30話 手紙
午後13:15分。
俺は丘を降りる前に、時間を正確に把握する為、荷車と一緒に召喚した腕時計を見ながら緩やかな坂を下っていた。
後ろではゴロゴロと荷車の木製の車輪が転がる音がしている。
俺が荷車引き、荷車が滑らない様、セシルに後部を引っ張って貰いながら丘を下る。
荷車に付けたブレーキ装置とでセシルのお陰で、荷車が滑り落ちること無く丘を降れた。
そして家に着く頃には時計の針は3時を指していた。
荷車を引いた状態で身体能力強化を使うのは危険だと思い使わなかったので、だいぶ時間がかかってしまった。ふと、家のドアを見るとドアの隙間に手紙が挟まっていることに気が付いた。
俺は手紙らしき物を手に取る。
「手紙か?」
恐らく手紙だろう物を手に取り、よく観察してみた。表には英語の筆記体に酷似した文字が書かれており、チェスの駒や剣等を模した判子が押されている。
さてさて、困った。表に書かれている文字が全く読めない。
「なに?手紙?」
「あぁ、ドアの隙間に挟まる様にして入ってた」
後ろからヒョコッと顔を出したセシルが俺の手元を覗いてくる。ここはセシルに手紙の内容を読んでもらおう。
「セシル、悪いけどこの手紙に書かれてる事を読んでくれないか?まだ字が読めなくてさ...... 」
「うん、分かった貸して?なになに......」
手紙をセシルに渡すと、ジックリと目を通していく。暫くして手紙を読み終えたセシルが俺の方を見た。
「これノースラント村のギルドからの手紙だね。
ミカドの処遇が決まったみたいだから、明日ノースラント村のギルド支部に来て欲しいって書かれてるよ」
「へぇ、もう処遇が決まったのか...... 早いな」
俺の処遇が決まるまでノースラント村ギルド支部の副支部長ミラは、早くて2日かかると言っていたが、今日がその2日目、しかも午後になったばかりだ。
ミラはノースラント村ギルド支部には仕事が出来る者しか居ないと言っていたが、その言葉は正しかった様だ。
「そう言う事なら、明日はノースラント村に行かなきゃな.....」
「ねぇミカド。私も一緒に行って良いよね?」
「一緒に?ん〜......」
この言葉を聞いて、俺は少し悩んだ。
いくらブラウンヴォルフとヴァイスヴォルフの討伐の件で、盗賊の疑いが晴れたとは言え、まだこの処遇とやらが俺にとって良い方向で決まったとは限らない。その可能性があるので、セシルを一緒に連れて行くか迷ったのだ。
「どんな処遇だろうと、私はミカドの味方だし、それに明日ついでにギルド登録するつもりなんでしょ?
私なら字もある程度なら書けるし、私も一緒に行った方がお得じゃない?」
なにがお得なのかよく分からないが、確かに字を書く場面もあるだろう。
この世界の文字を書けない俺にとって、この提案はありがたい。
よし、明日はセシルも一緒に連れて行こう。
「分かった。明日はよろしく頼むよ」
「頼まれました」
お互い笑い合いながらドアを開けて家に入る。
『グルルル......』
家に入ると同時に、留守番を任せていたロルフに威嚇されました。
「ろ、ロルフ...... さっきは悪かったよ...... だからそんなに警戒しないでくれって......」
俺は両手を挙げ何も持っていないアピールをしながら、毛を逆立てて威嚇するロルフに歩み寄る。
数時間前のベレッタの発砲音を聞いて以来、どうやら警戒されてしまっている。
火薬の匂いがするのも原因だろう。
「大丈夫だよロルフ。ミカドは何もしないから」
思いっきり苦笑いを浮かべる俺の横をセシルがすり抜ける。
そのセシルは、まるで聖母の様に慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、優しい声色で語りかけながらロルフに近寄った。
当のロルフはセシルに対しても多少威嚇していたが、セシルが目の前に行くと、この白い毛玉はシュンと尻尾を下げ、自ら頭を差し出し撫でられる。
さすがセシル...... ロルフの警戒心を笑顔1つで解いたのか。まるで女神マリア様の生まれ変わりのようだ。
セシルに抱き抱えられ、大人しくなったロルフへ歩み寄った俺もロルフの頭を撫でる。
「よしよし...... ごめんよ。お前を怖がらせようとベレッタを撃った訳じゃないんだ......」
ロルフのサラサラとした鬣が指の間を流れるのが気持ち良い。そんな感触を楽しみながら、ロルフに語りかける。
俺の言葉に返事をする様に、ロルフがワンと吠えた。
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その後は特にする事もなく、セシルが作ってくれた遅めの昼食を楽しみながら雑談したり、この世界の文字を教わったり、ロルフの寝床を作ったりした。
この世界の文字は英語を筆記体にした様な文字だったおかげで、比較的覚えやすかった。
覚えやすかったと言っても、まだ簡単な文字しか読み書きできないけど......
