64話 魔力式爆弾
「さすがティナ! 魔術研究機関に所属してるのは伊達じゃねぇな! 仕事が早い!」
「もう仕組みを解明したのか!?」
「凄いよティナちゃん!」
「はい! 流石、魔術研究機関の才女です!」
「ん...... 」
「ふふん! 当然でしょ! 私を誰だと思ってるの?」
「それで!? 結果はどうだったんだ!」
勢い良く扉を開け放ち、部屋に乗り込んで来たティナの言葉に俺達のテンションは一気に上がった。
もし、これでティナの調査結果が俺の目論見通りなら、今回の事件の経緯がハッキリ分かるかも知れない。俺はティナの言葉を待つ。
「と、そうだったわ。時間が勿体無いから結論から言うわね...... 」
「「「「「ゴクッ...... 」」」」」
「詳しく調べた結果、回収した丸い不審物は、魔力を原動力とした爆発物で間違いなかったわ」
「っ! やっぱり...... 」
俺の睨んだ通り、ベッセルで回収された丸い不審物は爆弾だった様だ。
しかも、マリアが言ったように魔力を原動力とする特殊な爆弾......
恐らく、これと同一の物...... または類似品が今回ラルキア王国のギルド支部や、軍の関連施設を爆破した爆弾と見て間違いないだろう......
そうと分かれば、ノースラントに居るミラ達にも分かり易く説明する為に、この爆弾がどんな物だったかを詳しく聞く必要があるな。
「ティナ。もう少しその爆弾の詳しい構造や、爆発する仕組みを教えてほしい」
「そう言われると思って、調べてわかった事を簡単にまとめて来たわ。
皆、これを見ながら聞いてちょうだい」
そう言うとティナは、背負っていたカバンからA4サイズの紙の束を取り出した。
その紙の束は、10枚で1組となっており、端をクリップの様な物で固定されていた。
それが計5組、それぞれ俺達に手渡される。
チラッと書かれている事を見てみたが、楕円形の丸い物に凹凸状の切れ込みがある、【マークll手榴弾】の様なイラストが大きく描かれている。
このイラストの見た目からして、ベッセルで回収された不審物はアルトンが持っていた物と同一の物の様だ。
ティナは、約半日と言う短い間に、この不審物を調べ上げ、更に俺達にも説明し易い様に用紙にまとめあげたのだ。
全く...... たいしたもんだ......
「あ、その前に...... コレを何時までも『丸い物』とか『不審物』とか言ってても分かりにくいから何か名称を考えないと...... 」
「なら...... コレの名称は【魔力式爆弾】って呼ぶのはどうだ?」
「魔力式爆弾ね...... 私は異議なしよ。セシル達はどうかしら?」
「私も異議なしだよ!」
「私も異議なしです」
「同じく...... 」
「僕も異議なしだ」
「決まりね。それじゃ、コレは今から魔力式爆弾と呼ぶ事にするわ。
それじゃ、まずこの魔力式爆弾の概要なのだけれど、高さは約30cm、横は約20cm。直径は約80cmの楕円形。
材質は主に硬質粘土が使われていたわ。 見た目は置物みたいで、表面に凹凸が有るのが特徴よ。重さは大体3kg弱ね」
俺達はティナの説明を聞きながら、渡された紙に目線を移す。
渡された用紙にはこの魔力式爆弾のイラストの他に、ティナが言った直径や重さ他材質や手触り等の詳細なデータが記入されていた。
「あれ? でも、大きさの割に軽くないですか?」
「そうね。私も初めはドラルと同じ事を思ったわ。
でも、それには理由が有るのよ。ページを捲ってちょうだい」
「これは...... 」
ティナに促される様に、用紙を1枚捲れば、そこには魔力式爆弾を縦と横から見た断面図が描かれていた。
「空洞...... ?」
「その通り。魔力式爆弾が見た目の割に軽いのは、内部が空洞になっていたからなのよ」
ティナの言う通り、用紙を見ればこの魔力式爆弾の中心はポッカリと空洞になっているのが分かった。
更に用紙に書いてある数値を見ると、高さ30cmの内、空洞部分に該当する高さは20cm程。横も20cm中15cmが空洞部分になっていると記入されている......
