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ロリババア神様の力で異世界転移  作者:
第5章 戦争
178/199

162話 完全勝利



「あ、あれは!」


その光景は、遠く離れた帝達の目にもしっかり写っていた。


白銀と新緑色の【何か】が、ラルキア王国国内の丘に姿を見せた瞬間を。

その白銀と新緑色の【何か】が、まるで津波の如く丘を駈け下り国境を越え、帝国軍の左翼に襲いかかる瞬間を。


「「「「「「ギャァァァ!!」」」」」

「な、何事だ!?」


この津波は真一文字に帝国軍を貫いた。


断末魔が響き、敵将達は声を荒げる。


だが、そんな事を歯牙にも掛けない白銀と新緑の津波は左翼の敵を蹴散らし、中央の敵を穿ち、遂に彼等彼女等は右翼に居た帝の元へ辿り着く。


「ご無事ですか!」


凛子とした力強い声が戦場に響いた。


「ゆ、ユリアナ!?」

「「「「「戦乙女騎士団ワルキューレ・リッターオルゲン!!」」」」


帝を始め、その姿を見た全員が驚きの声を上げる。


そこに居たのは、プラチナブロンドの髪を靡かせ、光り輝く剣と鎧を纏った美女と、白百合と戦乙女(ワルキューレ)の紋様を刻みし部隊。


それは姫騎士達。


ラルキア王国が第1王女、ユリアナ・ド・ラルキアと、ラミラやニクルを始めとするユリアナの護衛騎士団、戦乙女騎士団ワルキューレ・リッターオルゲンの団員達だった。


「隊長、ラルキア王国軍です!」

「後方にはスノーデン公国の軍も見えました!」

「あぁ‥‥‥あぁ! 来てくれたんだ! 予定より何時間も早く!」


颯爽と登場したユリアナ達を見て、帝は確信した。



ユリアナは自ら軍を率いて俺達を助けに来てくれたのだと。



圧倒的劣勢に置かれても尚戦う俺達を助ける為、昼夜を問わず大地を駆けて来たのだと。



「貴方は‥‥‥誰方か存じませんが、良く耐えてくれました! 私達も戦います!」

「皆、第1連隊の働きに報いるぞ!」

「敵は浮き足立ってます! 今が好機ですユリアナ様!」

「えぇ!戦乙女騎士団ワルキューレ・リッターオルゲンこの機を逃してはなりません、突撃!!」

「「「「「はっ!」」」」」


帝の姿を見たユリアナは一瞬目を見開く。その目には驚いた様な色が浮かんだ。


しかし直ぐに凛子とした目付きに戻ると、ボロボロの帝達を庇う様に背を向け、ユリアナは戦乙女騎士団ワルキューレ・リッターオルゲンを率い、帝国軍へ突撃した。


「ミカド! 」


その光景を前に、呆然と立ち尽くす帝へレーヴェが声を掛ける。


帝はレーヴェの言わんとした事を察した。


( まさかユリアナ達が来てくれるなんて‥‥‥ これで何とか撤退出来るかも知れない。

いや、むしろ再度攻勢に出るチャンスだ !)


今、ラルキア王国軍第1連隊は、ユリアナを始めとしたラルキア王国軍とスノーデン公国の援軍を得て、総兵力は3万を超えた。


対する帝国軍は、開戦当初こそ10万の大軍勢を有していたが、暁闇の奇襲作戦開始時までの戦闘で1万近い死傷者を出している。


つまり、暁闇の奇襲作戦開始時のエルド帝国軍の残存兵力は9万弱。


更にこの9万の兵力の内約3万は、エルド帝国が効率よく奴隷を使役する為に開発した催眠魔法具を使い、弾除け・使い捨て戦力として操っていた奴隷達だった。


彼等は今、催眠魔法具が破壊された事で自我を取り戻し、奴隷という身分から解放してくれた王国軍に恩を返そうと帝国軍を攻撃していた。


この3万近い元奴隷達がラルキア王国軍に加わり、エルド帝国軍は兵力が激減した。


開戦当初は絶望的だった第1連隊とエルド帝国軍との兵力差は、ここに来て同等かそれ以上になったのだ。



( 帝国軍はユリアナ達の援軍とリズベル達の奇襲で完全に浮き足立った。

暁闇の奇襲作戦は、本来この援軍を待つ為に行った作戦だ。でも、この状況なら! )


