152話 2人の少女 3
「「「「「がぁぁあ!?」」」」」
「な、なんだってんだこりゃ!?」
振動と業火と轟音がサブナックを、そして配下の軍勢を包み込んだ。
地面が揺れ、炎が暴れ狂う。
爆音が耳を劈き、血の香りと血とは別の刺激臭が鼻を麻痺させる。
その光景を見たサブナックは、まるで幼い頃に本で読んだ山の爆発を思い出していた。
( 何が起こった? 俺達は、さっきまで特務兵站軍の陣地に侵入した敵を追いかけていた筈だ。
敵は合計で50人もいない。
対して此方は2000の歩兵と、途中で合流したベリト配下の1000人将、ボドル率いる500の騎兵が居た。
そう、居た筈だった。
なのに今では、無事な奴は1000人も居ねぇ...... 今の一瞬で半分以上の味方がやられちまった! )
「クソが! ボーゲル、ドーガ、ボドル!無事か!」
「は、はっ! サブナック将軍もご無事で!」
「将軍! ま、魔導兵が! 特務兵站軍の魔導兵が!」
「我等の秘密兵器が破壊されてしまいました!」
「んな事見りゃわかる! 今の爆発は攻撃魔法か!?」
「いえ! そんな前兆はありませんでした!」
「あぁ! 今の爆発に巻き込まれた味方が!」
「落ち着けドーガ! くっ! ボーゲルとボドルはまず、各隊の被害確認を急がせろ!」
「「はっ!」」
「ドーガは動けそうな奴を連れて俺について来い!」
「し、しかし将軍! 動けそうな者は500も居りません!
それ以外は皆死んだか、重症です! 敵は怪しげな魔法を使う様子。2500の我等を一気に壊滅状態にした敵に、500名足らずで追撃するのは無謀です!」
「グッ...... まさか...... 彼奴等! こうなる様に北へ逃げたのか!」
3人の1000人将にサブナックは指示を飛ばす。この時、サブナックは思い知らされた。
さっきこの場に居た奴等は自分達を見て北へ逃げた。
だがそれは、この爆発に自分達を巻き込ませる為の罠だったのだと。
「将軍、将軍が感じておられる気持ちは痛い程分かります。
ですが、今はまだ息のある者の手当てを優先して下さい!
それが将軍の今なさる事です!」
「ボーゲル...... くっ...... くそがぁぁ!」
サブナックは帝の仕掛けた誘いにまんまと乗り、1000人を超える死者を出した。
彼我の戦力差から見ても、それは弁解の余地もない完全な敗北。
数刻前、戦斧を持った獅子の獣人に打ち負かされ、今度は攻撃を仕掛ける前に2000人近い死傷者を出したサブナックだが、彼の闘志はまだ折れていない。
しかし、彼に課せられた将軍という重い責務が、彼の足を縛る。
彼は若いながらにして万の部下を束ねる立場にあった。率いる味方が全滅に近い被害を受けた時、その立場はより強い責任と意味を持つ。
今、魔導兵を守れという責務を果たせなかったサブナックには、重症者の手当てを最優先に指示し、1人でも多くの部下を救うという新たな責務が出来た。
拳を握り締め、目を血走らせたサブナックの咆哮が、土煙の上がる大地に悲しく響き渡る。
その咆哮が消えると、サブナック達は本隊の居る西へ向けノロノロと歩き出した。
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後方から俺と不死者族の姉妹を追って来たサブナックと、その部下達の怒号が微かに聞こえる。
彼等は俺とリズベル、リリベルを追い一心不乱に走ってきていた。
俺は丘を離れるその瞬間、この状況を利用する作戦を考えついた。
奴等は俺達を追っている。
つまり、俺達が逃げれば必ずその背中を追ってくる筈...... そこで俺は第1連隊駐屯地へ向かう最短距離、南の方角ではなく、あえて真反対の北側へ向けて走った。
そして敵は狙い通りの行動をした。
敵は俺達が直前まで居た丘を目指し、一目散に其処へ向かった。この丘の頂上にはC4を設置された魔導兵が鎮座している。
C4とは一見粘土の様に見える爆発物。しかも、そのC4は魔導兵の膝に巻かれる様に設置されていた。
頭に血が上った状態で追撃をしている敵が、この状況でC4を見つけられる筈がなかった。
