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5話 決意




「は‥‥‥?」


咲耶姫の言葉に俺は言葉を失ってしまった。


「む、無理ってどう言う事だよ!?」


柄にも無く叫んでしまう。いきなり訳のわからない場所に飛ばされ、【元居た世界】に戻れないと言われれば、叫びたくもなるだろう。


「仕方ないじゃろう。七豫咫鏡(しちよのかがみ)が壊れてしまったのじゃから」

「壊れた? 俺が持った時は傷とか無かったぞ?」

「問題はその後じゃ。【元居た世界】で七豫咫鏡を持ったお主が、【この空間】へ来た時、七豫咫鏡はどうなる?自動的に元あった場所に戻ると思うのかえ?」


そう言われ俺はやっと理解した。


俺が七豫咫鏡を神棚から持ち上げてしまっていた事を。 持ち上げられた状態の物から手を離せば、手に持った物は重力に従い下に落ちるのは当たり前の事だ。


今の状況で言えば、七豫咫鏡を神棚から手に取る→ 七豫咫鏡を持っている状態で、こちらの空間に飛ばされる→ 俺が【この空間】に来てしまった為、【元居た世界】で七豫咫鏡を支える事が出来なくなり、地面に落下→ ガシャーン。


俺は蹲ってしまった。

自分の何気ない行動が、まさかこの様な事態になるとは想像していなかった。


「ははは、マジかよ‥‥‥」


若干涙目になりながら力なく呟く。


こんな何も無い所で今後生きてかなきゃならないのか‥‥‥ まだやりたい事すら見つかってねぇのに‥‥‥


「じゃが、それはこのまま何もしなければの話。帰れる方法が無いわけではない」

「え?」


蹲っていた俺は顔を上げた。顔を上げると、視線の先に咲耶姫の整った顔があった。


「ただし、この方法は時間がかかる上に危険なのじゃ」

「ど、どんな方法だ?」


俺は藁にもすがる思いで咲耶姫の瞳を見つめた。 紅色と黄色の宝石の様にキラキラと輝く咲耶姫のオッドアイに俺の顔が写っている。


はは、こんな情けねぇ顔してんのか俺。


「わらわの霊力が全盛期の頃まで戻れば、お主を元居た世界になんとか帰せる‥‥‥ のじゃが、お主がここに居ると七豫咫鏡の聖域が汚され、霊力が貯められぬ。故に、お主をわらわの目が届く範囲の異世界へ転移させよう。そこでお主は、わらわの霊力が全盛期レベルに戻るまで生き延びるのじゃ!」

「聖域が汚される? 異世界へ転移?」


名案じゃろう? と胸を張りながら言う咲耶姫とは打って変わり、俺はただでさえ色々な事が一度に起って混乱している所に突拍子も無い事を言われ、間抜けな顔をして咲耶姫が言った言葉を繰り返した。


さっきから混乱しっぱなしだ。


「どう言う事だ?」

「これも順を追って説明してやろう。まずはっきり言えば、今のわらわにお主を【元の世界】に戻せる力は無い。 理由はお主が七豫咫鏡の本体自体を壊してしまった事と、長年まともな手入れをされておらなんだ所為で、今のわらわには必要最低限の霊力しかないからじゃ」


俺は何とか理解に努めようと、大人しく咲耶姫の説明を聞く。


「じゃが、七豫咫鏡は所詮わらわを宿す為の器‥‥‥ わらわに霊力が戻れば器など無くても同じじゃ。それに霊力は本気を出して時間をかければ、ある程度回復する。

次に聖域が汚されるの部分の説明じゃが、お主が七豫咫鏡の世界に来てから少しづつじゃが、確実に、七豫咫鏡の世界が不安定になってきておる。 七豫咫鏡の世界を構成するわらわの霊力が、お主の霊力と交わり始めているのが原因じゃろう」


咲耶姫は静かな声で言葉を続ける。


「ここは元々七豫咫鏡‥‥‥ もとい、わらわの持つ純粋な霊力で作られた世界じゃ。そこにお主と言う異物が来てしまった。お主とわらわ、互いの霊力が共鳴しあい【この空間】に来た為初めの方こそ影響は小さいが、時間が経つにつれて影響は大きくなる。

お主がこのままここに居続ければ、いずれはこの七豫咫鏡の世界がお前を脅威として排除するか、【この空間】そのものが崩壊してしまうじゃろうな。要は人の体の構造と同じじゃよ」


