59話 貧民街
「おい兄ちゃん、俺等を舐めるんじゃねぇぞ!」
「おぉよ! 最近の若ぇ奴は礼儀ってモンを知らねぇなぁ!!」
「俺達が礼儀を叩き込んでやろうか!あぁ!?」
拝啓 日本に居る爺ちゃん。
俺、西園寺 帝は今、ラルキア王国という国の首都ペンドラゴの片隅で、ゴツく柄の悪い3人の男に囲まれ怒鳴り散らされてます。
何故こんな状況になってしまったのか..... 事は数時間ほど前に遡る......
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「それで、ミカド。この後の予定は?」
魔術研究機関で爆破事件に協力すると約束してくれたティナと別れた後、俺達ノースラント村ギルド支部 直轄 同時爆破事件調査隊(仮)......
長いな...... これからは【爆破事件調査隊】と呼ぶ事にしよう......
は、暫く拠点として利用する宿、パセテで一夜を明かし、日が昇ると同時にパセテの一室で今日の予定を話し合っていた。
この部屋はパセテの中でも1番大きな部屋らしく、室内は50畳を超え、此処にキングサイズのベッドが2つ、更にミニキッチンやソファ、額縁に彩られた絵画まであった。
落ち着いた配色の壁紙や装飾品などと相まって、ゆったりとして非常に過ごしやすい空間になっている。
余談だが、この部屋はセシルを始めとした女性陣が使った。
では俺はというと。
年頃の女の子と同じ部屋では様々な理由でゆっくり休めないと判断。俺はパセテの中で1番安い部屋を借り、そこで休んだ。
セシル達は別に一緒の部屋でも良いと言ってくれたのだが、幾ら紳士の俺でも生物学上男なのだ。
贔屓目に見ても美少女と言って良いセシル達4人に囲まれ、一緒の部屋で寝るのは流石に恥ずかしい。
度胸がないと言われればそれまでだが......
「そうだな。今日は色々な所に行こうかと思っている」
微かに苦笑いを浮かべ、昨日の出来事を思い出した。
俺は日の出と共にこのスイートルームに足を運び、適当な椅子に座ると目の前のソファに腰掛けるセシルの問いに答えた。
「色々な所と言いますと...... ?」
「他に行かなきゃいけない所なんてあるのか?」
「あぁ、あるぞ。まずは、ギルド本部だ。
まだノースラント村のギルド支部や、他のギルド支部が爆破されて1日しか経っていないけど、ある程度混乱も収まっている筈だ。
だから、ギルド本部に行って、今どんな事が分かっているのかを聞きに行く。
爆破された各支部の場所や状況が分かれば、調査の役に立つかもしれないからな」
「なるほど...... 」
「後はラルキア王国軍の総司令部だな。これもギルド本部と同じで、爆破された駐屯地の場所とか、色々役立ちそうな情報を聞きに行こうと思ってる」
疑問の声を上げるドラルやレーヴェに、俺は頭の中で考えていた捜査プランを説明する。
まずは何よりも情報だ。
確か今日は、魔術研究機関に爆破で使われた可能性がある物が到着する予定らしいから、そっちの捜査はティナに任せ、俺達は足を使って役立ちそうな情報を集める事にした。
「でも、それだと皆一緒に行動するより別々に行動した方が良いんじゃないかな?」
「あぁ、セシルの言う通りだ。だから今日は二手に分かれ調査をしようと思う」
「賛成です。二手に別れた方が効率的ですからね」
「そう言う訳だ。それじゃ、今からグループを分けるぞ!」
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「んで、セシルとドラルはギルド本部とラルキア王国軍総司令部に行くとして、僕達は何処に行くんだ?」
「うん...... さっきミカドが言った2つの場所の他に行く所があるの?」
パセテでセシルとドラルにギルド本部とラルキア王国軍総司令部に行くように頼んだ俺は、マリアとレーヴェを連れて薄暗い路地を歩いていた。
何故俺達はこんな薄暗い路地を歩いているのか。
勿論ちゃんとした理由がある。
まずギルド本部と総司令部への調査を任せたセシルは、ギルドでそれなりの級を持っているし、以前この国のお姫様、ユリアナを助けた実績もある。
ユリアナを助けた事はまだ公になっていないが、少なくともユリアナと交友がある事を匂わせれば、ギルド本部と総司令部は快く調査に協力してくれる筈だ。
ミラが書いてくれた依頼書も持たせてあるから、まず大丈夫だろう。
ドラルはそのサポートだ。
ドラルは社交的だし、歳の割に雰囲気も落ち着いていて礼儀正しい。
少しおっちょこちょいな所があるセシルの良いサポート役になってくれるだろうと思い、俺は2人にギルド本部と軍総司令部への書き込みを任せていた。