魔導兵の外見にこれといった変化が見受けられなかったのも、奴等が無用心に魔導兵に接近した一因だろう。
そこで俺は、2000を超す敵が丘の頂上に登り切るタイミングを見計らい、C4に付けられた信管の起爆スイッチを押したのだ。
余談だが、この起爆スイッチは俺の現段階のレベル41でギリギリ召喚出来た物だった。
理由としては、C4に付けた信管は電波を介し、俺が持っているスイッチで起爆させる物だったからだ。
電波を介して使用するという事は、このスイッチには電子部品が使われているという事。銃火器はまだアナログな構造故に、それ程召喚に必要なレベルは高くなかった。
しかし、このスイッチと信管はこの世界から見て数百年以上も後の部品が使われている。
それが、召喚に必要なレベルを上げていた様だ。
最も、このスイッチで起爆出来るのは半径200m位が限度だったが、今回は何とかなった。
「おぉ〜! 凄い!凄いよお兄さん!」
「これが貴方の言っていた策なのですね。白髪の人」
「今の爆発で一気に1000人以上も倒しちゃったよ!」
気絶させたグラシャを肩に担ぎ、大きく右へ迂回して第1連隊駐屯地へ向かう俺に、目を輝かせて姉妹が話しかけてくる。
お互い全力で走っているのにも関わらず、呑気に会話出来るとは......
身体能力強化を使っているとは言え、この姉妹は武だけではなく、スタミナも並外れているみたいだな。
「今のは偶々だ。状況が俺に味方してくれただけに過ぎねぇ」
「ご謙遜を...... 貴方はあの人達が迫って来るのを確認すると、直ぐに行動に出ましたよね?」
「って事は、お兄さんはあの一瞬でこの作戦を思い付いたんだ?」
「まぁな...... あの丘の頂上に居た魔導兵には、俺達が爆発する魔法具を付けていた。 で、その爆発する魔法具は、俺が丘を離れる時に爆発する手筈になってた。
そこで俺は、この爆発に彼奴等を巻き込めるかもって判断したんだ」
「なるほど。つまり貴方は逃げつつ、同時にその爆発する魔法具が付けられたあの鎧の元に彼等を誘導したと」
「そうだ。だから俺達が彼奴等とは真反対に逃げれば、自ずと丘の頂上に来るって判断したんだよ。
んで、タイミングを見計らって、魔法具を爆発させた」
「そして結果は見ての通り。貴方の策にまんまと引っかかった敵は、その魔法具の爆発に巻き込まれた...... と」
「ほぇ〜。お兄さん凄いねぇ〜。あの一瞬でそこまで考えてたんだ? やっぱりお兄さんなら、私達を殺せるかも」
「その話は駐屯地に帰ってからだ!」
「ちぇ。は〜い」
また自分達を殺してくれるかも...... そう言ったリリベルに、俺は少し乱暴に声を投げかける。
今は帝国軍との戦争で手一杯なのに、新たな問題が出た。
幸いな事に、サブナック達が追ってくる気配はない。サブナック達が大損害を被ってなお追撃を続ける様なら、この姉妹達に協力して貰おうと考えていたが、その心配はなくなった。
俺は考える事に集中出来た。
考える事は山積み。俺は走りつつ、今後どう動けば良いか。彼女達の願いにどう答えれば良いかを考えていた。
ピーン
不意に、頭の中に機械音が鳴り響いた。
おぉ! この音が聞こえたという事は!
【敵国兵士1034名撃破。敵性大型兵器50体撃破。狂気の教授捕縛。経験値を獲得。
レベルアップ。レベル : 41→レベル : 70。レベルアップにより武具召喚上限数、召喚規制の1部解除。
精密電子機器の召喚が可能になりました。
並びに、レベルが一定数に達した為スキル解放】
【解放スキル : 攻撃・回復魔法。収納術。好感度アップ。獲得経験値増加。剛力。駿脚。超反射。交渉術。魔弾の射手。言霊】
「ふ、ふふふ...... あははは!」
「お、お兄さん?」
「どうかなさいましたか?」
おっと、一気にレベルが上がってつい笑ってしまった。
しかしなんだこのレベルの上がりようは。
あれか、セシル達が魔導兵に設置したC4を俺が起爆し破壊したから、50体の魔導兵を俺が倒した事になったのか?