「総員、ユリアナ達に続け! このタイミングを逃すな!」

「っしゃぁぁあ!」

「「「「「イエス・サー!!」」」」」


帝は素早く状況を見極めると短く叫んだ。


兵力差は同等かそれ以上。

敵は浮き足立っている。

援軍の到着で、各戦線の第1連隊の士気は高まり、逆に敵の士気は目に見えて落ちていた。


数分前まで王国軍は全滅必至な状況に置かれていたが、一瞬のうちにその最悪な状況から一転する。


帝は今が最初で最後の勝機だと確信した。




▼▼▼▼▼▼▼▼



「なんたる事だ!!」

「マズイ! オッさん、味方は総崩れだ!」


ラルキア王国征服軍・中央軍総大将ビルドルブは烈火の如く叫び声を上げた。


突如として現れた数万の軍勢により、戦線はズタボロに切り裂かれ、味方は混乱の極みに陥っていたからだ。


ビルドルブを始め、帝国軍の面々は前日までこんな事態は想像すらしていなかった。


開戦前に降伏勧告をする慈悲深さ‥‥‥ ある種の余裕すらあったビルドルブだが、この状況は彼の予想の遥か上をいっていた。


「総大将、退却を! 」

「敵は奴隷達を吸収し更に数万の援軍まで駆け付けました! このままでは勢いに乗った敵を防げません!」

「ぬぅ! この援軍、明らかに我等が攻める事を見越して出撃しておる! やはり我等の侵攻計画は敵に漏れておったか!」


帝国軍の将軍達が顔を青く染め上げ、ビルドルブに意見具申する。


彼等の僅か数十m先では、先程まで攻勢を掛けていた帝国軍が新手の登場で動揺し、連携もままならず懸命に新手の敵と刃を交わしていた。


しかし新手の勢いに呑まれ、防戦で手一杯な状況となっている。


それでも破壊者(アフェニヒター)とあだ名されるビルドルブは、持ち前の腕力で隙を突いて突貫してくる王国軍を薙ぎ払っていたが、それにも限度があった。


彼の部下達の戦意は折れ、既にチラホラと勝手に逃げ出す兵卒も出始めていた。


もし彼等が奴隷達の様に催眠魔法で操られていたなら、彼等は死ぬその時まで戦い続けただろう。


しかし、今戦っている彼等はエルド帝国軍の正規兵。純粋なエルド帝国臣民。

有志で集まった者達。


即ち感情がある人間だった。


彼等は混乱と恐怖に駆り立てられ、次々と背を見せ我先にと逃げ出す。

兵卒が勝手に退却する程統率が乱れると、余程の指揮官でなければこの混乱を収めるのは難しい。


ビルドルブは強く奥歯を噛み締める。


「‥‥‥総軍撤退!!」

「「「「「はっ!」」」」」


そしてビルドルブは選択した。

彼は戦さ場で死ぬ事を望んではいたが、無駄死にをするつもりは毛頭なかった。


彼は10万もの兵を持ちながら、たった2千の兵に負けた敗将として歴史に名が残る事を甘受し、部下の命を最優先して汚名を背負い退却する事を選択した。


以下にビルドルブや闘将サブナック等が兵卒を鼓舞しようにも、大勢は既に決していた。


ジャァァァァアン!


天をつんざく銅鑼の音色が轟く。



肌を切る様な空気が立ち込める1月2日。



1月1日。元日より始まったラルキア王国軍2千数百人対エルド帝国軍約10万との戦闘は、エルド帝国軍の全面撤退という形で一旦幕を閉じたのだった。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「や、やった! エルド帝国の野郎共が撤退したぞ!!」