俺は何とか冷静になる様努めながら、顎に手を置いて咲耶姫の言葉を噛み砕いた。


なるほど、そう言われると理解しやすい。人の体は様々な働きを持つ細胞達から成りなっている。


この場合で言えば、俺は七豫咫鏡の空間に侵入した病原菌で、このまま何もしなければこの空間は病魔に侵された人間の如く、いずれ崩壊してしまう。


そうなる前に、この空間の防衛機能が白血球やT細胞の様な働きをして、俺を殺しにかかってくると。


「そして、最後の異世界に転移の部分に繋がるのじゃ。

七豫咫鏡は【この空間】とお主が【元居た世界】を繋げる【道】の役割としての一面もあった。

じゃが、お主がその【道】たる七豫咫鏡を壊してしまった‥‥‥ しかし、【道】の役割を持つ神器は七豫咫鏡以外にも数多存在しておる!」


そう言いながら咲耶姫は右手を上にあげる。


次の瞬間、何も無かったはずの空間から、人が1人通れる位の穴を持つ魔法陣が数え切れないくらい出てきた。


「無限といって言い程ほど存在する世界。そしてその世界には、必ず1つは神器と呼ばれる物がある。そして【この空間】はその数多存在する神器を経由し、【道】として使い【別の世界】に行ける中間点でもあるのじゃ」


ここまで聞いて俺は疑問を感じた。


「ちょっと待て! 【元居た世界】に戻る事は時間がかかって難しいのに、その、【別の世界】に行くのはそんなに簡単な事なのか?」

「その疑問はもっともじゃ。わかり易く例えてやろう。そうじゃな、今居るこの空間は【卵】の外側で、お主が【元居た世界】は卵の内側という事になるのぅ」

「卵?」

「そうじゃ。 この状況に当てはめれば、お主はこの卵の中から神器と言う【道】を介して漏れ出してしまった黄身になる」


言葉を発しながら咲耶姫が空中に指をなぞる。すると何も無かった空間に平面な卵と思しきイラストと、脇で泣きベソを浮かべてる下手くそな男のイラストも浮かび上がった。


これ俺か? 仮に俺だったら名誉の為にこのロリババアに鉄拳制裁も検討しなければ。


「補足すれば、【別の世界】には七豫咫鏡に当たる他の神器‥‥‥ 【道】が有る為、【この空間】を経由してその【道】への転移が比較的容易なのじゃ。

つまり、この空間は【別の世界】と言う卵の中へ、神器を介して行く事が出来る【道】の中間点‥‥‥ お主に馴染みのある言葉で言うなら、パーキングエリアみたいな物じゃな。

お主は【元居た世界】で、この繋がっている【道】を壊してしまったのじゃ。【道】が無くなれば移動が難しくなる。当然じゃろう?」


なんか色々な言葉が頭の中を行き交い軽く頭痛がして来たが、俺はなんとか咲耶姫の言っている事を理解し、静かに頷いた。


「卵の内側と外側を繋げる【道】が無くなった事で、お主の居った【元居た世界】は硬い殻に覆われている事になる。

こうなってしまうと、お主を【元居た世界】に転移させるには、【別の世界】に転移させるより数百倍の霊力を使うのじゃよ。七豫咫鏡本体が無事なら、直ぐにでもお主を戻してやる事が出来たのじゃがな」


咲耶姫は息継ぎの為か、一旦間を置いた。


「さて、繰り返すようじゃが、お主がこのままこの空間に居続ければ、いずれ【この空間】は崩壊してしまうやも知れぬ。そうなってはわらわも不味い。じゃからわらわはお主に【別の世界】に転生してもらい、その間にお主が【元居た世界】に戻るための【道】を作る。

そしてその【道】が出来れば、再びお主をここに呼び戻すか、転移した先に有る神器を介してこの空間へ戻ってきてもらい、【元居た世界】に戻してやろうと言う訳じゃ。理解できたかの?」

「話を纏めると、俺が【元居た世界】に戻るには俺は【別の世界】に転移して、お前は霊力を貯め、【元居た世界】に繋がる【道】が完成するまで生き延びなければならない‥‥‥ って事か?」

「その通り」


おいおいマジかよ、ここに何もせず留まってたらいづれ死ぬかもしれないだって?


なら選択の余地なんて無いじゃないか。


この時俺は、咲耶姫の「他にも方法が無い訳では無いがの‥‥‥ 」と言う呟きに気が付かなかった。


「わかった。なら答えは1つだ。俺を【別の世界】に転移させてくれ」


俺は決意を固め、全てを見通しているかのような咲耶姫の瞳を見つめた。


ここまでご覧下さってありがとうございます!

まだ咲耶姫とのお話パートが続きます。

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

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