で、その爆発に巻き込まれた帝国軍の兵士達も俺が倒した事になったと?
それにまた新たにスキルが解放された様だ。
解放されたスキルの殆どは、文面から凡その検討はつくが、詳しい内容まではわからない。
だが、例によってレベルが上がって使える様になった物なら、良いスキルなのは間違いない。
このスキル達の詳細は要検証だが、今回の戦、何とかなりそうな気がして来た。
「いや、なんでもねぇ。それより、見えてきたぞ!」
俺のレベルが上がり、腕時計の長身が時刻17:00を指す頃。
俺と不死者族の姉妹は、第1連隊駐屯地に帰って来た。
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第1連隊駐屯地に帰って来た俺は、まず王国軍に気絶させたグラシャを預けた。
後は彼等に任せておけば、帝国軍に関わる有益な情報を聞き出してくれるだろう。
これで一安心だ。
王国軍の方の作戦も無事に成功した様だし、肩の荷も降りた。皆の所に帰ろう。
「ミカド!無事で良かった!」
「ミカドさん!」
「ミカド!」
「お帰り...... ミカド」
「ふん。ミカドなら無事に帰ってくるって分かってたけどね」
「ティナさん...... と、兎に角! 帰りなさいませ隊長!」
「「「「お帰りなさい隊長!」」」」
そして俺と2人の姉妹は、帰りを待っていてくれる19人の元へ向かった。
「皆、ただいま。皆も無事で良かった」
「うん! 心配したんだから!」
「心配かけて悪かったなセシル...... と、そうだ。所でロルフはどうした?」
「ロルフさんは私達を第1連隊駐屯地の近くまで護衛した後、森へ戻って待機して貰っています」
「そうか、了解」
「所でミカド、その子達って...... 」
俺の帰還を喜び、誰1人欠ける事なく満面の笑みで迎えてくれたセシルやドラル達、19人のヒメユリが目線を俺の後ろへ向ける。
目線の先には、薄い笑みを浮かべている2人の姉妹が立っていた。
さて、どう説明したら良いか......
「あぁ。皆も見たと思うが、彼女達は俺達と同じくエルド帝国と戦っていたんだ。
彼女達は暫く俺達と一緒に行動する事になった。皆も仲良くしてやってくれ」
「お兄さん...... 」
「 ...... 」
俺も目線を姉妹に向けて声を出した。
今、エルド帝国軍との戦争以外でこれ以上余計な騒ぎは起こしたくない。
姉妹の目線からは、そんな事は言っていないと抗議の色が見て取れたが、俺は無視を決め込む。
そして、今は俺の言う通りにしろと意思を込め、俺は姉妹を少しだけ睨んだ。
「...... リズベル・ラ・ロード・シュテルプリッヒと申します」
「リリベル・ル・ロード・シュテルプリッヒです」
「え、えっと...... よろしくね...... で良いのかな? 私はセシル! 仲良くしようねリズベルちゃん! リリベルちゃん!」
「お前達すげぇよ! さっきの鎧との戦い、遠目からだけど見てたぜ?
強い奴は大好きだ! 仲良くしようぜ!」
「私はドラル・グリュックです。以後お見知り置き下さい」
「マリア・グリュック...... よろしく」
俺やリズベル達の思いは置いておくとして、セシルやレーヴェ達が姉妹を囲む。
さてさて、エルド帝国との戦争にシュテルプリッヒ姉妹の願いか......
どうしたもんかな......