「勝った! 俺達勝ったんだ!」

「「「「「「おぉぉぉお!!」」」」」


歓喜の雄叫びが大地に響き渡る。

眩しい朝日が大地を照らしていた。


既に帝国軍は自国の奥まで撤退し、大地は静寂を取り戻している。


その光景と王国軍の勝鬨は、同時に長い‥‥‥ とてつもなく長い1日が終わった瞬間を告げる物でもあった。


眩しい恵みの光を浴び、ラルキア王国軍の誰も彼もが満面の笑みを浮かべ、傍の戦友と抱き合い喜びを爆発させている。


「か、勝った」


そんな光景を横目に、俺は大地にへたり込み、そのまま大の字に寝そべった。


地面だろうが関係ない。

精神を限界ギリギリまで研ぎ澄まし、肉体を酷使し続けた後に訪れた安息。


力が抜けるのも当然だ。


「はぁ‥‥‥マジで今回ばかりはダメかと思った」

「「「「「隊長ぉぉお〜!!」」」」」

「うぉわぁ!?」


俺はゆっくりと身体を起こす。

その時、幾つもの人影が突っ込んできた。


「隊長ぉ! 勝てました! 私達勝てましたよぉお!」

「こ、怖かったですぅう!」

「皆無事で良かったぁ!」

「「「「「隊長ぉぉお〜!」」」」」


その人影は、先程絶体絶命のピンチに陥ったアウリやハーゼ、そして頼れる仲間達だった。


「あぁ‥‥‥ 皆良くやってくれた! 」


俺は揉みくちゃにされつつも、満面の笑みを浮かべ本心からそう言った。


彼女達は地獄の様な短期集中訓練を受けたとはいえ、今回が初めての実戦だった。

しかも戦局は圧倒的に不利な状況。彼女達は死ぬ事も覚悟で付いて来てくれてはいたが、やはり死への恐怖心を完全に消す事はできない。


それでも彼女達は死への恐怖を無理矢理押さえ込み、我武者羅に戦い、そして勝利を掴んだ。


彼女達は、勝利の喜びに浸るよりも、誰1人として欠けなかった事を喜んでいる様に見えた。


「皆のお陰で俺も死なずに済んだ。本当にありがとう」


立ち上がった俺は彼女達に敬意を払い、頭を下げる。


これまで文句も言わず付いて来てくれた彼女達に。

最後まで諦めずに戦ってくれた彼女達に。

誰も欠ける事なく生き残った彼女達に、俺は感謝の言葉を送った。


「「「「「た、隊長ぉぉ!」」」」」

「っと‥‥‥よしよし。皆泣くなよ」


様々な思いの籠もったありがとう。


その言葉を受け、目に涙を溜めていた彼女達はこらえ切れず堰を切ったように涙を流し、俺へ抱き着いた。


「「ミカドぉお!」」

「ご無事ですか!」

「ミカド‥‥‥」

「良かった、誰も大怪我はしてないみたいね」

『主人殿!』

「皆無事〜?」

「只今戻りましたわ」

「「「「隊長!!」」」」

「おわぁぁ!?」

「よ、よぉ。やっぱ生き残ってやがったな」


俺は安堵し、滝の様な涙を流すフロイラを始めとする第1(アインス)分隊面々の頭をあやす様に優しく撫でる。


するとそこへ、左の戦線から相棒のセシルとファルネ達第2(ツヴァイ)分隊が。


その第2(ツヴァイ)分隊と途中合流したのだろう、多連装ロケット(カチューシャ)を任せていたティナ、リートの2人が。


縛れぬ者達(アンチェインズ)の撃退を自ら買って出たドラルとマリア、そして2人と共に行動していたヴァルツァーがバツの悪そうな笑みを浮かべている。


更に更に、帝国軍の後方から奇襲撹乱攻撃を仕掛けたリズベル、リリベルが手を振り叫びながら駆け付け、もしくは第1(アインス)分隊の面々と同じ様に帝へタックル並みのスピードで抱き着いた。


ロルフは声は聞こえるが姿が見えない所を見ると、自分の姿が大勢の王国軍に晒すのを警戒して、後方からテレパシーで語りかけてるようだ。


「もうダメかと思ったよぉお!」

「すぐ助けに行けなくてごめんなセシル‥‥‥ 」


そんな事を考えつつ、俺はボロボロになりつつも抱き着き安堵の涙を流すセシルを優しく抱き返し、ゆっくりと頭を撫でる。


( セシルには‥‥‥いや、皆には無茶をさせてしまった‥‥‥ 危うくダンさんとの誓いを破る所だった )


もっと力を付けなきゃな‥‥‥


涙を流すセシル達を見て、俺は改めて心に誓った。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「では、これにて我々が仕掛けた作戦等の報告を終了します」

「はい、ありがとうございました閣下」



場所は移り第1連隊駐屯地の作戦室。

今この広さ30畳程の部屋には各部隊の隊長クラスの軍人が20名程居り、少々狭苦しく感じる。


その内の1人、第1連隊連隊長グロウ・アレティスは、壁に埋め込まれた黒板に所狭しと文字を書き込むと頭を下げた。


グロウさんはこの駐屯地の代表として、これまでラルキア王国が挙げた戦果や被害を始め、エルド帝国軍の構成等を出来るだけ詳しくユリアナ達に説明していた。


「しかし、聞けば聞く程無茶な事をしていたのですね‥‥‥

亡くなった方々には第1王女の名において手厚い支援を約束します」

「はっ! 残された家族達も喜ぶでしょう」

「グロウ閣下も此度はよく耐え抜いてくださいました。ありがとうございます」

「貴公の戦いぶり、同盟国として頼もしく思います」

「勿体無きお言葉」


グロウさんはユリアナの言葉を受け、恭しく頭を下げる。

そんな彼へ、ユリアナと共に援軍として駆け付けてた同盟国、スノーデン公国の将軍は目を細めて声を掛けた。



ちなみに、ラルキア王国とスノーデン公国の間で結ばれている同盟は、軍事同盟というより経済同盟の意味合いが強いらしい。



理由としては、わざわざ軍事同盟を結ばなくとも、有事の際には( ラルキア王国を含め、他国家が侵略された場合のみ )侵略対象となった国家は、即応的にその他国家と軍事同盟が締結される条約がこの大陸にあるからだ。


