178話 サーヴェラからの頼み事
「よーし、それじゃマリアは偵察科を指揮して前方の索敵に向かってくれ。標的が見つかったらすぐに報告するんだぞ」
「ん‥‥‥ 皆、行く」
「了解ですっ!」
「「はい!」」
「気を付けろよ〜! で、ドラルは支援科を率いて周囲の安全確認をするんだ。 もし民間人が居れば急いで避難させてくれ」
「わかりました。支援科総員、行きますよ」
「「「「了解っ!」」」」
「セシルは歩兵科と一緒に拠点の設置を頼む。レーヴェ達攻撃科は協力して、持って来た備品の積み下ろしだ」
「はーい! 皆、早速働くよ〜!」
「「「「はい! セシル副隊長!」」」」
「おう。聞いたな皆〜!」
「「「「サーイェッサー!」」」」
俺は居並ぶ守護者の隊員達に事前に決めてた指示を飛ばす。
指示を受けた偵察科隊長のマリアはフロイラ他、隊員2名と共に電気式二輪駆動車‥‥‥ 二駆に颯爽と跨る。
彼女達4名は慣れた手付きでアクセルを回し、地肌が剥き出しの緩やかな山岳地帯を目指し走り出す。
傍では、守護者副隊長のセシルが22名の歩兵科隊員を幾つかのグループに別け、手際よく今回の拠点となる仮設テントを組み立て、レーヴェ率いる攻撃科の4名は5台の電気式四輪駆動車‥‥‥ 四駆の荷台から物資を下ろしていた。
そんな彼女達の上空では、ドラル率いる支援科隊員4名が舞う様に空へ駆け上がると、其々東西南北に散って行った。
「良い手際ね、心強いじゃない!」
「サーヴェラか。まぁな、鍛えた甲斐があるってもんさ」
「お待たせしたミカド殿」
「ん、ビルドルブ【作戦参謀】。作戦は決まりましたか?」
「うむ、問題ない。我等は迎撃、サーヴェラ殿達は前方にて標的を誘い出して貰う事となった」
「了解しました」
「余り力になれなくて悪いわね。でもこの依頼、正直私達じゃ少し荷が重いのよ」
「我等の所為で迷惑をかけて申し訳ない‥‥‥」
キビキビと動く隊員達を見て頼もしい気持ちに浸っていると、少し離れた場所で打ち合わせをしていた魔法兵団の隊長サーヴェラと、守護者の【作戦参謀】に仮就任したビルドルブが戻って来た。
申し訳なさそうにサーヴェラが眉間に皺を寄せると、ビルドルブも同様に皺を寄せた。
「まぁ2人共余り気にすんなよ。所で作戦参謀、今回【遊撃科】と【砲兵科】の布陣は?」
「は、遊撃科は魔法兵団の援護に回らせ、砲兵科は標的が逃げた場合等を想定し、拠点近くの丘の上で待機してもらう‥‥‥如何か?」
「問題ありません、それでお願いします」
遊撃科と砲兵科。そして作戦参謀。
これはヴィルヘルムがより多彩な戦術を可能とする為に増設された兵科、並びに役職だ。
作戦参謀にはこれまで知識と経験を活かし、全隊員のサポートを行って貰っていたビルドルブを充てた。
これまでは俺が依頼毎に各兵科の布陣や作戦を決めていたのだが、これからはビルドルブと相談して作戦を建てる事になる。
ビルドルブに作戦参謀‥‥‥ 所謂軍師的立場を担ってもらう事で、軍で培った知識と経験を遺憾なく発揮してもらうのが狙いだ。
最もまだ正式に作戦参謀となった訳ではなく、あくまで暫定的な配属だ。
これは遊撃科に仮配属となっているベリトやサブナック、リズベル・リリベル他、全兵科に仮配属しているヴィルヘルムの【第弐期隊員】も同様だ。
ちなみに、第壱期隊員はフロイラやティナ達だ。
第弐期隊員達は残り1ヶ月弱の訓練を問題なく乗り越えれば、そのまま仮所属している兵科に正式に配属となる。
今回の依頼に彼女等【第弐期隊員】を同行させたのは、彼女等に俺達が普段どの様に標的を狩っているのか体験させる為だ。
話を戻して‥‥‥
