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ロリババア神様の力で異世界転移  作者: 蓮
第1章 異世界
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24話 心の強さ




俺は右手に動く白い毛玉、左手にメモ帳を持ちながらノースラント村を足早に出ようとしていた。


日もだいぶ傾いてきた事と、彼処(ノースラント村)の人達の好奇の視線に耐えられなかったからだ。


村の入り口付近まで来くと、人はそれなりに疎まばらだったが、何人か村の外に出て行く人がいる。

恐らく俺がヴァイスヴォルフを討伐した事で、発令されていた外出禁止勧告が早くも解除されたのだろう。


それにしても...... ここでもジロジロ見られてる。皆、あからさまに俺を見て、避けてるのが分かった。


「避けられるのって結構心にくるな...... 」


心に僅かながらダメージを負いつつ、俺は村の入り口から外に出た。今からカルロさんを始め、ルディに殺されていった狩人達の家族の元へ行き、彼らの最後を伝えに行かなければ......


俺に大人しく抱きかかえられている白い毛玉を地面に下ろすと、俺は一番近くに住んでいるカルロさんの家族の元へ向かった。


ミラから教えて貰った情報を頼りに5分程歩くと、村の外れに在るカルロさんの家に着いた。


木造平屋建てのコテージ風の家だが、家に明かりは無く静まり返っている。でも人が居る気配はする.....

とりあえずルディの子供をつれて行く訳には行かないので、家から少し離れた木の枝にリードを結び固定しておいた。


「動くなよ?」


ワン!と俺の言葉に元気に返事をする白い毛玉...... 意味分かってるのかね......

カルロさんの家の前に着た俺は、一度深呼吸をしてドアの前に立った。


コンコンコン......


俺は緊張しながら家と同じ木製のドアをノックする。俺は怖かった。何を言われるか全く分からないからだ。


人は悲しみのどん底に一気に突き落とされると心がボロボロに壊れてしまうか、自らの不幸を呪い、自分以外の全てのものに怒りをぶつけ爆発する。


俺はこれが怖かった。皆を助けられなかった悲しみと、何故もっと早く行動しなかったのだという自分へ対する怒り。


これら負の感情を残った家族の人から向けられたら?

俺に感情をぶつける事も出来ない位に心が壊れてしまったら?


そう考え出すと怖くて逃げ出したくなるが、逃げちゃダメだ...... ここで逃げたら死んでいった皆に顔向けできない。


暫くしてゆっくりドアが開いた。

開いたドアの隙間から、目を腫らした30代くらいの女性が顔を覗かせていた。


「何方ですか......」


声に生気が無い。目が腫れているという事は泣いていたという事だ......

痛々しい女性の姿を見ながら俺は俯き気味で口を開く。


「俺は帝(みかど)...... 西園寺帝(さいおんじ みかど)と言います。

先日この家のカルロさんがギルドで受けた依頼、ブラウンヴォルフ討伐に同行させてもらった者です......」

「っ!か、カルロは......夫は......」

「...... カルロさんはブラウンヴォルフ討伐中に遭遇したヴァイスヴォルフと勇敢に戦いました......ですが僅かに力及ばず...... ギルドの組員として、狩人として立派な最後でした......これを......」


死んでいったカルロさんを思い出し、目に涙が浮かぶ。視界が涙で微かにぼやける中、遺品が入った袋の中からカルロさんの名前が刻印されたナイフをカルロさんの奥さんに差し出す。


差し出す手が微かに震え、ナイフがカタカタと鳴っていた。


カルロさんの奥さんは何も言わずに俯いた。肩が震えている。


「やはり夫は亡くなったのですね...... 夫の最後を看取ってくださっただけでなく、形見の物まで...... ありがとうございました......」


顔を上げた彼女は、俺が差し出したナイフを受け取ると大事そうに胸に押し付ける。

大粒の涙を流しながらも、優しげな微笑を浮かべる彼女を見て俺は感じた。


この人はなんて強いんだろう......


この人は自らの不幸を呪わず、真摯に現実を受け止められる強さを持った人だった。

彼女は心のどこかで既にカルロさんは...... 夫は亡くなっていると感じていたらしい...... 夫婦としての絆からか...... 俺はそんな2人を引き裂いてしまった事に負い目を感じ、頭を下げる。


「ごめんなさい...... 俺にもっと力があればカルロさんは死なずにすんだのに...... 助けられなくてごめんなさい......」


改めて人の死というものに押しつぶされそうになる。

涙を堪え切れず、頭を下げて謝り続けた......

