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ロリババア神様の力で異世界転移  作者:
第6章 束の間の平和
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172話 交流祭 その後 1




「失礼しまーす」

「隊長さん、紅茶をお持ちしました」

「ありがとう2人共。用があれば呼ぶから外で待っててくれ」

「かしこまりましたわ」

「はーい」

「「「「‥‥‥‥」」」」」


時刻18:35分。

ヴィルヘルム本部の総隊長室は静寂に包まれていた。


この35畳程の部屋には、俺やセシルを始め計8人もの人が居るが、誰1人として口を開けない。皆が入室してから早数分。重苦しい沈黙が続く。

1番最初に口を開いたのは、部屋に人数分の紅茶を持って来てくれた不死者(アンデット)族のリズベル・リリベル姉妹という有様だった。


気まずい。凄まじく気まずい。


「ん、美味い。御三方もよろしければご賞味ください」


紅茶の仄かな香りが部屋に広がった。

が‥‥‥ 彼等は警戒しているのか、目の前に置かれたティーカップに目線すら向けない。 俺に向けられた目線からは、紅茶に毒でも盛ったのではないか? と疑っている様にも見える。


そりゃこんな状況下だし、相手が相手だから警戒するのも当然なのだが、100%善意のもてなしを警戒されるのも癪だ。


流石に心外なので俺はこの紅茶には何も入っていないと示す為、率先して紅茶を飲んだ。

勿論、この気まずさを紛らわす為に一息付きたいという意味もあったが。


「‥‥‥良い香りですね」

「うむ‥‥‥ ん、味も良いな」

「そうっすね。茶葉が良いんすかね」


俺の行動を見て毒物が入っていないと分かってくれたのか、来賓用のソファに腰掛けた青年将軍は部屋を包む紅茶の香りに目を細める。

そして彼の隣に座る老将は優雅な動作でティーカップを口に付けると、ガブガブと紅茶を一気飲みした闘将と紅茶の味を語り合う。


「紅茶を嗜んだのは4ヶ月ぶりだな‥‥‥ して、お主等は何者だ」

「‥‥‥ その質問はどういう意味でしょうか」

「言葉通りの意味だ。お主等は何者で、どの様な集団なのだ」


暫し紅茶を嗜んだ老将はリラックス出来た様で、ゆっくりとティーカップを机に置くと此方を睨み付けた。

その眼力は言葉では言い表せない程に鋭かった。


「‥‥‥ 私達は交流祭でご覧頂いた様に、特殊な魔法具を扱うただのギルド部隊です」

「ただのギルド部隊とな? ならば何故、ただのギルド組員のお主等があの戦場(・・・・)に居たのだ」


老将はあいも変わらず鋭い目線を此方に向けたまま言葉を紡ぐ。

この老将‥‥‥ エルド帝国軍覇龍7将軍、【破壊者(アフェニヒター)】の2つ名を持つビルドルブは、俺達があの戦場(・・・・)に居た事を確信している様子だ。


「あぁ。俺は爆音を響かせる魔法具に‥‥‥ って言うか、俺はそこに居るエルフと戦ったし、そこの獣人に負けた‥‥‥ 今更言い逃れは出来ねぇぞ? 正直に白状しな」

「私の部隊も、そこの女性が持っていた魔法具の攻撃で甚大な被害を受けています。

あの様な特殊な魔法具を見間違う筈はありません」


そして、それはビルドルブの左右に座る【戦棍と盾の申し子(シュレーゲル・シルト)】ことサブナックと、【煉獄男爵(フェーゲ・バロン)】ベリトも同様だった。



何故彼等がヴィルヘルム本部に居るのか。



それは本日ギルド本部主催で行われた交流祭が、エルド帝国解放軍と名乗る者達に占拠されたからだ。


これだけではビルドルブ達がヴィルヘルム本部に居る説明になっていないが、不思議な事に、この交流祭会場にビルドルブ達が居た。


結果として、ビルドルブ達が姿を見せた事で狼狽したエルド帝国解放軍の隙を突き、俺達が敵を撃破した事で事なきを得たが、交流祭が終わった直後、ビルドルブから「お主等に聞きたい事がある」と直接呼び止められ、本部に出向いてもらったと言う訳だ。