遊撃科には元エルド帝国将軍のベリトを隊長として置き、補佐にはリズベルを充てた。その他サブナックとリリベルそしてロルフが配属している。
遊撃科はその名が示す様に戦場における遊撃‥‥‥ つまり予め攻撃目標を定めず、状況に応じて臨機応変に動き、敵を攻撃・牽制したり味方の援護に回る事を主な任務にしている。
ヴィルヘルムでは予備戦力的な立ち位置になるが、これは遊撃科が扱う武器に関係があった。 遊撃科隊長のベリトやサブナック、リズベル達は其々が手に馴染んだ剣やメイス、大鎌を扱う事を選んだからだ。
無論ベリト達にも銃火器の扱いは学んで貰ったのだが、「銃火器は優れた武器ですが手に馴染みません。 戦場には使い慣れた武器で赴きたいです」と言ったベリト達の意思を尊重し、俺は彼等に以前の武器をそのまま使う事を許可した。
自分に合わない武器を無理に使わせてもトラブルの元になるだけだしな。
勿論彼等には【専用の銃火器】を与えてはいるが、結果として彼等が扱う主兵装では歩兵科や攻撃科等、他兵科との連携に不安を残す事となった。
しかし与えた専用の銃火器を抜きにしても、彼等の戦闘能力は銃火器を扱う他兵科の隊員達と比べて遜色ない。
そこで俺は、彼等を1つの兵科に纏め比較的自由度の高い遊撃戦力とする事を思い付いた訳だ。
そしてもう1つの新設兵科、砲兵科は長射程、高威力の火砲を駆使して敵を【面】で迎え撃つ事を主眼に置いた部隊だ。
所属隊員はティナ・リート組で、彼女達は歩兵科から転属となっている。
この砲兵科を増設したのは、先の1週間戦争の際使用した多連装ロケット発射機、カチューシャの有用性を再認識したからだ。
もし今後大量発生した魔獣の大規模討伐の依頼があった際、この様な高火力を有する砲兵部隊が居れば、面で敵を殲滅出来る。そういった事態を想定し、俺は砲兵科を作った。
尚砲兵科は、その時々の依頼に合った火砲を運用する。
今回で言うと、以前俺が召喚した対戦車砲8.8cmPaK43の元となった対空砲【8.8cm FIaK18】に車輪を付け、四駆で牽引して来た。
ちなみに対空砲とは、主に戦闘機や爆撃機を撃ち落とす為の大砲の事を指す。
ぶっちゃけ今回の依頼は、標的が標的なので砲兵科は本来の運用とは違う事をしてもらうのだが。
「ミカド、拠点の設営と物資の積み降ろし完了したよ」
「ん、お疲れさん。ありがとな」
『こちら支援科ドラル。近辺に民間人と思しき存在は確認出来ません。並びに周囲の安全確保完了しました』
『こちらマリア‥‥‥ 現在ポイントE4。ルノール技術王国軍の報告通り、ポイントE5に標的を視認‥‥‥』
『ミカド、砲兵科も準備完了よ』
「了解した。皆、一旦集合してくれ」
そんな事を考えていると、セシルから拠点の設営完了の報告が入る。
同時に、魔通機からドラルとマリア、そして丘に布陣を終えたティナからの報告が入った。
ドラル達が戻ってきたのを確認した俺は、各兵科毎に並ぶ守護者の隊員と魔法兵団の前に立った。
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「それではこれより本日の依頼の最終確認を行う! サーヴェラ、頼む」
「えぇ。皆! 今回の依頼は事前に説明した通り、野生化した邪龍の討伐よ!」
隣に立つ小柄なサーヴェラが、そこそこ迫力のある声色で並ぶ守護者、魔法兵団隊員達に語りかける。
約1ヶ月前に言われたサーヴェラからの頼み事。
それは邪龍の討伐だった。
「この邪龍は先の大戦の際、ラルキア王国国境で撃退されたアスタロト将軍が率いる龍騎兵隊が使役していた魔獣!
