171話 交流祭 5
「エルド帝国解放軍だぁ!? 」
「その人達を解放しなさい!」
『グルルルル!』
「隊長さん‥‥‥ どうしましょう」
「むぅ! 人質を取るなんて卑怯者ぉ!」
突如として観衆の中から現れた男達は、女子供に剣を。俺達には血走った瞳を向けた。
「くっ!」
不測の事態に驚いたが、俺は冷静になる様に徹し状況の把握に努めた。
目下確認出来るだけでエルド帝国解放軍と名乗った男達の数は40名丁度。
この内半数が同じ数の女性や子供の喉元に剣を向け、残った奴等は数百人は居るだろう観衆へと剣を向けている。
相手が持つ武器は長剣。
対して俺達は銃火器で武装してはいるが、数は奴等の約半分。
攻撃出来ない事はないが、今1番避けるべきなのは一般市民に被害が出る事だ。
つまり交流祭に参加してる市民達が人質となってるこの状況で、無策に動くのは得策ではない‥‥‥
「‥‥‥皆、まずは落ち着け。もしかしたらまだ会場内に此奴等の仲間が居るかも知れねぇ。下手に動くな」
「ちっ!」
「わかりました‥‥‥」
「承知しましたわ」
「はぁい‥‥‥ 」
「お前達の目的は何だ? 何でこんなマネをする」
俺はまず男達がこんな暴挙に出た理由を探る事にした。
こうして会話をしていれば、もしかしたら隙が出来るかも知れないと思ったからだ。
だから極力男達を刺激しない様に、声を荒げたレーヴェやドラル、ロルフにシュテルプリッヒ姉妹を片手で制しつつ、リーダーと思しき男を見た。
「全ては暗君に鉄槌を下す為‥‥‥ 暗君に支配された我等が祖国を解放する為だ!」
「暗君? 暗君って誰の事だ」
「お前達に言う義理はない! 早く全員集まれ!」
リーダーと思しき男は、正に鬼軍曹と言った風貌をしていた。
彼は一瞬噛み締める様に呟いたが、直ぐに血走った瞳を見開き声を荒げる。
「み、ミカド」
「‥‥‥ 止む終えねぇ。大人しく従うぞ」
「了解‥‥‥」
市民を人質に取られてる以上下手に動く事が出来ない。
俺は不安を滲ませるセシル達に声を掛け、男達の言う通りにする事にした。
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「どうなってんだミカド。彼奴等は誰だ」
「詳しくは分からん。でもエルド帝国解放軍と名乗ってるから、エルド帝国の軍人か‥‥‥ もしくはあの戦争後に賊になった奴等だ」
「な、何でこんな事に‥‥‥ 」
交流祭会場が占拠されて早20分が経過しようとしていた。
今、ギルド部隊並びにギルド関係者は、俺達がパフォーマンスをしていたコの字型の会場の中心部に集められ、交流祭に参加していた市民は少し離れた広場に集められていた。
それと同時に、エルド帝国解放軍と名乗る男達はその数を更に増やし、総数は100を超えている。
エルド帝国解放軍は俺が睨んだ通り、予め交流祭会場全体に隊員を配置していたらしく、まるで狼の群れが羊の群れを追い詰める様にジリジリと‥‥‥ だが1人も逃す事なく、交流祭会場に居た全員を会場中心に集める事に成功した。
一箇所に集められた市民達は、その外周を50名程のエルド帝国解放軍に囲まれ、怯えきっている。
その光景を見たヴァルツァーは、犬耳を逆立たせながら俺を睨む。
その横では、俺にイチャモンを付けてきたギルド部隊魔法兵団隊長のサーヴェラが、冷や汗を滲ませていた。