そんな俺を温かいものが包み込む。顔を上げると、カルロさんの奥さんが俺を優しく抱きしめていた。


「貴方が負い目を感じなくて良いんですよ..... 貴方は貴方の出来る事を精一杯やってくれたのでしょう? カルロも私もそれだけで救われます...... それに私はこれでも狩人の妻...... いつかこの様な日が来るとは分かっていました。

あの人と会う事は出来なくなってしまいましたけど、夫は【ここ】に居ますから...... だから貴方は夫の分まで生きてください...... 」


カルロさんの奥さんは、まるで聖母のように優しい口調で俺に語り掛ける。その声色は、俺の冷え切った心を優しく暖めてくれている様な、凄く心地いい声だった......


奥さんは俺の頭を両手で優しく包みこんで胸に押し当てる。

トクン......トクン...... と心地いい音がする...... カルロさんは【ここ】に..... 心の中に居ると伝えたかったのだろう。


やっぱりこの人は強い...... 今の俺には無い【心の強さ】を持っている。

俺もこの人みたいに強い心を持たなければ......

でも今は少しだけこのままで......



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



カルロさんの奥さんの胸で静かに涙を流していた俺を、奥さんは泣き止むまで頭を撫でてくれていた。

暫く涙を流した俺は目を拭い、立ち上がる。


「ごめんなさい...... 取り乱してしまって......」

「良いのよ。気にしないで」

「ありがとうございます...... 私はこれから他の家族の皆さんの所にも行かないといけないので、これにて失礼します...... それと、ここの丘の頂上にカルロさんのお墓があります...... 」


俺はメモ帳の1ページにカルロさん達が眠っている丘までの簡単な地図を書きページを破いて渡す。

大まかな場所と方角しか描けなかったが、この辺りに住んでいる人ならわかるだろう......


「お墓まで作ってくれたのね..... 本当にありがとう...... 」

「いえ......では失礼します.....」


入り口に立つ奥さんに向かって頭を下げる。


奥さんは優しい笑みを返してくれた。

これがこの世界に住んでる人の心の強さか...... 常に危険と隣り合わせの世界だから、価値観や死生観が俺が住んでいた時代と異なっているのか......


そんな事を考えながらルディの子供の場所に行き、リードを持って別の狩人の家族の下に向かった。


その後2人の狩人の家族の下に行きその最後を話したが、この2人の家族もカルロさんの奥さんのように皆強い心の持ち主だった。


残された小さな子供でさえ「俺が父ちゃんの代わりになるよ」と、涙を目に一杯貯めながら言っていた。

やはりこの世界の人の死生観は、俺の居た世界と異なっているようだ.....

まさに戦国時代に生きていた人の様に皆が皆、生死について達観していた。


全ての家に行き、死んでいった彼らの最後を伝え終わる頃には、例によって辺りは真っ暗になっていた。俺とルディの子供は並んでセシルが待つ家に向かって歩みを進めている。

俺は改めて己の心の弱さを痛感した。

トボトボと歩き続け、家に付いた頃...... 体感時間で夜9時を過ぎていたと思う。


時間が直ぐに分からないのって地味に辛いな......

近いうちに腕時計とか召喚したい...... いやそもそもこの世界に1分とか1秒って単位あるのか......?あと曜日とかもあるのか気になる。


俺は意識的に考えを切り替えようと余計な事を考える。

こうしなければ、罪悪感で押しつぶされてしまいそうだからだ。


またセシルに聞かなければならない事を考えながらドアに手をかける。家には光が灯っており、セシルが起きているのが分かった。


コンコン


一応ノックをしてからドアを開けて入る。

こいつの事も決めなければならないから、ルディの子供も一緒だ。


「ただいま」


姿が見えないセシルに聞こえる様に、大きめの声で俺が帰宅した事を伝える。

家の奥からドタバタと音が聞こえ段々近づいてくる。


「ミカド......!おかえりなさい。大丈夫だった?」

「大丈夫?何だが?」

「何がって...... ミカド、ノースラントのギルド支部に行って拘束されたんでしょ?家にギルドの人が来て驚いたんだから」


そう言えばそうだ。

盗賊扱いされて、一時拘束されてたな...... 受付譲さんが報告で調査隊の人がセシルに事情を聴きに行ったって言っていたし.....