撃退された邪龍は、戦火を逃れルノール技術王国の【黄昏の山岳】に流れ着き野生化したわ! 」
今回の依頼の標的、邪龍は本来南大陸に生息している魔獣なのだが、サーヴェラが説明した通り、その魔獣をエルド帝国軍は1週間戦争と呼ばれるエルド帝国対諸外国戦争の際に兵器として使用した。
南大陸で捕獲された邪龍は、エルド帝国軍覇龍7将軍のアスタロト大将軍指揮の下、ラルキア王国に攻め入る。
それを義勇兵として戦線に加わっていた俺達が撃破したのだが、生き延びた邪龍はルノール技術王国の【黄昏の山岳】と呼ばれる山岳地帯に逃げ延び、そこで野生化してしまったらしい。
ラルキア王国やその他の国は、現在エルド帝国軍に対抗する為の軍事同盟を結んでおり、邪龍を使役した部隊の事も各同盟国に伝わっていた。
声を張り上げるサーヴェラを見て、ビルドルブやベリト、サブナックが申し訳なさそうに顔を顰めている。
先程ビルドルブがサーヴェラに「我等の所為で迷惑をかけて申し訳ない」と言ったのは、こう言った理由があったからだ。
「ルノール技術王国軍は邪龍を討伐しようと、既に何度か軍を派遣したのだけど全て失敗。
そこで私達に邪龍の討伐の依頼が来たの。 でも、正直私達魔法兵団じゃ邪龍を討伐出来るか自信がないわ‥‥‥」
「そこで俺達守護者は部隊同盟の責務を果たす為、魔法兵団のサポートに来た訳だ!」
この邪龍の討伐は本来ルノール技術王国軍が行う予定だったのだが、何度挑んでも歯が立たなかった。
そこでルノール技術王国軍は魔術士で構成されたギルド部隊、魔法兵団に邪龍の討伐を依頼した。
しかしサーヴェラは100%の確率で邪龍を討伐出来る確証が持てず、ギルド部隊同盟を締結した守護者と合同で、この魔獣の討伐をする事にしたのだ。
ギルド部隊同盟は相互扶助、そして依頼の融通や情報交換を行う事を目的とした物。
部隊同盟を結んだお陰で、この様に依頼が来る。 先月結んだ同盟の恩恵が早くも舞い込んだのだ。
「では今回の作戦を通達する! ビルドルブ作戦参謀、お願いします」
「うむ、偵察科の報告によれば邪龍達は此処から約2キロ先のポイントE5に居るのが確認された。
そこで先ずは魔法兵団が邪龍へ接近、攻撃を加えてポイントC2の渓谷へ誘い込む! 」
作戦参謀のビルドルブが詳しい作戦概要を隊員達に告げる。
そして数分後、作戦が始まった。
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「行くわよ! 」
「「「「「はっ!」」」」」
「アタァァック!!」
バァァァァアン!