加えてスノーデン公国は自然豊かな国らしいのだが、ラルキア王国の様な魔龍石の生産国ではないし、ラルキア王国の隣国であるルノール技術王国の様な技術力もなく、マリタ共和国の様に農業が盛んなワケでもない。


スノーデン公国は、観光資源以外に目ぼしい産業がないのだ。


結果として、観光資源以外目ぼしい職のないスノーデン公国の人達は他国に仕事を求めて出稼ぎに行く他なく、多くの人達は家族を公国に残し他国へと向かう。


この出稼ぎ労働者に目を受けたのが、魔龍石の採掘に人手を欲していた現ラルキア王国国王、ゼルベル・ド・ラルキア陛下であり、これが後にラルキア王国とスノーデン公国の同盟は経済同盟と呼ばれる所以でもあった。



魔龍石が採掘された事で、人々の生活は一転する。



これまでは魔力の高い者が、自身の持つ魔力を注入する事でしか扱えなかった魔法具は、魔龍石を動力源や燃料とした事で魔力の少ない人でも扱える様になった。


その為、ラルキア王国は勿論他国でも魔龍石の需要はうなぎ登りとなり、採掘しても採掘しても供給が追いつかない事態に陥る。


この様に、本来労働者が必要ならば、強制的に酷使できる奴隷を使うのがこの世界での常識なのだが、ゼルベル陛下は奴隷という存在を快く思っておらず、奴隷に代わりスノーデン公国の出稼ぎ労働者にこの仕事を斡旋したいとスノーデン公国公王に申し出た。


( 尚、有志で魔龍石の採掘に従事したいと申し出たラルキア王国在住の獣人を始めとした他大陸種族の人々も、スノーデン公国の人達と同じ待遇で働いていた )


この申し出を受けたスノーデン公国の公王は二つ返事で快諾し、今日までこの経済同盟関係は続いてきた。


スノーデン公国は労働力を対価に自国民の所得が増え、更にスノーデン公国内でも需要の増えてきた魔龍石を他国と比べ、比較的安価に仕入れられる条文を盛り込んだ経済同盟を結べた。


ラルキア王国は自国民と同等の賃金をスノーデン公国出稼ぎ労働者に払う事になったが、金のなる木である魔龍石の安定した採掘・供給を可能となる。


この持ちつ持たれつの関係が両国の結び付きを強くし、両国の連携強化にも一役買った。


戦争開始2日目にして、スノーデン公国の援軍が駆け付けてくれた理由はここにあった訳である。



話を戻して‥‥‥



グロウさんからこれまで行った作戦の概要を聞いた時、この部屋に案内されたユリアナや護衛騎士団の団長ラミラ、ニクル他王国軍参謀やスノーデン公国軍の将軍等の面々は目を見開いて驚きの声を上げた。


