158話 選ばれし奴隷 1
「おい! こんな所でなに立ち止まってんだ!」
「何かあったのですか!?」
「皆、大丈夫!?」
「第2分隊か...... 気を引き締めろ。妙な奴等が出て来たぞ」
「らしいな...... 何者だ此奴等...... 」
予期せぬ獣人や龍人達と対峙している俺の元に、後方から走って来たレーヴェとドラル、ヴァルツァー達。
そしてセシル率いる第2分隊。
更に、ポイントA、B地点に居た元奴隷達が合流した。
彼等彼女等は、血塗れの武具を纏う敵に驚いた目線を向けていた。
「どういう事...... 催眠が解けたのに、なんで貴女達はエルド帝国軍の味方をするの?」
場所はポイントCとDの境界線上。
あと数歩進めば、攻撃目標となっている正規軍の陣地に入るという所で、ヒメユリ第1分隊は足止めを食らっていた。
立ち塞がる人達を見て、マリアが理解出来ないと顔を顰める。
「あはははは!」
そんなマリアの言葉を聞いた【妖精族】と思しき小柄な女性が、甲高い笑い声を上げた。
「エルフ族の小娘ちゃん、貴女は勘違いをしてるわ」
「勘違い...... ?」
笑い声を上げる妖精族の女性の隣では、長身の【赤龍人】の女性が口元を不気味に歪める。
「そう。私達は元から催眠なんてかかってないのよ」
「えっ!?」
「と、いう事は!?」
「貴方達は奴隷じゃないって事!?」
セシルやフロイラ、ナターリスが目を見開いて声をあげた。
同時に、彼女達の頭上に文字が浮かび上がるのが見て取れた。
「【冷酷な龍士卿】に【東の大魔導士】...... 【獣人の大将軍】。これがお前達の2つ名だな...... 」
俺は3人の頭上に浮かんだ文字を見て呟いた。
赤い尾と翼を持つ女性の上部には、冷酷な龍士卿の文字が。
半透明の羽根を持つ女性の上部には、東の大魔導士の文字が。
そして犀が二足歩行している様な外見をした男性の上部には、獣人の大将軍の文字が浮かんだ。
「あら、よくご存知で」
「私達はルシュフェール皇帝陛下の寵愛を受ける特別迎撃隊【縛れぬ者達】。貴方達を地獄へ送る部隊よ」
いつの間にか、縛れぬ者達と名乗った彼女達の後方には、20名程の【獣人】や【龍人】、【エルフ】や【ドワーフ】達が立っていた。
新手の多種族人の上部には、【縛れぬ者達兵士】の文字が浮かび上がる。
この20名程の奴等と、大層な2つ名を持つこの3人から成る縛れぬ者達という部隊は、多数の種族から成り立っているらしい。
そしてどうやら、この縛れぬ者達は他の奴隷と一味違う様だ。
「きゅ、救世主様! 奴等は危険です!」
「 奴等はその有り余る魔力や、並以上の腕力に目を付けたエルド帝国皇帝が特例として催眠を掛けず、兵士の称号を与えた奴等だ!」
縛れぬ者達を見た元奴隷達が、怒りや恐怖等、負の感情が篭った目線を縛れぬ者達に向ける。
縛れぬ者達は彼等と同じ獣人や龍人等だったが、元奴隷達は負の感情を隠そうとすらしなかった。
元奴隷達は興奮した様に話し続ける。
「あの妖精族の女は東の大魔導士の2つ名を持つ悪魔、アルスナ・イル・フミーネル!
縛れぬ者達の副隊長だ!
彼奴は1人で妖精大陸にある国を滅ぼし、後に妖精大陸を追放された高級魔術師!」
「追放されたとは人聞きが悪い。私は自らあの大陸を離れたんですー。
其処は勘違いして欲しくありません」
東の大魔導士、アルスナは1人で1国を滅ぼしたとは思えない程、子供っぽく、拗ねた様に頬を膨らませている。
「赤龍人の女は西大陸で残虐の限りを尽くした盗賊集団、【剣と髑髏の一団】の頭目だったルリ・エルロッテ!
同族だろうと躊躇なく殺す冷酷な龍士卿!