つまり、この魔力式爆弾は見た目こそ重そうだが、実際は軽く、中身のない卵の様な物だったのだ。
となると疑問が生じる。
これがどうやって爆発するかだ。
俺はこの魔力式爆弾の内部に、魔力に反応し爆発する機械とか...... その類の物が入っていると思ったのだが......
「でもよ...... それだと何でコレが爆発するんだ? ここだけ見たら、ただの壺と変らねぇぜ?」
俺と同じ考えが浮かんだレーヴェが首を傾げながらティナを見つめる。
「そうね。ぱっと見、壺や置物と大差ないコレが爆発する仕組みは、次のページを見て貰えれば分かるわ。良い?
この魔力式爆弾は硬質粘土で作られているみたいなのだけど、この粘土の中には魔龍石が合成された鉄の層が入っていたのよ!」
「鉄の層だと?」
ティナは鼻息を荒げると、魔力式爆弾を横から見た断面図を指差した。
其処には茶色く描かれた魔力式爆弾の間...... 外側と内側の中間に灰色の層が描かれていた。
この灰色の層は、魔力式爆弾の上部以外を包み込むように描かれている。
「そうよ。ミカドやマリアの言葉が無かったら、私はこれをただの壺だと思って、この層は見落としていたと思うわ」
「えっと...... つまり、この魔力式爆弾は硬質粘土と鉄の3段構造になっていたって事?」
「その通り」
「それが何で爆発と関係あるんだ?」
「実はこの鉄製の層に、魔力を増幅させ、かつ増強する術式が刻まれていたのよ」
「魔力を増幅させて増強する術式?」
「えぇ。魔術師が魔法を使う場面を見た事があれば分かると思うのだけど、魔術師が正常に魔法を発動させるには、その魔法に沿った術式詠唱が必須なの。
この詠唱を行わずに魔法を使おうとしても、そもそも魔法は発動しないし、何らかの原因があって発動しても、その魔法を制御出来ない...... と、言われているわ」
ずっと話しっぱなしだったティナが息継ぎの為、一旦話を区切る。
ふむ...... 以前ドラルが水球弾を放った時や、ノースラント村で爆発に巻き込まれた時、回復魔法で治療してくれた時に何か言っていたが、あれが魔法の詠唱で、詠唱する理由もちゃんとあったのか......
「これ以外にも魔法が制御出来なくなる理由は多数有るけど、共通している点があるの。
それは、制御出来なくなった...... 暴走した魔法は、最後に魔力が爆発反応を起こすと言う点...... 」
「...... どういう事だ?」
「この魔力式爆弾は、一見何て事ない壺の様だけど、実は詠唱不要で意図的に魔力の爆発反応を引き起こす魔法具だった...... しかも、その爆発の威力を極力高めた上で...... って事だろ?」
「ミカドの言う通りよ...... 起爆手順は、この魔力式爆弾を持って、魔力注入式の魔法具を使うみたいに魔力を注ぎ込めば良いだけ...... 後は鉄製の層に刻まれた術式と合成された魔龍石が反応し、自動的に魔力を暴走状態にして、最後には...... ボン......」
「「「「っ!」」」」
ティナの言う言葉の意味がよく分かっていなかったらしいレーヴェや、セシル達が息を飲む音がハッキリと聞こえた。
恐らく内部を空洞状にして、硬質粘土の層と層の間に魔龍石を合成し、術式を刻んだ鉄板を仕込んだのは今回みたいに回収された時、ただの壺だとカモフラージュする為だったのかもしれない......
魔龍石はある一定の動作をすると光を灯したり、火を起こしたりするは魔法具の原材料としても使われている。
この魔龍石が合成された鉄にプラスし、注ぎ込まれた魔力が鉄製の板に刻まれた術式に反応して爆発するらしい......