「ちっ‥‥‥ ここは王都の目の前だぞ。 分かってんのか彼奴等」
「無論分かってるだろ。そうじゃなきゃ、王都の目の前で開催されてる交流祭会場を占拠しようなんて考える訳ねぇ」
「で、でも王都の目の前だからラルキア王国軍が駆け付けてくれるかも! 」
「いや、その可能性は低い‥‥‥ 現に彼奴等が姿を見せて20分は経つ。なのに王国軍は来ねぇ‥‥‥
それはつまり、此処に居る人達は王国軍に救援を伝える前に皆捕まっちまったって事になる」
「‥‥‥ 仮に王国軍が来たとしても、俺達や市民が人質になってるから下手には動けねぇか」
「そ、そんな‥‥‥」
「こうなったら俺達で切り抜けるしかねぇか‥‥‥ セシル、皆にいつでも動ける様こっそり伝えておいてくれ」
「了解っ」
「任せたぞ。ヴァルツァー達も協力してくれると助かる」
「勿論だ」
「よし! 全員集まったな! 」
ヴァルツァーやサーヴェラ、そしてセシルと小声で言葉を交わして居ると、エルド帝国解放軍のリーダーが叫ぶ。
今のところエルド帝国解放軍に隙はない。
むしろ人数が増えた事や、人質になってる市民達の影に隠れたりして死角も増え、俺達は完全な手詰まり状態になってしまった。
俺は闘志を滲ませつつ隙が出来るのを待った。
「我等がこの会場を占拠した理由はただ1つ! ルノール技術王国に拠点を置くギルド部隊、魔法兵団の隊長に要求があるからだ!」
「えっ!?」
そんな俺を他所に、リーダーの男はこの会場を占拠した理由を声高らかに叫んだ。
彼等がこの会場を占拠した理由を聞き、俺は面食らう。しかし俺以上に、サーヴェラの方が面食らっていた。
「 魔法兵団隊長よ! 我々はお前達が遠くの敵を倒す遠距離攻撃用の魔法具を開発した情報を掴んでいる! 我等の目的は、その魔法具を奪う事である!」
「ま、待ってよ!? それって‥‥‥」
「我等は先の戦争で弓以上の飛距離を持ち、中級攻撃魔法並みの威力を持つラルキア王国軍の攻撃に敗れ去った!
我等はこの攻撃を魔法具を使用したものだと見抜いている!
そこの女共が持っている物こそ、その魔法具だろう!」
「えっ!?」
「魔法兵団め! ラルキア王国軍にだけでなく、他のギルド部隊にも開発した魔法具を貸与していたか!」
狼狽えるサーヴェラを無視し早口でまくし立てる男は、何故か血走った瞳をセシル達に向けた。
男の目線は、セシル達ヴィルヘルムの隊員が持つHK416D等の銃火器をしっかりと捉えている。
どうやらこの男、銃火器をサーヴェラが発明した魔撃槍と勘違いしている様だ。
それと此奴は、どうやら俺達とラルキア王国軍第1連隊が打ち負かしたエルド帝国軍に居たらしい。
とりあえず分かった情報を整理すると‥‥‥
此奴等は俺達【義勇兵部隊ヒメユリ】とラルキア王国軍第1連隊連が撃破した帝国軍の1部隊で間違いないだろう。
そして此奴等は、自分達が負けた原因‥‥‥ 一方的に遠方の敵を撃破出来る【銃火器】の存在を察知している。
そして此奴等は独自に調べ上げたのか、ほぼ同時期にサーヴェラの部隊が【遠くの敵を倒せる魔法具】を開発していたと掴んだらしい。
俺達は巷で不思議な魔法具を使う部隊と認識されてはいるが、そう認識され始めたのはここ最近だし、ヴィルヘルムはまだ創立されて日が浅い新設ギルド部隊。 対して魔法兵団は中堅ギルド部隊とも呼ばれる程の実力と名声、地位を得ている。