尚、不測の事態に備えて撤収を終え本部に戻って来たヴィルヘルムの隊員達は、完全武装で近くの別室に待機して貰っている。

見た所ビルドルブ達は武具を持っていないのだが、念の為だ。



「‥‥‥ わかりました。正直に言いしましょう。

確かに我々はあの戦場‥‥‥ 具体的に言えば、ビルドルブ閣下等が攻めて来た王国軍の砦に居ました。改めて自己紹介はさせて頂きます。

我々はナイト(クラス)ギルド部隊、守護者(ヴィルヘルム)。そして私が隊長の西園寺 帝です」


俺は正直に白状する事にした。


そもそも‥‥‥ 彼等を此処に呼んだのは彼等から接近して来たからでもあるのだが、あの戦争終結後、ベリト・サブナックと対峙したセシルやマリアから彼等は悪い人ではなかったと聞き、彼等に興味を持ったからでもあった。


それに彼等は、俺達がラルキア王国軍と共に戦っていた事に気付いている。


ベリト、サブナックと接したセシル達の話が本当で彼等は悪い人でないなら、この場で全てを正直に話せば、彼等と友好関係を築くキッカケになるかも知れない。そう俺は判断したのだ。


なので俺は、相手の好感度が上がるスキル【好感度アップ】のスキルを発動させ、言葉を発する。


「ミカドか‥‥‥ 覚えておこう。ワシ等の自己紹介は‥‥‥ 必要なさそうだな」

「えぇ。貴方方の武勇は聞き及んでおります」

「そうか。しかし、言い逃れすると思ったが殊の外素直に白状したな」

「サブナック殿はここに居る獅子の獣人とエルフと‥‥‥ そしてベリト殿はこの子と対峙し戦いました。

今更言い逃れは出来ないでしょう?」

「へっ、だろうな。おいテメェ、俺様の顔を忘れちゃねぇよな?」

「あぁ、マリアを殺そうとした奴を忘れる訳ないだろ」

「‥‥‥ 次は負けない」

「こら2人共」

「落ち着けサブナック」

「「ちっ」」」

「わかった‥‥‥」

「さてさて、ではどういう事か詳しく説明してくれるな?」


俺は彼等と対峙したセシル達に目線を向けつつ、今にもサブナックに跳びかかりそうなレーヴェと、悔しそうに眉間に皺を寄せるマリアを戒めた。 同時にベリトはサブナックに落ち着く様声を掛ける。


一瞬だけ部屋に殺気が満ちたが、場が落ち着くとビルドルブが僅かに眼光を緩めた瞳で俺を見つめた。


「えぇ‥‥‥ まず念押しさせて頂きますが、我々は歴としたギルド組員です。これはお間違いならぬ様お願いします」

「うむ」

「ごほん‥‥‥ 本来であれば、我々ギルド組員が戦争に加担するのは厳禁です。 ですが我等は知り合い(・・・・)から、貴方方がこの国に攻めて来る事を知らされました。

彼我の戦力差では王国軍の苦戦は必至。そこで我々はギルド組員としてではなく、侵略して来たエルド帝国軍と有志で戦う民間人‥‥‥ 義勇兵としてあの戦場へ向かったのです」


