168話 交流祭 2
「ミカド隊長オーダー入ります!」
「オーケー! 」
「こっちもお願いしますヴァルツァーさん!」
「ちっ! こんな盛況するなんてな! わかった!」
交流祭が始まって早数時間。
時刻は正午。
丁度お昼時とあって、俺達守護者のブースと、隣り合い協力体制にあるヴァルツァー率いる白狗の光のブースは人の波に飲まれかけていた。
何故お昼時で大盛況なのかと言うと、ロルフやリズベル・リリベル姉妹が持って来てくれた物が関係していた。
俺は祭に必要な物は2つあると考えている。
まずは人を楽しませる催し。
今回で言えば、先程俺が挨拶した場所‥‥‥ コの字型のステージで行われる各ギルド部隊の模擬戦やパフォーマンス、そのステージ周辺で行われているギルド部隊との交流がコレに当てはまる。
そしてもう1つは‥‥‥
「お待ちど! 【フライポテト】に【特製サンドイッチ】だ!」
「こっちも出来たぜ! ほら【カラアゲ】だ!」
そう! 祭ならではのお手軽屋台料理だ!
俺は交流祭に参加するに当たり、来てくれた人達が少しでも楽しんでくれる様にと、ブースの横‥‥‥ より具体的に言えば、ヴィルヘルムとヴァイス・フーリヒトのブースの間に屋台を設け、其処で軽食を出す事に決めていた。
ちなみに、この屋台はヴァルツァー達が組み上げてくれていた。
今回赤字上等の覚悟で売っているのは、鳥の腿肉をカラッと揚げたカラアゲに、細長く切ったジャガイモのフライ。
そして、パンに果実や生クリームを挟んだ特製のサンドイッチの3種類。
この食材・調理器具、料理を入れるもしくは包む紙袋の提供はノースラント村の満腹食堂の女将さん、並びに同村の鍛治職人さんや大工さん達。
ロルフ達が持っていた麻袋には、今日のお昼時に間に合うように、前もって満腹食堂の女将さんに下拵えしてもらった肉やジャガイモ・パンや果物が入っていたのだ。
( なお食材が痛まない様に、各食材は俺が事前に召喚し、女将さんに渡しておいた食品用の容器に入れられている)
カラアゲやフライポテトなら、下拵えさえしてしまえば後は現地で揚げるだけ。
特製サンドイッチは、その場で切り分け挟めば完成と、祭にうってつけのお手軽料理になっている。
「ありがとうございます隊長!」
「お待たせしました! ご注文のお品物です!」
「ふぅ‥‥‥ これでひと段落だな」
「あぁ。よし、人も落ち着いたし皆休憩して良いぞ〜! パフォーマンスまでには戻って来てくれ」
「「「「イェッサー! ありがとうございます隊長!」」」」
「お前らも適当にブラついて来て良いぞ」
「「「「うっす! 」」」」
出来立てホヤホヤの料理を、ヴィルヘルムの隊員とヴァイス・フーリヒトの隊員が協力して販売している。
そして人の波が落ち着くと、俺とヴァルツァーは隊員達に休憩に向かわせた。
「ったく。お前が宣伝してくれたお陰で大変だったぞ」
隊員達を見送ると、俺の隣でカラアゲを作っていたヴァルツァーが憎まれ口を叩く。
言葉こそやや刺々しいが、ヴァルツァーの口元には笑みが浮かんでいた。
うんうん。ヴァルツァーの奴、初めて会った時と比べて随分と丸くなったな。
正直色々と思う所があるが、妹の夢でもあった奴隷解放を成し遂げて気持ちに余裕が出てきたからだろう。
「まぁそう言うなって。種族関係なく皆の楽しそうな姿が見れて楽しかったじゃねぇか」
「‥‥‥ だな」
「協力してくれてありがとなヴァルツァー。よっと。食うか?」
「あぁ。お前が作ってた芋の揚げ物か‥‥‥ 美味いのかそれ? 油で揚げただけだろう?」
「まぁまぁ! 食ってみろって!」
「仕方ねぇな」
俺はササっと、下拵えが済んでいるジャガイモをたっぷりの油で揚げ、紙の容器に入れてヴァルツァーへ差し出した。
ヴァルツァーは油で揚げただけの芋が美味いのか疑問だったらしいが、一口食べた途端、目を見開いた。
「お、美味え。なんの味もしないと思ってたけど塩が振ってあるのか」
「な? 以外にイケるだろ?」
「おう。作っててアレだけど、正直美味いのか疑問だったんだよ。
うん、塩が効いてて美味い。
それにこの容器に入れてれば、歩きながら食える。考えたなミカド」
「これは俺が思い付いた物じゃ訳じゃねぇけどな。そう言ってもらえて幸いだ」
「ちょっと貴方達!」
「「ん?」」
こんな具合でヴァルツァーと駄弁っていると、不意に声を掛けられた。
客かな? と思い声のした方を向くと、其処には偉そうに腕を組み、仁王立ちする女の子が立っていた。
「どうした? 何か注文か?」
「違うわよ! それより守護者の隊長は何処に居るのかしら?」
「ヴィルヘルムの隊長だ? 隊長なら、ほれ。お前の前に居るじゃねぇか」
「何か用事かなお嬢ちゃん」
どうやらこの女の子は俺に用事があるらしい。
ヴァルツァーと言葉を交わすこの子の背丈は150cm程。歳はマリアと同じくらいか?