加えて魔法兵団が拠点を置く国の特色等の情報も相まって、この男はサーヴェラーズが魔撃槍を俺達に貸与したと勘違いしてしまったらしい。
ここまで分かれば、後は分かった情報を組み合わせれば良い。
その後此奴等はサーヴェラが遠くの敵を倒せる魔法具‥‥‥ 【魔撃槍】を携え、この交流祭に参加する情報を掴み交流祭会場を占拠。魔撃槍を奪取する計画を立てた。
交流祭に参加するギルド部隊は主催のギルド本部が張り出した告知に、当日行うパフォーマンス内容や自身の部隊の目玉となる情報が記載されている。
情報を得るのは簡単だった筈だ。
この男がセシル達の持つ銃火器を魔撃槍と勘違いしたのは、彼は魔撃槍の情報こそ得たが、見た目までは知らなかったからだと憶測出来る。
魔撃槍と同じく、遠くの敵を倒せる銃火器を魔撃槍と勘違いしたのだと。
だからこの男は、サーヴェラが俺達ヴィルヘルムに魔撃槍を貸与したと結論付けた様だ。
そして此奴等の最終的な目的は、先程この男が言った通り‥‥‥ 奪取した魔撃槍を使い、暗君‥‥‥ 十中八九、軍の猛反発を押し切り停戦を告げたエルド帝国の新皇帝、バエルに鉄槌を下す事だろう。
敵はわざわざラルキア王国王都、ペンドラゴの目と鼻の先で開催されているこの場所を占拠したくらいだから、その気になれば此奴等はペンドラゴに攻め込む事も出来る筈‥‥‥
だが、エルド帝国解放軍のリーダーは、王都を攻めるより皇帝バエルを誅する事しか頭にない様だ。
この男達の胸にあるのは盲目的な愛国心‥‥‥ まるで大東亜戦争終戦間際、神と仰いでいた天皇陛下を拉致・監禁しようとしてまで聖戦完遂を叫んだ大日本帝国軍人達の様だ。
マズい‥‥‥ 銃火器を渡すなんて言語道断だが、こんな奴等、下手に刺激すると何をしでかすか分かったもんじゃない。
「魔法兵団隊長に再度告げる! お前が開発した魔法具を大人しく我等に渡せ!
さもなくば無辜の人々が命を落とす事になるぞ!」
「そ、そんな!? それにその人達が持ってるのは‥‥‥」
「喝っ!!」
「「「っ!?」」」
どうやってこの状況を切り抜ければ良いか頭を働かせていると、リーダーの怒声が響く。
その声につられる様に魔法兵団隊長のサーヴェラが声を荒げた次の瞬間、より大きな声が大地を震わせた。
「エルド帝国解放軍などとほざく輩が居ると大人しく見て居たが‥‥‥ もう我慢出来ん!」
「女子供を人質に取る‥‥‥ 騎士道精神を無くし心まで賊に落ちたか!」
「んなやり方、いけすかねぇな!」
「「「だ、誰だ!」」」
俺を含め、この場に居る皆の目線が声のした方を向く。
すると、3つの影が市民達の中から姿を見せる。
背丈と声色から見て3人共男の様だが、3人はまるで顔を隠す様に深くフードを被っていた。
「彼奴等は!」
「あ、貴方方は!?」
3人の男はゆっくりとフードをめくる。
「び、ビルドルブ様!」
「ベリト様にサブナック様も!?」
「嘘!? なんであの人達が!」
フードの下から現れた素顔を見て、俺やサーヴェラは勿論、エルド帝国解放軍の面々が驚愕の表情を浮かべた。
人質となっていた市民達の中から姿を見せたのは、かつて俺達と戦ったエルド帝国軍の将軍達だった。
「な、なぜビルドルブ様が此処に!?」
「3人共バエルに盾突き幽閉されていた筈では!」