これで確信した......
ノースラントや他のギルド支部...... 軍の関連施設はこの魔力式爆弾で爆発されたに違いない!
一刻も早く、この事を依頼主のミラに伝えなければ!
「わかった...... 調査ありがとうティナ。多分、後で調査協力してくれた報酬が出ると思う」
「報酬なんていらないわ。私の生まれ育った国が酷い目にあわされてるのよ?
これ位何て事無いわ。それに、私に払う報酬が有るなら、そのお金はギルド支部の建て直しとかの費用に使って欲しいわね」
「ん、了解...... ミラに伝えておくよ。俺達は今日調査してわかった事と、ティナの調査結果をミラ達に伝える為に明日の朝、一旦ノースラント村に帰るぞ」
「了解。こんな事言う必要無いと思うけれど、気を付けて」
「あぁ。ありがとう......ティナも気を付けろよ?
まだペンドラゴの何処かが爆破させる可能性があるんだから...... もしかしたら魔術研究機関も...... 」
「ご忠告感謝するわ。でも、私は大丈夫よ心配しないで。さて、魔力式爆弾の説明は以上ね。
渡した用紙の後ろに、魔力式爆弾のデータがもっと詳しく書いてあるから、わからない事が有ればそれを参考にしてね」
「何から何まで本当にありがとうティナちゃん!」
「気にしないで。これも仕事よ。それじゃ、夜も更けてきたし、私はこれで失礼するわね」
「そうか? なら、見送りに...... 」
「必要無いわよ。それよりも私がまとめた資料を読んだり、ゆっくり休んだり...... 今後の行動でも決めなさい?」
ティナはそう言うと、来た時同様勢い良く、慌ただしく部屋を後にした。
部屋に残った俺達の中に微妙な沈黙が続く......
「ん...... さてと...... ティナの言う通り今日はもうゆっくり休むとしよう。
明日は朝一でノースラント村に帰るんだ。少しでも体力を回復させよう」
「そうですね...... これからもっと忙しくなるかも知れませんし...... 」
「賛成...... 」
「ならさっさと休もうぜ!」
レーヴェのこの言葉で、俺達も今日は解散となった。解散と言っても、俺が別の部屋に移るだけだが......
「ふぅ...... 」
1人部屋に戻った俺はベットに倒れ込み天井を見上げ、今日起こった事、わかった事を頭の中で整理する......
今回の事件...... 真犯人や黒幕が居たとして、なぜラルキア王国のギルドや軍施設を爆破したのかは分からない...... 分からないが、爆破の方法等の検討はついた。
後はこの事をミラに報告して...... それから次は......
頭の中で今後のプランを考えながら、ティナが書いてくれた資料を見ている内に俺は意識を手放した......
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「ミカド様、お待たせ致しました」
明る朝。午前6:00まだ薄っすら暗いパセテの前には、ギルドの紋章が刺繍された旗をたなびかせるギルドの馬車が停まっていた。
ここはギルド関係者が良く利用する宿なので、ギルド関係者が利用する為にギルド専用の馬車が数台配備されていた。
今回はこの内の1台を調査特権で借りれたのだ。
俺はまだ日が昇らないうちに起きて、ゼルベル陛下達へ宛てた手紙を受付へ渡し、ラルキア城に届ける様に頼むと、先に外へ出ていたセシル達と合流する。
先日ペンドラゴで調査をすると言った手前、昨日の今日でペンドラゴを離れる事になってしまい申し訳ない気持ちで一杯だ......
本当なら直接会い、一言言うのが礼儀だと分かっているが、今は一刻を争う。
なので、無礼を承知で俺は手紙を認めたのだ。
「はい、ではノースラント村までよろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
昨日は寝落ちした所為もあり、まだ今後のプランに着いて詳細は決めていないが、ひとまず俺達【爆破事件調査隊】は、朝日がペンドラゴを照らし始めた頃、ミラに今まで分かった事を報告する為にノースラント村目指し行動を開始した。
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