俺は薄暗くなってきた空を見上げ、静かに溜息をついた。
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「何たる事だ...... 2人がなす術もなく撃退されるとは...... 」
「申し訳ございません閣下...... 」
「すんません...... 」
和気藹々とした雰囲気に包まれた第1連隊駐屯地とは打って変わり、木で作られた簡素なエルド帝国軍陣内は通夜の真っ最中の様に静まり返っていた。
その陣の奥深くに、万を数える人を率いる総大将の天幕があった。
総大将ビルドルブは、何があったのかを聞く為に配下の青年将軍2人を呼んでいた。
「もう1度詳しい経緯を説明せよ」
「はっ...... 我等王国軍追撃隊5000騎は、閣下の指示通り王国軍の追撃に向かいました。
その際、王国領内に姿を見せたヴァイスヴォルフが我等に襲いかかりました。
私はその時、1000騎をヴァイスヴォルフの足止めに向かわせ、残りの4000騎で追撃を続行しました」
「うむ。ヴァイスヴォルフの出現は予想外だが、それでも我等の常識で考えれば、たかだか1500程度の歩兵に4000の騎兵が突撃すれば、騎兵の勝利は確実だが...... 」
「しかし我等の常識では考えられない策を敵は仕掛けてきました。
我等が国境を越え、王国軍の背後に迫ると不意に甲高い音が響き渡りました。
それと同時に我等に背を向けて走っていた王国軍は左右に分かれ、その間を縫う様に、装甲が施された馬車が何台も現れたのです。そして我等に突貫して来ました」
「装甲の施された馬車が...... か」
「はっ。しかもこの馬車隊には、其々を繋ぐ様に鎖が張り巡らされておりました。 我等騎馬隊は馬車隊の側面から攻撃を試みましたが、悉くその鎖に足を取られたのです」
「其処へ、逃げていた王国軍の歩兵が反転した」
「その通りでございます...... その為、先方の騎兵2000は文字通り全滅の憂き目に遭い、私は撤退を指示しました。敵は我等が騎兵を用いる事を想定し、あの様な兵器を用意していたと考えられます...... 」
跪きつつも、拳に力を込めたベリトが心底悔しそうに呟く。
それ程までに、王国軍の攻撃は完璧にベリト達を撃破していた。
「して、サブナックの方は?」
「さっき言った通りっすよ...... 王国軍は、秘密裏に20から30人をこのエルド帝国陣内...... 正確に言えば、特務兵站軍の陣内に忍び込ませました」
「...... 目的は魔導兵の撃破か」
「うす...... オッさんも聞いたでしょう。特務兵站軍の陣地から聞こえた爆音を」
「もしやそれが...... 」
「っす...... 魔導兵を撃破した音っす。 俺は1人先走って、全部隊を率いていやせんでした。 其処に駆け付けた部下2000と、ヴァイスヴォルフを追っかけて来たベリト配下の1000人将と一緒に、忍び込んだ敵を追いかけたんす...... でも!」
「お主達は魔導兵の爆発に巻き込まれ、撤退を余儀無くされた。
同時に、奴隷軍の編成を終えベリトと魔導兵投入のタイミングを決めたグラシャ大将軍は、特務兵站軍の陣に戻る途中で敵の捕虜になったと」
「っ...... その通りっす...... 敵は魔導兵50体を1度に爆発させやした。魔導兵は全滅したんす!」
「そうか...... 」
一頻り、詳しい報告を聞き直したビルドルブは太い腕を組み、目を瞑る。
( ベリトの方は部下の暴走とも取れる行為が有ったらしいが、それはベリトに落ち度は無い。
上官に逆らう愚行を犯した1000人将2人は、既に王国軍の馬車隊に討ち取られたと聞く。
それにヴァイスヴォルフの襲撃......
様々な出来事が同時に起こった様だが、結果論で言えば、ベリトは王国軍の策にまんまと引っかかったと言えよう )
ビルドルブは座っていた椅子から立ち上がり、天幕に設けられた天窓に目線を向ける。
( 策に引っかかったと言えばサブナックも同様。
そもそもサブナックはワシの命を受けると、万全とは言えぬ体制で行動を開始していた。これは許されざる行為...... 将が取るべき行動では無い。
しかし、より大きな問題は王国軍の動きだ )
天窓から覗く空に、幾多もの流れ星が見えた。
ビルドルブは考える事をやめない。
( 今回の王国軍の動きを見る限り、ベリトが追っていた部隊は囮。 本命は特務兵站軍の陣に忍び込んだ数十名と見て間違いない。
この数十名は、どんな手を使ったか分からぬが魔導兵の存在を知り、魔導兵がどの様な物なのかを見抜いたのか......