「ギャォオォオォオ!!」
「食い付いたわね! 皆、急いで後退して!」
「「「「「は、はい!」」」」」
「遊撃科、後退するサーヴェラ殿達を援護します!」
『承知!』
「行くぜ! 龍騎兵隊の尻拭いだ!」
「来た来た来た〜!」
「邪龍‥‥‥ 懐かしいわね。こうして至近距離で見るのは南大陸に居た時以来かしら」
「ちょっとアンタ、何懐かしんでるのよ! あぁ!来たわ!! 」
早速作戦に移った守護者の遊撃科と魔法兵団の混成部隊は、マリアが邪龍を確認したポイントに急行した。
そこには事前にルノール技術王国軍から教えてもらった通り、身体の所々に傷を負った5匹の邪龍が居た。
サーヴェラ達はその邪龍達を視認すると共に、手にした魔撃槍の一撃を叩き込む。
単発式で連射が効かないが、そこそこの威力がある攻撃を受けた邪龍。 しかし魔撃槍の一撃は命まで取る事は叶わず、数枚の鱗を剥ぎ取るに留まる。
だがこれはサーヴェラも想定のうち。
彼女達を己が存在を脅かす敵だと認識した邪龍は、怒りを露わにして咆哮をあげた。
体長5mを超す漆黒の龍達はその大きな翼を広げ力強く羽ばたく。 何人も侵す事の出来ない大空を我が物顔で飛ぶ獣は、背を向けて後退する魔法兵団目掛け滑空、もしくは口から火を噴いた。
「っと、 そう慌てんなよ! うらぁぁあ!」
「業火乃一突!」
「牽制射撃! リリベル!」
「はーい!」
『ワォォォオン!!』
上空から襲い掛かる5匹の邪龍。 後30m程で魔法兵団の背後に触れる距離まで迫った黒き龍達の前に、4人と1匹が滑り込む。
彼等は帝が彼等の専用にと、棍棒や大鎌を固定出来るアタッチメントを付けて召喚されたオフロード式の電気式二輪駆動車に跨っていた。
身体能力の高い彼等はまるで手足の様に二駆を扱い、襲い来る黒い獣を見上げる。
その中の1人、不逞な笑みを浮かべて二駆に跨った遊撃科のサブナックは、なんと二駆のアクセルを回し猛スピードで邪龍に接近。 アタッチメントに付けていた巨大な棍棒を手に取ると、邪龍の顔を思いっきりぶん殴った。
顔を殴られた邪龍は角をへし折られ地面に叩き落とされる。
その左右では、ロルフやベリト達が牽制攻撃等を行い邪龍の接近を防いでいた。
「邪龍にメイスを叩き込む人間が居るなんて‥‥‥」
と、顔を後ろに向けつつ走る魔法兵団の隊員が呟いた。
そのサブナックは、どうだと言わんばかりの態度で目を細めた。
「ヒュゥ〜 さすが改良された破滅棍。傷1つ付いてねぇ。獅子乃盾も前より扱い易くなってるし‥‥‥ サーヴェラ、いい仕事だ!」
「そりゃどうも!! それよりちゃんと援護してよね!?」
紛いなりにも此処は油断すれば命を落とす戦場。にもかかわらず、サブナックは余裕な態度で必死に逃げるサーヴェラに声を掛けた。
声を掛けられた当の本人は額に汗しながら懸命に走っているのにである。
兎も角、遊撃科とサーヴェラーズは作戦通りに邪龍を誘い出す事に成功した。
今回の作戦は、山岳部に居る邪龍を近くの渓谷に誘い出し、挟撃を仕掛けるという物。
事前にルノール技術王国軍から伝えられて居た情報では、この地に逃げ延びた邪龍の総数は5匹で丁度遊撃科の総数と同じ。
そこで作戦参謀ビルドルブは、遊撃科の面々に1人で1匹の邪龍に当たる様指示した上で、魔法兵団の援護を任せた。
同時に魔法兵団には邪龍を挟撃に適したポイントC2の渓谷へ誘導させ、攻撃科を主軸としたヴィルヘルムに攻撃させる作戦を思いついた。
「サブナックお前‥‥‥ 邪龍に殴りかかるなんて正気か?」
蛇行し魔法兵団に邪龍が接近しない様に牽制するサブナックの元へ、同じくオフロード式の二駆に乗ったベリトが駆け付ける。
彼の顔には苦笑いが浮かんでいたが、内心では友の奮闘を見て頼もしさを感じていた。
「仕方ねぇべ? 俺の破滅棍はベリトの業火乃剣みてぇに遠距離攻撃は出来ねぇんだからよ」
「ならリズベル殿達の様にミカド殿から借りた武器を使えば良かっただろう」
「この程度の魔獣に使うまでもねぇよ」
ベリトが手にした独特な形状の剣、【業火乃剣】が太陽の光を受けてキラリと輝く。
この刃が波打つ様な剣もサブナックが持つ棍棒、【破滅棍】や巨大な盾【獅子乃盾】と同じく、サーヴェラが改良を施した業物。
業火乃剣は、使用者であるベリトの魔力を注ぎ込む事で、刀身に炎を纏う。 改良されてより長時間、より多くの炎を纏える様になった業火乃剣は、ベリトの扱い次第で攻守をバランス良く使い分けれる武器となった。
