174話 新たな力
「諸君おはよう!」
「「「「サー! おはようございます! サー!」」」」
「皆、この2日間はゆっくり休めたか?」
「「「「「サー! 休暇を満喫させて頂きました!」」」」
「大変結構。諸君は戦う事が仕事だが、自身の体調管理も仕事のうちだ! お前達には今日からまたバリバリ働いてもらうぞ!」
「「「「サー!」」」」
ビルドルブ達を仲間に誘った2日後の昼下がり。
キビキビと清々しい隊員達の返事が木霊するヴィルヘルム本部の敷地内にて、俺は【巨大倉庫】の前で仁王立ちし、直立不動で立つ彼女達に語りかけていた。
「と言いたい所だが‥‥‥ 今日は昨日伝えた様に、お前達に新たな道具の使い方を覚えてもらう!」
「「「「サー!イエス!サー!」」」」
この巨大倉庫は、ノースラント村の大工さん方を中心に依頼した本部の改修工事と並行して俺が用意した物で、奥行き約70m。開口40m高さは50mとなっている。
( 用意と言っても、加護で召喚して各種配線を接続した程度だから、完成までに要した時間は30分も無いのだが )
この倉庫は開口部がシャッターになっており、柱に設けられたボタンを押す事でシャッターが開く様になっている。尚、シャッターを開く為には鍵となる【ICチップ入り腕時計】を付けていなければならず、防犯面にも配慮した設計にした。
「皆も昨日使ったと思うが、昨日ヴィルヘルム本部の改修が終わった事で、本部は現在魔龍石を使った魔法具と【太陽光】を使った備品が多数設置されている」
「おう! ありゃ凄かったなぁ」
「だよね〜 特に太陽光を使った道具は凄かったよ! 」
「お風呂も使い易くなりましたね」
「ん‥‥‥ ミカドが設計した魔法具も良い道具だけど、太陽の光を利用した道具はもっと凄かった‥‥‥ 」
「副隊長達の言う通り、俺達は太陽光のお陰でより便利な生活を送れる様になった!
そしてその太陽光は、俺達に新たな力を与えてくれた!」
俺は本部に新たに設置された備品を思い返しながら、セシル達の言葉に相槌を打つ。
ビルドルブ達を仲間に誘った明くる日。
遂に、やっと、ヴィルヘルムの本部の改修が終わったのだ。
本来の予定なら改修工事は先月には終了している筈だったのだが、エルド帝国との戦争の影響で納期が延び、昨日やっと完成と相成った訳である。
余談だが、納期が延びた理由は他にもある。当初の予定では改修項目は【水龍石や火龍石を使った家具( 水洗トイレや風呂、コンロ) 】の製作と設置のみだったのだが、エルド帝国との戦争を経て、俺のレベルは70になり、【精密電子機器】の召喚が可能となった。
そこで俺は無理を言って、大工さん方にこの能力をふんだんに利用した追加改修を頼んだからだ。
追加された改修項目は下記の通り。
●屋根に【ソーラーパネル】と【貯水槽】の設置。
●屋根裏に【浄水器】と【変電装置】の設置。
●各部屋に【照明器具】の設置。
●厨房に【冷蔵庫】や【流し】の追加設置。
●厨房やトイレから出る生活排水や汚水を綺麗にする【処理装置】と配管の接続等。
以上が新たに追加してもらった改修項目となる。
( 各種電気機器同士の配線は俺が行なった)
現在ヴィルヘルム本部は、ソーラーパワーを使った備品と魔龍石を使った備品が多数設置されており、生活水準が大幅に向上していた。
それは俺が暮らして居た世界の生活水準となんら変わらない程に。
特に目玉となるのは、太陽光発電を利用した各種電化製品の存在だ。
目下ヴィルヘルム本部には、太陽光発電で動く照明や冷蔵庫等が新たに設置されている。
これは前時代的な生活をして来たセシル達には驚異の技術で、これらの道具を見た時はその出来にやや戸惑いと驚きの表情を浮かべていたが、今ではこの便利な道具達に夢中になっていた。
( 尚、既に発注済みだった水洗トイレやコンロ、風呂は完成品が出来てしまっていた為、今更必要なくなったとは言えず、暫くはこれを使用する事になったのだが、魔龍石を利用したこれらの道具も大絶賛された。
ちなみに、これらの道具を使う事になった理由は他にもあるのだが‥‥‥ )
とまぁ簡単に纏めると、ヴィルヘルム本部は太陽光を使った家具・電化製品と、魔龍石を使った魔法具でより暮らし易い環境になった訳だ。
この電化製品や魔法具の詳細は機会があれば説明する事にして‥‥‥
ソーラーパワーという新たな力を得た俺は、この力を利用する新たな道具を召喚した。
ガガガガガ!