「あぁ。今から行く所は、マリアとレーヴェの力が必要になるかも知れないからな」
「「?」」
可愛らしく小首を傾げるマリアとレーヴェを横目に見つつ、俺達は目的の場所に着いた。
「よし、着いた」
「着いたってミカド...... 此処は...... 」
「貧民街...... ?」
そう、俺達は今、3重の城壁に囲まれた王都ペンドラゴの片隅にポツンと存在する、【貧民街】と呼ばれる区間に向かっていたのだ。
更に詳しく書くなら、各城壁の間には街があり、この貧民街は1番外側の城壁と2番目の城壁に挟まれた部分に在った。
王都を警備している軍人から貧民街の存在を聞いた俺は、俺が元居た世界然り、こちらの世界然り、大きな街には貧しい人達が住まう区間があるんだなと感じていた。
実際に足を運び、改めて今にも崩れ落ちそうな家屋や、道端で力なく座り込む人達の姿を目の当たりにすると何とも言えない気持ちになる......
今日は清々しい晴天なのに、この貧民街はドンヨリと重い空気が充満している様な感じがする......
「そうだ。これは俺の予想なんだけど、ノースラント村を爆破したアルトンや皆は多分、奴隷商人に攫われて、爆破を強要されたのかも知れない」
「っ...... 」
「...... 」
2人共、僅かな間とは言え同じ孤児院で暮らしていた少年...... アルトンの事を思い出したのだろう。
レーヴェは怒りを露わにし不機嫌な様子を隠そうとせず、小さく舌打ちをする...... 普段は表情の起伏が少ないマリアも、今は悲しそうな顔をして俯いている......
何故俺が、あの爆破は奴隷商人に強要されたのかと言う理由だが......
まず、アルトンの事を見ても、あれは明らかな自爆攻撃だった。
俺があの爆破を企てた側の人間だとすれば、自分の仲間に必死の自爆行為なんて絶対にさせない。
つまり、あの爆破を企てた奴等も俺と同じ考えで、例え手間でも、攫ってきた人に爆破を強要する方が味方の損失は無くなる。
アルトンにあの爆発物を待たせた人間もそう考えたのだ。と、判断した訳だ。
「マリアとレーヴェには辛い事を思い出させる様で、気が引けたんだけど此処に連れて来たのは2人の力が必要になると思ったからなんだ」
「どういう事......?」
「貧民街ってのは、名前の通りに貧しい人達が住んでる場所だけど、同時に訳あって大きな顔で道を歩けない奴等が流れ着く場所でもある......
さっきも言ったけど、俺は爆破の実行犯にされた人達は、奴隷商人に捕まった人達の可能性が高いと思ってる」
俺は胸糞悪くなった。
改めて口に出すと、黒くドロドロした物が心の奥底から湧き上がってくるのを感じる。
間違いない。これは怒りだ。
俺は深く息を吸い直し、無理矢理この黒いドロドロした物を飲み込んだ。
「そんな人攫い共が大手を振って街を歩ける訳がない。そういう奴は得てして姿を隠すもんだ。
だから、其奴等を見つける為にマリアとレーヴェの力を貸して欲しい!」
「僕達の力を...... 」
「あぁ、マリアには気を察する能力があるだろ? それを使って怪しい奴を見つけて欲しいんだ。
レーヴェは俺にもしもの事があったら、代わりにマリアを守ってやって欲しい」
「ミカド...... わかった! 僕に任せろ!」
「うん...... 私もミカドの力になれる様に頑張る...... 」
俺が危険な貧民街にマリアとレーヴェを連れて来た理由。
それは、この事件のキーマンとなるだろう【奴隷商人】という下衆共を見つける為だった。
前にドラルから聞いた話では、マリアは同じエルフ族の中でも動植物の気配を感じる能力が格段に優れているらしい。
それは、人が発する気配をはっきりと感じる程だとか。
俺はこの能力は怪しい奴を見つけるのに役に立つと判断した。
以前マリアは、奴隷商人達の発する気配を『暗くドロドロした感じがする』と言っていた。
だから、それと似た様な気配を発している人物が居たら、奴隷商人や犯罪者の類の可能性がある。
もし奴隷商人に会う事が出来れば、奴隷商人の情報網を聞き出せるかも...... そしてそれは、事件の解決の糸口になると思ったのだ。
レーヴェは俺達の中でも随一の身体能力を持っている。獅子獣人という種族は少数種族だが、全獣人族の頂点に君臨すると言われる程強い肉体と戦闘能力を持っているとか。
もしもマリアに危険が迫れば、レーヴェがその生まれ持った力を活かし、マリアを守ってくれると思ったのだ。
勿論、そんな事態にならない様に気を付けるが......
