュー! セシル」
「ミカド、サポートする...... 」
「了解! 後ろは頼むぜマリア!」
「クソ! このエルフちょこまかと!がぁあ!?」
「1人倒しました!」
静かな森に金属がぶつかり合う音と、激しい叫び声が響き渡る。
俺達はお互いに背中を預けながら、迫り来る敵の攻撃を防ぎ、隙を見つければその都度攻撃をすると言う防戦主体で迎え撃った。
敵はドラルの攻撃とリーダー格の男の攻撃で数を減らしているとは言え、未だに数は俺達の倍以上だ。
攻撃は最大の防御とは良く言うが、相手は戦闘に慣れている様で、こちらが思う様に攻撃出来ず、かつ連携も出来ているので防戦主体になるのは仕方ない。
それでもドラルの援護で、何とか隙を作ってもらい攻撃を叩き込んで、敵は徐々にその数を減らしていった。
今敵の数は、リーダー格の男を含めて12人にまで落ちている。
内訳は俺が2人、レーヴェが1人、ドラルが2人の計5人を倒していた。
セシルとマリアは今回サポートに回り、攻撃をする俺やレーヴェが背後から襲われない様に牽制してくれていた。
レーヴェ、マリア、ドラルは初めての戦闘の筈だが、冷静に慌てず対応している。
ドラルも、俺達に援護射撃をしつつ、隙を見せた敵に矢を浴びせ掛けていた。
幸福の鐘での訓練の賜物だな.....
「まさかここまでとは...... 俺の部下でも歯が立たないのは些か予想外だな...... 」
「へ......こちとら魔獣相手に戦いまくってるんだ。それとこのエルフの子や、あっちの獣人と龍人の子は今回が初めての戦闘だぜ? 素人に負けてて良いのかい?」
「...... おい、お前達手加減してるんじゃないのか?」
味方の苦戦を目の当たりにしたリーダーの男は、感心した様に意外そうな声を出して俺の顔を見つめ、部下のゼベルを殺した時の様な声を発した。
心なしか、滲み出る殺気も強くなっている気がする。
動揺を誘えればめっけもんだと思い、軽く挑発してみたが、素人に押され気味な事もあり、思惑通りリーダーの男がイラつくのが分かった。
「手加減なんかしてませんぜ...... 此奴等、聞いていた以上にやりますよ隊長」
「チッ...... まさか俺が加わるハメになるとはな」
そう言うと、リーダーの男か発していた殺気がスッ...... と無くなっていくのを感じた。
剣を持つ手はダラリと脱力し、余計な力を感じさせないリラックスした構えを取った。
ドドドドド......
「...... お前達、今回は一旦引くぞ。招かれざる客が来たみたいだ」
「何......?」
今にでも攻撃を仕掛けてくると思った瞬間、遠くから地鳴りが微かに聞こえるとリーダーの男を初めて、生き残った部下達は渋々と言った表情を浮かべて剣を鞘に収めた。
招かれざる客が来た?
この地鳴りと関係があるのか?
「さて...... 残念だが今回は引く...... が、覚えておけ。
俺達は一度契約したら標的を殺すか、契約が破棄されない限り追い続ける......
例え地の果てまで逃げてもな...... 鷲の目は常にお前達を見ているぞ」
黒づくめの男達のリーダーは吐き捨てる様に言うと、懐から手のひらサイズの球体を取り出し地面に叩きつけた。
するとボフッ!と周囲が白い煙に包まれた。
他の部下達も同じ様に、球体を地面に叩きつけ周囲を白く染め、俺達の視界を奪っていく。
「!皆、口を覆え! 出来るだけ煙を吸うな!」
「う、うん!」
「ゴホッ! ゴホッ! 何も見えねぇ!」
「ケホッ...... 」
「くっ」
一瞬爆弾か?と思ったが、どうやらあの球体は煙玉みたいだ......
だが、念の為未知のガスや薬品を使ってる可能性を考慮し、服の袖で口を覆いながらセシル達にこの煙を吸わない様に指示を飛ばす。
そして煙が散り、視界が確保出来る様になった頃には黒づくめの男達は、仲間の死体を残し1人も居なくなっていた......