「「「「「おぉ〜」」」」」
「おー‥‥‥ 」
俺はICチップが埋め込まれた腕時計が巻かれている腕で、倉庫のボタンを押す。 スマートキーを参考に召喚したこの便利な道具は問題なく作動し、ソーラーパワーで動くシャッターが音を立てながら上へと上がる。
薄暗い倉庫の中にある物を見て、セシル達が声を上げた。
セシル達の目線の先には巨大で重厚な塊の塊が計5つと、小さな鉄の塊が4つ、圧倒的な存在感を放ち鎮座していた。
「これが俺達の新たな力! その名も【電気式四輪駆動車】と【電気式二輪駆動車】だ!」
「鉄の箱だ」
「そうね、鉄の箱ね」
「荷馬車に似てる‥‥‥ 」
「その隣のは‥‥‥ 鉄の馬みたい」
「ねぇミカド、これって何なの?」
「これは‥‥‥ 」
俺はこの鉄の箱達の前で声を張り上げる。 俺はこの車両達を前にテンションアゲアゲ状態だが、これがどんな物か知らないセシル達の反応はやや淡白だ。
「ミカド、これって太陽光を使った荷車ね?」
「おぉさすがティナ。鋭いな」
「ルノール技術王国で、魔龍石を燃料とした【馬を使わない荷車の試作品】が作られてるって小耳に挟んだからね。 直ぐにこれがどんな道具かは推測出来たわ」
「ほう?」
「恐らくだけど、この鉄の箱の構造は荷車とそう違いは無いでしょ? 違いを挙げるとすれば、動力が馬か機械かだけだと思うのだけど」
「その通り! 流石ティナ。コイツらの正体を1発で見抜くなんてな」
そんなセシル達とは違い、ティナはこの車両達がどんな物なのか想像が付いた様で、楽しそうに目を光らせる。 さすが魔術研究機関の技術者だ。
まるで新しい玩具を買ってもらった子供の様な笑みを浮かべている。
「なぁミカド、とりあえずこれが凄ぇ道具だって事は何となくわかったけどさ〜」
「実際に動いてる所を見たいです!」
「ん‥‥‥ これまでミカドが召喚した物は全部凄い物だった‥‥‥ これもきっと凄い物‥‥‥ 動いてる所見たい」
「私も私も!」
「待て待て、その前にこれがどんな道具か説明するぞ。動かすのはその後だ!」
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「さて諸君、試運転を始める前に、改めてこの電気式四輪駆動車達の説明をさせて貰う!」
「「「「「イエッサー!」」」」
「この電気式四輪駆動車‥‥‥ 通称【四駆】は、運転手を含め最高で8人が搭乗出来る移動用の道具だ。ちなみに、コイツはティナの言う通り太陽光の力で動く。コイツを動かす為には、太陽光を貯めたこの【バッテリー】が必要になるから注意しろ!」
「「「「「イェッサー!」」」」」
「太陽光を満タンに貯めたこのバッテリーを使う事で、この四駆は最高時速約220キロで5時間の走行が可能だ! これは馬が全力疾走した時の数倍の速さになる!」
「おぉ凄ぇ! 」
「しかもそれだけじゃねぇ。コイツは防弾仕様になっているから、仮に攻撃を受けたとしても、高級・超級魔術師の攻撃魔法じゃない限り決して壊れる事はない!」
「「「「おぉ〜!」」」」
俺はセシル達全員の前に立ち、後ろに鎮座する車両の説明をする。
この車両達は俺が言ったように、太陽光を充電したバッテリーで走行する電気自動車となっている。