俺は少し屈み込んで、この女の子と目線を合わせた。
「貴方がヴィルヘルムの隊長ね! ってか、お嬢ちゃんじゃないわよ!
私にはサーヴェラ・イフリートって立派な名前があるんだから!」
「あー、そっか。悪かったなサーヴェラちゃん」
「むきぃい! 全然悪いって思ってないでしょ!? あとちゃん付けは辞めなさい!」
うむ、この子の反応は見ていて面白い。
と言うか、見た目が幼いのに腕組みしたりして威張った雰囲気を醸し出してると思いきや、見た目相応の元気なリアクションを見ると微笑ましいとすら思えてしまう。
このサーヴェラはフロイラとは違うタイプでハイテンションな子らしい。
「嬢ちゃん、ちょっと落ち着けよ。ほら、これ食うか?」
「あ、さっき貴方達が作ってた物ね? 貰えるなら頂くわ! 頂きます!」
「あ、容器ごと奪いやがった‥‥‥ 」
「で? サーヴェラは俺に用事があるんだろ?」
「はっ! ほうあった!」
容器ごとフライポテトを奪われ、少しイラついてる様子のヴァルツァーを横目に、俺はサーヴェラに話しかける。
ちゃん付けされる事に抵抗があるらしいから、フランクに行こう。
「コクン。ご馳走様でした」
「はいお粗末さんでした」
「中々の味だったわ。 塩気が効いてて美味しいじゃない! 繁盛するのも納得ね。 ‥‥‥ってそうじゃなかった!」
口一杯に頬張ったフライポテトを飲み込み、律儀に御馳走様をしたサーヴェラは、俺の胸倉を掴む勢いで詰め寄ってくる。
そして‥‥‥
「あんた! 私の発明のアイデアを盗んだでしょ!」
「は?」
全く予想だにしなかったサーヴェラの発言に、俺は面食らってしまった。
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「で、何で俺がサーヴェラの発明のアイデアを盗んだって思ったんだ?」
突然イチャモンを付けられた俺は、屋台をヴァルツァーに任せつつ、セシルやマリア達に交代で休憩する様に指示を出すと、ブースの一角に座らせたサーヴェラの目を見つめた。
「しらばっくれないで! 貴方の部隊が使ってる魔法具が私の発明とそっくりだったからよ!