ビルドルブ達に俺達は歴としたギルド組員である事を念押しした俺は、ワザとらしく咳払いをして話し始める。

何故俺達があの戦場に居たのかを。


「義勇兵として‥‥‥ とな。 なるほど。それならばギルドの規約には反しておらぬな」

「んじゃお前等が持ってたあの魔法具はなんだってんだ? あの馬鹿共(エルド帝国解放軍)魔法兵団(サーヴェラーズ)から奪おうって目論んでた魔法具と同じ物なのか?」

「‥‥‥ 厳密に言えば違います。我々が使う魔法具は、魔法兵団(サーヴェラーズ)が開発した魔法具と性能は似ていますが、全くの別物です」

「つまり、貴方達が使う魔法具は貴方達が独自で開発した物だと?」

「その通りです」


本当は、ヴィルヘルムで使用する魔法具‥‥‥ 銃火器は俺の加護で召喚した物なのだが、当然ベリト達にその事を教える事は出来ない。


全てを正直に話すとは言ったが、銃火器に関してだけはそう言う訳にはいかなかった。


俺は終始冷静に務め、言葉を紡ぐ。


「では、貴方達は独自で開発した魔法具を携え、義勇兵としてあの戦場に居たと言う訳ですね」

「はい。我々は自分達が暮らすラルキア王国を、親しい人達を守る為に王国軍と協力し、迫り来る邪龍達や奴隷軍、そして魔導兵や貴方方と戦いました」

「ふむ‥‥‥」


矢継ぎ早に来る質問に出来るだけ簡潔に答えた俺の言葉を聞き、ビルドルブは腕を組み唸る。


とりあえず、彼等が感じていた疑問‥‥‥ 俺達は何者なのか? 俺達が使う道具はなんなのか? という疑問は払拭されただろう。

次は此方が質問をする番だ。


鎖国し、全くと言っていい程情報が入手出来なくなったエルド帝国の実状を掴めるかも知れない。


「ビルドルブ閣下。エルド帝国解放軍のリーダーは貴方達を見た時、バエルに盾突き幽閉されたと言っていましたが、その幽閉された筈の方々が何故交流祭に居たのですか?」

「‥‥‥お主が嘘を付いておる様には見えぬな。お主は此方の質問に正直に答えてくれた様だ。ならば、此方も正直に話す他ないな。長くなるので予め了承されたし」

「わかりました」

「さて、何処から話せば良いか‥‥‥」

「まずは我等が停戦の命を受け一時帰国した所から話せば良いかと」

「そうだな。ではそこから話すとしよう」



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「そんな経緯が‥‥‥ 」

「うむ。だからワシ等は国を捨てた。 いや、捨てられたと言った方が正しいか」


ビルドルブは苦笑い混じりにソファの背もたれに身を委ねる。

ビルドルブの長い話が終わった。



ビルドルブが話してくれた経緯を纏めると‥‥‥



1月1日に勃発したエルド帝国対ラルキア王国・その他国家の戦争から数日後、各地のエルド帝国軍にエルド帝国新皇帝と名乗る者から撤退の命令書が届いたらしい。


その新皇帝の名はバエル。


バエルは各地を征服する事を目的とした軍が出発してから数日後、突如として皇帝の座に就いた。


ビルドルブの話では、このバエルと言う男は存在感が薄く帝位継承権こそ持っていたものの、その序列は最下位。彼には何人もの兄や姉、親戚が居たらしい‥‥‥ のだが、この兄姉達は ( 皇帝だったルシュフェールを含め、帝位継承権を持つ全員が ) 戦争初日から僅か1週間足らずの間に皆急死したとか。


エルド帝国では、皇帝が死去すれば帝位継承権第1位の者が次の皇帝に。

仮に帝位継承権第1位の者が不幸な事故で皇帝即位前に亡くなれば、次は帝位継承権第2位の者が‥‥‥ こんな具合に、継承権の序列に沿って次の皇帝が決まるとベリトが教えてくれた。


ビルドルブやベリトは‥‥‥ と、言うか、誰の目から見ても急死したルシュフェールや皇族達は、バエルが皇帝となる為に暗殺されたと分かる。


無論ビルドルブ達もそう考えていた様だ。

しかし、バエルと前皇帝達の死を関連付ける決定的な証拠は皆無。


しかもビルドルブ達はエルド帝国帝都を遠く離れたラルキア王国国境付近に居た為、彼等が帝都ドラゴニアに戻った頃には、エルド帝国の中枢はバエルに完全掌握された後だったらしい。


この他にバエルは、皇帝を守護する任を与えられている覇龍7将軍序列1位、バイモンと言う男が率いる親衛隊を始め、他の覇龍7将軍を始めとする有力な軍を支配下に置く事にも成功していた。


国の中核と強力な軍勢を手中に収めたバエル相手では、以下にビルドルブと言えど、「お前は親族を、前皇帝を殺し皇帝の座に着いただろう」と問いただす訳にはいかった様だ。

エルド帝国では皇帝の言葉は絶対。異議を唱えれば、運が悪いと反逆罪となってしまうらしい。


ここまでが、突如としてエルド帝国の支配者が変わった経緯。

ここからが、ビルドルブ達が交流祭に居た訳に繋がる。



帰国したビルドルブやベリト、サブナック達は帰国後すぐにバエルの元へ呼ばれた。



▼▼▼▼▼▼▼▼



「‥‥‥バエル新皇帝におかれましてはご機嫌麗しゅうございます。まず皇帝即位、心よりお祝い申し上げまする。 して、本日は何様で御座いまするか」


エルド帝国帝都、ドラゴニアに在る荘厳な佇まいの皇帝の居城 【聖偉大な龍の(グローズ・ドラッヘ)大宮殿】に呼び出されたビルドルブは、ベリトとサブナックを引き連れ、玉座の間へと赴いていた。


