157話 暁闇の奇襲作戦 3
「あ、あれ...... 喋れる...... 喋れるぞ!」
「さ、催眠が解けたのか!?」
「自由...... 自由だ!」
「俺達は自由だ!!」
「っし! 皆の催眠が解けたぜドラル!」
「えぇ! ミカドさん達がやってくれたみたいね!」
エルド帝国軍陣内、ポイントB地点。
催眠魔法具が義勇兵部隊ヒメユリ第1分隊に破壊された事で、催眠が解けた奴隷達はすし詰め状態にされていたテントの中で互いの顔を見合い、抱きしめ合って歓喜の雄叫びを上げていた。
その光景を見て、ポイントB地点の安全確保を命じられていたレーヴェとドラルも、同じく歓喜の声を上げる。
100余年もの長き間、虐げられ、酷使されていた同族、同胞達の解放。
王国軍と帝国軍の圧倒的な兵力差を縮める為とはいえ、古に締結された平和条約の負の遺産とも言える奴隷制度が音を立てて崩れ去った瞬間だった。
レーヴェ達の目には薄っすらと歓喜の涙が滲んでいる。
「待て。まだ戦いが終わった訳じゃねえ。喜ぶのは全部終わった後だ!」
しかし、本来この瞬間を誰よりも喜びそうな男は冷静だった。
「ヴァルツァー...... そうだな!」
「えぇ! 此処まで来て負ける訳にはいきません!」
「ふっ...... おいてめぇ等!」
奴隷達の催眠を解き、少し気持ちが緩んだレーヴェ達をヴァルツァーは戒めた。
戦いはまだ終わっていない。
僅かな気の緩みが命に関わる事を、暗殺を生業としていた彼は熟知していたからだ。
レーヴェ達が改めて気を引き締めたのを確信したのも束の間、ヴァルツァーは赤い瞳を元奴隷達に向け、声を張り上げる。
「あ、貴方達が助けてくれたのですか?」
「貴方達は神だ...... ありがとうございます!」
「礼は良い! んな事より、いつ迄喜んでるつもりだ!」
「「「「「え...... 」」」」」
好意の言葉と目線を受けたヴァルツァーは、彼等とは真逆の険しい目付きで元奴隷達を睨む。
凄まじい迫力を放つ赤い瞳で睨まれた元奴隷達は気圧され、小さく声を漏らした。
「時間が惜しい! だから要点だけ言おう! ラルキア王国軍はエルド帝国軍に夜襲を敢行した! 」
「ら、ラルキア王国軍が!?」
「無茶だ! 戦力差があり過ぎる!」
「そうだ! ラルキア王国軍はたった2千しかいねぇ! だからてめぇ等を解放した! 」
「ま、まさか...... わ、我等にもエルド帝国軍と戦えと?」
「その通りだ。 正直に言おう。俺達がてめぇ等を解放したのは、奴隷解放なんて正義の為じゃねぇ。
俺達が帝国軍に勝つ為に兵士が必要だったったからだ」
ヴァルツァーは一瞬、申し訳なさそうな表情を浮かべたが、直ぐに険しい顔つきに戻る。
エルド帝国軍に勝つ為、彼等を利用する。実際その通りなのだが、そう捉えられても仕方ない行動にヴァルツァーは負い目を感じていた。
「こんな事言えた義理じゃねぇが、ラルキア王国の民が奴隷になるのを防ぐには...... 帝国軍に勝つには、てめぇ等の力が必要なんだ」
「「「「「っ......!」」」」」
ヴァルツァーの言葉を受け、元奴隷達は息を飲む。
彼等の脳裏に、エルド帝国で暮らしていた頃の光景がフィードバックされた。
「頼む! これ以上の悲劇を産まない為に、俺達に力を貸してくれ...... 」
何処までも愚直な。何処までも真っ直ぐなヴァルツァーは、尚も負い目を感じつつ頭を下げる。
何百何千の元奴隷達は、一言も漏らさずヴァルツァーの言葉を聞き、そして顔を上げた。
「頭を上げて下さい神よ。 貴方方は戦略上の思惑こそあれ、結果として我等を憎きエルド帝国軍から解放して下さった。
我等はもう帝国の所有物じゃない。我等はこの結果だけで充分です」
「貴方が負い目に感じる事は何もありません。 貴方方は我等を解放して下さった。
なら、我等には貴方方の恩に報いらなければなりません!」
1人の奴隷が口を開いた。
それを皮切りに、複数の元奴隷達がヴァルツァーへ声を投げかける。
「「「エルド帝国に勝つ為に我等の力が必要なら、我等は喜んで協力します!」」」
大勢の獣人や龍人、エルフや小人族の男達が声を張り上げた。
彼等は思惑があり救われたと知って尚、解放してくれた事への恩に報いると立ち上がってくれた。
だが......