「さ、サブナック様! ベリト様! 是非我等にご助力を! 」
「御三方が味方して下されば、暗君バエルに乗っ取られた祖国を解放できます!」
突如として姿を見せた将軍達に、エルド帝国解放軍の面々は困惑が6割、喜びが4割程織り混ざった表情を見せる。
どうやらエルド帝国解放軍にとってもビルドルブ達の出現は予想外だったらしく、彼等は明らかに狼狽えていた。
「ミカド、敵が狼狽えてるよ。今がチャンスじゃ」
「いや待て、様子が変だ」
その様子を見て、今が攻撃のチャンスだとセシルが耳打ちしてきたが、どうも様子がおかしい。
「‥‥‥」
その証拠に、ビルドルブ達の眉間には皺がより、ピクピクと蠢いている。
その表情は、怒りを噛み殺しているかの様に見えた。
「バエルの方針にワシ同様に異を唱え、軍を離反した者が少なからず居ると小耳に挟んだが‥‥‥ 愚か者共が!!」
「「「「「ひっ!」」」」」
ビルドルブの一喝が大地に響く。
まるで大気を萎縮させたかの様に、空気がビリビリと震えた気がした。
「どうやらお主等は我が軍に居た様だな。ならば! 我が軍の規律を知らぬ筈がなかろう!」
「【我等は誇り高き騎士である。故に我等の敵は武具を纏う騎士であり、弱き民では無い】
他の覇龍7将軍方の軍とは違い、ビルドルブ様の軍は騎士道精神を最も尊んでいた軍の筈だ」
「ビルドルブのオッさんが口を酸っぱくする位言い聞かせてただろ!
だがテメェ等は、敵国の民相手と言えその規律に背いた‥‥‥ 仮にもオッさんの軍に居た部隊ならこれくらいの規律は守りやがれ!」
「と、止まってください閣下達! これも全てエルド帝国の為なのです!」
「な、仲間割れか?」
ビルドルブ、ベリト、サブナックは怒り心頭と言った様子でカツカツと足を踏みならし、エルド帝国解放軍のリーダー達の前へ立った。
その様子を見て、右手にM2。左手にガン・アックスを携え、命令があればすぐに動けるだろうレーヴェが声を漏らす。
「国の為と‥‥‥ 国の為なら弱き民を蔑ろにしても良いと言うか!」
「う、動かないで下さい閣下! そこから1歩でも踏み出せば、以下に閣下と言えど容赦は‥‥‥ 」
「お主の愛国心は実に立派だ。 しかし、民無くして国は無い! なればこそ!! 最低限の矜持を持たぬか!!」
「ぐぼぁ!?」
「「「「「た、隊長!?」」」」」
リーダーの言葉がビルドルブの逆鱗に触れた。
ビルドルブから発せられる殺気が陽炎の様に空気を歪ませる。
次の瞬間、ビルドルブの大きな拳が、凄まじいスピードで男の顔面を捉えた。
「今だ! 攻撃科と歩兵科は正面の敵! 偵察科、支援科は背後の敵を叩け! 一般人に当てるなよ! リズベル達は市民を護れ!」
「行けテメェ等! 俺達は側面の敵を討つ! ヴィルヘルムを援護するぞ!」
「「「「「イェッサー!!」」」」」
「「「「「おぉお!!」」」」」
リーダーの男が4、5回程転がり、草原に沈んだ。
それを見たエルド帝国解放軍は、反射的に民衆へ向けていた切っ先をビルドルブ達に向ける。
やっと隙が出来た。
俺はこの隙を逃さず、頼れる仲間達に正義の執行を命じる。
ヴィルヘルムの隊員達の動きに応答して、ヴァルツァー達も動いた。
「皆その場に屈めぇえ!」
「「「「「っ!」」」」」
ダダダダダダダッ!!
ドドドドドドッ!!
ダン! ダン! ダン! ダン!