跪く彼等の前には、豪華絢爛な玉座に浅く座る年若い皇帝‥‥‥ バエルが居た。

そんなバエルに目線を向けるビルドルブの目には、様々な感情が渦巻いている。


( 自分は敗軍の将。ドラゴニアに呼び出された理由は負け戦の責任を取らされる為だと思っていたが、優勢だった各戦線の部隊もドラゴニアに呼び戻されている‥‥‥ 陛下は何を考えておるのだ。 まさか、本当に停戦を考えておられるのか‥‥‥ )


「ビルドルブよ。命令書に目は通しておるな」


不機嫌さを隠そうとしない刺々しい眼差しを向けられたバエルだが、彼は興味なさげに頬杖を着く。

感情らしい感情をまるで感じさせないバエルの雰囲気に、ビルドルブは言葉に言い表せない異様な寒気を覚える。


かつての皇帝ルシュフェールは歳終えても尚、瞳に燃え盛る様な野心が宿っていたが、この皇帝の瞳からはそんな野心は微塵も感じさせない。まるで昆虫の様に無機質な‥‥‥ しかし不気味な程澄んだ眼を向けられたビルドルブは、前皇帝との余りの違いに微かな戸惑いを感じていた。


「はっ‥‥‥ 」

「なれば良し。配下の者達を直ちに領地へと返し、以後私の命があるまで他国との接触を全面的に禁止とする。当然再軍備も正式な命が出るまで禁止だ」

「‥‥‥我等が皇帝陛下(マイン・カイザー)っ! 無礼を承知で申し上げまする! 」

「申してみよ」

「はっ! 何故この時になって停戦など申されるか!」


遂にビルドルブは我慢出来ず声を荒げた。

バエルは本当に戦争を止め、鎖国しようとしている。

その理由が理解出来ない故、ビルドルブは声を荒げた。


「‥‥‥ その通り御座います! 我等中央征服軍は確かにラルキア王国軍・スノーデン公国軍によって撃退こそされたものの、南部征服軍と北部征服軍、その他戦線も優勢だった筈! 」

「おう! アスタロト大将軍やグラシャ大将軍、魔導兵を失った事は痛手でしょうが、各地の軍と足並みを揃えればまだ勝機はありましたぜ!」

「それでも戦争を止めると仰るならば、ワシ等が納得出来る理由をお聞かせ願いたい!」


事前にバエルからの命令書に目を通していたビルドルブやベリト、サブナックは堰を切った様にまくし立てる。


ビルドルブ達からしたら初戦で負けこそはしたものの、まだその負けを挽回出来る程の戦力を味方は有している。

なのにバエルは停戦を告げ、今後命令があるまで全面的な再軍備の禁止と鎖国を改めて宣言した。


「その様な事か‥‥‥ 」

「「「なっ!!!」」」


ビルドルブ達は期待した。

比較的優勢なこの状況で停戦を告げる位なのだから、自分達には到底思い付かない策略がバエルにはあるのだと。


しかしその期待はアッサリと裏切られた。


「あの戦争は叔父が勝手に始めたモノ‥‥‥ 私からしたら愚かと言う他ない。

あの戦争は、有限な資源(・・)を悪戯に消費するだけの無駄な戦争だ。その様な愚かな行為を続けさせる訳にはいかぬ」


バエルのある意味消極主義とも取れる発言。


それは、あの戦いで死んだ者達は犬死以外の何物でもない。


そう表現しても差し支えない言葉だった。


「それでは‥‥‥ 死んでいった者達に申し訳が立ちませぬ!」

「なればどうする」

「俺達は戦うだけでさ!」

「失礼ながら、我等には陛下の真意が理解出来ません!」

「サブナックとベリトの言う通り。改めて申し上げまする! ワシ等3人はバエル陛下の停戦宣言に全面的に反対致す!」

「そうか。致し方なし」


ザザッ!