「エルド帝国に打ち勝つなんて...... 」
「そんな事が...... 」
「無謀だ...... 」
元奴隷の皆が皆、立ち上がった訳ではなかった。
少数の獣人や龍人達は、険しい顔をしてまた俯いてしまった。
紛いなりにも強大なエルド帝国軍に属していた彼等は、誰よりもその強大さを知っていたからだ。
「で、出来ます!」
「おぉ! 僕達なら出来る! エルド帝国軍に勝てる!」
「ドラル...... レーヴェ...... 」
そんな俯く元奴隷達を見て、ドラルとレーヴェは堪らず叫んだ。
「私達も数ヶ月前まで貴方達と同じ奴隷でした! でも、私達は奴隷という存在を怨む人に助けてもらいました!
私達を助けてくれた人が今この瞬間も、多くの人の為に戦っています!」
「其奴はお前達を見た時、エルド帝国は絶対に許さねぇって言った! 其奴は強い! でも、其奴と僕達だけじゃ、10万近い帝国軍に勝つのは難しい!」
「ですが!」
「皆が力を貸してくれれば、僕達は勝てる! 」
「貴方達は奴隷なんかじゃありません!」
「僕達は意思ある人だ! 頼む! 僕達と一緒に本当の自由を掴む為に戦ってくれ!」
「どうか私達に力を貸してください!」
「「これ以上奴隷と呼ばれる人を産まない為に! 奴隷と呼ばれる多くの人達を助ける為に! 奴隷という存在を良しとするエルド帝国軍に勝つ為に!!」」
「「「「「 ...... !」」」」」
ドラルが叫び、レーヴェが吠える。
元奴隷達は、見慣れぬ装備を纏う彼女達に始めは不審な眼差しを向けていた。
だが、我武者羅に己の想いを語る彼女達を見て、元奴隷達の心は震え始めた。
自分達は帝国軍の催眠魔法具から解放された。
しかし、本当の意味での自由を掴む為には戦わなければならない。
戦い、人間大陸で最も奴隷を抱えているエルド帝国に勝たなければ。
奴隷達の存在で成り立っていると言っても過言ではないエルド帝国に勝たなければ、本当の意味での自由は訪れない。
強大な帝国軍に挑む事を無謀だと嘆いた元奴隷達が顔を上へ上げる。
彼等の目の前には、年端もいかない少女達が硬い決意を瞳に宿し、燃える様な闘志を纏い立っていた。
2人の闘志は、静かに。
だがより多くの元奴隷達に燃え広がった。
「そうだ...... この2人の言う通りだ!
てめぇ等! 本当の自由が欲しいか!」
元奴隷達の瞳に熱い火が灯った。
だがその火はまだ小さい火種の様な物。
白き犬獣人は、再度元奴隷達に目線を向ける。
「ほ、欲しいに決まってる!」
「そうだ! 俺達は奴隷なんかじゃない! 」
「お、俺も戦うぞ! 本当の自由を掴むんだ!」
白き犬獣人の言葉を受け、先程まで帝国軍に戦いを挑む事を無謀と言った獣人達も声を上げた。
彼等も本当の自由を望んでいたが、少しだけ勇気が足りなかった。
その勇気の火を、ドラルとレーヴェが灯したのだ。
元奴隷達の瞳に宿った火は更に大きく燃え広がる。
自分達を虐げていたエルド帝国に打ち勝つ。
確固たる意志を持った彼等は、立ち上がり自分達を催眠から解放してくれた救世主達を見つめる。
白き犬獣人は、小さく微笑んだ。
「良く立ち上がってくれた...... 同族、同胞達の勇気に俺は敬意を払い尊敬する。ありがとう」
小さく微笑んだ白き犬獣人は頭を下げる。
負い目を感じているヴァルツァーと言えど、彼は此処で謝る程無粋な考えは持ち合わせていなかった。
彼の言葉に、元奴隷達は力強く頷いた。
ヴァルツァーは手にした剣を空へ掲げる。
「誇りを失ってない同族! 同胞達よ!
