170話 交流祭 4
「以上! 上空から各兵科隊員をサポートし、遠距離の敵を倒す能力に特化した部隊、支援科のパフォーマンスでした! はい皆拍手!!」
パチパチパチパチ!!
大きな拍手が会場を包み込む。
今のところ大きなトラブルは無い。
マリア達偵察科にレーヴェ率いる攻撃科、そしてドラル率いる支援科のパフォーマンスも予定時刻から1分の遅れもなく、恙無く終了した。
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レーヴェ達攻撃科は、この日の為にティナのツテで魔術研究機関に製作してもらった特注の的‥‥‥ 鉄を魔龍石で包み込み精製した直径2mの的を、其々の武器で粉々に粉砕した。
この的は人型に精製した鉄に溶かした魔龍石を包み込んだ物だ。
更に【物質強固】の術式を書き込んだ特注品となっている。
魔龍石は様々な用途に使える万能鉱石。
魔龍石は、それ自体に魔力が宿っておりほぼ無加工で魔法具の燃料等に使用出来るが、あらゆる術式を書き込む事で、様々な効果を生み出す事も出来る。
例えば、魔龍石に【熱が加わると発火する術式】を書き込めば、火龍石となる。こんな感じだ。
今回の的は攻撃科の扱う銃火器の威力を見てもらう事を目的としている為、生半可な攻撃では破壊出来ない様、物質の強度を高める術式が施された的を用意した訳だ。
「おっしゃぁぁ! ぶっ放せぇえ!」
「「サー! イエスサー!」」
レーヴェの掛け声の下、攻撃科所属隊員のツィート・ベティ組がM249の引き金を引く。
ドドドドドッ!!
硝煙と鼻をつく刺激臭が会場を包み込み、あまりの爆音と迫力に観衆は耳を抑えて目を見開く。
「っはぁ! やっぱ思いっきりぶっ放すとテンション上がるなぁ!」
スリングが付けられたM2を肩からぶら下げ、嬉々として12・7mm弾を撃つレーヴェが叫ぶ。
久しぶりにM2を撃つ彼女の顔には、喜びが満ち溢れていた。
「コイツも持ってきて正解だったぜ!」
「あ! おいレーヴェ!?」
「よっと!!」
「お、おい! まさかあの子、あの斧も使うのか!?」
「あ、あの斧は!!」
「皆ぁ! 腰抜かすなよぉ!」
ドォォオオン!!!
不意にレーヴェがM2の射撃を止め、会場の隅目掛けて駆け出す。
駆け出したレーヴェの目線の先には鉄の塊が立て掛けられていた。
彼女はそれを左手で掴むと、空へと掲げる。
空へと掲げられた左手には、展示用として持って来ていた巨大な銃斧が握られていた。
レーヴェはお祭りでテンションがこれ以上ない程に上がり、右手でスリングが付けられたM2を。
左手にはガン・アックスを持つと言うトンデモない行動に出たのだ。
事前の決まりでは、レーヴェはM2のみを使う事になっており、この行動はいわばアドリブ。
俺は慌てて止めに入ろうかと思ったが、結果を見るとそれは無駄な心配だった。
レーヴェはM2を肩からぶら下げたままガン・アックスを水平に持つと、観衆に声を掛け20mm炸裂弾を放つ。
ガン・アックスの先端から放たれた20mm炸裂弾は的のど真ん中に命中。
轟音を轟かせ、既にM2によって半壊していた的を瓦礫へと変えた。
「「「「「お、おぉお!!」」」」」
「はぁ、やれやれ‥‥‥ 」
ちなみに、俺は集まった観衆の中から、この的の強度を確かめてもらう為に力に自信がある男達へ鉄製のハンマーを渡し、この的を殴って貰っていた。
ハンマーで殴ったくらいでは術式が施された的には多少凹ませたり、欠けさせるのが精一杯。
粉々になる事は無い。
力自慢の男達が手も足も出なかった的をいとも簡単に、アッサリと粉砕したレーヴェ達が歓声を受けたのも当然だ。
「っし! 撃破完了っ!」
ワァァァァ!!