まぁ拘束だったとは言え、あんまり拘束されていたという実感はないけど。


そんな事を思いながらセシルを見る。目が腫れていたのも痛々しい。

口調などは今まで通りだが、無理をしているのが分かった。だから俺はその事に触れないように話し続ける。


「あぁそう言えばそうだった。迷惑かけて悪かった...... ギルドの奴等に変な事されなかったか?」

「別に迷惑じゃないし、変な事もされなかったよ。それに変な事してきたら叩き返すんだから!」


ルディを見て悲鳴を上げていた奴がよく言うぜ......


「で、その子は?」


セシルが俺の後ろで座っているルディの子供を興味深そうに見る。

さて、どうしよう...... 素直にこの毛玉はルディの子供で、何故か俺に懐いて付いてきたと言うか? だがセシルの父、ダンさんは此奴の親に......


「その毛並み.....もしかしてヴァイスヴォルフの子供?」


どう説明しようか考えていた俺に、セシルはいきなり確信を付いてきた。

確かにその通りだが......

さすが狩人に育てられただけある...... 感の良さは流石だ。


「あぁ...... 今日ノースラント村に行く途中に此奴に会って、それ以降ずっと付いて来ちまった......

森に返そうとしたんだけど、何故か離れなくて仕方なく此処につれて来たんだ......

どういう訳か、此奴はセシルが察した通り、生まれた時から白い毛並みだったみたいだ」

「そっか..... なら取り敢えずその子も一緒にご飯食べよう?まずは腹拵え!だよ」


ここで嘘を言っても仕方ないと判断した俺は、素直に此奴が此処に居る経緯を話した。

セシルは一瞬複雑そうな顔をしたが、少し泣きそうな笑顔になって俺の手を掴み、家の奥に引っ張っていく。


俺は何も言わず黙って引っ張られていった。


家のリビングに付くと机の上にはライ麦パンとジャガイモとベーコンのスープ。薬草と野菜のサラダ。メインデッシュの獣肉で作られたと思しきソテーが置かれていた。


まだ出来立てらしく、スープとソテーからは湯気が立ち上っていて良い香りが漂ってくる。

セシルは俺をイスに座らせて台所の奥に姿を消す。


「ギルドの人達と話しをした所為で、ご飯の用意が遅れちゃったけど...... 結果的には丁度良かったかな?」

「そうだな。うん、セシルのご飯はどれも相変わらず美味そうだ」

「えへへっありがと。そこのおチビちゃんにはこれね」


どうやらセシルは此処の分のご飯を用意していたみたいだ。


セシルは小ぶりな陶器製の平皿に、金属製のボトルに入れられたミルクを注ぎ、床に置いた。

白い毛玉は皿の前まで行くと、スンスンと臭いを嗅ぎそしてぺチャぺチャとミルクを飲みだした。


「良かったのか?此処の親はダンさんを......」

「うん、良いの。この子もルディ達も生きる為に一生懸命だったんだよ...... だから私はこの子も、この子の親も恨んでないよ。始めはちょっと恨んじゃったけどね..... 」


自虐気味に乾いた笑みを漏らすセシル。

あぁ...... やっぱセシルも強かったんだな......セシルは自分の親を殺した者たちを許した。


それもたった一日で......


俺はセシルを心の優しい子だと知っていたが、優しいだけではなく、相手を許せる強さも秘めていたのだ。


「そうか..... んじゃ早く食べていいか?今日何も食べてないから腹へって死にそうだ」

『ワン!』


場の空気を換えようと、ワザとおどけた感じでセシルに笑いかける。

俺の隣でミルクを飲んでいた毛玉も、口の周りをミルクで汚しながら俺の言葉に賛成するかのような声を上げた。


「そうだね。温かいうちに食べちゃおう!」

「あぁ!頂きます!」


セシルは優雅に、俺は勢い良く両手を合わせ頂きますと言い、早速メインデッシュの鴨肉のソテーを頬張った。



ここまでご覧いただきありがとうございます!

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