此奴も縛れぬ者達の副隊長だ!」
「ふふ......」
冷酷な龍士卿、ルリは手にした槍を肩に担ぎ、小さく妖艶に微笑んだ。
その微笑みは、とても誇らしげだった。
「それに此奴等を率いるあの【犀獣人】の男!
あの男は兵の称号を貰う前、エルド帝国お抱えの奴隷商人連合500人を1人で全滅させた怪物、オスマン・ガンディール!
エルド帝国皇帝に縛れぬ者達の部隊長を任命された獣人の大将軍だ!」
「 ...... 」
そしてオスマンと呼ばれた犀の完獣人は、これまでの2人とは打って変わり、無言で俺達を見下ろした。
2つの真っ黒な瞳に感情は見られない。
俺達の事など眼中にないらしい。
「オスマンの部下も、他大陸で名の知れた無頼達! 彼奴等20数名の武はエルド帝国正規軍1000人隊にも勝る!」
「彼奴等はルシュフェールにその力を見初められ、高い金で飼われてる裏切り者共!」
「エルド帝国に居る多種族人の中で唯一自由を与えられた存在! それが彼奴等! エルド帝国軍特別迎撃隊、縛れぬ者達!」
俺の周囲に居た元奴隷達は、ご丁寧に2つ名が浮かんだ彼女達やその配下の詳細を説明してくれた。
彼等の言葉を聞けば、縛れぬ者達が彼等とは違い、何故エルド帝国の味方をしているのか分かった。
帝国軍の奴隷は、悪い言い方をすると消耗品、弾除け以外の何者でもない。
所が、縛れぬ者達は他の奴隷達より優れた武や魔法を扱えるらしい。
経歴は残虐非道だが、それが其々が戦力の高さを示している。
なるほど。
エルド帝国皇帝が彼等に催眠をかけず、金を払ってまで兵士にしたのも納得だ。
縛れぬ者達は、言うなれば傭兵の様な集団だった。
「格の違いが分かったか。 お主等の様な劣等種と違い、俺達は産まれた瞬間から選ばれし強者なのだ」
「「「「「ひっ...... 」」」」」
不意に、これまで一言も言葉を発しなかった犀の完獣人、身長2mに迫ろうかという強靭な身躯を持ったオスマンが静かに口を開いた。
先程と同様に、オスマンの言葉と目から感情を感じない。
そんなオスマンの迫力に気圧され、元奴隷達が数歩後退る。
俺達よりも近くで、縛れぬ者達を見てきた彼等元奴隷達には、縛れぬ者達は同族・同胞ではなく、恐怖の対象でしか無かった。
しかし......
「「「「「ミカド!」」」」」
「「「「「隊長!」」」」」
「あぁ!」
我がヒメユリに、臆する者は誰1人として居なかった。
「攻撃科隊長! 小手調べだ!」
「了解っ! うりゃぁぁあ!」
俺の言葉を聞いたレーヴェは、頼もしい声を上げると同時に、手にした銃斧を振り上げ、縛れぬ者達へ突貫。
力の限り銃斧を振り下ろした。
「へぇ、中々の攻撃ね」
「でも甘いわ...... 土龍の御霊よ。我が魔力に答え、 我に母なる大地の加護を。何者にも砕けぬ土の盾を授けよ!」
「 ふん...... 」
ドゴォォォオン!!
轟音が響き渡り、土煙が周囲を包み、地面が揺れる。
雑兵程度なら、今の攻撃で絶命している筈だが、今回の相手は確かに格が違った。
「なにっ!? 効いてない!?」
レーヴェは強靭な肉体を持つと言われている獣人種の中でも、上位に位置する程の強靭な肉体を持つ獅子の獣人。
彼女の攻撃は一撃であらゆる物を粉砕せしめる力を秘めている。
しかも、先程の威力とスピード。
恐らくレーヴェ達は身体能力強化を使っていた。
身体能力強化とは、文字通り筋力や脚力等、身体の持つ機能を底上げする魔法だ。
只でさえ腕力のあるレーヴェが身体能力強化を使い攻撃を放てば、それは正に一撃必殺。
技のスピードはマリアには到底及ばないが、その威力は防ごうと思っても簡単には防げる物ではない。
しかし、土煙の向こうから現れた光景が俺達を驚愕させた。
「あれは...... 土の壁!?」
焦った表情を浮かべたレーヴェに続き、ドラルも叫んだ。
数秒前まで何も無かった大地に、幅10m、厚み5mはある土の壁が出来ていたのだ。
その壁には、レーヴェの斬撃の跡だろう裂け目があった。
「土壁。土属性の防御魔法よ」
壁の向こう側から、東の大魔導士の得意げな声が聞こえ、土壁が崩れ去る。
彼奴...... レーヴェの斬撃を土属性の魔法で防いだのか......!