ちなみに、この電気自動車達を召喚した事が、ヴィルヘルム本部で家電の他に魔法具を使い続けている理由になっている。
この世界にはガソリンやバイオ燃料はまだ無い。
自動車等を動かすにはソーラーパワーに頼るしかないが現状だ。
だが俺が召喚出来るソーラーパネルには限りがある。なので代用出来る物は代用してバッテリー充電にソーラーパネルを確保する必要があったのだ。
話を戻して
電気式四輪駆動車は、陸上自衛隊が使用している【軽装甲機動車】を参考にして、車体をオリジナルより1,5倍に拡大させ車内を少し広くし、同時に防弾性を上げたり、重心の高さや座り心地を改善した改良タイプだ。
( しかしまぁ、こんな複雑で巨大な物は召喚した事はないからちゃんと動くか不安だ‥‥‥ 加護の補正効果があるし、内部も極力簡略化しているから動作不良等はないと思いたい )
それはさておき、これまで俺達は依頼の際、徒歩もしくは馬を使い依頼場所まで移動していたのだが、装備を持った状態で離れた依頼場所まで行くのは骨が折れる。
幸いこれまで受けた依頼は全て近場の物だったから何とかなっていたが、今後活動範囲が広がる事を考慮すると、俺達には新しい【足】の用意が急務だった。
下手をすれば移動だけで疲労困憊。依頼どころの話じゃなくなってしまう。これはそんな事態を避ける意味も含め、ちょうど良い機会だと召喚した訳だ。
「最低でも高級攻撃魔法じゃないと破壊出来ないなんて、最強の道具ですね!」
「ん‥‥‥ 高級以上の攻撃魔法を放てる人はそう居ない‥‥‥ これなら向かう所敵無し」
「ドラルやマリアの言う通り。この四駆を破壊出来る奴はそう居ないだろう。だから敵目掛けて突っ込むなんて無茶な事も出来る!」
「マジか!? 」
「あぁ、俺の世界じゃコイツは敵目掛けて突っ込むなんて事はないが、この世界ではコイツ単体でも充分すぎる戦力になるからな」
ちなみに、四駆の上部にはモデルにした軽装甲機動車と同じ様にハッチが設けられており、身を出して備え付けたM249を使用出来る様になっている。
四駆のモデルとした軽装甲機動車は本来、戦闘に直接加わる様な車両ではないのだが、この世界の標準的な武器は弓や槍だ。
俺の世界には無かった魔法という特異点はあるものの、その威力は銃弾より劣る。
弓や槍は言わずもがな、ドラルやティナと言った低級、中級攻撃魔法を放つ子達の魔法を見た事があるが、あの程度の攻撃なら表面は多少傷付くとしても完全に破壊される事は無いだろう。
より威力のある高級・超級攻撃魔法にさえ気を付ければ、この車両は1000人規模の部隊にすら勝る筈である。
「さて、四駆の簡単な説明は以上だ。 それじゃ今から実際に搭乗してもらって、四駆の性能を体感して貰う! まずはセシル他各兵科の隊長達だ」
「っしゃ待ってました!」
「楽しみです!」
「うん! うわぁ! 近くで見ると凄く強そう!」
「ミカド、早く‥‥‥ 」
「おぉよ!」
実の所、この車両達を召喚したは良いが、俺も実際に動かすのはコレが初めてだった。
俺は期待に胸を膨らませ、四駆にバッデリーを組み込むと意気揚々運転席に乗り込んだ。
数時間後、問題なく動いた四駆の性能を身をもって体感したセシル達は俺の指導の下、目を離しても安心出来る程度の運転技術を習得した。
それはこれまで俺達に不足していた【機動性】が備わった瞬間でもあった。