絶対的な兵力差を見事覆し、勝利を掴んだのは無謀とも思える作戦を幾つも行い、賭けに勝ったからか‥‥‥ と、彼等彼女等は心の中で呟く。


だからこそ、ユリアナやスノーデン公国の将はグロウさんに賛美の言葉を掛けたのだ。


「してグロウ閣下。この者等は?」

「はっラミラ殿。このお二方は此度の戦争に義勇兵として馳せ参じた者達の隊長に御座います」

「「 ‥‥‥ 」」


不意に、感心した様子だったラミラが俺とヴァルツァーを睨んだ。


話の矛先が俺とヴァルツァーに向いた。


あいも変わらず怪しい者を警戒し、眉間に皺を寄せるラミラに凄まれ、俺達は無言で頭を下げる。

ヴァルツァーは極力ラミラ達の方を見ない様にさえしていた。


いや、別に俺達はラミラが怖いんじゃない。 ただ下手に騒がれると面倒なだけだ。


俺達が所属するギルドには、戦争に関わってはいけないという決まりがある。


俺達はその決まりに反してここに居た。


加えてヴァルツァーはベルガス反乱の際、共に暮らす妹や仲間達の為とは言え、ベルガスに多少なりとも加担していた。

ヴァルツァーがバツが悪くなるのも当然だった。


そもそも、最前線への援軍に王女たるユリアナも居るなんて考えすらしなかったぞ‥‥‥


「そうだったのですね。貴方方の働きでこの駐屯地が敵の手に落ちずに済みました。 国王陛下に変わり礼を申し上げます」

「「はっ」」


そんな具合で、内心冷や汗ダラダラの俺とヴァルツァーにユリアナは微笑みを浮かべ、頭を下げた。


まるで全てを見透かしている様なユリアナの微笑みを受け、俺とヴァルツァーはこうべを垂れる。


「しかし、まさかユリアナ殿下が駆け付けて下さるとは思ってもおりませんでしたわ」


そんな俺達の焦りを察したのか、カリーナさんがユリアナへ話しかけてくれた。


俺達の方を見て小さくウインクした辺り、やっぱり察してくれていた様子だ。


流石カリーナさん。後でお礼を言わないと。


「何を仰います。此処で駆け付けずして何が戦乙女(ワルキューレ)でしょうか。

皆と共に戦う事こそ、私の務めです」

「流石で御座いますユリアナ殿下! このグロウ含め我等一同感激の極みに御座います!」

「ふふ‥‥‥さて。では話を戻しましょう。

単刀直入に言いまして、我が国‥‥‥いえ、この人間大陸は未曾有の危機にあります」


カリーナさんが話を反らしてくれたお陰で、話の矛先が俺とヴァルツァーから反れた。


すると小さく微笑んだユリアナの表情は一転。険しい顔付きに戻る。


どうやら、まだ戦いは続きそうな雰囲気だった。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「 ‥‥‥」

「あ、お帰りミカド! 」

「お帰りなさい」

「ユリアナちゃん達は元気だった?」

「あぁ‥‥‥ユリアナもラミラもニクルも元気そうだったよ」


作戦室から戻った俺を迎えたのは、第7駐屯地の面々とささやかな宴の真っ最中のレーヴェやドラル、セシル達の笑顔だった。


この笑顔を見ていると、エルド帝国の軍に勝ったんだと実感出来る。


それでも俺の気は晴れなかった。


「どうしたのミカド‥‥‥元気ない?」

「やっぱバレるよな‥‥‥いや、ちょっと俺の想像以上にヤバい事になってるっぽい」

「え? どういう事?」

「丁度いい、ヴィルヘルムの皆を集めてくれ。俺の加護の事も含めて説明する」


作り笑いを浮かべ、ユリアナ達の事をセシルに伝えると、マリアが俺の袖を引っ張った。


マリアは感情表現こそ乏しいが、その変わりか人の感情を読み取る能力に長けてる気がする。


それはさておき、皆にもユリアナの話を伝えなければ。


俺は先程、ユリアナから聞いた事を。

そして俺の持つ加護の事を皆に教える事にした。



▼▼▼▼▼▼▼▼



「「「「ミカド隊長! 隊長には色々と聞きたい事がありますっ! 」」」」

「そうね、良く考えれば可笑しな事ばっかり。洗いざらい喋って貰うわよ?」

「ですよねぇ‥‥‥」


セシル達に兵舎内にある食堂にヴィルヘルム総員+リズベル、リリベル姉妹を呼んで来て貰うと、早速フロイラやファルネ他数名と、何故か満面の笑みを浮かべるティナに詰め寄られた。