そして、魔導兵を破壊する為に王国軍を用いたこの大規模な囮作戦を...... )
「サブナックよ。その特務兵站軍の陣に忍び込んだ者等は、どの様な方法で魔導兵を撃破したのだ」
「それが分からないんす...... 見た限りでは攻撃魔法を放った形跡はありやせんでした。魔導兵はいきなり爆発したんすよ! その所為で部下達が!」
サブナックは立ち上がると吼えた。
「爆発した理由が分からぬとな...... 」
この時、ビルドルブの脳裏にはエルド帝国と内通していたラルキア王国の要人、ベルガス・ディ・ローディアが反乱の際に使用した魔法具、【魔伝式爆弾】が思い浮かんだ。
「それだけじゃねぇっす! 魔導兵を爆発した奴等は変な攻撃を仕掛けてきやした!
いきなり持っていた棒みてぇなのを俺に向けたと思ったら、その棒が爆発したんす! 次の瞬間には、俺の盾に何かがぶつかったんす!」
「詠唱は無かったのか? 魔法を発動させるには詠唱が不可欠だ。
お主はその詠唱を聞き逃したのではないのか?」
「んな事、絶対にありえないっす! そもそも、高級・超級魔術師でも難しい無詠唱攻撃魔法を扱える奴が、ラルキア王国に居るなんて考えられねぇ!
ありゃ、攻撃魔法なんかじゃありやせん!」
( サブナックのこの反応...... 嘘ではない様だ。サブナックはつまらぬ事で嘘を言う様な人間ではない。
となると、やはりこの戦...... 一筋縄ではいかぬか )
「分かった。少し落ち着けサブナックよ」
「っ...... すんません...... 」
「ベリト、サブナックよ」
「「はっ...... 」」
「我等はもしかしたら、驕り高ぶっていたのやも知れぬ。
敵は精々2000を少し超える程度。対して我等は10万を超える軍を率いていた。
我等は知らず知らずの内に、楽に勝てると心の何処かで考えていた」
「「はっ...... 」」
言葉を吐いたビルドルブも、この言葉を自分に言い聞かせていた。
( そうだ。敵は我等と比べ圧倒的に劣る。この戦力差で負ける事は無いと無意識にたかを括っていたのだ。
ワシも、ベリトに王国軍の追撃を指示し、サブナックに魔導兵の護衛を命じると同時に無防備な砦へ向け攻撃をしかければ良かったのだ。
心の何処かで、ベリトとサブナックに任せておけば問題ないと思っていたのやも...... これも消極策を取った報いか )
「ベリト!サブナック!」
( 更に敵には無詠唱で攻撃魔法に似た攻撃を放てる者も居るらしい。
それに魔導兵を破壊せしめた爆発...... もしや、ラルキア王国も魔導式爆弾に類する物の開発に成功したのやも知れぬ。
仮にそうだとすれば、この戦の主導権、ここで握らねばマズい )
「「っ!はっ!」」
ビルドルブは声を荒げた。
呼ばれた2人の青年将軍は、更に深く頭を下げる。
「此度の犠牲はワシの責任だ! なれば、この犠牲に報いる方法はただ1つ! 明日、我が軍は日の出と共に全部隊を用い、目の前の砦に総攻撃をかける!良いな!」
「りょ、了解しました!」
「お、応!」
「良いか! 敵は少数と侮るなかれ!此方と同数の兵が居るものと考えて攻撃に当たるのだ!