脇目も振らず俺について来い! てめぇ等の進む道は、この強い心・挫けない光が切り開く!
皆で本当の自由を掴み取るぞ!」
「「「「「おぉぉおおおお!!」」」」」
絶叫が暗闇に響き渡った。
その絶叫は、此処だけでは無く前方と後方からも聞こえる。
それは、ポイントAからポイントCでも、元奴隷達が本当の自由を掴む為に立ち上がった事を示していた。
ポイントB地点に居た約1万3千の元奴隷達は、雑多な武器を握りしめ、剣を振り上げ先頭を賭ける白き犬獣人を追い、駆け出した。
本当の自由を掴む為に。
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「行くよ第2分隊! 皆を苦しめてきたエルド帝国軍に勝つんだ!」
「「「はい! セシル副隊長!」」」
「俺達も続くぞ! エルド帝国軍をぶっ潰せ!」
「助けてくれた彼女達に報いるんだ!」
ポイントA地点の元奴隷達を従え、義勇兵部隊ヒメユリ第2分隊隊長、セシル・イェーガーは韋駄天の如き速さで大地を駆けていた。
その後ろには、ヒメユリ第2分隊隊員とヴァルツァー率いる義勇兵部隊のダントス、ギード。
そして、セシル達の言葉を聞いていた元奴隷達約1万人が続く。
セシル達の言葉は、催眠にかかっていた彼等の心にしっかりと届いていた。
「あ! きゅ、救世主様! 後方より敵襲!」
セシル達がポイントBに差し掛かった時、不意に元奴隷の猫獣人が叫び声をあげた。
彼の指差す方向には、黒塗りの鎧を纏った一団が土煙を上げ、此方に接近する様子が見て取れた。
「あれは...... 大丈夫! あれは味方だよ!」
「み、味方!?」
元奴隷だった猫獣人の男は、黒い鎧を見てエルド帝国軍だと思ったらしい。
だが、その予想は外れた。
「【栄光!】」
「【王国!】」
「嬢ちゃん達! 無事か!?」
「はい! ヴィルヘルムもヴァルツァーさん達も皆無事です!」
「良かったわ...... 私達も攻撃を開始するから、もう少しだけ頑張って頂戴?」
「勿論ですカリーナさん! 」
「な、なんだ? 黒い鎧を着てるから帝国軍だと思ったんだが...... 」
「み、味方なのか?」
エルド帝国軍とそっくりの黒き鎧を纏う兵士達と会話するセシル達を見て、周囲に居た元奴隷達は首を捻った。
彼等が不思議に思うのも当然だった。
漆黒の鎧を纏っていたのは、エルド帝国軍ではなく、ラルキア王国軍第7駐屯地部隊隊長のカリーナ・アレティス以下、特別騎馬隊と同駐屯地隊員の面々だったのだ。
ここで本作戦、【暁闇の奇襲作戦】の詳しい説明をさせて貰う。
本作戦は、闇夜に乗じ、ラルキア王国軍と義勇兵部隊が同時多発的に多方向から夜襲を仕掛ける手筈になっている。
俺はその夜襲に備え、いくつか工夫を施した。
まず、先程セシルとカリーナさんが言った【栄光】【王国】。
これは、夜襲をする際に同士討ちを防ぐ為の合言葉だった。
今、ラルキア王国軍第1連隊総員は、食事を作る際に出来た炭を鎧に塗り、真っ黒になった鎧を纏っていた。
これは、エルド帝国軍が同士討ちを始めた様に思わせる工夫なのだが、敵と同じ配色の鎧では、王国軍同士でも同士討ちが起こる可能性があった。
それを防ぐのが、先程セシル達が言った合言葉なのだ。
そしてこの漆黒の鎧と同時に、俺は更なる工夫として、王国軍が被る兜に黒隼の白い飾り羽を付けさせた。
この飾り羽は、王国軍が弓の矢羽に使っていた物だ。
俺は、王国軍が矢羽に使っている黒隼の飾り羽と、ヴァルツァーが呟いた夜襲という単語を聞いて、三國志のある戦いを思い出した。
それは三國志に登場する孫呉きっての猛将、甘寧が活躍した濡須口の戦いだった。
甘寧はこの濡須口の戦いで、配下の兵士100人を率い曹魏の陣地へ夜襲を仕掛け、見事成功させている。
甘寧はこの時、同士討ちを防ぐ為に兵士達の兜に鵞鳥の羽を付け、誰が敵で誰が味方かを一目で分かるようにしていたとか。
暁闇の奇襲作戦はこの濡須口の戦いを参考にし、更にアレンジを加えた物だった。
この工夫の効果は言うまでもない。
これまでエルド帝国軍に籍を置いていた元奴隷達でさえ、一目でカリーナさん達が王国軍だと分からなかったのだから。
ドドォォォォン!!