いや、まぁこの反応も仕方ないっちゃ仕方ない。

ある程度こうなるとも予想はしていたし。


「ま、まぁ皆少し落ち着いて? 」

「ゴホン‥‥‥よし。それじゃまず皆が1番聞きたいと思ってる事から説明する」


セシルの言葉でとりあえず落ち着きを取り戻し、椅子に座った皆。

俺はそんな皆の前に立ち、ワザとらしく咳払いをした。


「えー‥‥‥簡潔に言うぞ。 俺は魔法が使える。 魔法と言っても、皆が知ってる様な火球(ファイアー・ボール)とかじゃない。

俺は想像した物を形に出来る魔法が使えるんだ」

「「「「「‥‥‥?」」」」」

「想像した物を形に出来る魔法...... ですか? そんなもの聞いた事ないですよ」


どうすれば皆の理解が及ぶ範囲で加護の事を説明出来るか。

考えた結果、俺はこれまでと同様、【加護】の部分を【魔法】と置き換えて説明した。


案の定、皆は絶句している。

というか、俺の言っている言葉の意味が理解できていない様子だ。


そんな中で1人、冷静を保ち続けていたリズベルが俺を見つめる。


「だろうな。だから証拠を見せる。

ま、感の良い子は薄々察してるとは思うけど‥‥‥」


今は言葉で説明するより、見てもらった方が早い。

百聞は一見にしかず。

俺は目を瞑り、ある物を思い浮かべた。


数秒後、俺の目の前に置かれている机の上が眩しく輝く。そして光が収まると、机の上には重厚な光を放つHK416D

が鎮座していた。


「「「「え、HK416D!?」」」」

「て‥‥‥手品ですか?」


いきなり現れたHK416Dを見て、イザベラやナターリス達が目を見開く。


「これは! ミカド隊長がオスマンを倒した時と同じです!

ミカド隊長が縛れぬ者達(アンチェインズ)のオスマンを倒した時も眩しい光が! 」

「そ、そうです! その光が収まるとミカド隊長は大きな武器‥‥‥ ? を持ってました!」


だがイザベラやナターリスの反応とは違い、フロイラとアウリは声を荒げた。


「これが証拠だ。 皆の持っているベレッタやHK416D、その他銃火器は魔法具なんかじゃなくて、俺が魔法を使って召喚した物なんだ」


「「「えぇぇぇえ!?」」」


「おぉ〜。お兄さん達が使ってた武器はそうやって出来た物だったんだ〜!」

「これは‥‥‥ ふふ、長生きはするものですね」

「あはは‥‥‥ 驚くのも無理ないよね。私も始めて聞いた時は驚いたもん」

「だな」

「そうですねぇ」

「ん‥‥‥」


2名程比較的冷静な子は居たが、それ以外の子は耳をつんざく様な、悲鳴の様な声を上げる。


幸い第7駐屯地の面々は表でどんちゃん騒ぎの真っ最中。多少騒いでも良い事が救いだ。


「「「「せ、セシル副隊長達は知ってたんですか?」」」」

「う、うん。ベルガスの反乱が終わった辺りにミカドから聞かされたよ」

「成る程‥‥‥ でもミカド、それを私達に教えて良かったの?」


ヴィルヘルムの面々が今度は苦笑いを浮かべるセシルへ詰め寄る。


ふと、ティナが真剣な眼差しで俺を見た。


ティナの言いたい事は何となくわかる。

俺は以前、ティナにこの加護の事を追求されていたからだ。


だがあの時は誤魔化してしまった。

しかしティナは俺の言葉を聞き、驚き以上に危惧が浮かんだのだろう。


恐らくだが、俺のこの加護が公になれば、俺は無尽蔵に武器を生み出せる者として狙わねるのではないか? と。


「ティナの言いたい事はわかる。

実際、前はそれを危惧してティナにこの加護の事を教えなかったからな‥‥‥」

「なら何で今更? 教えるにしても、もっと早く教えてくれても良かったじゃない」


プクッと頬を膨らませ、不満を隠そうともせずティナは睨んだ。


「ごもっともだ‥‥‥今まで内緒にしていた事は謝る。でも不安でさ‥‥‥ 」

「どう言う事よ」

「ティナちゃん、ミカドを攻めないであげて? 確かにもっと前に教える事は出来たけど、ミカドは皆にこの魔法の事を信じて貰えるか不安だったんだよ」

「ティナはいきなり目の前で武器が出たら、それが魔法だって信じる‥‥‥?」

「うっ‥‥‥ そ、それは‥‥‥ちょっと信じられない‥‥‥ かも」

「ミカドって、こう見えて心配性だからな。 だから皆に信じてもらえないかもって考えて、直ぐに言い出せなかったんだよ」

「でも今は違います。皆は一緒に命を懸けて戦った仲間。今の皆なら必ず信じてくれると、ミカドさんは思ったんです」


覚悟はしていたが攻める様なティナの言葉に俺は冷や汗を滲ませた。

そんな俺を庇う様に、セシルやレーヴェ達が優しい声色で言葉を並べる。


俺には何より有難い援護射撃だった。


「今更何を言っても言い訳にしかならない。だから皆、黙っててごめん!」


しかし、俺は頭を下げ、誠心誠意謝罪の言葉を述べた。

この加護の事を黙っていたのは事実。言い訳はみっともないと思ったからだ。


「はぁ‥‥‥ もう良いわよ。別に私は怒ってる訳じゃないし」

「ほ、本当か? 」

「えぇ。ただセシル達は知ってるのに、私達は知らなかった。その事がちょっと癪に触っただけよ」

「う‥‥‥ わ、悪かった‥‥‥」

「ま、まぁまぁ! でも考え方を変えれば、これで私達も隊長に本当の仲間だって認めてもらえたって事ですよね?」


少しだけギスギスした空気が食堂を包む。その空気を敏感に感じ取ったフロイラが、持ち前のハイテンションで声を発する。


「ん、そうだ。俺がこの魔法の事を直ぐに言い出せなかったのは皆に信じ貰えないかもって思ったからだ‥‥‥ でも今の皆なら‥‥‥ 一緒に戦った皆なら信じてくれると確信した。

だから恥を忍んでお願いする!