このまま我等が此処で足止めを食らう様では、南部征服軍と北部征服軍の足並みを乱す事になりかねん! 明日の内に目の前の砦を落とすのだ!」
「「ははっ!」」
「将兵に伝達! 栄光のエルド帝国軍の力、明日は遺憾無く発揮し、騎士道精神を持って敵に当たれ! 勝利を掴めと!」
1月1日。
日の出と共に勃発した第2次エルド・ラルキア戦争の1日目は、ラルキア王国の完全勝利に終わった。
ビルドルブは此処に今回の敗北を受け、明日の明朝第1連隊駐屯地への総攻撃を決めた。
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「おい」
「あら、白髪の人」
「お兄さん」
「何をしてたんだ?」
陽が完全に落ち、大地が墨の様な闇に包まれた午後19:00。俺は今後の為にセシル達に休む様に伝えると、ある人物達を探して駐屯地内を歩き回っていた。
どれ程探したのだろうか。
少なくとも1時間程散策し、疲れを覚えた俺は満天の星空でも見ながら一息つこうと思い、城壁の上に登った。
お目当の奴等は其処に居た。
「星を...... 星を見ていました」
「星か...... 綺麗だな」
「うん。凄く綺麗だねお兄さん」
角を生やした姉妹は、城壁から足を投げ出す様にして座っていた。
俺もその姉妹の隣に同じ様に腰掛ける。
「それで何かご用で? まさか貴方は私達と星を鑑賞する為に此処に来たのでは無いでしょう」
「やっと私達の話を聞いてくれる気になったの? 」
「...... そうだ」
4つの瞳が俺を捉えて離さない。
その瞳は、俺と同じ真っ黒な瞳だった。
「なぁ、何でお前達はそんなに死を望む」
「それは...... 貴方なら、私達の種族の名前から凡その予測が出来てるのではなくて?」
「あぁ。予測は出来てる。でも所詮予測は予測だ。だから話せ。お前達が死を望む理由を」
「む、お兄さん会った時より少し乱暴になってない?」
「茶化すな。これが素だ。で? 話してくれねぇのか?」
「...... 分かりました。お話ししましょう。私達がどういう存在なのか」
そう言ったリズベルは立ち上がり、吸い込まれそうな夜空を見上げる。
「まず、私達が死にたい理由を語る前に、私達不死者族の事を話さなければなりません」
「そうだね。って言うか、その話を聞けば私達が死にたい理由もわかるはずだよ」
「そうね...... 南大陸では悪名高い不死者族の名も、中央大陸ではまだ知られていない様だし...... 」
「おい」
「分かっております。焦らないでください白髪の人」
空を見上げていた少女はクルリと向きを変え、身体を俺の方に向ける。
160cmも無いかも知れない小さな身体が、陽炎に包まれたかの様にうねって見えた。
「私達不死者族は、古より南大陸...... 貴方達が言う所の魔大陸で暮らしていた少数民族です」
「魔大陸...... 確か、駐屯地を攻撃した邪龍もその大陸に生息してるって言ってたな...... 」
「そうですね。 私達もまさかこの地で邪龍を見る事になるとは思っていませんでした。
私達はその邪龍達の様な、凶暴な魔獣が数多く生息する大陸で産まれて、そして慎ましく生活していました」
「ん......? 待て! それじゃまるで、不死者族は今は南大陸で暮らしてないみたいじゃないか」
此処で俺は気が付いた。
リズベルの言葉が全て過去形なのだ。
「えぇ。今は暮らしてはおりません」
「な、何故?」
「それはねお兄さん...... 」
「もう不死者族は、私とリズベルしか残ってないからだよ」
「は?」
まさかの言葉に、俺は軽く思考停止に陥ってしまった。
そんな俺に構わず、姉妹達は話し続ける。
「この不死者族の事を簡単に言えば...... そう。文字通りに、簡単には死なない種族。死ねない種族とでも申しましょうか」
「し、死なない種族だと?」
「そうだよお兄さん。私達は人間族とは比べ物にならない位強い身体と、エルフ族に匹敵する長い寿命を持ってるの」
「...... 悪ぃ...... 頭が混乱して来た。順を追って説明してくれ」
「分かりました。何か気になる事があれば、随時質問して下さい」
微かに苦笑いを見せたリズベルと、リリベルは静かに語り出す。
己が種族の物語を。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
次回投稿は...... 申し訳ありません。私生活が慌ただしく、予定通りの更新が出来ない可能性があります。
出来るだけ早い更新を心掛けますので、御了承下さいませ......