先程ベリトは邪龍が噴いた火に対し、真正面から業火乃剣を突き付けた。
その瞬間、刀身が赤々と燃え炎を噴き出し、火炎放射の様に邪龍が噴いた火へと向かい、そして相殺した。
銃火器では邪龍の火を打ち消す事は出来ない。 しかしベリトは、自身の愛刀の力を余すとこなく発揮し魔法兵団に襲い来る業火を防いだのだ。
「ベリトさんサブナックさん、ポイントC3まで来ました」
『サーヴェラ殿達は無事主人殿達と合流した。我等も急ごう』
「流石に【腕部機銃】じゃ邪龍は倒せないからねぇ」
駄弁るベリト達にリズベル・リリベル、そしてロルフも合流した。
リズベル・リリベル。そしてベリトとサブナックの右手もしくは左手には、金属と強化プラスチックで形成された無骨な塊が付いている。
これが剣や大鎌を使用する遊撃科の面々に帝が与えた専用の銃火器だった。
名前は腕部機銃。
その名が示す様に、右手、もしくは左手に付けて使用する帝発案のオリジナル銃火器で、外見はP90を2回り程圧縮した様な見た目になっている。
使用する弾丸はP90と同じ5.7×28㎜SS190フルメタルジャケット弾。
この弾を30発装填できるマガジンを腕部機銃の上部に装填する事で、片手で剣や大鎌、メイスを保持しつつ射撃出来る様になっている。
トリガーは拳の前に設けられたグリップで、グリップを握り手首のスナップを効かせる事で発砲する。 発砲しない時はグリップから手を離す。
この腕部機銃は元となったP90以上に取り回しが抜群に良い。
代わりに弾数が少なく、更に腕部に固定している為狙いが付けにくい。
しかし使い方次第では有効な兵器となる。
そう、今回の様に牽制しつつ敵を誘い出す様な場面ではとても有効な兵器だった。
リリベルの言葉を聞きベリト達は頷くと、一瞬だけ背後を向き迫り来る邪龍達の姿を確認してから二駆のアクセルを回した。
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「ミカド殿! 今です!」
「おう! 総員、撃てぇええ!!」
「皆誤射には気を付けて! 」
「おらおらおら! 撃て撃て撃てぇ!!」
「んっ‥‥‥!」
「喰らいなさい!」
ポイントC2の渓谷にロルフ、サブナック、リリベル、リズベルが順に駆け込んで来る。
そして最後尾のベリトが渓谷の入り口に差し掛かった瞬間、俺は渓谷を取り囲む様に配備した歩兵科・攻撃科・偵察科・支援科に総攻撃の命令を発した。
ドドドドドドッ!
「「「「ギャォオォ!」」」」」
けたたましい爆音が渓谷全体に響き渡り、邪龍の断末魔が木霊する。
「ミカド! 【徹甲弾】は有効だよ!」
「よし! このまま倒すぞ!」
「了解!」
そんな中、興奮したセシルから声がかかる。
以前邪龍と対峙した時、セシルや俺が扱うHK416Dや、攻撃科のツィート・ベティ達が扱うM249では邪龍の硬い鱗を打ち砕く事は出来なかった。
なので俺は今回の依頼の為だけに、硬い鱗を打ち砕く特製徹甲弾を召喚し各部隊に与えた。
徹甲弾が命中する度に、甲高い音を響かせながら漆黒の鱗が砕け散っていく。
攻撃を開始してから僅か数十秒後、4匹の邪龍は数十発の徹甲弾を受け、力尽き墜落していった。
「あ! 最後の1匹が逃げる!」
「ちっ‥‥‥ 砲兵科! 逃げようとしてる邪龍が見えるか!」
『えぇ、此処は私達に任せなさい!』
しかし、最も最後尾に位置していた最後の1匹が、猛烈な砲火に曝され逃走を開始した。
この邪龍は最後尾に位置している為各部隊と距離があった。 それに加え、既に満身創痍でフラフラと上下左右に揺れる様に飛んでいる為狙いが付けにくく、セシル達が放つ徹甲弾の大半は脇をすり抜けていく。
傷付きながら飛んでいる姿に良心の呵責を感じたが、これまでこの近辺では邪龍による様々な被害が報告されているらしい。
これ以上の被害を防ぐ為には此処で完全に討伐する他ない。
俺は魔通機を通して、やや離れた丘の上に待機している砲兵科のティナに声を掛けた。
「すまん、任せた!」
『お安い御用よ! 』
『照準良し! いつでもいけます!』
魔通機越しにティナのバディ、リートの声が聞こえる。
対空砲8.8cm FIaK18は、高速で空を飛ぶ戦闘機や爆撃機を撃ち落とす為の大砲。
それ故に優れた照準器と命中精度を持つ。
ノロノロと這うように飛ぶ邪龍相手なら、余程の事がない限り狙いは外さないだろう。
『了解! 発射ぁ!』
ドォォン!