「ありがとう2人共...... それじゃ、調査を始めよう。マリア、嫌な気を感じるか?」
マリアとレーヴェが気持ちの良い笑顔を向け、力になると言ってくれた。
俺も感謝の気持ちを込めて、2人に微笑みを向けた...... 温かい気持ちに包まれながら俺は、早速調査を開始した。
「ん...... この辺り一帯から少し嫌な気はするけど、奴隷商人の時に感じた嫌な気は感じない...... 」
「なるほど...... それじゃ、怪しい奴が居ないか探そう。2人共、余り俺から離れるなよ?」
「うん......」
「おう!」
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「はぁ...... 」
暫く貧民街をブラついていたが、結論から言えば怪しい奴は見つからなかった。
時刻は14:00。
太陽をほぼ頭上で感じながら、俺は休憩がてら貧民街の外れにある広場にあったベンチに座っている。
多少開けた広場だが、ここも何故か薄暗い感じがする......
無意識の内に溜息が出てしまう。
そりゃ、爆破事件と関わりのある人物に、すんなり会える筈ないと考えてはいたが、こうも収穫が無いと流石に堪える......
「はぁ...... 数時間も歩いて収穫無しか...... 」
何度目か分からない溜息を吐く。
ちなみに今マリアとレーヴェは、俺の近くに居ない。
2人は数分前、この広場の側に作られた公衆トイレに入っていった。
俗に言う『お花を摘みに行く』ってヤツだろうな......
貧民街の公衆トイレなんて、いかにも危なさそうだが、俺が居る場所からそんなに離れていないし大丈夫だろう。
そんな事をボケっと考えながら、手持ち無沙汰で広場の周りを見渡していると、ふと、ある男性に目が止まった。
身長170くらい、髪は全て剃られたスキンヘッド...... 身体つきは遠目から見てもハッキリ分かるほど立派で、着ているシャツからは太い腕が覗いている。
顔立ちは、子供が見たら泣き出しそうな程怖い。まるで鬼の如しだ。
そんなスキンヘッド男は辺りをキョロキョロ警戒しながら、広場の端を歩いていた。
ふむふむ。
どっからどう見ても怪しい。
俺にはマリアの様に人の発する気配を感じ取る能力は無いが、その風貌と挙動不審な動きから、俺は此奴が訳ありな人物に思えてしょうがなかった。
いや、見た目で判断した訳じゃない。
ちょっとだけ怪しいなと思っただけだ。
「ちょっと声をかけてみるか...... 」
このままマリア達を待っていたら、この男を見失うかも知れない。
そう考えた俺は、パセテを出る前に護身用として召喚したダガーナイフを服の中に忍ばせ、男の元へと歩み寄った。
「なぁ、おっさん。さっきから挙動不審だけど、何かやましい事でもしてるのか?」
今にして思えば、スキンヘッド男に舐められない様、ちょっと強気な口調で言ったこの第一声がいけなかった......
後悔先に立たずと言うが、俺は直後この第一声を後に大いに後悔する事になった。
「あぁ!? なんだ小僧!」
後ろから声を掛けられたスキンヘッド男は、俺の顔を見るといきなり声を荒げた。
その瞬間......
「どうした!」
「何かあったのか!?」
何処からともなく姿を現した2人の男が、俺の左右に立ち塞がる。
計3人となった男共はまるでよく訓練された軍人の様に、俺が攻撃をしてもギリギリ避けられる位の間合いを保ちながら、俺を近くの建物の壁へと追いやった。
絶妙なコンビネーションでした。
新たに現れたスキンヘッドの仲間と思しき2人の男...... 1人は腕にトライバル柄の刺青をしており、後の1人は両耳に大量のピアスを付けている。
この急に現れた2人の男も、スキンヘッド男と同じ様な身長に、同じ様な体格...... 同じ様な顔つきだった。
要は、この刺青男もピアス男も鬼の様な顔つきの厳ついお兄さんだった。
お兄さんと言うより、鬼いさんか......