「ちっ...... ミカド! 僕と東の大魔導士じゃ相性が悪いみたいだ!」
「らしいな...... どうするか......」
「レーヴェ...... 退いて」
「此処は私達が」
「マリア、ドラル...... 」
一撃を防がれ、バックステップで距離を取ったレーヴェの前に、ベレッタ・ブレードを持ったマリアと、PSG1を持ったドラルが立った。
「ミカドさん、同胞の始末は私達が請け負います。ミカドさんは皆を指揮して攻撃を続けて下さい」
「縛れぬ者達だか何だか知らないけど、彼奴等は私達が倒す...... 」
「冷酷な龍士卿は私が相手をするわ」
「私の獲物は東の大魔導士...... 」
「...... わかった! 其奴等は2人に任せるぞ! 総員、各分隊に分かれて左右に散会! セシル、第2分隊の指揮は任せた!」
「「「「「イエス・サー!」」」」」
「う、うん! 任せて!」
「頼む! 他の皆も俺達に付いて来い!」
「「「「「は、はい!」」」」」
俺は縛れぬ者達はドラルとマリアに任せる事にした。
少し離れた場所から怒号と悲鳴が聞こえる。
王国軍と王国軍と合流した元奴隷達が、帝国軍に攻撃を開始した様だ。
なら俺達もこんな所で道草を食ってる訳にはいかない。
俺はヒメユリと元奴隷達に左右に分かれ、攻撃を開始する様に指示し駆け出した。
「逃がさん!」
「ぐっ!?」
すると、その巨体からは想像も出来ない俊敏な動きで、犀獣人オスマンが地面を蹴り上げ、俺の前に文字通り飛んで来た。
土煙が俺の周囲を包み込む。
「ミカド!」
「心配すんな! セシルはそのまま第2分隊を率いて帝国軍をぶっ潰せ!」
「っ! わ、わかった!」
「数名取り逃がしたか。しかし、あの方向は...... 」
「おいコラ、余所見してる場合か木偶の坊」
「ふ...... 大口を叩くな劣等種よ。かつて500の敵を無傷で倒した俺にお主等数名如きで挑むか?」
「た、隊長!」
オスマンは手にした巨大なモーニングスターを小枝を振る様に扱い、存外な態度と鋭い目線で俺達の進行を阻む。
余りの迫力にアウリが声を荒げた。
「大丈夫だ。落ち着け...... おいコラ。俺達を舐めねぇ方が良いぞ。 俺からしたら、てめぇは図体だけのデカい的だ」
「劣った肉体を持つお主等ならではの負け惜しみだな...... 聞いておるぞ。
お前達は奇妙な魔法を使うらしいな。
だが、戦とは産まれながらにして強靭な身体を持つ者が勝つのだ。小手先の奇術で俺には勝てぬ」
「つまり、ひ弱な劣等種の俺達じゃ、どう足掻いてもてめぇに勝てねぇと?」
「左様。それでも尚我に勝てると夢を見ているなら引導を渡してやろう。俺を奴隷の雑兵共と一緒にするな」
「なら味わえ。そのひ弱な劣等種が生んだ叡智の結晶をな!」
タタタタタッ!!