「こ、今度はなんだ!?」
不意に、エルド帝国軍陣地の奥から爆音が轟いた。
「セシル副隊長!」
「うん! ティナちゃん達も攻撃を始めたみたいだね!」
狼狽える元奴隷達を他所に、その爆音の正体を知っていたイザベラがセシルに詰め寄った。
「カリーナさん、ヴィルヘルムの別働隊も攻撃を開始しました! 私達も行きましょう!」
「と、言う事は...... 今の爆音がミカドちゃんの言ってた兵器が作動した物なのね?」
「はい! ミカド達も攻撃を開始した筈です!」
「なら急がないといけないわね〜。戦車隊! 突撃よ〜!」
「「「「「応!」」」」」
「第2分隊もカリーナさん達に続くよ! 」
「「「「「イエス・サー!」」」」」
セシルとカリーナさんは頷き、走り出す。
「あ、あの! 今の爆発は何なんですか!? 」
「一体何が起こってるんですか!?」
走り出したセシルに、慌てて後を追いかける元奴隷達が話しかける。
その問いに、セシルは笑みを持って答えた。
「あの爆発はね、皆を解放する魔法だよ! 私達の隊長が帝国軍を倒す為に動き出したの!」
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「ティナ、リート! 【多連装ロケット】発射だ!
寝惚けてるエルド帝国軍共を叩き起こせ!」
『了解! エルド帝国軍に一泡吹かせてやるわ!』
「撃てぇぇええ!!」
『カチューシャ発射ぁ!』
セシル達がカリーナさん達と合流する数分前。
俺は魔通機を使い、ラルキア王国領内に留まっていたティナ・リート別働組に攻撃開始を指示した。
俺が2人に託した任務。
それは、俺が召喚した【広範囲攻撃兵器】を使い、エルド帝国軍陣地に打撃を与える事だった。
その兵器の名前は多連装ロケット【132mm BMー13】
通称カチューシャだ。
132mm BMー13とは、最大射程8,500mの無誘導ロケット弾、【M13】を1度に何本も打ち出す事の出来る兵器で、ソビエト連邦が開発・運用していた兵器だ。
当然ながら、召喚したM13は射程と威力を伸ばす為に炸薬と爆薬を上乗せした強化バージョンになっている。
このカチューシャが打ち出すロケット弾は、RPG7等と同じで撃ったら炸薬が尽きるまでほぼ直進に進むだけ。
『下手な鉄砲数打ちゃ当たる』を地で行く兵器だから1発1発の命中率は期待出来ないが、今回は命中率を追求する必要はなかった。
眼下には万を超す敵が密集しているからだ。
ちなみに、カチューシャという俗称はソ連で女性の愛称らしい。
本機がカチューシャと呼ばれる様になったのは、製造元の工場の頭文字の【K】が本機に刻印されていた事から、同時流行していた歌【カチューシャ】に引っ掛けて呼ばれ始めたと言われている。
加えて言えば、【自走式多連装ロケット砲】と言う名前の兵器にカテゴリングされる。
この自走式という言葉は、本体にエンジン等を組み込み不特定の場所に自走出来る物を指す。
しかし、今回召喚したカチューシャにはエンジンは愚か、俺は走行するのに必要なタイヤすら取り付けなかった。
理由はティナやリートは自動車という物に触れた事すらないからだ。
現在、ラルキア王国領内でティナとリートが操作している多連装ロケットは、3m四方の鉄板の上にロケット弾を装着、発射する為の鉄骨を上下に10本づつ設けただけの簡素な物だ。
しかし、こいつは1基につき計20発のロケット弾を一斉発射出来る。
俺はこれを現在召喚出来る上限一杯、2基召喚した。
つまり、ティナとリートが同時にカチューシャに備え付けた発射スイッチを押せば、1度に40発ものロケット弾が撃ち出せる訳だ。
バジュゥゥゥゥウ!!