ロルフの寝床は薪用の丸太等を流用して使って製作した。
短く切った薪用の丸太を4本垂直に立てて、その上から薄い木板を釘で打ち付け、藁を大量に乗せただけの簡単な物だが寝床は寝床だ。
これで今朝みたいな胸の圧迫感で悩まされる事はないだろう。
そんなこんなで22:00頃には夕飯を食べ終え、太刀を使った素振りと剣技の訓練をこなした俺は早めに布団に入った。
余談だがこの世界の食事は元居た世界で言う所の、フランス料理やイタリア料理に近い物だ。
ここの食事に飽きた訳ではないが、俺は生粋の日本人。たまには米が食べたいと思い、想像した物を形にする能力でお米や納豆などを召喚しようとしたが、お米や納豆は召喚規制の1つ「生命体は召喚出来ない」に当てはまるらしく、召喚出来なかった。
米や納豆は生命体に含まれるのか.....
この日、俺の中でこの世界で生き残ると言う目標の他に、いつか米と納豆を食べるという目標が出来たのだった。
朝6:00
小鳥達が朝の挨拶をしているかの様に鳴いている。
「んぐ......」
俺は先日と同じ様な胸への圧迫感で目を覚ました。仰向けになったまま目を開ける。
『スピー...... スピー......』
やはりこの胸への圧迫感は白い毛玉が、俺の胸の上で心地良さそうに眠っているのが原因だった。昨日せっかく作ってやった寝床を使わず俺の上で寝ている辺り、此奴は俺を舐めている気がする。
以前元居た世界で読んだ本には、ペットと飼い主が同じ布団で寝るとペットは上下関係が分からなくなり、言う事を聞かなくなったりすると書いてあった。
此奴が此処に来た初日にベッドで寝ている事を怒らなかったから、ロルフはここで寝て良いと思ったのだろう。
ここはいっちょ叱りつけて上下関係をハッキリさせる必要があるな......
「おいこらロルフ」
気持ち良さそうに寝ているロルフを起こすのは多少気が引けたが、俺の方が立場が上だと分からす為に心を鬼にしてロルフの首元を掴み、持ち上げる。
『くぁぁ〜......』
体を持ち上げられたロルフは口を大きく開き、欠伸をしながら目を開けた。
その目には「なぜ起こした」と抗議の色が込められてる様な気がしたが、俺は気にしない。
なぜなら俺の方が立場が上だからだ!
「おいロルフ、昨日お前の寝床を作ってやったろ?お前はそっちで寝なきゃダメだ」
『ワウ』
「あっ」
俺は抗議の視線を送るロルフを見つめながら語りかける。ロルフは地味に頭が良い。
これまで俺やセシルの言った事に吠えて反応してきたから、言葉の意味というか、ある程度のニュアンスは分かっている筈だ...... だが......
当のロルフは、俺の言葉を知らんぷりする様に顔を背け、更に体を捻って首元を掴む俺の手を振り払った。
『スピー...... スピー...... 』
そして拘束から逃れた毛玉は、ベッドの上で再び丸くなり眠りだした。
よし、確信した。此奴は俺を舐めている。
「やれやれ...... 」
再度怒ってやろうかと思ったが、此奴の気持ち良さそうな笑顔を見ていると別に良いかと思えてきてしまった。
「はぁ...... 今日は見逃すけど、明日また同じ事をやったら、今度こそちゃんと叱ってやる......」
叱ると言いながらも、我ながら甘いと苦笑いした俺は、素振りと剣技の訓練朝の部をやる為にベッドから立ち上がった。
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