魔法の事を秘密にしていて本当に悪かった!

どうかこれからも俺達と一緒に戦ってくれ!」

「皆お願い!」

「頼む!」

「お願いします!」

「お願い‥‥‥ 」


俺は再度誠心誠意頭を下げた。

そんな俺の横で、セシル達も頭を下げてくれる。


「やれやれ‥‥‥ 本当に仕方ないわね。良いわよ。これまで通り、ヴィルヘルムの一員として頑張ってあげるわよ」

「わ、私もミカド隊長に着いて行きます! 魔法の事はちょっと驚きましたけど、それでも私の隊長はミカド隊長だけです!」

「ルールも同じです! 私もミカド隊長達に着いて行くです!」


ティナが、リートが、そしてルール達皆が、少し困惑した色を残しつつも俺達へ笑みを向けてくれる。


皆は隠し事をしていた俺を許してくれた。


だから俺は‥‥‥


「ありがとう‥‥‥ これからもよろしく頼む!」


笑みを浮かべてそう叫んだ。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「帝よ、此度ばかりは妾の助力が必要かと思ったぞ」


第1連隊駐屯地の城壁の上。

恵の光を浴び思考していた俺の脳に、特徴的な声色が響く。


胸元に入れた旭護袋(きごぶくろ)が紅く輝いている。

と、言う事は‥‥‥


「あぁ、ユリアナ達が何時間も早く来てくれて救われたよ咲耶姫」

「この世界の女神に愛された様じゃの。しかし、まだ危機は脱しておらぬ」


俺は空を眺めつつ、この声に語りかける。


「マジで勘弁して欲しいぜ‥‥‥ エルド帝国の奴等、まさか同時侵攻戦を仕掛けてきやがったんだからな」


恐らく、旭護袋を通して俺達のやり取りを見ていたのだろう咲耶姫の声を受け、俺は奥歯を噛み締めた。


俺はヴィルヘルムの面々+2名に加護の事を説明した後、ユリアナから齎された情報を皆に伝えた。


ちなみに、俺が別の世界から来たと言う事と、スキルの事も伝えていた。

彼女達にもう隠し事はしたくないと思ったからだ。


この事を聞いたヴィルヘルムの面々+2名は、加護の事を聞いた時以上の声を上げたが、彼女達が扱う銃火器が俺の居た世界の武器という事等を詳しく説明すると、彼女達は半信半疑ながらも信じてくれた。


例え俺が別の世界から来た人でも、私達の隊長はミカド隊長だけです。

と有り難い言葉と共に。



閑話休題。



ユリアナが齎した情報は、戦勝気分の俺達の頭を冷やすには充分過ぎた。


「うむ。お主等の敵は、この国の西からだけではなく、北と南からも時同じくして攻め込んでおったとはの‥‥‥ 」

「あぁ‥‥‥ しかも捕らえたグラシャの話じゃ、エルド帝国はラルキア王国を攻めさせた軍とは別に、【極北征服軍】【極南征服軍】とか言う2つの軍団も同時に動かしてるらしい」



ユリアナから伝えられた情報。

それは、エルド帝国軍はラルキア王国を征服する為に合計22万の大軍勢を従え、侵攻してきた事。



そして、このラルキア王国を征服する為にエルド帝国皇帝が差し向けた大軍勢、【ラルキア王国征服軍 (正式名称 中央征服軍)】とは別に、其々20万の大軍、【極北征服軍】【極南征服軍】と言う2つの大軍勢も、同時にエルド帝国の隣国に侵略させていると言う情報だった。