「居なくなった...... のか?」
「そうみたいね...... 怪我はない?レーヴェ」
「ん...... 僕は大丈夫。ドラルも大丈夫そうだな...... マリア達は大丈夫か?」
「私も大丈夫...... 」
「私も大丈夫だよ。ミカド...... ?」
「ん?あ、あぁ...... 俺も大丈夫」
再び静けさを取り戻した森の中で、血の臭いを鼻で感じながら半ば放心状態になっていると、ハッと我に返った。
理由は2つ。
1つ目は、止む無く人を殺してしまったのは今回が初めてでは無いが、明確な殺意を初めて向けられた事へ遅まきながら恐怖を感じていたのと、リーダーの男が言った言葉の真偽を考えていたからだ。
1つ目の理由は言わずもがな。
問題は2つ目だ。
あの男の言葉と、浮かび上がった暗殺者という文字。
先程のあいつ等は、俺達を殺す様依頼された暗殺者と見て間違い無いだろう......
それにこの暗殺者のリーダーは事前に俺達の情報を知っていた。
恐らく雇い主から情報を聞かされていたのだろう。
俺達が狙われる心当たりがあるとすれば、ラルキア王国で起こっている爆破事件を調べている事だが、この調査を初めてまだ1週間も経っていない。
爆破事件の黒幕が俺達の存在を知り暗殺を依頼するには時間が短過ぎる...... と、なれば考えられるパターンは...... くそっ、色々と考える事が多すぎる......
ドドドドド!!!
思考がグルグルと回り、セシルの心配する問い掛けに空返事で返すと、先程微かに聞こえた地鳴りがより大きく聞こえた。
どうやらこちらに向かっているみたいだ......
また敵か...... ?
念の為に、太刀を構え直して地鳴りのする方を見ていると徐々にその地鳴りの正体が見えてきた。
その正体とは、鎧を纏い馬に跨った騎馬武者の一団だった。
「お〜い!」
「あ! あれは!」
ハッキリと馬上の人の姿が見て取れる距離に来ると、馬に乗っている人が誰だか分かった。
あの太陽の光を反射する特徴的な坊主頭と、ラルキア王国の紋章が描かれた旗...... そして、【7】の数字が描かれた鎧を身に纏う彼は......
「シュターク!」
「お前達怪我はねぇか?」
「あぁ...... 擦り傷程度だから俺達は大丈夫だ。でも、御者さんは...... 」
「成る程な...... と、ほら傷薬だ。塗っておけ 」
「助かる! ありがとうシュターク」
大勢の騎馬武者を率いて来た彼は、王都ペンドラゴの貧民街で知り合いとなった、ラルキア王国軍第7駐屯地に所属し、貧民街の治安維持に就いている軍人...... シュターク・バイルだった。
「あのミカドさん、この人は?」
「この人はシュターク。ペンドラゴの貧民街で治安維持任務に就いているラルキア王国軍の人だ。それよりシュターク、何でここに?」
「いや、実は今朝、貧民街に怪しいローブを被った男達が貧民街に居た...... って報告があってな。
何か嫌な予感を感じて、こうして部隊を率いてその男達を追ってきた訳だ」
「でも追ってたって言うけど、こいつ等はここで待ち伏せしていたみたいだぜ?」
「いやまぁ...... 恥ずかし話、途中で尾行を巻かれちまってな......
彼奴等の進行方向や目的地と思しき場所を探していたら、戦っている音が聞こえてこうして来たわけだ。
ん...... 俺達が追っていた奴等で間違いなさそうだ」
俺はシュタークから傷薬を受け取りつつ、彼の事を知らないセシルとドラルに簡単な紹介をし、何故シュタークがここに居るかを聞いた。
どうやらシュタークは俺達を襲った黒づくめの男達を追っていたみたいだ。
シュタークは馬から降りると、物言わぬ骸となった黒づくめの男の死体に近づき、この男達を追っていた事を認める。
「それで、逆に聞くがミカドの兄ちゃん達は何でこんな所に?見た所ギルドの馬車に乗っていた様だが...... 」
「実は...... 」
心強い味方の登場に、先程感じた恐怖心が無くなった俺は此処に居るに至った経緯をシュタークに説明した。
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