「「「ギャァア!!」」」
「やはりあの攻撃は‥‥‥」
「あの時の!」
「オッさん、ベリト! 頭上げるなよ! 巻き添え食らっちまうぞ!」
俺の言葉を聞き、人質となっていた市民達とビルドルブ達は慌ててその場に屈み込む。
次の瞬間、幾つもの銃声が五重奏を奏でる様に鳴り響いた。
しかも、この音色はただの音色では無い。
けたたましい五重奏と共に、微かに風を切る音が聞こえる。
五重奏の重厚で、臓腑の奥が震え上がる様な音とは違う。
鋭く、素早く空を切るその音色の正体は、非道な行動に出た者達を冥府へと送る小さな‥‥‥ もしくはやや大き目な弾丸。
これ以上ない程に訓練を受け、数多の実戦も経験して来た頼れる仲間達の瞳と銃口は、しっかりと敵を見据えていた。
「こ、このまま終われるか!」
「せめて1人でも道連れにしてやる!」
「「エルド帝国軍万歳!!」」
「くっ!?」
「あっ、ミカド!!」
ヴィルヘルムの隊員が正面と背後の敵を穿ち、ヴァルツァー達が側面の敵を叩く。
ビスっ! ビスっ! と、弾丸が体に命中する小さな音が至る所から聞こえた。
しかし、敵の数は多かった。
此方は市民に被害が出ない様に気を配らねばならず、その攻撃は何時もの俊敏さ、苛烈さが無い。
大凡8割の敵は無力化出来たが、残りの2割が絶体絶命の危機を迎え、ヤケを起こした。
弾丸の雨の襲来から運良く生き残っていた敵が、剣を振り被り此方に突っ込んで来る。
敵はどうやら俺を標的‥‥‥ 一矢報いる為の生贄に選んだらしい。
俺は迫り来る脅威に対処する為に、腰に付けたホルスターに手を伸ばした。
バァァァァァアン!
「がはっ‥‥‥」
「はぁ‥‥‥ はぁ‥‥‥ 」
不意に、HK416DやPSG1、P90にM2とは違う銃声が木霊する。
その音は俺の真横から聞こえた。
「こ、これ以上無駄な抵抗は辞めなさいよ! 勝ち目がないって分からないの!?」
目線を横に向けると、サーヴェラが煙の上がる魔撃槍を持ち、鼻息を荒くしながらも敵を睨んでいた。
「うっ‥‥‥ 」
「クソっ‥‥‥」
「敵の無力化完了っ!」
「おい! 誰か縄を持って来てくれ!」
ここに至り、敵はこれ以上の抵抗は無駄だと悟ったらしい。
僅かに生き残った数人の敵が、事切れた様にガックリと項垂れる。
「ありがとなサーヴェラ。助けられた」
「ど、どういたしまして‥‥‥」
項垂れた敵にセシル達が銃口を向けて包囲し、その横ではヴァルツァーがギルド職員に不届き者を縛る縄を寄越すように叫んでいる。
「あれ? ビルドルブ達は‥‥‥」
ふと、会場を見渡すと先程まで近くに居た筈のビルドルブ達が忽然と消えていた。
何故ビルドルブ達がこの場に居たのか‥‥‥
妙な違和感は感じるが、エルド帝国解放軍が目論んだ計画‥‥‥ サーヴェラから魔撃槍を奪い、それを用いてエルド帝国皇帝バエルを討つという夢は、呆気なく失敗に終わった。
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「それでは皆様! 予期せぬトラブルがございましたが、これにてギルド主催の交流祭は終了です! お気を付けてお帰り下さい!」
時刻は16:00。
エルド帝国解放軍と名乗る武装集団に会場が占拠されるという予期せぬトラブルがあったものの、交流祭自体は無事に終わりを告げた。
投降した、並びに怪我をしたエルド帝国解放軍の面々はギルド本部が呼んだラルキア王国軍に捕らえられ、犯行の動機等詳しい情報を得る為に王都に連行された。