「ふふっ」

「こ、此奴等‥‥‥ 」


激昂するビルドルブとサブナック、ベリトを見下ろしたバエルは、静かに右手を挙げた。

すると、彼の隣にドス黒い靄が現れ、その靄の中から黒装束に身を包んだ女が。

そして、何処からともなく黒と赤の鎧を纏うバエルの直属部隊‥‥‥ 親衛隊が姿を見せてビルドルブ達を取り囲んだ。


「ビルドルブ・ダントーレ。並びにベリト・アンプトン、サブナック・ドールギスよ。

現時刻をもって3人の爵位、軍の階級、個人的財産を剥奪する。親衛隊よ、其奴等を摘み出し首を刎ねよ」


バエルが静かに呟いた瞬間、ビルドルブ達を取り囲んでいた親衛隊が一斉に飛び掛かり、ビルドルブ達を組み伏せる。

その光景を横目に、バエルは玉座から立ち上がるとビルドルブ達へ背を向けた。


「くっ! 我が皇帝陛下(マイン・カイザー)! 地位階級の剥奪、財産の没収も死罪も甘んじて受けましょう! しかし、ならばせめて! 死んでいった者達の家族には充分な支援を!」

「畜生! 離せクソが! 」

「陛下! 皇帝なれば先代陛下の御為に死んだ者達の思いを裏切ってはなりまぬ!」

「‥‥‥ ビルドルブ達よ。皇帝の言葉は絶対だ。それは分かっているな」


カツカツと靴音を鳴らし、ビルドルブ達から離れるバエルにビルドルブ達は言葉をぶつける。 不意に足を止めたバエルは、組み伏せられているビルドルブ達に感情のない瞳を向けた。


「‥‥‥はっ」

「ちっ‥‥‥ 分かってますよ」

「承知しております‥‥‥」

「そうか。しかしお前達は先代の頃からよく仕えた。これまでの働き、そして死罪すら受け入れたその度胸に免じ、死罪は許そう。

残りの余生は檻の中で静かに過ごすが良い」

「陛下っ!!」


バエルはそう言い残すと、ビルドルブ達から完全に興味を失った様に、振り返る事なく玉座の間を後にした。


「ふふふ。貴方達も命知らずね。陛下の気まぐれがなければ、今頃体と首はお別れしてたかも知れないのに‥‥‥ 」

「お主‥‥‥ 何者だ。ワシは聖偉大な龍の(グローズ・ドラッヘ)大宮殿でお主の様な女は見た事無いぞ」

「私はバエル陛下の友であり、右腕であり、理解者であり、共犯者であり、そして同じ夢を持つ者ですわ」

「お主‥‥‥ 」

「それにしても‥‥‥ バエルには困ったものね。不穏分子は排除するに越した事はないのに‥‥‥ さぁ親衛隊! この不届き者達を牢獄へ!」



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「こんな具合で、仲良く親衛隊に捕まった俺達は仲良く咎人として、仲良く帝都郊外の牢獄に押し込まれた訳だが‥‥‥ そこから助け出してくれたのが、かつての部下達だった」

「彼等の助け無しでは、私達は今なお牢に繋がれたままでした‥‥‥ 彼等には感謝してもし足りません」

「ぶ、部下の人達は大丈夫なんですか?」


ここまで静かに話を聞いていたセシルがおずおずと、サブナックやベリトに言葉を投げかける。

少し声が震えているのは相手が相手だから仕方ない。


「えぇ。今の所は‥‥‥ ですがね。彼等はビルドルブ様への処遇に憤りを感じていましたが、表向きはバエルの政策に反対していない様です」

「彼奴等もバエルに対して反抗的な態度を取れば、最悪殺さるって分かってる様だからな。それに‥‥‥ 」


セシルの質問を聞いたベリトは疲れた様な笑みを浮かべ、サブナックは怒りをかみ殺す様に呟いた。

が、直後サブナックは自虐的な笑みを浮かべる。


しかしそれ以上の反応はなかった。


代わりに咳払いしたビルドルブがゆっくり口を開く。


「かくして、無事牢獄から抜け出したワシ等は此処に来た。 ワシ等は咎人だ。あのままエルド帝国に残れば、いずれバエルの手先に見つかり望まぬ戦い強いられただろう。故にワシ等は、無用な戦いを避ける為この国に来たのだ」


ビルドルブが最終的なまとめを口にした。


かつて俺達と戦ったこの将軍達は、今では咎人として地位も財産も名誉も剥奪され、その身1つでエルド帝国からルキア王国へ逃げて来たのだ。




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