「ガァァア‥‥‥」
ティナが叫んだ次の瞬間、丘の上に設置された対空砲8.8cm FIaK18から、真っ赤な炎と黒い煙が上がった。
ヴィルヘルムで最も大きな銃身から撃ち出された巨弾は空を切り裂き、邪龍の翼に吸い込まれる様に飛んでいく。
砲弾はそのまま無防備に背中を晒す邪龍の左の翼に命中。 邪龍は半ば翼をもぎ取られる形で撃墜した。
これで標的の邪龍5匹の討伐は終わった。
ヴィルヘルムやサーヴェラーズの隊員達に負傷者は皆無。 完璧な勝利だった。
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「お疲れ様ミカド! 本当にありがとう、助かったわ! 」
「サーヴェラもお疲れさん。力になれたなら何よりだ」
「やっぱり貴方達の使う銃火器は凄かったわ! 私も銃火器に負けない魔法具を作ってやるんだから!」
「はは、楽しみにしてるよ」
「と、そうだったわ。はいこれ、今回の依頼書よ。 サインは書いておいたから、後はラルキア王国のギルド支部に提出してね」
「ん、確かに。報酬は後日になるんだよな?」
「えぇ、ギルド経由でルノール技術王国軍から報酬が支払われるわ。 貴方達に支払われる報酬金は、私達への仲介料を差し引いた2100万ミルね」
「了解した。んじゃチャチャっと片付けて帰ろうぜ」
「賛成! さぁ皆、撤収するわよー!」
無事邪龍を討伐した俺達は、討伐成功の証拠となる黒い鱗を数枚剥ぎ、一旦拠点に戻って来た。
死骸の方はルノール技術王国軍が回収する手筈になっているので、これで今回の依頼は終了だ。
報酬は後日ルノール技術王国軍から支払われる事となっており、そこから3割が依頼を融通してくれたサーヴェラーズに仲介料として引かれる。
ちなみに今回の報酬は邪龍を1匹討伐する毎に500万ミル。 更に5匹全て討伐すれば、特別報酬として更に500万ミルが追加で支払われる事になっているので、報酬金額の合計は3000万ミルとなる。
サーヴェラーズへの仲介料等諸々を差っ引いても、ヴィルヘルムの隊員には1人頭約40万ミルが手元に入る計算になる訳だ。
新設兵科の遊撃科に砲兵科も活躍してくれたし、作戦参謀もサポートに役立った。 第弐期隊員達にも良い刺激になっただろう。
そう言った意味でも、この依頼は本当に美味しい依頼だったな。
「おーいミカド! ボケッとしてる暇があるなら手伝えよな〜」
「と、悪い悪い。今行くよ」
より強くなった部隊の事を思い、頼もしい気持ちに浸っていると、撤収作業に勤しんでいるレーヴェが不満気な声を出した。
俺は苦笑いを浮かべつつも、頼もしい仲間達の元へ向かい走り出した。