ふぅ、一時はどうなるかと思ったけど、何事もなくて本当に良かった。
「じゃ俺達は先に帰るが‥‥‥ 本当に良いのか?」
「あぁ、準備はヴァルツァー達がやってくれたんだ。片付けは俺達でやっておくよ」
「すみませんミカドさん。ありがとうございます」
「「お疲れ様でした!」」
「おう! 気をつけて帰れよ!」
「さようなら〜!」
「よし、皆お疲れさん! 皆のお陰で一般人に怪我人は出なかったらしいぞ! 良くやってくれた!」
「良かったぁ〜」
「ま、当然だな!」
「でもまだ屋台の撤去が残ってる! 申し訳ねぇけど、もう少し頑張ってくれ!」
「「「「「イェッサー!」」」」」
俺はヴァルツァーやイーリス達、白狗の光の面々を見送り、整列した隊員達に笑みを向ける。
ちなみに、この一連の騒動で命を落とした市民は居なかったらしい。
結果としてはこれ以上考えられない成果だった。
「あ、あの‥‥‥」
「ん? お、サーヴェラか。さっきはありがとな。助かったよ」
そんなこんなで交流祭も終わり、ヴィルヘルムの面々に屋台の撤収を指示していると、ツンツンと背中を突かれた。
振り返ると、其処には眉をハの字に歪ませるサーヴェラが居た。
「ご、ごめんなさい! 私、変な言いがかりを付けて‥‥‥」
「あぁ、分かってくれればそれで良いさ」
どうやらサーヴェラは、俺に言いがかりをつけた事を謝りに来た様だ。
今にも泣き出しそうなサーヴェラに、俺は怒ってないぞと笑みを向ける。
「貴方達のパフォーマンスを見て思い知ったわ‥‥‥ 貴方達の使う魔法具‥‥‥ 銃火器は私の発明とは根本的に別物なんだって。
私の魔撃槍じゃ、天地がひっくり返っても貴方達の真似は出来ないわ」
「まぁ‥‥‥ 今はそうかも知れねぇな。でもあの命中精度は中々だったぞ」
「そう言って貰えると救われるわ。 でも失礼を働いた事に変わりはない‥‥‥ このまま何もせず別れるなんてイフリート家の恥よ!」
サーヴェラは申し訳なさそうに眉を下げていたと思ったら一転、キリッと凛々しい顔付きになった。
うん、なんか嫌な予感がするな。
「えっと、サーヴェラさん? 俺は別に分かってくれればそれで良いんだが‥‥‥」
「それじゃ私の気がすまないの! だから、もし貴方達がピンチに陥ったら直ぐに私達を呼びなさい! 大陸の何処に居ようと、直ぐに私達が駆けつけるわ!」
「はい?」
「そう言う訳で、現時点を持って魔法兵団と守護者は【ギルド部隊同盟】を結成したって事で! 困った事があれば私達を頼りなさいよね! それじゃ、また会いましょう!」
「あっ!? 待てサーヴェラ! 何勝手に決めて‥‥‥ あぁ‥‥‥ 行っちまった」
「あ、あはは‥‥‥ い、一件落着かな?」
「はぁ‥‥‥ やれやれ」
俺の嫌な予感はある意味では当たり、ある意味では外れた。
此方の意見に聞く耳を持たないサーヴェラの後ろ姿を見て、セシルが苦笑いを見せる。
「おい」
勝手に【ギルド部隊同盟】なる物を締結したサーヴェラの背中を見ていると、今度はややしわがれた声に呼び止められた。
「っと、そうだった。まだ厄介事が残ってるんだったな」
この声の持ち主に聞かれない様小さく呟いた俺は、声のした方に顔を向ける。
姿は見ずとも俺はこの声の正体が分かった。
彼等は恐らくラルキア王国軍に見つかる事を警戒し、この場が落ち着くまで姿を隠していたのだろう。
サーヴェラが付けてきたイチャモンは無事解決したが、それとは比べ物にならない位大きな問題がまだ残っていた。