「グッ!?」
オスマンは鎧こそ身に付けてはいるが、戦棍と盾の申し子サブナックのように盾は持っていない。
加えて、オスマンは完全に俺達を舐め切っており、防御の体勢すら取っていなかった。
俺はその隙だらけの心臓目掛け、HK416Dをこれでもかと連射で発砲した。
消音器の効果で極限まで発砲音を押さえ込まれたHK416Dから、無数の弾丸がオスマンの身体へ撃ち込まれる。
「ふ、ふふ! なるほど。これがサブナック殿の仰っていた魔法か...... 」
微かな硝煙が立ち込め、火薬の匂いが鼻を刺激した。
そして俺は絶句する事になる。
「無詠唱で放つ攻撃魔法...... 食らっておいて良かったわ。しかし! その程度の魔法、俺には効かぬ!」
「な、なんだと!?」
「じゅ、銃火器が効かない!?」
煙と刺激臭に包まれたオスマンは、鎧にヒビ割れや弾痕こそあったが、その下の灰色の肌は全くと言っていい程、傷が付いていなかったからだ。
絶句する俺を他所に、良い経験をしたとオスマンは小さく笑い、巨木を思わせる身体で俺達に立ち塞がる。
「こりゃ、想像よりヤベェな...... 」
邪龍は別として、まさか銃火器が効かない人がこの世界に居たとは......
俺の額に冷たい汗が滲んだ。
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「はぁ...... オスマンはまた勝手に...... 」
「オスマン隊長の独断行動はいつのも事じゃないですかルリ。それより、私達は舐めた口を聞いたこの小娘達を...... 」
「ん〜。そうだったわね」
「ところで、エルフ族の小娘さん〜。貴女見た目はエルフだけど本当にエルフなの?」
「私は...... 正真正銘のエルフ...... それがなに?」
「だって、貴女から魔力を殆ど感じないのも」
「...... ちっ」
「それに引き換え、魔法が使えないはずの黒龍人の小娘からは低級魔術士級の魔力を感じるわ」
「あらあら、という事は...... エルフの小娘ちゃんは、エルフ族の中でも飛び抜けた劣等種。黒龍人の小娘ちゃんは、異端種という事ね?」
「む...... 」
「ふふ...... なんて身の程知らず。劣等種と異端種さん、命は大切にしなきゃダメよ?」
「マリア、落ち着きなさい...... 」
「わかってる...... ドラルこそ...... 」
縛れぬ者達の副隊長、東の大魔導士と、冷酷な龍士卿。
そしてその部下達を引きつける役を買って出たマリアとドラルは安い挑発に乗らず、深く深呼吸した。
2人は今、静かに激怒していた。
エルフ族のマリアと、妖精族のアルスナ。黒龍人のドラルと赤龍人のルリは、種族的に見て親戚、同胞と言える。
その同胞達が、目の前で苦しんでいる同族、同胞を歯牙にも掛けない様子を見て、2人は自身が挑発された事よりも強い怒りを感じていた。
「マリア、動きは合わせるから好きに動きなさい」
「ん...... 援護は任せる...... 」
同胞の不始末は同胞たる自分達がケリをつける。
2人は強い意志を瞳に宿していた。
「速攻で終わらせるわよ」
「勿論...... 」
「副隊長達、此処は我等が」
「敵は小娘達2人。副隊長達が出る程じゃありませんぜ」
ベレッタ・ブレードを手にしたマリアと、PSG1を握り締めるドラルが2、3言葉を交わした。
それを見て、縛れぬ者達の兵達が東の大魔導士ことアルスナと、冷酷な龍士卿ルリの前に躍り出る。
彼等は隊長のオスマンやアルスナ達と比べると地味に感じるが、彼等も各地で悪名を轟かせ、エルド帝国皇帝が催眠を掛ける事を良しとしなかった選ばれし者達。
俺達は催眠を掛けられている能無し共とは違う。
俺達は強い。
俺達は選ばれた存在だ。
彼等、縛れぬ者達の心には、こんな小娘達には負けないと、絶対の自信があった。
その自信と、敵は2人しか居ないという状況が、縛れぬ者達を早くも戦勝気分にさせる。
「そうね。良いでしょう。蹂躙を許可します」
「殺した後は、小娘ちゃん達の持ってる道具は殺した者に与えるわ」
「ははっ! さすが姉御達! 気前が良いぜ!」
「しゃぁ! 突撃だぁ!」
「退けやコラァ! あの魔法具は俺の物だ!」
余裕綽々といった具合に、尊大な態度を崩さないアルスナとルリ。
そして早くも勝った気でいる縛れぬ者達の兵達が、其々武器を手にしてドラルとマリアに突っ込んだ。
ザシュッ!