どうやってアイデアを盗んだかは知らないけど、あの魔法具を見れば私のアイデアを盗んで作った物だって断言出来るわ!」
「ふむ‥‥‥ 」
敵意剥き出しの眼差しを向けるサーヴェラの話を聞く限り、このお嬢ちゃんは俺が彼女の発明のアイデアを盗んだと決めつけている様だ。
サーヴェラはベレッタやHK416Dの事を言っているのだろうが、そもそも、銃火器は俺がこの世界で召喚した物しか存在していない筈だ。
サーヴェラは間違いなく誤解している。
「俺達が使ってる魔法具ってのは、アレの事か?」
「そうよ! やっぱり私の発明にソックリだわ!」
俺は少し離れた場所に置かれてるHK416Dや、PSG1のモデルガン達を指差した。
サーヴェラが言う魔法具とは、銃火器の事で間違いないらしい。
「成る程な‥‥‥ サーヴェラ、まずこれだけは言わせてくれ。サーヴェラは誤解している。
俺は君のアイデアを盗んでいない。そもそも、君は何者だ?」
「‥‥‥ 私はルノール技術王国で活動してるナイト級ギルド部隊、【魔法兵団】の隊長よ」
「魔法兵団‥‥‥ 確か、ヴィルヘルムと同じ様に魔法具で戦う武闘派の魔術師ギルド部隊だったか?」
「えぇ」
俺は自信を持って彼女のアイデアを盗んでいないと断言しつつ、事前にミラから聞いていた交流祭に参加するギルド部隊の情報を思い返した。
このお嬢ちゃんが隊長を務めるギルド部隊、魔法兵団は、その名が示す様に魔法を得意とする人達しか所属出来ない部隊だった筈だ。
こんなちびっ子が隊長の部隊か。
いや、偏見は良くないな。
このちびっ子は見た目こそ幼いがナイト級ギルド部隊の隊長‥‥‥ つまり俺達と同格の実力を持っていると言う事になる。
それにこの部隊の団員数は確か30名を超えていた筈。実力は確かな様だ。
加えてこの子達が活動しているルノール技術王国は、魔術と科学を融合させた発明品の開発でその名が知られている。
活動地域と魔法具を使い戦う部隊。
なるほど、合点がいった。
そう言えば、俺が交流祭開催の挨拶をする前に、ヴァルツァー達と一緒にこの子の部隊も挨拶していたな。
「君が言いたい事は大体分かった。君は俺達が使うHK416Dやベレッタが、アイデアを盗用されて作られたと言いたいんだな」
「そうよ! 貴方達が使ってるそのえ、エイチケー? とか言う魔法具は、術式を施した魔龍石を使用者の魔力で撃ち出す遠距離攻撃用魔法具‥‥‥ この私の【魔撃槍】のアイデアを元に作られてるのは明白よ!」
彼女はそう言うと、肩から下げていた長い筒状のケースから、これまた長い筒状の物体を取り出した。
これが彼女の言う【魔撃槍】なる魔法具らしい。
「これは‥‥‥ 【火縄銃】か?」
俺は机に置かれた物体に目線を向ける。
その細長い筒状の物体は、持ち手と思しき部分が緩やかなカーブを描いていた。
これを見て、俺は火縄銃をイメージした。
最も、俺の知っている火縄銃とは違い、この魔法具は使用者の魔力で動くらしく、火縄銃に備わっている着火用の火縄や、火薬を入れる火皿と呼ばれる物は付いていない。
一言で言ってしまえば、湾曲した木の上部に鉄の棒が付いた様な見た目をしていた。
話を聞く限り、魔撃槍とは使用者の魔力を使い、術式が施された魔龍石を撃ち出す武器の様だ。
確かに、HK416D等と見た目が似てると言われれば似てるかも知れないし、離れた場所に居る敵を倒す道具だという点も銃火器と同じだが‥‥‥
「ひなわじゅう? 何それ。 兎に角、大人しく白状しなさい! わたしの魔撃槍のアイデアを盗みましたって! そして頭を地面に擦り付けながら謝罪するのよ!」
「やれやれ、困ったな‥‥‥ 」
「ミカド〜!」
「ん? どうしたセシル」
全く聞く耳を持たないサーヴェラにどうしたもんかと頭を悩ませていると、トテトテとセシルが駆け寄って来た。
「どうしたって、そろそろパフォーマンスの時間だよ? 準備しなきゃでしょ」
「と、もうそんな時間か‥‥‥ よし、丁度いい。なぁサーヴェラ。お前、俺達のパフォーマンスを見ろ」
「は? 何で貴方達のパフォーマンスを見なきゃならないのよ!」
「俺達はこの後、銃火器を使ったパフォーマンスをする。 そのパフォーマンスを見れば、お前の魔撃槍と銃火器が根本から別もんだって分かるからだ」
俺は聞く耳を持たないサーヴェラに、少しだけ乱暴な手段を取る事にした。
時刻は13:30。
俺達は30分後に会場のど真ん中に設けられた広場にて、銃火器を使ったパフォーマンスを行う事になっていた。
このパフォーマンスは、各部隊が己の実力を集まった人々に披露し、交流祭を盛り上げる事を目的としているのだが、俺はヴィルヘルムのパフォーマンスをサーヴェラに見せる事で、少しは冷静に‥‥‥ もとい、こちらの言葉に耳を傾けてもらおうと思った訳だ。
「随分な自信ね‥‥‥ えぇ分かったわ! 見せて貰おうじゃない!」
「よし。セシル、各員揃ってるか?」
「うん! 休憩に行ってた皆も戻って準備に取り掛かってるよ!」
「了解! 俺達も準備に取り掛かるぞ」
上手くサーヴェラを乗せた俺は一息付くと歩き出しす。
そして25分後。
ブースをギルド職員達に任せたヴィルヘルム総員計22名と1匹は、コの字型に設けられた広場に立った。