ラルキア王国に攻めてきた敵、【中央征服軍】は覇龍7将軍のビルドルブを総大将とし、10万から成る主力の【中央軍】が西から。

そしてラルキア王国南部には、中央軍隷下で【南部軍】と名付けられた6万の兵が。

更に北部には、【南部軍】と同じく中央軍隷下の【北部軍】が6万の軍が攻めて来た。



つまりラルキア王国は、西・南・北の3方向から同時に合計で22万にも登る大軍勢に攻撃を受けたと言う事になる。

エルド帝国は凡そ100年前にラルキア王国と戦い、敗戦している。

この大兵力は、その時の雪辱を晴らすという意思がハッキリと見て取れた。



だが、俺達が主力の【中央軍】を撃破した事で【南部軍】と【北部軍】の連携が乱れ、王国軍は何とか国境付近で帝国軍の侵攻を防いでいた。



これはユリアナから聞いたのだが、聞けば王国軍首脳は、目の前に広大な草原があるこの第1連隊駐屯地付近から帝国軍が侵攻してくる可能性は低いと見ていた様だ。



隠れる物が皆無なこの地形だと、遠目からでも王国軍に発見される可能性が高いから、こんな目立つ場所から攻めて来るとは思っていなかったらしい。

以前、この地には6万の軍を率いたビルドルブ達が姿を見せたが、軍首脳部‥‥‥ 作戦に携わる参謀達は、このエルド帝国軍は偵察と同時に、エルド帝国軍が第1連隊駐屯地付近から攻め込んで来る様に思わせる策だと判断した。



これもユリアナから聞いた話なのだが、王国軍の参謀達は‥‥‥



「我等に大軍を見せて印象付け、此処を攻め込むと思わせるのがエルド帝国軍の策!

こんな拓けた場所では、自軍の居場所をバラすと同義! 以下にエルド帝国軍と言えど、そんな無茶は犯しますまい!」

「エルド帝国軍は第1連隊駐屯地付近、国境の西側に王国軍を集める事で兵力を一箇所に集中させ、その隙を突き、山岳や林が生い茂る南部、もしくは北部から攻め込んで来ると思われる!」

「仮にエルド帝国軍がこの地に攻めて来たとしても、南部・北部の侵略軍を支援する事を目的とした陽動部隊が精々でしょう」


そう言っていたらしい。



それ故に王国軍首脳部は、この参謀達の力説を信じ、帝国軍が侵攻してくるとしたら、山岳部や森林があり、目立ちにくい南部もしくは北部から侵攻を仕掛けて来る可能性が高いと判断し、其方に兵を優先的に配備していた。


しかしこれが結果として、北部と南部から攻めて来た帝国軍を防ぐ要因になった。

参謀達の力説も一理あるが、大兵力を有しているエルド帝国軍には関係なかった。


彼等は例え自軍の居場所がバレても、力で押し切れる自信があったのだ。



これとは別に、極北征服軍・極南征服軍から攻められている諸外国も善戦していた。


事前にラルキア王国が、エルド帝国が侵略してくる可能性高しと警告していたお陰だ。

その為諸国は半信半疑ながらも防衛体制を強化していた為、何とか国境でエルド帝国軍を食い止める事に成功したらしい。


「して、お主はこの後どうするつもりじゃ?」


脳内で今ラルキア王国が、人間大陸が置かれた状況を反芻していると咲耶姫が不安そうに声を掛けてきた。


「どうするもこうするもねぇよ。目の前に明確な敵が居るなら戦うだけだ」

「そうか‥‥‥ すまんな」

「なんだよいきなり」

「お主のドジがあったとは言え、平和に暮らしていたお主をこの世界に送ったのは妾じゃ」

「‥‥‥ 心配してくれてありがとな。でも俺は死なねぇよ。この世界で俺を受け入れてくれた子達が‥‥‥ 俺に付いてきてくれる子達が居るからな」


多分だが、咲耶姫はこんな事になった後ろめたさを感じているのだろう。


でもこれは俺が選んだ道だ。


俺はあの時、この世界に転移する事を選択しなければ死んでいたかも知れない。


咲耶姫に感謝こそすれ、恨むなんてお門違いも甚だしい。


「そう言って貰えて救われる。死ぬなよ帝」

「あぁ」


咲耶姫から優しげな声が漏れる。

その声に笑みを浮かべ返事をすると、旭護袋から紅色が徐々に消えていく。


「ミカドさん」


その時、不意に名前を呼ばれた。


「ん?」


俺は戦いがひと段落ついた事もあり、気が抜けていた。


俺は俺の名を呼ぶその声に返事をして、振り返った。




ここまでご覧頂きありがとうございます。


さて、この場を借りてご報告したい事がございます。

私事ではありますが、今年からバンド活動をさせていただく事になり、ただでさえ遅れ気味の更新が更に遅れる可能性が出て来ました。


ですが更新は出来るだけ早く行いますので、今後ともよろしくお願い致します。


ご意見ご感想頂けました幸いです。


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