ダン! ダン! ダン! ダン!
「ぎゃぃ!?」
「ごふぁ!」
「がっ...... 」
しかし、彼等は10歩も踏み出す事なく息絶えた。
彼等は知らなかった。
相対した2人の少女達が優れた身体能力を。そして狙撃の腕を持っている事を。
無策に突撃をした縛れぬ者達の兵21名の内半数は、マリアの持つベレッタ・ブレードの刃で頸動脈を掻っ切られ、残りの兵はドラルの射撃で骸に変わる。
マリアの鋭い斬撃は、ピンポイントで敵の喉元を捉え、ドラルの正確無比な弾丸は、兵が被る兜を撃ち抜き脳天に達していた。
「なっ...... 」
「こ、この小娘達っ!」
ほんの一瞬の内に、仲間を21人全て失った東の大魔導士と、冷酷な龍士卿は顔色を失う。
先程まで余裕な表現から一転し、2人の顔には焦りが滲んでいた。
「ドラル、このまま取る!」
「了解!」
「ちっ! 良い気になるんじゃないよ!」
「火龍の血潮よ! 我に仇なす者をその業火で焼き払わん! 燃やし尽くせ!業火の波!」
ゴォォオオ!!
マリアが小さく叫び駆け出し、それにドラルが答える。
マリア達に反応する様に、冷酷な龍士卿が槍を突き立て、地面スレスレを高速で飛翔した。
その少し後方では、詠唱を唱えた東の大魔導士が、火属性の攻撃魔法を放つ。
その攻撃魔法は、まるで火の津波だった。
「死ねぇ!」
「ふっ...... !」
「なにっ!?」
「っ!?」
「「「「と、飛んだ!?」」」」
冷酷な龍士卿の槍が、東の大魔導士の放った火の津波が2人に迫る。
その時、マリアが飛んだ。
その光景を近くで見ていた元奴隷達から声が上がる。
マリアは突っ込んできた冷酷な龍士卿の肩を足場とし、その突進を躱し、同時に迫る業火の波をも飛び越えた。
この場にいる殆どの者は目を疑った。
強い脚力を持つと言われている兎獣人等、強い肉体を持つ獣人ならまだしも、人間と然程変わらない身体能力のエルフ族では、こんな芸当は出来ない。
この光景を見た殆どがそう思っていた。
しかしマリアは違った。
彼女はエルフ族なら持っていて当然の魔法の素質を持っていない。
そんな彼女に、神は超人的な身体能力を授けたのだ。
「こ、攻撃が! 詠唱が間に合わない!」
「諦めて...... ここが貴女の死に場所」
「わ、私がこんな...... 魔法を使えない劣等種なんかに!!」
業火の波を飛び越え、東の大魔導士の前に躍り出たマリアは静かに歩みを進める。
マリアは凍て付く様な瞳で東の大魔導士を見つめた。
「それが敗因。貴女は私を魔法の使えない劣等種と侮った...... 負けて当然」
「くっ...... 」
「それに貴女は、攻撃までに時間がかかる魔術士の分際で私達の前に立った......
その瞬間、貴女の負けは決まった...... 」
「る、ルリ! 助けなさい! 」
「行かせません! 水龍の御霊よ。我の魔力に答えその力の鱗片を授けよ...... 水球!」
「くっ! 黒龍人の攻撃魔法が邪魔で動けない!」
1歩、また1歩と後ずさる東の大魔導士は、仲間の冷酷な龍士卿に助けを求めた。
だが、彼女はドラルの攻撃魔法を受け、避ける事で精一杯だった。
「もうお終い...... 後方で援護に徹してれば、まだ勝機はあったのに......」
「ま、待っ!」
ザシュッ!
マリアは淡々と語り、恐怖に震える東の大魔導士、アルスナに斬撃を放った。
「高級魔術士の貴女よりも、魔法を使えない戦棍と盾の申し子の方が何倍も強かった......」
マリアの呟きが、静まり返った空に小さく響いた。
ここまでご覧頂きありがとうございます。
誠に勝手ながら、暫く更新が出来なくなってしまいました。
続きは必ず書きます。申し訳ありません。