そして俺の掛け声と共に、40本のロケット弾が放物線を描き、爆音と炎を撒き散らして真っ黒な空を駆ける。
まるで沢山の流れ星が降ってくる様な幻想的な光景が広がった。
ドドォォォォオン!!
その流れ星は、鉄と炎、轟音の暴雨となってエルド帝国軍陣内に降り注いだ。
『ミカド! カチューシャ、ポイントE2からE5に着弾! あ、RPG7よりも凄い!』
カチューシャの着弾を見て、王国領内でカチューシャを発射したティナから魔通機を通して報告が入る。
自分の想像よりも凄まじい爆発だったのだろう。叫ぶティナの声が少しだけ上ずっていた。
「よし、カチューシャは狙い通りの場所に着弾したな...... 」
ティナの報告を聞きつつ、俺は呟いた。
捕虜となったグラシャの話では、サブナックやベリト、そして総大将のビルドルブが寝起きするテントは、ポイントG4地点に在ると言っていた。
目の前と言っても差し支えない距離で起こった40発ものロケット弾の一斉爆発は、敵の動揺を誘い、同時にポイントE全域に待機している帝国軍精鋭部隊に損害を与えた筈だ。
本当なら、カチューシャで直接G4地点を攻撃したかった。
しかし、射程距離の関係でカチューシャがG地点にはギリギリ届かない。
俺が射程距離を伸ばしたM13でさえ、何とかポイントEまで何とか届く程度だった。
それ程までに、エルド帝国軍の陣は大きかった。
「こっちも確認した! ティナ・リート組は再度攻撃の準備をしておいてくれ!」
『了解! ヘマするんじゃないわよ!』
「わかってるっての!」
俺は頭を切り替え、魔痛機を耳に当て叫ぶ。
ティナなりのエールを受けつつ、俺は目線を前方に向けた。
「こちら帝! ヒメユリ総員は王国軍、ヴァルツァー達、それと奴隷達と一緒にポイントF全域に突貫!
ポイントG4に背後から攻めるリズベル達の援護をしてやるぞ!」
『了解です! 』
『わかった! 丁度カリーナさん達と合流出来たから今から総攻撃を始めるよ!』
「皆頼む! 此処が正念場だ!」
「ミカド、私達も行く...... 」
「おう! 第1分隊、俺に続け! 総攻撃の開始...... 」
「「「「「ギャァァァア!?」」」」」
カチューシャから打ち出された計40本ものロケット弾の爆発。
それを確かめた俺は、魔通機で各員に総攻撃の指示を出す。
そして、マリアやフロイラ達にも総攻撃の指示を出そうとした直後、前方から絶叫が聞こえた。
「な、何だ!?」
どす黒い血が、切断された手足が宙を舞っている。
あの手足は、先行していた元奴隷の獣人や龍人達の手足だった。
「この...... 裏切り者共がぁ!」
「帝国の犬めぇえ!」
「煩いわねぇ...... 私達は特別なの。貴方達の様な劣等種と同じにしないでくれない?」
「そもそも、裏切り者呼ばわりさせる言われはないし〜」
宙と肉の嵐が俺の方に向け突き進んでくる。
俺の近くに居た元奴隷達は、この嵐の元凶に気付いたらしく、罵声を浴びせ吸い込まれる様に嵐に突っ込む。
しかし、その彼等も次の瞬間には物言わぬ肉片と成り果てた。
「てめぇ等...... 」
嵐が静まる。
俺の前には、嵐の元凶と思しき人物達が立っていた。
「あらあらあら〜 貴方達がサブナック様が仰ってた変な部隊かしら?」
「黒い棒みたいな物に変な装備...... 間違いないわね」
「...... 敵が誰でも関係ない。俺達はただ目の前に立ち塞がる者達を切り倒すだけだ」
俺達の前には、赤い羽根と尾を持つ龍人と半透明の羽根を持つ2人の女性が。そして、サイの様な角を生やした男が立っていた。
此処までご覧頂きありがとうございます。
毎週水曜日更新を心掛けているのですが、次回は少し遅れてしまいます。
予定としては、次回投稿は10/15の21:00を予定しています。