ちなみに、今のはお兄さんと鬼さんをかけてみた。
...... んな事はどうでもいい。
さて...... 後ろは壁で、右側には刺青男。左側にはピアス男。そして目の前はスキンヘッド男...... 俺は厳つい3人の男に囲まれている状況になってしまった。
「おぉ、お前等...... この小僧が生意気な事を言ってきたんでな!」
「ほぉ、お前に向かって...... いい度胸じゃねぇか兄ちゃん!」
...... はい、以上。回想終わり。
さて、この状況...... どうしたものか......
男達は俺を取り囲み、3方向から怒鳴り声を浴びせてくるが、それだけだ。
決して殴っては来ない。殴ろうと思えば、俺はとっくに殴り飛ばされている筈だ......
何時までも時間を無駄にしている訳にはいかないから、此奴等が攻撃してこないなら、俺の方から仕掛けるか......
武器は服に忍ばせたダガーナイフ1本だけだが、不意をつけばこの3人を消すには充分だ。
事の発端は俺の軽率な行動の所為だから、命までは取らない。
ただ少し、この3人には冷静になって貰おう。
よし、やるか。
「ミカド......!」
「大丈夫か!」
「「「っ!?」」」
どうすればこの状況を切り抜けられるか思考にふけっていると、お花を摘み終えたのだろうレーヴェとマリアが俺達の方に向かって全速力で走って来た。
良いタイミングだ。
「ふっ!」
目の前に立ち塞がっていた男達が、レーヴェとマリアの姿を見て僅かに怯み、隙が生まれた。
俺はこの隙を有効に使わせてもらう事にしよう。
久しぶりに身体能力強化のスキルを発動させた俺は、我ながら惚れ惚れする流れる様な動作で服に隠したダガーナイフを引き抜き、切っ先をスキンヘッドの男の喉元に滑らせた。
刺しはしない。
彼等には少し落ち着いて貰い、何か手がかりになりそうな情報を知らないか聞くだけだ。
命まで取る必要は無い。
「「なっ!?」」
「頼むから大人しくしてくれ。俺はちょっと話を聞きたいだけなんだ」
「て、てめぇ! それが話を聞きたいって言う奴の態度か!?」
仲間のスキンヘッド男を人質に取られ、刺青男とピアス男が狼狽し、スキンヘッド男が叫ぶ。
確かにこのスキンヘッド男の言う通りだけど...... 申し訳ないが、今は大人しく人質になってもらおう。
「あんた達がいきなり怒鳴るから、無意識に防衛本能が働いたんだよ。悪く思わないでくれ」
「グルルル...... 」
「...... 」
「くそっ...... 」
刺青男とピアス男は、獅子の獣人らしく喉を鳴らし、髪を逆立て凄い形相で威嚇するレーヴェと、無表情なのに異様な殺気を放つマリアに気圧され、少しづつ俺から距離をとった。
よし...... これでむさ苦しい男達の包囲から抜け出せた。
さてと、レーヴェとマリアが戻って来たことだし本題に入ろう......
「ま、待て! 兄ちゃん! 兄ちゃん、さっきミカドって呼ばれてたよな!?」
「......あぁ。それがどうかしたのか?」
「やっぱり! 兄ちゃんがユリアナ殿下を救ったミカド・サイオンジか!」
「なっ......!?」
拘束されているスキンヘッド男が、ユリアナの名前を言ったかと思えば、次は俺のフルネームを声高らかに叫んだ。
だが、俺はこんな怪しさ満点スキンヘッド男の知り合いは居ない......
「お前...... 誰だ?」
「俺はシュターク! シュターク・バイル。そっちに居る刺青の男はクリーガ。ピアスの男はアルってんだ!」
「オーケー、自己紹介ありがとうシュターク。
さっきも言ったけど、俺はシュタークに聞きたい事がある。ちょっとだけ俺の話に付き合ってもらうぜ?」
「わかった! わかったからナイフを退けてくれ!」
「仕方ない...... 」
このままナイフを首に突き付けられた状態だと、シュタークも気が休まらないだろう......
だから俺は首元に突き付けたダガーナイフをそっとシュタークの首元から離した。
さて、この怪しさマックスのシュタークから何か有力な情報を得られる事を祈ろう......
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