的を破壊し、意気揚々とガン・アックスを担ぐレーヴェが会心の笑みを浮かべると、より大きな歓声が響く。
終わり良ければ全て良し。
と言いたい所だが、レーヴェは後でお説教だ。
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攻撃科のパフォーマンスが終わると、次はドラル達支援科の出番だった。
「支援科総員、行きますよ!」
「「はい!」」
ドン! ドン! ドン! ドン!
ドラル達支援科は飛行能力がある子を配置している。彼女達はその特性を活かし上空に舞い上がると、急上昇・急降下を繰り返してポジションを変えつつ、約100m離れた場所に設けた的を次々とPSG1で撃ち抜く。
「凄い‥‥‥ 的からあんなに離れてるのに攻撃を外さない!」
支援科の的は偵察科と同様に、人や魔獣を象った木製の的だ。
偵察科や攻撃科とは違い、支援科は一定の間隔を空けてPSG1を撃つ。
それ故に2つの兵科と比べれば少しばかり迫力に欠けるが、それでも確実に1発1発を的に‥‥‥ より詳しく言えば、的の頭部に7・62mm弾を撃ち込み、頭部を砕くドラル達は、少しばかり畏怖の眼差しを向けられて居た。
だが裏を返せば、彼女達の腕前がそれ程高い事を示している。
「撃破完了しました」
パチパチパチ!
フワリと地上に降り立ったドラルは、その瞳を頭部が砕けた的へと向けた。
死神射手とあだ名されるドラルの狙撃を目の当たりにした観衆は、少し気圧されてしまったのか歓声こそあげないが、惜しみない拍手をドラルへ、そして狙撃科のファルネ・アミティア組へ送る。
「皆様に仇なす者が居ればそれを穿つ。それが私達の役目‥‥‥ 皆様に降りかかる脅威は私達が排除します」
「っ! 頼もしいじゃねぇか!」
「あぁ、頼りにしてるぞ!」
「応援してるわ!」
拍手だけが響く会場を一瞥したドラルが小さく、しかし観衆に聞こえる様な澄んだ声で呟いた。
ドラルの硬い決意が篭った言葉は、しっかりと観衆達の心に届いたようだ。
先程よりも拍手の音は大きくなり、暖かい言葉が聞こえてくる。
彼女に向けられた畏怖の眼差しは無くなっていた。
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「さて皆、悲しいが次の兵科で最期のパフォーマンスになる」
えぇ! と、観衆が声を上げる。
「悪いな。でも最後まで楽しんでくれ! それじゃ、最後に腕前を披露してくれるのは‥‥‥ 」
「きゃぁあ!?」
「全員動くな!!」
俺が最後の兵科‥‥‥ 歩兵科の紹介に移ろうとしたその時、観衆の中から絹を切り裂くような悲鳴が上がった。
「な、何だ!?」
「この会場に居る全ギルド関係者、並びに参加者全員に告ぐ! この会場は我ら【エルド帝国解放軍】が制圧した!」
「この会場に居る全ての者はこの広場に集まれ!」
「ギルド関係者よ! 変な行動を起こせば市民が死ぬ事になるぞ!」
複数の野太い声がコの字型の会場周辺から響く。
多少混乱しながら周囲を見渡すと、人混みの中から40人程の男達が姿を見せた。
其奴等は予め用意していたのか、それともコッソリと持ち込んだのか、鋭い光を灯す長剣を握っている。
しかも最悪な事に、姿を見せた男達の半数‥‥‥ 20名が女性や子供の首元に刃を寄せ、残りの男達は観衆に剣の切っ先を向けていた。
【エルド帝国解放軍】と名乗る者達が観衆を人質に取るパフォーマンスをするなんて、俺達は勿論、どのギルド部隊も予定していない。
これはつまり緊急事態。
この瞬間、ギルド主催の交流祭会場は、交流祭に足を運んだ市民を人質に取られ、【エルド帝国解放軍】と名乗る無頼達に制圧された事を示していた。